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報告書&レポート

2006年12月28日 リマ事務所 西川信康 e-mail:ommjlima@chavin.rcp.net.pe
2006年104号

ペルー鉱業を巡る2006年の10大ニュース

 2006年のペルーの鉱業界は大きく揺れ動いた。最大の焦点だった大統領選は、一時、資源の国家管理強化を主張する左派民族主義者ウマラ候補の躍進でペルーの鉱業投資環境の行方が懸念されたが、最終的には、穏健左派のガルシア候補が勝利したことで、投資家の間では、安堵の空気が広がった。しかしそれも束の間、政府や国会の中から、矢継ぎ早やに鉱山会社に対し利益還元を求める様々な議論が噴出するとともに、鉱山現場では、地域住民との衝突や対立が激化するなど、好調な鉱業活動・鉱業投資に足を引っ張るような動きが頻発し、まさにペルーから目が離せない1年だったと言える。本稿では、JOGMECリマ事務所が選んだ10大ニュースで今年1年を振り返る。

1位:大統領選は穏健左派のガルシア氏の勝利で南米の反米・国家主義の流れを阻止

 ペルーでは、4月9日に大統領選挙が行われ、大本命と目されていた中道右派のルーデス・フローレス候補が破れ、資源の国家管理強化や貧困撲滅などの急進的な公約を掲げ、国民の半数を超えるとされる貧困層の支持を得た元陸軍中佐オジャンタ・ウマラ氏がトップの得票率を獲得した(得票率ウマラ氏30.6%、ガルシア氏24.3%、フローレス氏23.8%)。ただし、いずれの候補も過半数に達しなかったため、6月4日に、上位2候補による決戦投票が行われ、自由主義を重視し穏健左派路線を訴えた元大統領アラン・ガルシア氏が、第1回投票でフローレス氏を推した財界など保守層の支持により、僅差で逆転勝利した(得票率:ガルシア氏52.6%、ウマラ氏47.4%)。
 ガルシア氏は1985年に、当時36歳という世界で最も若い大統領として内外の注目を集め就任したが、経済政策のつまずきから7,500%を越すハイパーインフレを招き、国内が混乱、汚職の蔓延や左翼ゲリラの台頭を許し、失脚後は、コロンビアやフランスに一時亡命していたという経歴がある。ガルシア氏は、今回はこうした過去の反省から、「同じ過ちは二度と繰り返さない。責任を持った変革を断行する」とし、外国投資を奨励しつつ、雇用創出や農業振興など、国民に裨益する経済発展を目指すことを訴え、16年ぶりの返り咲きとなった。また、ガルシア大統領は、フジモリ問題で冷え込んでいた日本との関係も見直し、再構築したい考えを表明し、2年後のAPEC会合を睨んだ日本との関係強化が期待されている。
 一方、ペルー国会選挙は、ウマラ氏が率いるペルー統一党(UPP:Union Por El Peru)が120議席中45議席を獲得し、第1党に躍進し、一方のガルシア氏率いるアメリカ人民革命連合(アプラ党:Partido Aprista Peruano)は36議席に留まった。(以下、フローレス氏率いる国民連合(Unidad Nacional)17議席、フジモリ派の未来連合(Aloanza Por Futuro)13議席、その他9議席)。ウマラ氏は、選挙直後、議会で第1党になったことを受け、今後も国家主義に向けた活動を展開していくと言明していたが、その後路線対立から2006年末でウマラ氏とUPPの同盟関係が解消されることが決定しており、ウマラ氏の求心力は急速に低下しつつある。
 

