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世界鉱業における2006年の回顧

2006年の世界鉱業は、2005年に引き続き金属価格の高騰がさらに進み、非鉄メジャーの利益は過去最高を記録した。国内の鉱山会社だけでなく、資源投資をしている商社においても大きな利益をあげている。その結果、潤沢な非鉄メジャーのキャッシュフローを背景に大型の買収の動きが見られた。その一方、利益の適正配分を巡って、中南米における資源ナショナリズムの台頭、鉱山労働組合による労働改善を求める鉱山ストが相次ぐとともに、鉱山側と地域住民との紛争もあった。また、カスタムスメルターである日本側製錬企業とEscondida鉱山(57.5%の権益保有のBHP Billitonが実質交渉相手)との銅買鉱交渉が難航した。 めまぐるしく変化する世界鉱業界にあって、経済の台頭めざましい中国の資源外交や国内需要を優先とする輸出入統制もみられた。わが国政府も、鉱物資源の安定供給確保に向けた戦略構築を推進した。日本企業による海外鉱山開発の進展もあった。新年にあたり、新たな展望をさぐるためにも2006年における世界鉱業について総括してみたい。 |
1. 金属価格の高騰
銅・亜鉛・ニッケル・アルミ・金等の価格が2003年以降高騰している。2003年5月をベース(1.0)として、2006年までの推移を概観すると、銅と亜鉛が5倍弱、ニッケルが4倍弱、アルミと金が2倍弱となっている。多くの金属は2006年になって急激に高騰している。例えば、銅と亜鉛は、2006年4月以降高騰し、銅は5月12日に8,788$/tの最高を記録した後、乱高下が続き、需給の緩和の兆しが見え始めた11月10日に7,070$/tから急落し、6,000$/t台後半で推移している。亜鉛についても、2006年5月11日に3,990$/tに高騰した後、乱高下を展開したが、2006年10月にはLME在庫も年初比で約3分の1に減少し、11月10日に4,459$/tのピークに達した。その後、4,100$/t~4,200$/t台で推移したが、11月23日には4,511$/tに反発している。
2005年平均価格と比較して、2006年価格(1-10月平均)は、銅が3,684$/tから182%、亜鉛が1,382$/tから221%、ニッケルが14,734$/tから152%、アルミが1,898$/tから34%、金が445$/ozから35%とそれぞれ上昇している。
これらの金属価格の高騰には中国の影響が大である。中国は飛躍的な経済発展を展開しており、国内総生産(GDP)は1980年代以降10%前後の高い実質成長率を記録している。社会資本整備も強力に推進されており、国家発展のための基礎産業として重要な地位を占めている鉄鋼・非鉄金属産業の拡大が顕著である。2006年になっても経済成長は大きく成長しており、実質GDP成長率は、第1四半期で10.3%、第2四半期で11.3%を記録している。中国では、過剰生産や不動産バブルなど中期的なリスクの懸念から、政府は、3月以降、投資抑制策の再強化を図った。しかし、第11次5ヵ年計画に関連した地域開発の加速や、ハイテク・国産化を奨励する各種振興策の推進などを要因に、収益拡大テンポの改善や強い先行き期待があるため、全社会固定資産投資は第2四半期で前年同期比29.8%と第1四半期に比べて2.1ポイントの伸びを加速している。
米国の経済も好調であり、実質GDP成長率は、第1四半期の5.6%、第2四半期の2.6%、第3四半期の2.2%と推移している。また、世界有数の工業先進国であるドイツ(2005年GDP世界第3位)の2006年の実質GDP成長率は1.0~1.6%と予想されている。
2. 資源関連企業による過去最高の利益
主要非鉄メジャーの2006年における当期利益はまだ発表されていないため、2006年前期(第1四半期+第2四半期)を2倍にした推定値に基づき以下議論したい。売上高上位にある非鉄メジャーのうち当期利益が高い順は、BHP Billiton(122億$)・Rio Tinto(76億$)・CVRD(61億$)・Anglo American(59億$)となっており、前年比1.5~2.3倍を記録している。特に、CVRDは2.3倍に達しており、高い収益性が認められる。わが国非鉄大手7社(三菱マテリアル・日鉱金属・住友金属鉱山・三井金属・同和ホールディング・古河機械金属・東邦亜鉛)の経常利益は、2005年度の5,882億円から2006年度は7,933億円(予想)と35%の増加が予想される。
