報告書&レポート
Mining Journal 「Nickel Day」セミナー参加報告
Mining Journal誌が主催する「20:20 investor series」と称されるセミナー・シリーズの一環として、「Nickel Day」が、10月31日にロンドンで開催された。同シリーズは、主に欧州の投資家向けに、各金属、あるいは国ごとのテーマにより、年間4、5回程度、開催されている。個々のセミナーの共通テーマは、金属の需給・価格動向、各国の鉱業法規、採鉱・生産動向、そして関連企業の事業内容・展望・投資ポテンシャルなどである。今回のセミナーでは、今年に入り非鉄金属の中でも価格上昇が著しいニッケルにスポットを当て、需給・価格動向に関する講演が1件、探鉱企業による自社プロジェクトの概況についての講演が5件行われた。 自社プロジェクトに関する講演では、フィンランド、ロシア、ブラジル、トルコ、スウェーデンにおける探鉱・開発プロジェクトに加え、スコットランドにおける探鉱プロジェクトも紹介された。 以下、その概要を報告する。 |
1.需給・価格動向に関する講演
「Nickel Market Overview」 -CRU Analysis社(英)Ms. Vanessa Davidson,Research Manager, Special Steels & Alloys-
探鉱業、金属、化学などの市場動向に関する調査、コンサルティングなどを行っているCRU Analysis社(英)によるニッケル産業、市場の展望に関する講演で、次の点にスポットを当てた内容であった。
・需要:ステンレス鋼の生産、グレード毎のステンレス鋼の生産、スクラップの動向、非ステンレス鋼の利用
・供給:生産トレンドの概観、新しいラテライト鉱床プロジェクト、新しい硫化鉱床について
・需給バランスと価格の概観
講演の概要は以下のとおり。
【現在の価格動向】
ニッケルのトン(t)当たりLMEにおける現物価格は、2001年9月11日の米国におけるテロ発生直後には、4,000US$であった。その後、アメリカ経済の復調とともにニッケル価格は上昇を続け、2006年前半にファンドの投機資金が流入したこともあり、34,000US$の高値をつけた。
この背景には、ニッケルの在庫が品薄であることが指摘されている。2003年半ば以降、2005年後半の一時期を除けば、ニッケルの在庫は常に10週間以下という低水準が持続しており、これがニッケルの現物価格を下支えする要因となっている。
この他、世界の一次ニッケル生産量が頭打ちとなっていることも指摘されている。その理由として、新規鉱山開発プロジェクトや既存鉱山の拡張への投資が少ないこと、2005年と2006年における予測し得なかった生産低迷、オーストラリアのHPAL(高圧酸浸出法)プロジェクトの不調などが指摘されている。また、ニッケルへの強い需要や在庫不足、ファンド資金の流入なども要因としてあげられている。
【需要面】
2011年の世界のステンレス鋼の生産量は35百万tに達すると予測されている。これは、今後も世界需要が年率5%の増加が継続するという前提だが、この増加は、中国におけるステンレス鋼生産の急増によって実現されるものという。
過去のステンレス鋼の生産量増減率は、OECD CLI(Composite Leading Indicator:景気先行指数)の変化と、ほぼ同じトレンドを辿ってきている。2006年のOECD CLI伸び率はスローダウンしつつあることから、短期的には、世界のステンレス鋼の生産量、一次ニッケルの消費量共に、これを反映した動きを示すと予測している。
また、ニッケル価格の高騰は、ステンレス鋼生産にも影響を及ぼしており、ここ数年、ニッケルを使用しない、あるいは低減したグレード(CrMn鋼(Ni:1~4%)等)のステンレス鋼の生産が増加している。しかし、それでもCrNi(Ni:8%)のステンレス鋼の生産量は全体の61%と、これらを圧倒している。CrNi(Ni:8%)ステンレス鋼のCAGR(Compound Average Growth Rate:年平均複合成長率)は、2000~2006年の年3.6%に対し、2006~2011年は年3.8%へと上昇することが予想される。
