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ペルーの亜鉛鉱山と亜鉛探鉱開発プロジェクトの現況
| ペルーの2005年の亜鉛鉱石生産量は120.2万tと、この10年間で約1.7倍に拡大し、現在では、中国、豪州に次ぐ世界第3位の亜鉛鉱石生産国となっている。しかしながら、ここ数年、亜鉛価格が高騰にしているにもかかわらず、生産量は頭打ちの状態が続いており、世界的に亜鉛需給が逼迫している中、世界有数の生産国である同国の今後の生産動向が注目される。本稿では、ペルーの亜鉛鉱山及び、今後生産が期待される主な探鉱開発プロジェクトの現況を紹介するとともに、同国の今後の亜鉛生産の見通しについて報告する。 |
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注)2006年は上半期生産量、上半期平均価格
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図1 ペルーの亜鉛鉱石生産量の推移
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1. ペルーの亜鉛鉱山の現況
表1は、2005年のペルーの企業別亜鉛鉱石生産量上位20社を示したものである。1位は、Cerro de Pascoなど5つの亜鉛鉱山を所有しているVolcan社(ペルー企業)で、次いで、ペルー最大のAntamina鉱山を所有するAntamina社(BHP Billiton 33.75%、Xstrata 33.75%、Teck Cominco 22.5%、三菱商事10%)、ペルー第2位のIscaycruz鉱山などを所有するQuenuales社(Glencore子会社)の外資系が続く。4位以下は、9位のSanta Luisa社(三井金属鉱業70%、三井物産30%)、18位のPan Amecican Silver社(カナダ)を除き、ペルーの民族資本系の会社が独占している。また、年産10万t以上の大規模鉱山は上記の3鉱山に限られ、年産数万tクラスの小中規模鉱山が全体の約6割を占めている。
このように、ペルーの亜鉛鉱山の特徴としては、伝統的にペルーの民族資本の企業が操業する小中規模クラスの鉱山の役割が大きいという点であり、ペルーの銅鉱山が、大規模鉱山が支配的でしかも世界のメジャー企業が独占しているのと対照的な供給構造を示している。
ペルーの亜鉛鉱山は、同国中部のPasco県及びその周辺地域を中心としたアンデス山系に位置するスカルン型ないしは鉱脈型亜鉛・鉛・銀鉱山が一般的であるが、最近では、Maria TerasaやCerro Lindoなど沿岸部に分布する黒鉱型鉱山も注目されている(図2)。
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| 注1)CIA. MRA. ANTAMINA(BHP Billiton 33.75%、Xstrata33.75%、Teck Cominco 22.5%、三菱商事10%) 注2)EMPRESA MINERA LOS QUENUALES(Glencore97%) 注3)SOC. MRA. EL BROCAL(Buenaventura 66.5%、Group Fernandini 10.6%、Teck Cominco 10.2%等) 注4)CIA. MRA. SANTA LUISA (三井金属70%、三井物産30%) |
| 出典:ペルー・エネルギー鉱山省 |
以下に、上位10鉱山の概況を述べる。(出典:各社ホームページ、現地報道、Raw Materials Data、Metals Economics Group等)
| (1) Antamina鉱山 ・位置:Ancash県San Marcos郡(Lima市北方約300km) ・操業企業:CIA Minera Antamina ・鉱床タイプ:スカルン型 ・採掘法:露天掘り ・鉱量・品位:埋蔵鉱量559百万t(Cu 1.3%、Zn 1.06%、Ag 14.1g/t、Mo 0.03%) ・操業開始:2001年 ・選鉱処理能力:70,000t/日 ・2005年生産量(金属量):銅37.5万t、亜鉛18.4万t、モリブデン6,722t。 ・残存マインライフ(推定):15年 (2) Iscaycruz鉱山 ・位置:Lima県Oyon市(Lima市北東160km) ・操業企業:Empresa Minera Los Quenuales SA (Glencore 97%) ・鉱床タイプ:スカルン型 ・採掘法:坑内掘り、露天掘り ・鉱量・品位:5.48百万t(亜鉛14.1%、鉛2.3%、銀21g/t) ・操業開始:1996年(初期投資額50百万$) ・選鉱処理能力:2,500t/日 ・2005年生産量(金属量):亜鉛158.6千t、鉛10.4t、銀20.81t ・残存マインライフ(推定):5年 (3) Cerro de Pasco鉱山 ・位置:Pasco県Cerro de Pasco市(Lima市北東200km 標高4,340m) ・操業企業:Volcan Compania Minera SA ・鉱床タイプ:マント型 ・採掘法:露天掘り、坑内掘り ・鉱量・品位:31.8百万t(亜鉛6.15%、鉛2.09%、銀120g/t) ・操業開始:1905年 ・選鉱処理能力:7,500t/日 ・2005年生産量(金属量):亜鉛126.6千t、鉛45.5千t、銀137.0t ・残存マインライフ(推定):11年 (4) El Porvenir鉱山 ・位置:Pasco県Yanacancha市(Lima市北東190km、標高4,100m) ・操業企業:CIA Minera Milpo SA ・鉱床タイプ:スカルン型 ・採掘法:坑内掘り ・鉱量・品位:7.577百万t(亜鉛8.58%、鉛1.50%、銅0.30%、銀99g/t) ・操業開始:1949年 ・選鉱処理能力:4,000t/日 ・2005年生産量(金属量):亜鉛89.3千t、鉛20.9千t、銅2.7千t、銀93.53t ・キャッシュコスト(粗鉱1t当たり):19.3$/t ・残存マインライフ(推定):6年 (5) Atacocha鉱山 ・位置:Pasco県Cerro De Pasco市の北東15km ・操業企業:CIA Minera Atacocha SA ・鉱床タイプ:鉱脈型 ・採掘法:坑内掘り ・鉱量・品位:8.415百万t(亜鉛5.06%、鉛2.85%、銅0.32%、金0.5g/t、銀147g/t) ・操業開始:1936年 ・選鉱処理能力:3,500t/日 ・2005年生産量(金属量):亜鉛59.2千t、鉛40.9t、銅3.2千t、銀160.61t ・キャッシュコスト(粗鉱1t当たり):28.7$/t ・残存マインライフ(推定):7年 (6) Colquijirca鉱山 ・位置:Pasco県Cerro De Pasco市の南10km ・操業企業:Sociedad Minera El Brocal ・鉱床タイプ:マント型 ・採掘法:露天掘り、坑内掘り ・従業員数:315名 ・鉱量・品位:8.387百万t(亜鉛5.88%、鉛2.01%、銅0.07%、銀85g/t) ・操業開始:1956年 ・選鉱処理能力:3,000t/日 ・2005年生産量(金属量):亜鉛60.2千t、鉛28.5千t、銅0.9千t、銀136.72t ・キャッシュコスト(亜鉛金属量1lb当たり):0.29$/lb ・残存マインライフ(推定):6年 (7) Chungar(Animon)鉱山 ・位置:Pasco県Huayllay郡 ・操業企業:Volcan Compania Minera SA ・鉱床タイプ:鉱脈型 ・採掘法:坑内掘り ・鉱量・品位:4.504百万t(亜鉛10.30%、鉛3.46%、銅0.38%、銀85g/t) ・操業開始:1969年 ・選鉱処理能力:2,800t/日 ・2005年生産量(金属量):亜鉛55.6千t、鉛23.7千t、銅1.9千t、銀69.90t ・キャッシュコスト(亜鉛金属量1lb当たり):0.25$/lb ・残存マインライフ(推定):7年 (8) San Cristobal鉱山 ・位置:Yauli県Huayhuay郡San Cristobal市 ・操業企業:Volcan Compania Minera SA ・鉱床タイプ:鉱脈型 ・採掘法:坑内掘り、露天掘り ・鉱量・品位:7.899百万t(亜鉛6.95%、鉛1.34%、銅0.21%、銀110g/t) ・操業開始:1942年 ・選鉱処理能力:2,500t/日 ・2005年生産量(金属量):亜鉛57.1千t、鉛9.0千t、銅0.9千t、銀90.45t ・残存マインライフ(推定):13年 (9)Maria Teresa鉱山 ・位置:Lima県Lima市北方75km ・操業企業:Minera Colquisiri SA ・鉱床タイプ:黒鉱型 ・採掘法:坑内掘り ・鉱量・品位:2.5百万t(亜鉛9.5%、鉛1.8%、銅0.45%) ・操業開始:1996年 ・2005年生産量:亜鉛39.3千t、鉛6.6t、銅1.7千t、銀56.07t (10) Huanzala鉱山 ・位置: Huanuco県Huallanca地区(リマの北方250km) ・操業企業:CIA Minera Santa Luisa(出資比率:三井金属鉱業:70%、三井物産:30%) ・鉱床タイプ:スカルン型 ・採掘法:坑内掘り ・従業員数:約400名 ・鉱量・品位:7.4百万t(亜鉛11.0%、鉛4.8%、銀113g/t) ・操業開始: 1968年 ・選鉱処理能力:1,300t/日 ・2005年生産量(金属量):亜鉛38.1千t、鉛17.3t、銅0.9千t、銀45.61t |
2. 主要な亜鉛探鉱開発プロジェクト
ここでは、現在、鉱量評価調査~開発中のステージのプロジェクトを中心に紹介する。(出典:各社ホームページ、現地報道、Raw Materials Data、Metals Economics Group等)
