報告書&レポート
第9回EHSセミナー参加報告及び関連規制の動向
| 2006年10月17~18日にわたり、欧州非鉄金属ロビー団体のEurometauxが、「EHS セミナー」を開催した。同セミナーは、2006年で第9回目を迎え、欧州における金属・鉱山事業に影響を与える環境及び保安に関する規制について、欧州委員会からの報告や、欧州の非鉄金属企業からの講演、パネルディスカッション等を通じて、今後の欧州非鉄金属産業界が取り組むべき課題等を議論をする場である。今回は、Eurometauxの会員企業(Johnson Matthey社、Inco Europe社、Umicore社、NA Recycling社、Boliden社、Outokumpu社、KGHM社、BMW AG社、Britannia Refined Metals社等)や、金属関連協会(国際亜鉛協会 – IZA、国際金属・鉱業評議会 – ICMM、コバルト開発協会 – CDI、国際鉛開発協会 – LDAI、欧州化学工業連盟 – Cefic、欧州銅協会 – European Copper Institute、国際リサイクリング協会 – BIR等)、政府機関(欧州委員会、ドイツ経済省、INSG)から、総勢100人が集まったイベントとなった。今年は、欧州非鉄金属産業における原料調達難や業界の懸念が高まっているREACH規制の動向及び同規制導入に向けての業界の対応動向に焦点を当てたセミナーであった。本稿では、Eurometauxが、現在最優先プロジェクトとして対応しているREACH規制及び廃棄・リサイクルに関する規制の動向について報告する。 |
1. EU新化学物質規制REACHに関する講演
講演(1)『REACH update & implementation activities』
Thomas Jostmann博士、Cefic(欧州化学品連盟)
REACH施行後に企業が負う義務の内容や登録義務の導入期限について説明がなされたほか、CeficがREACH導入にさきがけて設立した、「REACHCentrum」サービス(REACH規制対応支援サービス)の進捗状況についても説明があった。概要は以下のとおり。
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企業が負う最大の義務は、物質のリスク評価(製品を市場に出す企業自らがその安全性を証明する義務)であり、従来の規制のように規制当局が行うのではなく、物質を取り扱う事業者(登録者)が行うこととなる。業界全体で、非常に時間が切迫しているということを認識し、対応すべき。 | |
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非鉄金属業界にとって最も影響が懸念されているのは「認可」の受ける義務であり、事業活動への大きな障害となることが予想される。このためCeficは、企業に対してREACH規制対応を支援する独立サービスである「REACHCentrum」を昨年設置した。これは、無料または有料のREACH専門コンサルタント事業であり、非メンバー企業も利用可能である。「REACHCentrum」の業務内容は以下のとおり。 Ⅰ.電話によるREACH準備についてのアドバイスヘルプデスク Ⅱ.REACH法案に関する質問への対応(現在の審議状況、解説等) Ⅲ.業界コンソーシアムの管理、企業連携促進 Ⅳ.個別企業ごとのテイラーメイド的サービスの提供 Ⅴ.登録サービス、認可登録手続サービス、データ管理サービス |
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(参考サイト:www.reachcentrum.org/)
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講演(2)『REACh-Net a help for REACH actors』
Hanny Nover女史、ドイツ・北ライン西ファーレン州経済エネルギー省
古くから石炭、鉄産業と重工業で発展したドイツ北ライン西ファーレン州の経済エネルギー省より、現在開発中のREACHに関するITツール「REACh-Net」が紹介された。概要は以下のとおり。
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ドイツ連邦北ライン・西ファーレン州は、ドイツで最大の人口を抱える州で、非鉄金属精錬プラント、化学品、自動車、製紙、食品産業等の多くの製造産業の大手企業と中小企業が集積している。中小企業の数は約70万社で、同州の7割以上の雇用を創出し、47%の付加価値を産出している。 | |
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REACHの総合的情報提供サービスである「REACh-Net」は、既存のITシステムであるKomNet-Systemを拡張し、REACH規制に対応させたシステムである。同システムは、REACHに関する基本情報とその影響に関する情報を、企業に限らず、コミュニティーレベル(機関、地域、EU加盟国)に対し提供する非営利サービスプロバイダーとなる。 | |
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「REACh-Net」は、顧客向けのサービスであり、主に中小企業を対象として、次のようなサービスを提供するものである。 (1) REACh-Netのカスタマーサービスが企業からのREACH対応についての質問を受け付け (2) REACh-Netスタッフが解決法を検索 (3) 専門家を交えて解決方法を討議 (4) ハイレベルな解決策を企業に提供 |