ステンレス生産において、スクラップ・ニッケルの利用量は、1998年の600千t弱から2010年には約900千tへと増加すると予測されるが、この増加は一次ニッケルの利用量の増加を上回るものではない。このため、世界のステンレス鋼生産におけるスクラップ・レシオは、今後もあまり変化なく、45~49%の間で推移するとみられている。
世界の一次ニッケルの需要は強く、CAGRは、1996~2001年が年3.0%、2002~2005年が年4.1%、2006~2011年が年4.3%と増加するものとみられている。また、一次ニッケルの需要は2011年には、2006年よりも320千tの増と予測される(次表参照)。
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【供給面】
世界のニッケル鉱床は、73%がラテライト鉱床であるにもかかわらず、現在のニッケル生産の56%は硫化鉱床から生産されたものである。
硫化鉱床の問題点は、ニッケル品位は高品位であるものの、埋蔵量が100百万tを超える大規模な鉱床が存在しないことである。このため、低品位かつ埋蔵量の多いラテライト鉱床の開発プロジェクトを各社が進めており、その合計生産量は今後3~4年間で317千tに達する見込みである。
ラテライト鉱床開発プロジェクトの70%は湿式製錬によるもので、特にHPAL法が重要であるが、HPALは複雑な技術が求められることから、操業自体が難しく、熟練労働者の不足が発生しつつある。また、どれくらい早くフル稼働できるか、という点についても疑問が残る。
現在進行中の、硫化ニッケル鉱床の新規・拡張プロジェクトは、いずれも規模が小さく、その生産量合計見込みは139千tに過ぎない。また、既存の硫化ニッケル鉱床の生産量は低下傾向にあり、新規プロジェクトにおける生産量の18%は、この落ち込み分の埋め合わせのために使用される見通しだ。
【需給バランスと価格予測】
理論的には、ニッケルの生産は、需要の伸びと歩調を合わせると考えられる。
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しかし、ニッケル生産量の増加に関しては、さまざまなリスクが存在する。まず、既存の硫化鉱床は、新規開発されるよりも早いペースで消費されている。また、新規の硫化鉱床からの増産分の約20%は、既存の鉱床の生産の落ち込みを埋め合わせるだけである。そのため、将来のニッケルの供給を安定化させるために、HPAL技術に基づいたラテライト鉱床開発、特にリモナイト鉱床の開発を実施していく必要がある。しかし、現実は、オーストラリアにおけるHPALプラントにおいては、生産開始の遅れや操業上の問題が生じている。
前述のように、今後5年間は、ニッケルの需要を満たすために、新しいプロジェクトが進行しているようにみえる。しかし、多くのプロジェクトがHPAL技術に依存しているため、この需要を満たせなくなるリスクも存在する。HPALを採用した大規模なプロジェクトが1つでも大きな遅延を起こせば、ニッケルは供給不足となり、この状態は2010年代まで続くことも予測される。
そのためニッケル価格は、短期的には、現在の高値から下落することは予想されるものの、中期的には、過去平均価格である2~5US$/lbのレンジを超える水準であるものと予測する。
【結論】
本公演でなされた結論は以下の点である。
・2007~2011年の一次ニッケル消費量は、平均年率4.3%増 ・在庫積増の需要が存在 ・今後5年間で360千tの生産増が必要 ・理論的には、各企業のプロジェクトは、これを満たすと予測するが、新規プロジェクトの生産量が計画を下回るリスクは存在 ・ 現在の14~15US$/lbからの価格調整(下落)は起こりうるものの、2010年代までは、長期平均価格(2~5US$/lb)を上回り続けるものと予測 |
2. ニッケル・プロジェクトに関する講演
2-1. Belvedere Resources 社(加社、Tront Venture Exchange上場) -Mr David Pym, CEO-
