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報告書&レポート

2006年11月30日 リマ事務所 西川信康 e-mail:ommjlima@chavin.rcp.net.pe
2006年95号

ボリビアの鉱業政策を巡る動き(続報)-外資導入で鉱業を再興し、貧困問題の解決へ-

 ボリビアの鉱業政策を巡る動向については、2006年8月10日付けカレントトピックス2006年56号にて、国有化の動きはないとの報告をしたところであるが、その後、住友商事によるSan Cristobal 亜鉛鉱山開発プロジェクトへの資本参加など、外資の参入が進む一方で、最近になって、モラレス大統領によるGlencore資産の国有化発言や、Huanuni鉱山衝突事件の責任による鉱山冶金大臣の突然の解任劇、さらに新鉱業法など鉱業再興計画の発表が2007年以降に延期されたことなど、同国の鉱業政策、外資政策の行方について、再び不安感が広がっている。
 こうした中、JOGMECリマ事務所は、今般、ボリビアを訪問し、新鉱山冶金大臣他に面談して鉱業政策の基本方針を確認するとともに、大幅に発表が遅れている新鉱業法の検討状況や最近の外資の活動状況などに関する情報を聴取することができたので、その内容を報告する。

1. 鉱業政策の基本方針

 今後の鉱業政策、外資政策の基本方針や方向性等について、就任したばかりのダレンセ新鉱業冶金大臣(COMIBOL労働組合出身)より聴取した。この中で、同大臣は、ボリビア鉱業の発展には外資による鉱山開発とボリビア鉱山公社(COMIBOL)の再建が不可欠であると強調するとともに、日本に対しては、探鉱投資など持続的な協力を期待したい旨の表明があった。以下はその発言内容。

  ・停滞しているボリビア鉱業を再興して、雇用を拡大し、貧困問題を解決することが最終目標である。
・ボリビアには、現段階で鉱業を再興できる十分な能力のある企業は存在しない。従って、我々は、その目標達成のために、外国からの投資や支援を一層拡大させていく必要がある。
・ しかしながら、過去のような外国企業だけが独占的に利益を得る構造は変えなければならない。現在、策定中の新鉱業法では、国家や地域住民の権利をしっかりと明記し、鉱業から得られる利益を、国、地域住民、企業の3者に公平に分配されることを目指すものである。
・また、外国企業との契約では、透明性と安定的な法的保障を確保するために、国会の承認を得るなどの手続きを行う。
・ボリビア鉱山公社(COMIBOL)の再建も鉱業改革の大きな柱であり、これにも、外国企業の投資が不可欠。COMIBOLとのJV
は50対50を基本に個別に交渉するというスタンス。
・ ボリビアでは、組織的な探鉱が行われてこなかったというのが最大の問題。日本の継続的な探鉱投資や技術支援を期したい。特にJOGMECに対しては、COMIBOLとのJV探鉱プロジェクトなどの協力を望みたい。
・ 将来的には、現在の原料生産型から付加価値製品生産型へと産業構造を変革したく、そのための投資や技術供与も求め
ていきたい。

大臣執務室にて記念撮影
左から、ロペス鉱山局長、ダレンセ鉱山冶金大臣、筆者、ベラウンデ元鉱山冶金次官

2. 新鉱業法の検討状況

 エチャス新鉱山冶金次官に、現在、改正作業中の新鉱業法について、その内容と今後の審議日程等について聴取したところ、同次官は、課税強化が大きな変更点となるものの、他の鉱業国と競争力のある税率に留めたいとの考えを明らかにした。現在の検討状況は以下のとおり。

  ・ 現行の鉱業法では、所得税(現行25%)と鉱業補完税(ICM:Impuest Complementario Minero、鉱業ロイヤルティに相当)(*)のどちらか高い方を納税すればよいが、新鉱業法では、両者の支払いを求めることになる。また、鉱業補完税は全額、地方自治体に交付される。
 
