報告書&レポート
メキシコ・ソノラ州銅鉱山現地調査報告
周知のとおり、メキシコは古くからの鉱業国であり、現在でも銀・ビスマス等の世界の主要生産国である。中でもソノラ州(Estado de Sonora)はカナネア(Cananea)、ラ・カリダ(La Caridad)の国内二大銅鉱山を有するほか、産金量も国内第2位となっている等、メキシコ屈指の鉱業が盛んな州である。メキシコは世界第10位の産銅国であり、国内鉱山から年間約40万tの銅を生産しているが、ソノラ州の生産量はその85%を占めている。 今般、ソノラ州内でも特に銅鉱業が盛んなカナネア鉱山地区(Distrito Minero de Cananea)の3銅鉱山(カナネア、マリア(Maria)、ミルピージャス(Milpillas))を訪問する機会を得たので、これら鉱山の概要を紹介する。 |
1. ソノラ州の概要及び鉱業生産
(1) ソノラ州の概要
ソノラ州はメキシコ北西部に位置し、東はチワワ州、南はシナロア州に接し、西側はカリフォルニア湾(コルテス海)を挟んで(南及び北)バハ・カリフォルニア州と向かい合う。北側は国境線を挟んで米国・アリゾナ州である。面積は185千km2に及び、国内31州の内第2位の広さを誇る。人口は250万人、州都はエルモシージョ(Hermosillo)である。
(2) ソノラ州の鉱業生産
2005年のメキシコ国内及びソノラ州の主要鉱産物の生産量を表1に示す。ソノラ州は銅、モリブデン、グラファイト等の生産で国内第1位を占めるほか、金の生産量もドゥランゴ州に次いでメキシコ第2位となっている。
表1 ソノラ州の主要鉱産物生産量及び国内順位 |
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出典:INEGI、ソノラ州政府鉱山総局
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ソノラ州の鉱業生産額を表2に示す。2003年の州内の鉱業生産額は約73億ペソ(6.75億US$:2003年の平均レート=10.7890ペソ/$で換算)であったが、その後金属市況に恵まれたため、年平均70億ペソ程度の成長を続け2006年の生産額は286億ペソ(26.2億$:2006年1~10月までの平均レート=10.9031ペソ/$で換算)に達する見込みである。
表2 ソノラ州の鉱業生産額 (単位:千ペソ) |
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(※)1~6月の実績額と7~12月の見込額の合計 |
出典:ソノラ州政府鉱山総局
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2. カナネア鉱山地区の概要
(1) 位置
カナネア鉱山地区はソノラ州北部、米国との国境から南方約40kmに位置する。
(2) 歴史
カナネア鉱山地区での鉱業活動の歴史は、コブレ・グランデ金銀鉱山(la mina Cobre Grande)が発見された1760年に遡る。当地区では1868年から組織的な採掘活動が開始され、鉱石はグアイマス(Guaymas)港からイギリスに積み出された。
1899年にはカナネア統合銅会社(CCCC社:Cananea Consolidated Copper Company、1917年にアナコンダ社(Anaconda Copper Mining Co.)が買収)が設立され、El Capote鉱床とOversight鉱床の坑内掘りが開始された。1927年には世界的に有名なコロラダ鉱床(la Mina Colorada)が発見され、1944年に終掘されるまで7百万tの鉱石(平均品位はCu 6%、Mo 0.4%)が生産された。
1963年にはカナネア・ピットの採掘が始まったが、1961年から始まったメキシコ鉱業の国有化・民族化の波に押され、1971年にアナコンダ社はメキシコ資本化された。その後、国営企業となっていたカナネア鉱山は、1991年にグルポ・メヒコ社の前身であるIMMSA社(Industiral Minera Mexico)に買収された。
(3) 地質