同社は、1997年以来フィンランドにおける鉱山開発を行っており、2006年には、Fin Nickel社の株式を45%取得している。トン(t)当たりのニッケル価格が12,100US$の水準ならば、この投資は12カ月以内に回収できる見通しという。
Fin Nickel社は、ニッケル、銅、コバルトを産出する13鉱山を保有している。推定埋蔵量は、ニッケル38千t、銅45千tである。スカンジナビア半島は、ニッケルの製錬所の集積した地域で、世界の生産能力の1/5を占めている。Fin Nickel社の全ての鉱山は、1,000km以内に利用可能な製錬所があるということもメリットの一つである。
Fin Nickel社のプロジェクトのうち、Sarkiniemiプロジェクトは採掘許可がおり、2007年第1四半期中に採掘が可能となる。Riihilautiプロジェクトは、環境調査の申請を行っており、2007~2008年には坑内採掘が開始される見通し。また、Perttilahtiプロジェクトは未開発だが、推定資源量1.3百万t、品位は銅2.2%、亜鉛1.9%、ニッケル0.15%。コバルト0.16%、金9.5g/tが見込まれている。未開発のValkeiseranaプロジェクトもポテンシャルの大きいプロジェクトとみられており、また、Sahakoskiプロジェクトは、未開発プロジェクトで、推定資源量はニッケル10千t、銅3千tという。
これらのプロジェクトは、最低限の人員と契約スタッフ、非主要業務のアウトソーシング、最低限の投下資本などにより、低コストで行われており、また、EUやフィンランド政府からの支援も得られていることが、メリットとしている。
Belvedere Resources 社自体も、フィンランドに4つの地域に鉱山を有しており、ニッケルのほかに、金、亜鉛、銅、コバルト、ウランなどが産出する。特にKopsaとRantasalmiでは、それぞれ金の推定埋蔵量は500千ozという。
2-2. Amur Minerals社(ロシア、AIM上場) -Mr Robin Young, CEO-
同社は、2006年3月にロンドンAIMに上場、ロシア東部、Amur Provinceでの探鉱プロジェクトを進めており、面積950km2に及ぶKun-Manie地区で、ニッケルと銅の採掘ライセンスを得ている。
探鉱プロジェクトは、一部の鉱床においては現在プレFSまで進んでおり、Kun-Manie鉱床のJORC基準による概測鉱物資源量は28.4百万t、品位はニッケル0.47%、銅0.13%、予測鉱物資源量は28.7百万t、品位はニッケル0.44%、銅0.13%。概測+予測合計鉱物資源量は57.1百万t、品位はニッケル0.45%、銅0.13%である。また、ボーリングが行われたMaly Krumkon鉱床では、予測鉱物資源量11.0百万t、品位はニッケル0.45%、銅0.14%の結果が得られている。
2-3. Mirabela Nickel社(豪社, ASX上場) -Mr Nick Poll, Managing Director-
同社は、ブラジルSanta Ritaプロジェクトの権益100%を所有する。
Santa Ritaは、2004年11月に発見され、グリーンフィールド案件では、過去十年に世界で発見された硫化ニッケル鉱床のうち、最大規模のものである。現在、バンカブルFS中であり、2007年4月までに終了の予定となっており、2008年から採掘を開始計画である。全長1,800mにわたる深さ300mの露天掘りにより、年産17千tのニッケルを生産する見込みで、鉱山ライフは、13年以上と推定されている。
2006年10月時点のJORC基準による概測鉱物資源量は46.4百万t、品位はニッケル0.61%、銅0.14%、予測鉱物資源量は5.6百万t、品位はニッケル0.55%、銅0.14%。合計埋蔵量は52.0百万t、品位はニッケル0.60%、銅0.14%である。
Santa Rita地区は、人の住んでいない農地で、近くには水源となる川が流れている。また、2つの港に道路でアクセスできる。2006年9月に環境アセスメントを提出しており、採掘許可は2007年第1四半期に降りる見通し。また、税金の免除も得られる見通しである。推定される資本コストは、180百万US$で、ニッケル価格が6US$/lbで推移すれば、14か月で負債を返済でき、また、2年で投下資本を回収できるという。
