報告書&レポート
鉱山における水利用と水処理について-セミナー報告「Water in Mining 2006」-
11月14日~16日の3日間、ブリスベン市内でAusIMM(大洋州採鉱冶金学会)主催による鉱業活動に必要な水資源の確保と鉱業活動で発生する廃水の処理及び再利用などをテーマとしたセミナー「Water in Mining 2006」が開催された。 本稿は、この「Mining and Water 2006」の概要を報告するものである。 |
1. はじめに -「Water in Mining 2006」の概要-
「Water in Mining 2006」は、環境問題を含む水資源への関心の高まりに加え、世界的な資源ブームによって鉱業分野における水資源確保の重要性など「水の価値」がこれまで以上に重要なものとして再認識されるなかで2003年(於ブリスベン)に次いで、2回目の開催となったものである。
今回は、国際会議として位置づけられ、オーストラリア国内のほか、南アフリカ、英国、ニュージーランドなどから、Rio Tinto社、BHP Billiton社、Anglo American 社、Xstrata社などの大手鉱山会社、環境・水処理関係コンサルタント及びエンジニアリング会社などから約200名が参加、展示ブースは16件、講演は50件以上に達した。
講演テーマは、再利用を含めた水の有効利用、水利用に関する政策・企業方針等のポリシー、水処理・水収支・水質シミュレーション技術など、オーストラリア国内だけではなく、近隣のニュージーランド、鉱業国であり気候面等でオーストラリアと類似点の多い南アフリカ、英国などに関する事例等が発表された。
2. 鉱山と水利用の現状
(1) オーストラリア*1
半乾燥地域の多いオーストラリアでは、水へのアクセス、水供給の確保、コスト上昇が大きな問題となっている。鉱業で消費する水は国内全消費量の2%弱(図-1)に過ぎないが、水利用に関しては淡水あるいは清水の利用を抑え、水の再利用、消費量の削減が求められている。
鉱業では、選鉱及び製錬工程での水消費が大きな割合を占め、特に磨鉱、浮選、重力分離、湿式冶金工程での消費が多い。これら水消費に関して採掘から製品に至るまででどの程度の水消費があるのかを見積もる研究(Life cycle assessment:LCA)(図-2)や、リサイクルによる水の再利用(主要鉱山会社の水のリサイクル率に関しては、Newmont Australia社が44%(2002年)、Rio Tinto社が全世界が22%(2002年)、Newcrest社のCadia Hill銅・金鉱山(ニューサウスウェルズ州)が80%(2002年)との報告例がある)、更には、水を使用しない鉱石処理方法(Dry Processing)の研究も行われている(水を使用しないことで水消費は抑えられるが、粉塵やエネルギーコストの増加を招くなど解決すべき課題は多い)。
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図-1 オーストラリア及び南アフリカの水消費量に占める鉱業の割合
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図-2 オーストラリア鉱業における鉱種別の水消費量
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出典 | T. E. Norgate and R. R. Lovel, Sustainable Water Use in Minerals and Metals Production (“Water in Mining 2006” Brisbane, QLD, 14-16 November, 2006) |
(2) 南アフリカ*2
政治的、社会的な変革を経て南アフリカの水資源利用に関する法規制も総合的な水利用を基調とするものとなっている(表-1)。南アフリカの国土は半乾燥地帯から比較的雨の多い地域からなり、降水量は年間150mm~1,200mmで、水は鉱業のみならず、他産業や地域社会にとっても重要となっている。鉱業分野での水消費量は全消費量の2.6%と大きな割合ではないが、鉱山が立地する地域では大きな割合を占めている。南アフリカの鉱業は、150年以上の歴史を有し、59鉱種993鉱山(金鉱山49、白金族鉱山28、石炭鉱山64、ダイヤモンド鉱山145など)が操業し(2005年)、売上げ1,252億ランド、輸出額の28.7%、労働人口の2.95%を占める基幹産業であり、従来、水資源を低コストで優先的に使用してきが、新たな水に関する法規制・政策では他産業や地域との調整を求められている。
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出典: | A. M. van Niekerk, A. Wurster and D. Cohen, Technology Advances in Mine Water Treatment in Southern Africa Over 20 Years (“Water in Mining 2006” Brisbane, QLD, 14-16 November, 2006)をもとに作成 |
3. 水処理技術 -南アフリカにおける水処理技術の20年-*3