銅事業に特化し、世界第1位の銅生産を誇るチリ銅公社(CODELCO)の当期利益は33.3億ドルと前年比1.9倍が予想されるが、世界第2位のPhelps Dodge社の当期利益は16.1億ドルと前年とほぼ同程度の見込みである。2006年11月のFreeport McMoranによるPhelps Dodgeの買収提案は、Phelps Dodgeの経営不振に起因しているのかもしれない。銅以外にも亜鉛・金・ダイヤモンド・アルミ・鉄鉱石・石炭・工業原料等の多角事業を展開する非鉄メジャー(BHP Billiton・Rio Tinto・Anglo American)が大幅な増益を誇っているが、金属価格の高騰が多くの鉱種にわたっていることを反映しているのであろう。
3. 金属価格の高騰や非鉄メジャーの収益拡大による影響
金属価格の高騰による非鉄メジャーの収益拡大によって、様々な影響がみられるようになった。その影響を大別すると以下の5項目に分類される。
(1) 非鉄メジャーの大型買収
2006年には、日本円で2~3兆円規模の大型買収が見られた。
7月:XstrataがFalconbridgeを買収(買収額161億$)
11月:CVRDがIncoを買収(買収額170億$)
11月:Freeport McMoranがPhelps Dodgeを買収提案(買収額259億$)
その結果、売上高ベースでは、第1位のAnglo American、第2位のBHP Billiton、第3位のRio Tintoに続いて、第4位~第6位の非鉄メジャーが誕生。
(2) 中南米における資源ナショナリズムの台頭
南米エクアドルの大統領選決戦投票が2006年11月26日に行われ、左派・国家同盟のラファエル・コレア元経済・財務相が当選し、南米12か国中8番目の左派系政権の誕生となった。南米左派政権の国は、エクアドル・ベネズエラ・ペルー・ボリビア・ブラジル・チリ・ウルグアイ・アルゼンチンの8か国である。ベネズエラとボリビアの急進左派は他の穏健左派国とは大きく異なる。ベネズエラのチャべス大統領は、石油産業の国有化を進め国庫収入の強化を目指している。ボリビアのモラレス大統領は、国有化というよりも、国営企業(COMIBOL)の再建と民間企業による鉱山開発の推進を行っている。
(3) 相次ぐ鉱山ストライキ
利益配分を巡って、労働協約改定において会社側と労働組合の間で交渉が難航し、鉱山ストが多数見られた。メキシコでは産銅大手グルポ・メヒコ社(GM社)の鉱山ストは、利益配分などの労働協約の改定交渉に伴う合法的なストに、ナポレオン・ゴメス前組合委員長の横領潔白を支持する違法ストが重なった。2月下旬に始まったサン・マルチン鉱山でのストは3月上旬の全国鉱業ストライキで一旦終結と見えたが、ラ・カリダ鉱山で再発(3月24日~7月23日閉鎖・解雇:約4ヶ月間),カナネア銅山が追随(6月1日~7月17日再開)して、かなり長期化した。メキシコ2大鉱山(銅生産320千t)のストは、フォース・マジュール宣言の発出、ラ・カリダ銅山の完全操業10月末(スト開始から半年超)という、GM社はもとより、世界の銅生産にも影響を及ぼした。チリでは、世界最大の銅鉱山(エスコンディダ)では8月に約1か月の鉱山ストがあった。ペルーのチンタヤで5月下旬に、セロ・ベルデ銅鉱山でも11月下旬にストに突入した。
(4) 鉱山と地域住民との紛争
地域住民問題の発生の要因には、地域社会に対する利益還元(道路整備・教育・医療施設の建設)以外に、鉱山操業による環境汚染や健康被害への懸念、地域社会の農業や地場産業への影響、地域社会と鉱山側とのコミューニケーションの不足が指摘される。インドネシアでは、非鉄メジャーが高収益を上げるなか、地元への利益還元を要求した数百人の地域住民によるデモが2006年3月19日にニューモント社キャンプを襲撃した。インドネシアにある世界最大級のグラスベルグ銅鉱山において、2006年2月21日、鉱山内での先住民不法採掘者と鉱山警察側との衝突があった。この衝突は、パプア州内での分離独立活動家と政府治安部隊との衝突に発展(2006年3月16日)。ペルーでは、鉱山を有する州政府や郡・区などに対して、鉱業活動によって得られた利益に係る所得税の50%を交付(カノン税)して、地域社会事業を推進する新たな鉱山と自治体との協力体制の動きが見られた。
(5) 難航した銅買鉱交渉