今後の予定は、2007年4月にバンカブルFSを終了し、採掘許可を取得。2007年第2四半期に、ファイナンス完了後、鉱山建設を開始する。生産は2009年前半から開始する計画である。
同社では、Santa Rita付近のPalestina地区やGongogi地区なども鉱床ポテンシャルがあるとしている。
2-4. European Nickel社(英社、AIM上場)
-Mr Andrew Lindsay, Financial Director- |
同社は、トルコのCaldagにおいてラテライト鉱床の開発をおこなっている。抽出のプロセスとして、Atomospheric Acid Heap Leach(常圧酸浸出法)を選択している。これは、従来のフェロニッケル製錬法やHPAL法よりも、資本コストが低いというメリットがある。
トルコは、EU参加を申請しており、主要な都市においては社会インフラが整備されている。過去5年間のGNPは年平均8.1%で、2006年3月までの1年間の鉱業関連の輸出は20.1%の増加であった。
Caldagは、Izmir港から75kmの位置にあり、水利と発電所へのアクセスも良好である。JORC基準による確定鉱石埋蔵量(ニッケル・カットオフ品位0.6%)は31.6百万t、品位は1.14%、推定鉱石埋蔵量は1.9百万t、品位は1.08%、鉱石埋蔵量(確定+推定)は33.5百万t、品位は1.14%である。鉱山ライフ15年で、総ニッケル生産量258千tとなっている。
鉱石からの一次生産物は、ニッケル34%、コバルト1~1.2%、マンガン2%超を、二次生産物は、ニッケル24%、コバルト0.8%、マンガン8%超を有し、ニッケルの選鉱・製錬業者向けに販売する。
必要とされる総資本コストは300百万US$で、うち40%は株式発行による調達、残りは借入金で充当する。バンカブルFSによると、内部収益率(IRR)は31.6%、正味現在価値(NPV)は175百万US$、ペイバック期間は5年で、ニッケルの年間生産量は20.4千t、コバルトは1.2千tを予定する。また、9年間のフル生産を前提とした年間売上収入は159百万US$、EBITDAは92百万US$、借入金返済前のキャッシュ・フローは66百万US$である。
プロジェクトの今後のスケジュールは、2006年中に資金調達を終え、設備建設を開始する。2007年初頭から採掘を開始し、2008年からニッケル精鉱の生産を行う。フル稼働は2009年を予定。なお、BHP Billitonは同社に4.1%出資しており、同社の生産物を100%取得するオプションについて交渉中である。
2-5. Alba Mineral Resources社(英社、AIM上場)
-Mr Michael Nott, Group Managing Director- |
同社は、スカンジナビア半島とスコットランドで、ニッケル、銅、コバルト、PGE(白金族金属)の探鉱プロジェクトを実施し、また、アイルランドでも金、ベースメタルの探鉱を行っている。いずれのプロジェクトも初期段階のプロジェクトである。
スカンジナビア半島におけるプロジェクトは、同社の株主でもあるAltius社と共同で、スウェーデン北部のVindelnと南部のKlevaで探鉱を行っている。1985年のデータでは、Klevaの過去の採掘量は54,380t、品位はニッケル1.9%、コバルト0.8%、銅0.2%であったという。今後、広域的な調査から着手し、本格的な調査段階に入るとしている。
スコットランドにおけるArthrathプロジェクトは、ニッケル、銅、コバルト、パラジウムをターゲットとした案件であり、アバディーンの北部の田園地帯に位置する。過去1970年前後にGold Fields社とRio Tinto社が、ボーリングを含む共同探査を実施した実績がある。過去のデータを解析した結果、硫化ゾーンが厚さ最大150m、西から東に沈み込んでいく地質構造が想定されている。今後、UTEM法電磁探査から実施していく予定であるとしている。