2位:企業の余剰利益還元を巡る議論が噴出 -自発的拠出金で決着か-

 ペルーでは、昨今の国際金属価格の高騰・高止まりで企業業績が著しく向上している中、ロイヤルティ徴収の強化、自発的拠出金(Aporte Voluntario)及び余剰利益税(Sobreganancia)導入など企業側に対して追加的な利益還元を求める様々な議論が噴出した。これらの共通の目的は、企業の余剰利益を貧困対策に振り向け、ペルー国内で頻発している地域住民問題を沈静化しようという狙いがある。
 これらの議論のうち、安定化契約を締結している企業も鉱業ロイヤルティを課すという内容の法案は廃案となり、また、左派UPP党から提出された余剰利益税に関する法案も否決される見通しであり、最終的には、8月下旬に政府と企業との間で合意した自発的拠出金で、決着が図られていくものと見られる。
 この自発的拠出金は、全額地方の貧困対策費として支出されることを念頭に置いたもので、追加的な課税等のような国からの強制的な制度による支出ではなく、あくまで、企業側の自主的な寄付金という意味合いのものであることが特徴的である。本拠出金は、金属の国際価格に応じて金額が設定され、総額は2007年から5年間で25億ソーレス(約7.73億$)支払われる見込み。また、各社の算定基準としては、税の安定契約によってロイヤルティを納めていない企業は年間利益の3.75%を支払い、ロイヤルティを支出している企業はその差額分を支払うことになるとしている。さらに、本拠出金の効率的かつ効果的な管理、運用のため、鉱山地域ごとに基金を設置して、それぞれの地元のニーズを踏まえて資金を提供するという枠組みになっている。
 年内にも、政府と各企業との間で個別に合意書に署名することになっており、まずは、初年度(2007年)に5億ソーレスを超える額が拠出される見通しである。
 

3位:相次ぐ地域住民による争議-好調な投資にブレーキがかかる懸念も-

 ペルーでは、2005年あたりから、操業鉱山あるいは探鉱開発プロジェクトサイトにおいて、利益還元、環境対策を求めた地元住民による過激な抗議行動が頻発しているが、2006年も、この種の争議は絶えるどころか、11月の地方選挙を睨んだ左派系候補者による扇動もあり、全国的に拡大した。一部では、警官との衝突で双方に死傷者が出るなど、対立が深まり、鉱山の操業停止に至る事態まで発展した。政府は、カステージョ首相を仲介役として現地に派遣し、争議の沈静化を図るなど、この問題に対して、積極的に取り組む姿勢を示しているが、こうした対応については、政府の行動力を評価する見方と、地域住民側のごね得を誘発する危険性を指摘する声もある。2006年発生した主な争議、衝突は以下のとおり。
・Cerro Verde鉱山(アレキーパ県)
 6月、アレキーパ県の市長連盟が率いる地域住人約1万人が、Cerro Verde鉱山に対して所得税の支払い(政府との間で利益の再投資が認められているため、所得税は未払い)を求め、大規模なデモ行進を行った。このデモによって、一時操業に影響が出るなど対立が2か月にわたって続いた。8月、カステージョ首相による仲介で、鉱山側が約5千万US$を投じてArequipa州内の浄水場の建設に出資するとともに、市側へ約400万US$を拠出することで合意に至った。
・Yanacocha鉱山(カハマルカ県)
 世界最大の金山であるYanacocha鉱山で、8月、一部の住民グループが、河川の水質汚染対策や地域住民の雇用拡大などを求めて鉱山へのアクセス道路の封鎖するなど抗議デモを強行。警察や警備員との衝突で、住民側に死傷者が出た。この影響で一時鉱山操業が停止する事態まで発展したが、8月下旬、カスティージョ首相、エネルギー鉱山大臣の調停による双方の話し合いが進み、鉱山側が環境対策や公共事業推進を約束したことで、約1か月にわたる争議が解決した。
・Ilo製錬所
 9月、Ilo銅製錬所の100人を超える住民が、同製錬所による過去40年間の汚染の補償金として4億$の支払いを要求して、同社所有のToquepara鉱山及びMoqueguaのCuajone鉱山からIlo製錬所へ精鉱を輸送する鉄道を封鎖し、一時精鉱輸送がストップした。(翌日、警官隊80名が出動して、鉄道は封鎖解除)現在も対立が続いており、12月にカスティージョ首相が調停に乗り出す構え。
・Cerro Corona銅開発プロジェクト(カハマルカ県)
 11月、2007年内の操業開始が予定されているCerro Coronaのプロジェクトサイトで、地元の鉱山建設労働者約50人が、雇用拡大を求めてアクセス道路の封鎖するなどの抗議デモが発生した。この影響で、一時建設工事がストップした。今回の抗議運動の背後には、地方選を睨んだカハマルカ県地方選挙候補者が煽動いるとの見方が有力である。
 