(*)鉱業補完税は、鉱石の売上総額ベースに各金属の国際価格に応じて(国際価格が高いほど高税率)税率が設定されている。例えば、金、亜鉛の場合、現行では以下のとおり。
   
・金   700$/oz以上:7%
・亜鉛  0.94$/lb以上:5%
400~700$/oz:4~7%
0.475~0.94$/lb:1~5%
400$/oz以下:4%
0.475$/lb以下:1%

・ 税率については、様々な議論があり、確定していないが、鉱業補完税の税率については、最近の価格高騰に伴い新たな
課税率を設定する方向。また、生産規模の違いによって課税率に差を設ける考えはない(但し、最近の報道で、ダレンセ大臣は 、共同組合鉱山に対し、課税率を低下されるなど国内企業に配慮した税制度を検討中と伝えられている)。両者(所得税と鉱業補完税)でペルーやチリと同レベルかやや上回る税率に留まる見通しである。
・ 付加価値製品(地金等)の生産企業に対しては、税率を半分にするというインセンティブを与える。
・ 税の安定化契約条項は、個別の契約書の中に盛り込むことを検討。期間は、プロジェクト終了までを想定。
・ また、外国企業との契約では、透明性と安定的な法的保障を担保するために、国会の承認を得ることになるが、契約書をフォーマット化するなど、可能な限り簡略化して手続き時間を短縮するよう努力する。
・ 現在、鉱山冶金省で新鉱業法のドラフトを策定中であり、年内には完成し公表の予定。従って、正式な法案化は、国会での審議を経て、2007年にずれ込む見通し。

3. 最近のトピック

(1) モラレス大統領のGlencore資産国有化発言
 10月中旬、モラレス大統領が、Glencoreの資産(Boliver鉱山やVinto製錬所など)を国有化(nacionalizaciÓn)する内容の発言を行った旨の報道があったが、これについて、政府関係者に、その真意を確認したところ、Glencoreの資産のうち、3つの鉱山(Porco、Bolivar、Colquiri)はもともとCOMIBOLとのJVであり、これらプロジェクトがCOMIBOLの再建、つまり国が関与するプロジェクトの象徴であることを国民向けに「国有化」という言葉でアピールしたものであり、他の外国資産の国有化に波及する話では全くない。また、Glencoreが100%の権益を持つVinto製錬所やHuari Huar鉱山などについては、新鉱業法で定められる新しいルールのもと、納税という形で、国家や地域住民に貢献してもらうという趣旨。
 一方で、11月10日、モラレス大統領はポトシ市での演説の中で、「Respetamos la inversiÓn privada」(我々は民間投資を尊重す
る)という表現で外国投資の必要性を訴えている。
 
(2) Huanuni鉱山での衝突事件の最近の状況
 ボリビア最大の錫鉱山であるHuanuni鉱山(オルロ県)において、同鉱山の利権を巡り6月より、COMIBOL側労働者と共同組合(Cooperativa)の労働者が衝突。10月には、死者20名以上を出す事件に発展し、当時のワルテル鉱山冶金大臣は、その責任をとって辞任した。その後、政府は、同鉱山での協同組合による操業を認めないとする一方、COMIBOLが共同組合の4,000人の労働者を受け入れるという提案を行うなど収拾を図ろうとしたが、協同組合側は5,000人の雇用確保と、現鉱山冶金大臣の辞任などを要求し、一部過激派が道路封鎖など抵抗を強めており、今なお、混乱が続いている。
 COMIBOLは現在、共同組合と操業契約をしている鉱山が80余りあるという。今後、その一部はCOMIBOLに操業権が戻り、COMIBOL自ら操業する鉱山と、共同組会が法人化して自立していく鉱山(両者とも外国企業の支援を得ることが必要)と、両者が共存していくものと見られる。但し、これら鉱山の生産性の向上や合理化には、現状の6万人と言われる共同組合員のリストラが必至であり、今回のHuanuni鉱山のような衝突は氷山の一角であるとの指摘もある。鉱業の再興とこのような雇用問題とをどう両立させていくのか、今後、政府は難しい舵取りを迫られるものと見られる。
 