南アフリカでは、酸性坑廃水の中和、(重)金属除去、脱塩(Desalination)、自然利用した処理(Passive treatment)などを中心に水処理技術の開発・改良が行われている(表-2)。
(1) 石灰岩を用いた新中和プロセス(「The Integrated limestone/lime neutralization process」)
酸性坑廃水処理の中心は生石灰(Lime)を用いた殿物繰り返し中和沈殿法(High Density Sludge: HDS)(図-3)であるが、近年、中和剤に石灰石(Limestone)を用いたプロセスが増えている。それは、生石灰コストが180~220A$/t Ca(OH)2で中和処理コストが156~190A$/t CaCO3 acidity*であるのに対して、石灰岩コストは25~35A$/tで中和処理コストは74~103$/t CaCO3 acidity**とコスト面で大きな優位性によるものである。南アフリカ科学技術研究協会(The Council for Scientific and Industrial Research、以下CSIR)は 石灰石と生石灰を用いた新しい中和処理プロセス***(図-4)を開発している。
* 生石灰の純度95%、中和処理効率90%の場合
** 石灰岩の純度85%、中和処理効率80%の場合
*** 石灰岩と生石灰を用いたい中和プロセス(二段階中和)で、石灰岩と酸性坑廃水との反応で発生する炭酸ガス(CO2)は方解石(CaCO3)として回収再利用される。
(2) 硫酸イオン除去プロセス(Desalination process)
酸性坑廃水は硫酸イオン(SO42-)を多く含み石膏となって水処理施設に付着し、処理効率を下げる原因となる。CSIRは、Ⅰ.金属或いは中和殿物として生成される金属の水酸化物を用いて硫化物として沈殿、Ⅱ.酸化反応槽での硫化物の酸化によって一部を硫黄として回収、Ⅲ.H2Sガス除去と硫黄スラッジ生成などを含む生物活動を用いた硫酸イオン除去プロセスの研究開発に取組んでいる(図-5)。
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図-3 南アフリカにおける水処理技術の例1 -殿物繰返し法(従来法)-
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出典: | A. M. van Niekerk, A. Wurster and D. Cohen, Technology Advances in Mine Water Treatment in Southern Africa Over 20 Years (“Water in Mining 2006” Brisbane, QLD, 14-16 November, 2006)を元に作成 |
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図-4 南アフリカにおける水処理技術の例2 -統合型水処理法(2段階中和法)-
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出典: | A. M. van Niekerk, A. Wurster and D. Cohen, Technology Advances in Mine Water Treatment in Southern Africa Over 20 Years (“Water in Mining 2006” Brisbane, QLD, 14-16 November, 2006) を元に作成 |
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図-5 南アフリカにおけるバクテリアを用いた水処理技術の例 -硫酸還元菌-
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出典: | A. M. van Niekerk, A. Wurster and D. Cohen, Technology Advances in Mine Water Treatment in Southern Africa Over 20 Years (“Water in Mining 2006” Brisbane, QLD, 14-16 November, 2006)を元に作成 |
4. 閉山後の坑廃水発生とその防止対策 -英国における非鉄金属休廃止鉱山対策とその効果-*4
(1) 休廃止鉱山対策の枠組み
英国の鉱山の歴史は青銅期時代にまで遡るが、殆んどの鉱山は19世紀、20世紀のうちに採掘を終えたが、過去に十分な修復工事を行われず、多くの鉱山跡で鉱害が発生し、1970年代頃から1990年代にかけて修復工事が行われている(図-6)。
閉山後の環境修復工事は汚染原因者である鉱山会社が行うものであるが、閉山後長い年月を経た鉱山では既に責任を負うべき鉱山会社が存在せず、鉱山跡地は未利用のまま放置されたり、一部、農業用地として利用されている場合がある。このような場合、現在の土地所有者がその土地から発生する廃水の対策義務を負うことになっていたが(Water Act of 1998)、既に土地所有者が破産しているなど対策が実行されない場合が多く、このような鉱山跡の修復工事は公的資金により行われることとなった。当初はDerelict Land Act(義務者不存在土地法)によって、地方公共団体或は民間団体により基金(fund)が拠出され対策に充てられた。近年では環境庁(Environment Agency)からの資金により閉山後の鉱山からの坑廃水を中心に対策が講じられている(表-3)。