4位:ペルー鉱業、空前の好況

 昨今の金属価格の高騰、高止まりで、ペルーの非鉄産業は空前の活況を呈しており、特に鉱産物輸出額は大幅に増加し、ペルーのマクロ経済発展の大きな原動力となっている。
 輸出促進庁(Prompex)によると、ペルーの1月~9月の累計では前年同期比52%増の101億$に達した。内訳は、銅が91%増の42.5億$、金が47%増の29.9億$、亜鉛が117%増の12.3億$と大幅に増加している。一方、モリブデンは価格下落の影響で31%減の6.18億$に留まった。これにより、ペルーの1月~9月の総輸出額(167億$)に占める鉱産物のシェアは60.8%に達し、はじめて6割を超えた。
 一方、鉱産物生産量は、銅、金は増加、亜鉛は減少するなど金属の種類によって明暗が分かれている。2006年第3四半期までの銅及び金の生産量は、それぞれ、前年同期比4.4%増の767,103t、9.1%増の155.4tと大きく拡大している。一方、亜鉛生産量は、5.1%減の879,835t、また、モリブデンも1%減の12,569tと伸び悩んでいる。
 また、ペルーの鉱山会社は軒並み記録的な収益をあげている。ペルーの鉱山会社の純利益上位10社は以下の表のとおりであるが、特に、Volcan、Brocal、Milpoなどの亜鉛企業の業績拡大が目立つ。
 

表 ペルー鉱山企業純利益上位10社
単位:千ソーレス
企業名
2005年1月-9月期
2006年1月-9月期
増加率(%)
Cia. De Minas Buenaventura
632,952
1,137,681
79.7
Southern Peru Copper
646,177
914,800
41.6
Minera Yanacocha
337,690
489,851
45.1
Volcan Cia.Minera
34,366
470,051
13.7倍
Minsur
356,098
432,789
21.5
Sociedad Minera Cerro Verde
119,802
342,702
2.9倍
Minera Barrick Misquichilca
75,390
291,087
3.9倍
Sociedad Minera El Brocal
13,105
202,575
15.5倍
Shougang Hierro Peru
165,997
201,654
21.5
Cia.Minera Milpo
46,733
189,975
4.1倍

 これら好調な業績を反映して、リマ証券取引所に上場している鉱山会社の株価は2006年に入り約3倍に上昇しており、ペルーの投資会社の予測では、2007年も金属価格の大きな下落はなく、鉱山プロジェクトの進展による生産量の増加によって鉱業株価はさらに上昇していくとの見方が一般的である。

 
5位:本邦企業による新たな鉱山が誕生

 3月、ペルーにおいて、本邦企業による2つ目の亜鉛鉱山が誕生した。これは、1968年以来サンタルイサ鉱業(三井金属鉱業株式会社70%、三井物産30%)が操業しているワンサラ鉱山の南方約40kmに位置するパルカ鉱山で、権益は三井金属鉱業株式会社が100%(なお、同鉱山の操業は、サンタルイサ鉱業が三井金属鉱業から粗鉱権を得て実施)所有し、鉱量は約300万t(亜鉛品位約12%、鉛品位約1%)、生産量は約500t/日(ワンサラ鉱山のスタート時と同様の量)、年間亜鉛精鉱31,400t(地金換算約16,000t/年)の生産を予定している。鉱石はワンサラ鉱山に運搬し、同鉱山の選鉱場など既存整備を活用して処理し、精鉱はほぼ全量を日本へ輸出することになっている。なお、本鉱山の発見は金属鉱業事業団(当機構の前身)が実施した海外地質構造調査(1994年から1996年及び1999年~2000年)による探鉱結果が大きく寄与しており、当機構の大きな成果の一つであると評価される。
 一方、12月には、住友金属鉱山と住友商事が資本参加しているセロベルデ鉱山(Phelps Dodge社53.6%、住友金属鉱山16.8%、住友商事4.2%、Buenaventura18.2%等)において、新たに硫化鉱(銅精鉱)生産が開始され、2007年上半期にはフル生産する予定である。これが実現すると、現在の銅年産10万tから3倍の30万t体制に拡大するとともに、生産される銅精鉱の半分を10年間にわたって日本に輸出することになる。
 これら2つの鉱山は、日本への安定的な銅及び亜鉛鉱石確保に大きく貢献していくものと期待されている。