カナネア鉱山地区には火成岩が広く分布するが、堆積岩及び変成岩も分布する。基盤は先カンブリア時代の花崗岩であり、古生代の堆積岩に覆われている。これらの堆積岩はカンブリア系のボルサ・イ・アブリゴ層(Bolsa y Abrigo)、デボン系のマルティン層(Martin)、ミシシッピー系のエスカブローサ層(Escabrosa)及びペンシルバニア系のオルキージャ層(Horquilla)に区分されている。火成岩は年代の古い順から、エレニータ(Elenita)、エンリエッタ(Henrietta)及びメサ(Mesa)に区分されている。これら火成岩の年代は後期中生代から前期新生代と考えられている。また、本鉱山地区には閃緑岩、花崗閃緑岩等の貫入岩が見られる。
(4) 鉱床
カナネア鉱山地区で最も重要な鉱床は、カナネア、マリキータ(Mariquita)、マリア等の斑岩銅鉱床であるが、エスペランサ(Esperanza)、チバテラ(Chivatera)、プエルテシートス(Puertecitos)といったスカルン鉱床も存在する。これらのスカルン鉱床はレンズ状を呈し、主要鉱物として黄鉄鉱、黄銅鉱及び閃亜鉛鉱を産するほか、少量の斑銅鉱及び方鉛鉱を伴う。
3. カナネア鉱山訪問結果
カナネア鉱山は、国内第2位の生産量を誇る銅鉱山であり、メキシコ最大の鉱山企業であるグルポ・メヒコ社(Grupo Mexico)の傘下にある。同鉱山で行った聞き取り調査の結果は以下のとおりである。
(1) 鉱床の概要
埋蔵鉱量は7,400百万t、内5,000百万tがリーチング可能な鉱石である。鉱床は上部から、輝銅鉱帯・輝銅鉱と黄銅鉱の混合帯・黄銅鉱帯の3層に分けられる。輝銅鉱帯はほぼ終掘し、混合帯の採掘に取り掛かるところである。また、現在稼行中の銅鉱床の北方にはスカルン帯が存在し、埋蔵鉱量は50百万t、品位はCu 0.5%、Zn 3%、Ag 1oz/tと見積もられている。
(2) 操業状況
2006年6~7月に発生した違法ストライキの影響はなくなり、現在は平常操業に戻っている。従業員数は約1,600名で、内組合員が1,250名である。
採鉱量は380千t/日、内130千tがSX-EWで、250千tが選鉱プラントで処理される。現在の稼行品位はCu0.6%である。SX-EW(カソード生産)と銅精鉱の合計で年間180千tの銅を生産。SX-EWによる銅生産コストは30¢弱/lb-Cuであり、選鉱処理(銅精鉱生産)による生産コスト(80~85¢/lb-Cu)の約1/3となっている。
採掘は、ディスパッチシステムを導入した露天掘りで行っており、45台のダンプトラック、8台のショベル、8台のドリリング機械を稼動している。精鉱品位は27%、選鉱回収率は83%である。銅精鉱はナコサリ(ラ・カリダ)製錬所に送られる。銅の浸出は嵩高30mのヒープリーチングで行っており、浸出期間は3年、浸出液の銅濃度は2g/ℓである。溶媒抽出により銅濃度を45g/ℓまで高めた後、電解工程でフォーナインのカソードを生産している。
(3) 今後の計画
現在のSX-EWプラントの生産能力は150t/日(第1プラント:30t/日、第2プラント:120t/日)であるが、2008年から90t/日の生産能力を持つ第3プラントを稼動する増産計画がある。また、今後2年以内にモリブデン精鉱の生産を開始するべく、実験室規模の試験を実施している。因みに鉱石中のMo品位は120~150ppm(鉱床深部では200ppm)程度である。
4. マリア鉱山訪問結果
マリア鉱山は、国内第3位の鉱山企業であるフリスコ社(Frisco)傘下のMinera Maria社によって操業されている中規模銅鉱山である(生産開始は2001年)。同鉱山で行った聞き取り調査の結果は以下のとおりである。
(1) 鉱床の概要
マリア鉱山は、マリキータ(Mariquita)、マリア(Maria)、ルーシー(Lucy)の3鉱床を有する。現在、採掘の主力となっているのはマリキータ鉱床である。
マリキータ鉱床の埋蔵鉱量は60百万t、銅品位は0.4%である。同鉱床は鉱染状の二次銅鉱床であり、厚さは約60mある。主要鉱物は輝銅鉱で少量の銅藍を含んでいる。上部は孔雀石を主体とする風化帯で覆われている。マリア鉱床は、銅・モリブデンを含むペグマタイト鉱床である。鉱量は800千t、品位はCu 15%、Mo 0.4%である。銅を対象とした採掘は終了しており、現在はモリブデンを対象に小規模(8t/日)採掘を行っている。ルーシー鉱床の埋蔵量は2.6百万t、品位はCu 1.09%、Mo 0.15%である。主要鉱物は輝銅鉱及び輝水鉛鉱である。同鉱床は探鉱が終了し、採掘に移る段階にある。