| (1) Cerro Lindo ・権益保有者:Milpo100%(うち、19.9%、Votorantim) ・位置:Ica県Arequipa市(リマ市南東175km) ・鉱床タイプ:黒鉱型 ・現在のステージ:開発中 ・鉱量・品位:41.6百万t(Proven and Probable)、亜鉛5.1%、銅0.8%、銀35.4g/t ・選鉱処理能力:5,000t/日 ・予想生産量:亜鉛110千t/年、鉛12.5千t/年、銅8.5千t/年 ・概況:2005年開発工事開始、2007年6月に操業開始の予定。開発投資額は70百万$ (2) Tamboraque ・権益保有者:Gold Hawk Resources(カナダ)100% ・位置:Lima県San Mateo市(リマ市東90km) ・鉱床タイプ:鉱脈型 ・現在のステージ:開発中、開発投資額は30百万$ ・鉱量・品位:4.564百万t(Inferred, Indicated and Measured)亜鉛・3.223%、鉛2.647%、銅0.363%、金.03g/t、銀278.45g/t ・選鉱処理能力:600t/日 ・予想生産量:亜鉛4,800t/年、鉛4,300t/年、金24,000oz/年、銀750,000oz/年 ・概況:2006年Gold Hawkが12百万$で買収、2006年末再開予定 (3) Accha (5) Corani (7) San Gregorio |
3. 今後の中期的亜鉛生産量の見通し
2006年の亜鉛鉱石生産量については、亜鉛価格高騰を背景にペルー企業大手Volcan社などが増産傾向にあるものの(前年比約6%増の31万tの見込み)、ペルー最大のAntamina鉱山やMilpo社El Porvenir鉱山などの生産量が鉱石の亜鉛品位の低下により10%~20%程度減少することが見込まれるため、全体では、若干の減産が予想されている(2006年上半期は、前年同期7.7%減)。
今後5年間程度のスパンで見ると、まず、主要な既存亜鉛鉱山の生産動向について、今のところ、具体的な増産計画が伝えられているのは、Volcan社のみで、現在の30万t体制から2008年には40万t体制に増強する予定である。その他の鉱山については、具体的な拡張計画も減産計画も示されていない(なお、Antamina鉱山は、中長期的に徐々に増産に向かうと伝えられている)。次に、探鉱開発中の案件の中で、近く生産が確実視され、ペルーの亜鉛生産量に大きな影響を及ぼすことになるのは、Cerro Lindoプロジェクト(2007年9月に操業開始予定)であるが、これが予定通り、生産を開始すれば、2008年には、約10万t分が上積みされることになる。その他の亜鉛探鉱開発プロジェクトについては、現在のところ、鉱量確認段階あるいはプレF/S段階のものがほとんどであることから、これらのプロジェクトが5年以内に生産に至る可能性は低いものと見られる。一方、ペルーには、地元企業による中小鉱山が数多く存在するが、これら企業の鉱山拡張計画や探鉱開発計画についての情報が十分開示されておらず、その活動の実態を把握するのは困難である。今後、現在の亜鉛価格の高騰が生産拡大へのインセンティブとなる可能性はあるが、これらの鉱山によりある程度の生産増が実現されたとしても、量的には、その鉱山規模からして、ペルー全体の亜鉛生産量を大きく押し上げる要因になるとは考えにくい。
以上から、中期的には、ペルーの亜鉛鉱石生産量は、現在の水準を大きく上回ることはなく、現在の120万tレベルにVolcan社分及びCerro Lindo分を加えた130万t~140万t程度で、推移していくものと予想される。
なお、ペルーの地金生産については、2004年にVotorantim(ブラジル)がTeck Cominco及び丸紅から買収したCajamarquilla製錬所の製錬能力を現在の13万t体制から2007年に16万t体制に、さらに将来的にはその2倍の32万tに増強する計画が伝えられている。このため、同社は、ペルーでの亜鉛鉱石確保強化に向けて、Milpo社への資本参加や、Bongara探鉱案件への参入など、鉱山分野への投資を積極化している。こうした動きが加速されれば、ペルーの亜鉛鉱石生産量拡大に貢献する可能性もあり、今後の同社の動向が注目される。
4. おわりに
世界的な亜鉛鉱石不足が顕在化する中、ペルーでは、探鉱開発案件の玉不足から、当面、大きな増産は望めず、開発プロジェクトが目白押しで順調な増産が予想される銅とは対照的な様相を示している。ペルーには、数多くの中小亜鉛鉱山、またその拡張計画や周辺探鉱、さらにグラスルーツ案件など、数多くの探鉱開発プロジェクトが潜在しているものと見られる。一方、亜鉛鉱山開発の性格、規模から、世界のメジャー企業がこうした規模のプロジェクトに参画することは稀であり、従って、その多くは、ペルー企業やジュニア企業が担い手となっているのが実態である。これらの企業の中には、プロジェクト推進に向けて、資金や技術力を有する海外パートナーを求めているところが少なくなく、今後、世界の亜鉛市場が拡大傾向にある中、こうした案件へ参入するビジネスチャンスは一層広がっていくものと思われる。
なお、本報告の詳細については、1月下旬に発刊予定の「金属資源レポート1月号」に掲載予定であるので、こちらもご参照いただきたい。
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図2 ペルーの亜鉛鉱山及び探鉱開発プロジェクト位置図
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