 
6位:Michiquillay入札の発表 -高まる日本企業による落札への期待-

 ペルー政府による2006年の大型入札案件として世界の鉱業関係者から注目されているMichiquillay銅開発プロジェクトについて、9月22日、投資促進庁(ProInversion)は本国際入札を12月15日に行うことを発表。その後、地域住民問題や応札予定者からの要望を受け、入札実施を2007年2月28日に延期した。現在、日本企業を含む15社が名乗りを上げていると伝えられている。
 Michiquillayプロジェクトは、ペルー北部のカハマルカ県に属し、過去にAsarco社及びJICA/MMAJ・日本企業による探鉱等により、鉱量5.44億t、平均銅品位0.69%、金品位0.1~0.5g/t。4万t/日規模の露天掘り鉱山とする開発計画を策定している。
 本プロジェクトを巡る唯一の懸念材料は、地域住民問題で、投資促進庁は、大多数のコミュニティーとの合意を取り付けているとしているが、最近発生した一部の地元住民によるキャンプ地襲撃事件のように、火種はまだくすぶっているとされる。落札企業は、地域社会に対して、相応のコスト負担を求められていくことを十分念頭に置く必要があろう。
 いずれにしても、本件は1970年代、ペルー政府の要請で日本の官民が共同で鉱山開発計画を策定した実績があるなど歴史的に日本との関係が深いだけに、我が国企業による落札への期待が高まっている。

 
7位:大型銅鉱山開発案件の進展

 ペルーでは、銅の大型開発案件が目白押しで、今後5年間でこれら新規案件から80万t余りの銅精鉱が産出されるとの見方もある。また、これら大型案件は、現在のところ、ジュニア企業が保有しているものが多く、鉱山開発の進展に伴い今後、日本企業を含めた鉱山会社が参入するといった展開も予想され、その動向が注目される。2006年、特に進展したこれら代表的なプロジェクトは以下のとおり。
・Toromocho(フニン県)
 2月、Peru Copper社(カナダ)はプレF/S結果を発表。これによると、総開発投資額15.2億$により、操業規模は産銅量27.3万t/年、モリブデン生産量5.4千t/年、キャッシュコストは0.514$/lb、マインライフは21年。鉱量(measured & indicated)は18.3億t、銅換算品位は0.68%(銅品位0.47%、モリブデン品位0.016%、銀品位6.8g/t)。2009年操業開始予定。
・Rio Blanco(ピウラ県)
 9月、Monterrico Metals(英)は、同鉱床の埋蔵量が12.6億tと世界最大級を誇り、2008年から2014年の間に14億$を投じて、2008年には開発工事に着手し、2010年初めには生産を開始すると発表。現在、開発工事開始に向けて、参入を希望する19の企業と交渉中。推定生産量は2010年から年間22万t、2014年からは年間32万tに拡張する計画。
・Las Bambas(アプリマック県)
 Xstrata(スイス)が2004年、政府入札で獲得したプロジェクトで、2005年には5.6万m、2006年には10万mのボーリング調査を行い、この2年間の探鉱投資額は1,200万$。また、地域住民との融和を目指した地元の信託基金に4,600万$を納付。10月、今後新たに2,000万$の追加投資を発表。同プロジェクトは、鉱量3億t(indicated and inferred)、開発投資額10億$以上、年産20万t規模の銅鉱山を目指すとされ、操業開始目標は2015年。
・El Gareno(カハマルカ県)
 7月、Northern Peru Copper(カナダ)は、F/S結果の一部を公表。それによると、初期開発費は853百万$で、年産銅144千t、金43千oz、モリブデン1.9千t、マインライフは20年。内部収益率(IRR)は銅価1.2$/lbで21.7%と、高採算性が期待できるプロジェクトとの見方。
・Magistral(アンカッシュ県)
 9月、Inca Pacific Resources(カナダ)は、今後の開発計画を発表。現在行っているF/S調査は2007年9月に終了、その後バンカブルF/Sを2008年前半までに行い、約2年間の開発工事を経て2010年第1四半期生産開始予定。開発費用2.65億$、年間銅生産量31,000t、モリブデン2,500tで、マインライフは16年。