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今後の予定としては、2007年3月まで試験的運用を実施する予定。将来的には、EU加盟国全域へのサービス提供を目標とし、英語によるサイトも検討中である。 | |
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(参考サイト:www.komnet.nrw.de、www.reach-net.com)
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講演(3)『REACH and GHS、the battle of the giants? 』
H.Waeterschoot氏、ENIA(欧州ニッケル産業協会)事務局長
欧州ではREACH導入に関連して、化学品をその有害性の種類と程度により分類する国際的な統一規則であるGHS(The Globally Harmonised System of Classification and Labelling of Chemicals:以下、GHS)の導入が検討されている。欧州委員会は、GHSをREACH規制と同じタイミングで施行したい意向であり、すでにGHS導入に向けたコンサルテーションを開始した(2006年10月21日に締め切られた。)。GHS導入の進捗状況は以下のとおり。
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GHS(分類・表示の統一)は、法的な拘束力はないものの、国連が2003年に文書を発行して以来、米国、日本、多数のアジア諸国、豪州、南アフリカ共和国、ロシア等で、導入済み、ないしは導入検討中であり、欧州もREACH法案と同じタイミングで導入、施行したい意向。 | |
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物質の情報が一目でわかるようなラベル表示や、安全データシートを要求するGHSの導入は必須である。GHSが、REACHの一部を構成することにより、REACH規制の対象であるCMR物質(発ガン性・変異原生・生殖毒性を有する物質)などの判別が可能となり、「認可(Authorisation)」の要否も判断できるようになる。 | |
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2007年4月より、EU-GHSが導入される見通しであるが、REACHによる登録の義務と同じタイムラインで、4~5年の準備期間が設けられる予定である。 | |
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EUでは、GHSの早期導入を見込んだプログラムとして、他国のGHSの金属に関連する部分について、EU案との比較を行った後、金属、金属化合物、鉱物資源(精鉱等)や廃棄物におけるガイダンスの作成を2006年内に終了させ、2007年には、研修マニュアルの作成を予定している。 |
2. 廃棄及びリサイクルに関する欧州規制の状況
欧州委員会環境総局(DG Environment)から、廃棄物枠組指令の見直しについての報告と業界団体であるBIR(国際リサイクリング協会)から、欧州の廃棄物輸送指令(Waste Shipment Directive)の見直しについての報告がなされた。概要は以下のとおり。
(1) 廃棄物枠組指令の見直しについて
EU域内で発生する一般廃棄物量は、加盟国が増加するにつれ、域内の経済成長を上回る勢いで増加しており、これを受け、欧州における現行の廃棄物枠組指令(75/442/EEC)の改正作業が進められている。既存の指令と改正案が求める内容との大きな相違点は、リサイクル政策の観点からその促進を一層図るために、これまでの自動車、電子電気機器といった製品別(WEEE指令 – 廃電子・電気機器リサイクル指令やELV指令 – 廃自動車指令)のアプローチではなく、「素材」をベースとして、紙、鉄、非鉄金属など素材別にリサイクル率を設定して、包括的に対応することにより循環型の社会を目指すという考え方である。今後は、欧州理事会にて審議がおこなわれ、2008年には最終合意に達する見込みである。主な改正点は以下の通りである。
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資源の有効利用を廃棄物政策の重点に据え、かつ、包括的製品政策との整合性を取るために製品のライフサイクルの視点を導入 | |
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国別廃棄物発生抑制プログラムの作成を義務付け | |
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リサイクル市場の改善のため、廃棄物やリサイクルの概念や定義(回収、廃棄の区別)を明確化、規定の合理化 | |
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有害廃棄物に関する指令(91/689/EEC)及び廃油指令を、同枠組指令に統合し、欧州における廃棄物法令を簡素化 |
(2) EU廃棄物輸送指令の見直しについて