(3) 最近の外国企業による投資動向

  (ⅰ)San Cristobal亜鉛鉱山開発プロジェクトの進展
 世界的に亜鉛鉱石不足が深刻化する中、大型亜鉛鉱山として注目されているSan Cristobal鉱山開発プロジェクト(ポトシ県)について、本年9月26日に住友商事が参画することを発表した。同プロジェクトは、米国のApex Silver社が保有しているもので、住友商事は35%の権益を260億円プラス出来高払いで取得。同鉱山は、2007年第3四半期に操業開始の予定で、年間生産量(金属量)は、銀550t、亜鉛168千t、鉛64千t。すでに、日本のスメルター各社と長期買鉱契約を締結していると伝えられており、日本の亜鉛精鉱安定確保に大きく貢献するものと期待されている。
(ⅱ)Karachipampa製錬所再建計画
 Karachipampa鉛・銀製錬所(ポトシ県、COMIBOL所有、24年間停止状態)の再建について、Atlas Precious Metals(米国)が、COMIBOLに対し、同製錬所のリハビリ計画とその隣接地に新規の亜鉛製錬所(年産8万t規模)を建設するオファーを出している模様。また、COMIBOL所有の鉱山投資も検討しているという。これが実現すれば、亜鉛鉱石を巡って我が国と競合することになり、その動向を見守る必要がある。
(ⅲ)中国企業の動向
 先に中国企業がCOMIBOLや共同組合に対し、数千万$規模の投資計画を表明しているが、現実には、進展がない状況。最近、Mutun鉄鉱山開発プロジェクト(COMIBOLとインド企業のJ/V)で、中国企業が参入を狙って鉄道建設等のインフラ投資を含めた提案を行っている模様。
(ⅳ)その他
 その他最近の外国企業の動向としては、米国のNewmont(金)、カナダのPan American Silver(銀、鉛、亜鉛)、ブラジルのVotorantim(亜鉛)などが探鉱開発案件に着手する動きがある。


4. おわりに

 世界のメディアは、モラレス大統領が国内の支持層向けに多用している「国有化」(nacionalizaciÓn)発言に踊らされている節がある。ボリビア政府が目指している現実の鉱業政策は、外国資本の接収とか外国企業の締め出しという方向ではなく、(1) COMIBOLを核とした鉱業の建て直し(2) 民間企業による鉱山開発の推進 という2本の柱で、外資を積極的に導入し、グローバルスタンダードのルールのもと、今まで、外国資本(+一部政府高官)が独占していた利益を公平に山分け(国、地方、企業3者のwin-winの関係を構築)し、最終目標である国内の貧困問題を解決しようというものである。これは、形の上では、鉱業先進国であるチリにおいて、CODELCO(チリ銅公社)と民間企業との共存共栄が図られている姿と一致している。
 一方、ボリビアでは、以上のような外国企業との関係の他に、国内問題として、Huanuni鉱山での抗争で見られるような共同組合管理鉱山のCOMIBOLへの吸収に対する反発や共同組合鉱山の合理化に伴う労働者リストラ問題など深刻な社会問題が顕在化しており、その解決の行方も不透明である。今後、同国の鉱業発展の足を引っ張りかねないこうした社会問題への対処も現政権の大きな課題となろう。
  いずれにしても、モラレス大統領の反米、資源ナショナリズム発言により、欧米企業の腰がひけている状況にある中、我が国にとって、原料不足が深刻化している亜鉛、タングステン、インジウムなどの資源獲得に向けて絶好のビジネスチャンスであると言える。JOGMECとしても、本邦企業の関心が高まりつつある中、資源外交的な観点から、同国との戦略的な関係強化が望まれる。

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