 
8位:BHP Billiton、Tintaya鉱山をXstrataに売却-Xstrataはペルーでの地位大幅に向上-

 2月、BHP Billiton社は、Tintaya鉱山(ペルー第3位の銅鉱山で、2005年の生産量は、銅量で119.4千t)が同社の経営規模に合わなくなったとし売却の意向を表明。Southern Copper社やMilpo社など買収に名乗りをあげていたが、5月、スイスのXstrata社が電撃的に同鉱山を買収したことを発表した。買収額は7億5,000万$で、同鉱山近傍の2つの衛星鉱床であるAntapaccay鉱床及びCoroccohuayco鉱床も含まれている。
 Xstrata社は、2004年8月にLas Bambas銅プロジェクトを国際入札で取得したのを足がかりにペルーでの鉱山ビジネスを積極的に進めており、今回のTintaya買収に続き、8月のFalconbridge社買収により、ペルー最大のAntamina鉱山の最大株主にもなった。
 一方、BHP BillitonはTintaya鉱山の売却を機に、一時、ペルーから撤退するとの観測も流れたが、11月、同社幹部がガルシア大統領にペルーでの投資促進を表明し、こうした見方を打ち消す姿勢を示した。
 
9位:Oroyo製錬所環境対策を巡る問題 -環境対策行政の遅れで、汚染拡大の懸念-

 米国・Doe Run社が操業しているOroya製錬所(2005年の地金生産量:銅59.7千t、亜鉛41.2千t)の環境改善計画(PAMA)の期限を2006年末から2010年末まで延期する旨の申請をしていた問題で、エネルギー鉱山省は5月29日、同社に対し2009年10月まで延長を認める決定を下した。これにより、Doe Run社は、2億3,600万$を投じて、硫酸プラントを各工程(亜鉛製錬工程:2006年12月31日まで、鉛製錬工程:2008年12月まで、銅製錬工程:2009年まで)に設置するとともに、これら硫酸プラント建設の監査を3か月後ごとに受けることになる。
 これに対し、早期の改善を求めていた環境団体からは、批判の声が高まっている。同製錬所が位置するOroyo市では、すでに、鉛をはじめとする重金属汚染が広がっており、周辺に生活する6歳以下の子供の99.9%に高い血中鉛濃度が認められ、さらに、地域住民3万5千人が何らかの健康被害を受けているとの指摘もあり、政府や企業に対し責任を追及する声が高まっている。
 エネルギー鉱山省によると、現在、ペルー国内には、850か所に鉱害問題が存在しているとされる。これらの鉱害被害のほとんどが、環境に関する法的規制のなかった1993年以前に操業されていた鉱山であり、特に被害個所が多いのがAncash県(133)、Puno県(79)、Ayacucho県(69)、Huancavelica県(67)、Lima(60)となっている。また、義務者が存在しない休廃止鉱山による環境被害を解決するためには8億$の資金が必要であるが、実際の国家予算は4千万$に留まっているとし、この問題への取り組みの困難さを示している。

10位:ペルー鉱物資源ポテンシャル評価では世界トップ、投資環境評価では大きく後退

 カナダのFraiser研究所が322の世界のメジャー、ジュニア企業を対象に行った世界64か国・地域の鉱業投資環境に関する2005-2006年度アンケート結果で、ペルーは鉱床ポテンシャル部門で、前年の7位から一躍首位にランクインされ、世界で最も鉱物資源が豊富な国の一つであるという評価が下された。
 一方、対照的に、投資環境部門においては、2004年の20位、2005年の39位、今回44位と後退傾向が鮮明化している。これは、鉱業ロイヤルティ制度の導入や最近頻発している地域住民による反鉱山開発運動など、投資環境に対する不透明感・不安感に起因するものと見られる。
 ガルシア政権は、こうした見方を払拭するべく、法的安定性の確保や地域住民問題などの課題に意欲的に取り組んでおり、今後の評価が注目される。
 

おわりに

 以上のように、2006年のペルー鉱業界は、資源高による恩恵を受けたグッドニュースと逆に仇となったバッドニュースが表面化した激動の1年だったと言える。金属価格は2007年も高水準を維持していくとの見方が有力であり、ペルー経済は鉱業がけん引し、引き続き堅調に成長していくものと見られる。一方で、このような成長シナリオのアキレス腱となっている地域住民問題や環境対策問題などの社会問題の沈静化に向けて、政府、鉱山側が、どう取り組んで着実な成果をあげていくのかが今後の最大の焦点となろう。

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