長期契約による製錬原料(銅精鉱)の価格交渉は年2回行われているが、2006年央積み価格交渉(2006年7月~2007年6月)において、わが国銅製錬企業とエスコンディダ鉱山(57.5%の権益保有のBHP Billitonが実質交渉相手)との価格交渉が決着したが、鉱山側に有利で製錬会社にとって不利なものであった。従来、基準価格(90¢/Lb)を設定し、これから製錬加工費(TC/RC)を差し引いたものが鉱山側取り分であり、LME価格が90¢/Lbを越えた場合は鉱山側9、製錬企業1の割合で分配していた。今回の交渉結果、基準価格が90¢/Lbから120¢/Lbに引き上げられ、しかも上限を180¢/Lbにすることで決着した。そのため、180¢と120¢の差60¢/Lbは従来通り、鉱山側9、製錬企業1の割合で分配されるが、180¢/Lb以上の価格の場合はすべてが鉱山側に分配されることになる。なお、2007~2008年積み交渉においては、製錬側取り分をゼロとすることで決着した。
4. 中国の資源外交と輸出入統制
中国政府は、2003年に「中国の鉱物資源政策」を発表し、国内需給ギャップを解消するため、中西部地区における資源開発の推進とともに海外資源開発を奨励している。資源確保のため、胡錦濤国家主席は2003年秋にAPEC首脳会議に参加して豪州と、2004年秋にチリで開催されたAPECにてチリ・ブラジル・キューバなどの中南米資源保有国と会談している。2005年にはインドネシア・ブルネイを、2006年にはアフリカ諸国を歴訪。2006年11月3日~5日には、北京においてアフリカの48か国が参加した「中国・アフリカ協力フォーラム」を開催し、原油調達拡大など資源外交を加速している。
一方、中国政府は、2006年9月15日から輸出増値税還付率調整を実施した。非鉄金属産品については、「輸出増値税還付率を取り消す産品」或いは「輸出増値税還付率を引き下げる産品」に位置づけられ、還付率が0%或いは13%から5%、8%、11%に引き下げられた。この背景には、環境高負荷かつエネルギー多消費型産業であるためだけでなく、国内資源の国内活用振興策の意味あいも予想される。国外への資源の流出を防ぐため、11月1日から一部の非鉄金属製品の輸出税を10~15%に上げる政策を実施している。
5. わが国の課題
資源確保をめぐっては、中国の原料輸入が急増し、鉱石確保におけるわが国企業との競合が激化している。少なくとも、わが国需要家の原料市場での優位性が相対的に低下することは否定できない。その結果、わが国非鉄企業や商社による海外資源開発もマイナー・シェアーからマジョリテイ・シェアへの展開、さらには資本参加から探鉱開発、しかもグラスルーツを中心とした初期探鉱開発案件からの参加という上流部門への進出が加速される可能性もある。わが国非鉄大手7社は、銅生産企業4社(住友・日鉱・日鉄・三菱)と亜鉛企業3社(三井・同和・東邦亜鉛)に大別される。各社とも、収益増で総じて探鉱開発投資に意欲的である。
2006年におけるわが国企業の動きとして、3月19日に三井金属によるペルーのパルカ鉱山の開山式が執り行われた。パルカ鉱山の権益は三井金属が100%所有しており、鉱量は約3百万t(亜鉛12%、鉛1%)で、生産規模は16千t/年である。開発投資案件として、2006年3月、PPC社はカナダのRegalito Copper社を1.37億$で買収し、チリのレガリト鉱山を確保することになった。住友商事は、2006年9月26日、ボリビアのサン・クリストバル鉱山の権益35%を260億円で確保した。
経済産業省としては、5月31日に公表したエネルギー安全保障を核とした「新国家エネルギー戦略」中に、総合資源確保戦略として取組むべきテーマとして、石油戦略に加えて「レアメタルなどの鉱物資源についても、海外における資源開発、供給源の多様化等の施策を、政府及び関係機関一体となって戦略的・総合的に推進する」と明記した。さらに、資源エネルギー庁長官の私的研究会として設置された「資源戦略研究会」において、問題意識を共有した上で、鉱物資源の安定供給確保について、より具体的なアプローチを提言するものとして、6月に公表された。
図 金属価格の高騰(2003年5月~2006年10月)
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図 主要非鉄メジャーにおける当期利益の推移(2003年~2006年)
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