このほど、EC官報にてEU廃棄物輸送指令(Waste Shipment Directive(EEC 259/93))の改定における案が公開された。改正案の内容は、国境を越える輸送に係るライセンスの取得義務付け、開発途上国への有害廃棄物運輸の禁止、EU加盟国による報告の義務付け、廃棄物の種類(有害廃棄物、非有害廃棄物等)、処理法(処分または、リサイクルの対象となるのか)に係る規定の改正等からなる廃棄物輸送に係る規制の強化である。これに対し、国際リサイクル協会(BIR)及び欧州金属貿易・リサイクル連合(EUROMETREC)は、同指令改正案は、欧州域内における非鉄金属リサイクルの促進とリサイクル業に悪影響を及ぼすと見ている。同指令の見直しに対するリサイクル業界の懸念として、以下の点が指摘された。
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産業界は、指令改定を歓迎する一方で、産業界へのインパクトは深刻で、二次原料(secondary materials)の国家間での自由な流通に障害が生じる | |
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廃棄物の定義が不明確で、未加工な廃棄物(unprocessed waste materials)と加工済みの二次原料(スクラップ等)の区別が明確でないこと、また、廃棄物の情報の公開の義務は企業間の競争環境にゆがみを生じさせるおそれがあり、非鉄金属産業に大きな影響を与える懸念がある |
なお、本改正案は、2006年内には最終採択を見込んでおり、施行は2007年7月を予定としている。
3. 欧州新化学物質規制REACHについての最近の動き
REACH、EU閣僚議会において最終承認される:
欧州議会において可決された妥協案を、2006年12月18日、閣僚理事会及び欧州議会が最終的に承認をした。REACHは、2003年10月の欧州委員会による同規制案採択以降、前例を見ない産業界からの激しいロビー活動の下、3年間にわたって協議が行われてきた。今秋に開始された第二読会以降は、最大の論点であった「認可」義務における代替物質の取り扱い(代替原則)について、閣僚理事会と欧州議会の間で調整が行われてきた。
代替物質原則に関する合意:
11月末には、欧州理事会と欧州議会で意見が分かれていた、認可対象物質の代替措置に関して協議が行われ、高懸念物質(very high concern substances)の製造者は、認可申請時に代替計画の提出、または、代替物質が存在しない場合は、それらを見つけるための研究に関する計画書提出を義務付けることで合意に達した。これに対し、産業界は12月6日付けで、合意された代替原則についての懸念をジョイントプレスリリースという形で表明した。具体的には、UNICE(欧州産業連盟)、Eurometaux(非鉄金属協会)、Cefic(欧州化学工業連盟)及びOrgalime(欧州技術産業協会)が共同で、合意された代替原則は、業界にとって更なるコスト負担となり欧州における製造産業の発展に大きな障害が生じうること、サプライチェーンに大きな影響を与えうること等を表明している。
4. 展望
欧州の非鉄金属業界は既にREACHへの対応準備に取り組んでいるところであるが、非鉄金属業界においては、以下の点が問題となっている。
| Ⅰ. | 「廃棄物」は同規制の対象から除外されたが、二次原料(スクラップ等)についは「廃棄物」と見なされず、REACHの対象となっていること。 | |
| Ⅱ. | 鉱石及び精鉱は、「認可」義務の対象となっていること。 | |
| Ⅲ. | 「登録」期限について、非鉄金属業界に与えられている猶予期間が短いこと。 |
REACHにおける登録期限は、物質によっては最長REACH施行後11年とされているが、年間生産量1,000t以上の物質等の登録期限は施行後3年とされている。生産、輸入の量の大きい金属は概ねこれに該当する。これは極めて厳しい猶予期間であり、非鉄金属業界は、欧州内外の大企業・中小企業も交え、連携して、REACHに向けて準備することが重要であるとEurometauxは強調している。2007年6月にREACHが施行されるとすれば、登録に関するタイムラインは以下のとおりである。
| 2007年6月 | REACH施行 | |
| 2008年11月 | 高生産量化学物質及び最も有害とされる化学物質の予備登録終了 → 金属の製造者ないし輸入者は、物質に関する情報を提出。 |
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| 2008年6月 | 欧州化学物質庁(European Chemical Agency)が稼働開始 | |
| 2010年 | 年間生産・輸入量が1000t以上の物質および100t以下のCMR(発がん性、変異原生、生殖・発生毒性)カテゴリー1・2物質の登録終了 | |
| 2013年 | 100t以上の物質登録終了 | |
| 2018年 | 1t ‐ 100tの物質登録終了 |
Euromeatuxは、REACHは元来、有機化学物質を対象に策定された規制であり、金属を念頭においたものではないことから、金属についての同規制の実効性(ワーカビリティ)に疑問と主張している。また、「廃棄物」はREACHのスコープから対象外となったが、スクラップのような二次原料について「廃棄物」の定義がはっきりしてない点(グレイエリア)が、残された課題であり、欧州における原料の調達事情やリサイクル業界に将来障害が生じないよう、「廃棄物」の定義の更なる明確化と改善が必要であるとも述べている。
しかしながら、欧州の非鉄金属業界は以前からREACH導入技術的手引となるRIP(Reach Implementation Program)に取り組んできており、REACH導入の準備は相当程度整っていると見え、基本的にREACHに前向きになっている。今後はREACH実践における産業界の取り組みが注目される。