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図-6 英国における非鉄金属鉱山地域の分布
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出典: | J. P. Palmer, Dealing with Water Issues in Abandoned Metalliferous Mine Reclamation in the United Kingdom (“Water in Mining 2006” Brisbane, QLD, 14-16 November, 2006) |
(2) 休廃止鉱山対策の効果
1970年代の鉱害防止対策の例として、Wales地方のParc鉱山(安定堆積・植栽等)、Cwmsymlog鉱山(覆土・植栽)がある。1980~90年代には坑廃水等による河川及び地下水汚染の防止が中心的な課題となった。鉱害防止対策の例として、Wales地方のCwmerfyn and Bwlch鉱山(覆土・植栽、地表水の分離)、Minera鉱山(粘土・ポリエチレン膜による雨水浸透防止)、Y Fan鉱山(地表水と坑廃水の分離、覆土等)がある(表-4)。
これらの鉱害防止対策に対して、土地整形・覆土・植栽工事により鉱山廃さいの流出・飛散防止・植生回復等の効果は得られ短期的な目標は達成されたと評価されているが、長期的な安定性や、植生による安定性の効果は根が張っている深さまでであること、動物が植物を餌として食べることで植生が損なわれることによる土地の再侵食などの問題点も指摘されている。また、覆土・植栽だけで重金属の除去が行われていない場合には、長期間における重金属物質の移動・拡散に関する追跡調査も必要との意見もある。
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出典: | J. P. Palmer, Dealing with Water Issues in Abandoned Metalliferous Mine Reclamation in the United Kingdom (“Water in Mining 2006” Brisbane, QLD, 14-16 November, 2006) |
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出典: | J. P. Palmer, Dealing with Water Issues in Abandoned Metalliferous Mine Reclamation in the United Kingdom (“Water in Mining 2006” Brisbane, QLD, 14-16 November, 2006)を元に作成 |
5. おわりに
鉱山と水との関係は、水不足から鉱業用の水の確保が最大の課題であるオーストラリア、我が国と同じように国内鉱山が殆ど閉山し、その後に残された義務者不存在鉱山の廃さいや坑廃水処理の問題に対処してきた経験をEU圏などの鉱山開発に活そうとする英国、オーストラリアと同様に他産業・地域の水利用との間での鉱業用水の調整・確保と坑廃水処理の双方が課題となっている南アフリカと、それぞれのおかれている状況は異なるが、鉱業の様々な段階で水の重要性が増してきている。
また、閉山後の水処理に関する各国の制度や企業方針、水処理技術の動向は、我が国にとっても、世界における日本の鉱廃水処理の位置付けを考えるうえで、また、日本の鉱廃水処理技術や鉱廃水処理制度の経験を今後このよう問題が起こる可能性のある国や地域で活かし、我が国が鉱業分野での国際貢献とその地位の向上を図るうえでも注視していく必要があろう。
参考文献
*1 T. E. Norgate and R. R. Lovel, Sustainable Water Use in Minerals and Metals Production (“Water in Mining 2006” Brisbane, QLD, 14-16 November, 2006)
*2 D. A. Salmon, Valuing Mine Water – A South African Perspective (“Water in Mining 2006” Brisbane, QLD, 14-16 November, 2006)
*3 A. M. van Niekerk, A. Wurster and D. Cohen, Technology Advances in Mine Water Treatment in Southern Africa Over 20 Years (“Water in Mining 2006” Brisbane, QLD, 14-16 November, 2006)
*4 J. P. Palmer, Dealing with Water Issues in Abandoned Metalliferous Mine Reclamation in the United Kingdom (“Water in Mining 2006” Brisbane, QLD, 14-16 November, 2006)