(2) 操業状況
従業員数は約300名(内70%が組合員)である。マリキータ鉱床からの採鉱量は15千t/日、SX-EWによるカソード生産量は1,800t/月である。F/S時には銅価格を90¢/lb-Cuと想定し、生産コストを52¢/lb-Cuと見積もっていた。現在は銅価格が高騰しているため、低品位部の採掘が可能となった一方、生産コストは上昇し1~1.5$/lb-Cu程度である。
採掘された鉱石は、1次・2次の破砕工程で径1.5インチまで粉砕される。粉砕された鉱石を嵩高6mに積み上げ、180日間ヒープリーチングを行っている。浸出液の銅濃度は1.8g/ℓ、銅回収率は82%となっている。リーチングに用いる硫酸はGM社のナコサリ(Nacozari)製錬所から購入している。
(3) 今後の計画
SX-EWの生産能力を60t/日から90t/日に増強する計画がある。マリア鉱山の鉱区内で(ミルピージャス鉱山と同タイプの)高品位酸化銅鉱床をターゲットとして地化学探査及び物理探査を実施中である。
5. ミルピージャス鉱山訪問結果
ミルピージャス鉱山は、国内第2位の鉱山企業であるペニョーレス社(Industrias Penoles)初の銅山であり、2006年8月から操業を開始したばかりである。同鉱山の設備にはチリ銅公社(CODELCO)の技術が導入されている。同鉱山で行った聞き取り調査の結果は以下のとおりである。
(1) 鉱床の概要
埋蔵鉱量は35百万t、銅品位は1.95%である。現在は酸化帯を対象に採掘を行っているが、下部には硫化鉱床が存在する。
(2) 操業状況
直轄従業員数は280名、採掘は全て請負業者が行っている。坑内掘り採掘を行っており、採掘された鉱石はシャフトを使って立坑から地上に運搬している。鉱石運搬用シャフトの容量は約10tで、一方当り130回の運搬を行っている(注)。現在の粗鉱処理量は6,000t/日(注)、操業率は30%程度である。採掘された鉱石は1次・2次・3次の破砕工程で径1インチまで粉砕される。
粉砕された鉱石は嵩高10mに積み上げ、ヒープリーチングを行う。リーチングに用いる硫酸はナコサリ製錬所から購入している。電解工程では、電解液の温度が高い(45℃)ため、蒸発防止用のふたを備えている。8月、9月の2か月間で1,000tのカソードを生産した。
坑内の岩盤が脆弱(粘土質)なことが影響し、生産開始が予定より半年遅れとなった。また、鉱石の含水量が想定していたよりも多かったため、機械設備に鉱石が付着し作業効率が低下するという問題も発生している(機械類の材質変更を検討中)。溶媒抽出工程では、パイプから銅浸出液が漏れるという問題が発生した(液温が想定より高かったことが原因)。
(注)複数の技術者から聞き取りを行った。鉱石運搬量と粗鉱処理量に差異があるが、聞き取りのママの数字である。
(3) 今後の計画
半年後にはフル操業の状態に持っていくことを考えている。現在のカソード生産能力は、45千t/年であるが、2010年までに65千t/年に増強する計画がある。
6. おわりに
各鉱山とも、現在の銅価高を背景に積極的な増産計画を有していることが印象的であった。また、カナネア鉱山は70年以上に及ぶ長い歴史を持ちながら、現在、確認されている鉱量のみでさらに100年分の鉱山寿命があるとのことであり、カナネア鉱山地帯の資源ポテンシャルの大きさが窺い知れた。
ソノラ州は、今回訪問した3銅山以外にメキシコ最大の生産量を誇るラ・カリダ鉱山を有するほか、ペニョーレス社とコデルコ社の共同探鉱等新たな銅鉱山開発に向けた探査活動も活発に行われている。長い鉱業の歴史を持ち、道路網・港湾設備等インフラが整ったソノラ州は、今後とも世界的に重要な産銅地域として発展を続けていくと考えられる。残念ながら、現在ソノラ州は我が国への銅供給源としての貢献は果たしていないが、将来の供給源の一つとして引き続きその鉱業事情を注意深く見守る必要がある。