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パナマ・ペタキージャプロジェクトの現況
パナマの鉱業は低調であり、1999年にSanta Rosa鉱山(98年の金生産量1.5t)が操業を停止して以来、非鉄金属鉱物資源の生産は報告されていない。しかしながら、同国は世界でも有数の大規模未開発銅プロジェクトであるペタキージャ(Petaquilla)プロジェクト及びセロ・コロラド(Cerro Colorado)プロジェクトを有する。両プロジェクトとも鉱山開発に向けた探査活動を継続中であり、これらの開発動向は今後の世界の銅需給に少なからぬ影響を与えるものと思われる。 今般、ペタキージャプロジェクトの探鉱事務所を訪問する機会を得たので、同プロジェクトの現況について紹介する。 |
1. ペタキージャプロジェクトの経緯
(1) 鉱床の発見~日本企業による探鉱(1960年代~70年代)
ペタキージャ及びその周辺の鉱床は、1965年~68年に実施された国連(UNDP)とパナマ政府の共同探鉱プロジェクトによって発見された。
パナマ政府が1969年に行った国際入札によって権益を獲得した日本企業3社がパナマ鉱物資源開発㈱を設立し、1973~76年にかけて地質調査、地化学探査、ボーリング調査等を実施した。また、JICA/MMAJによるインフラ整備計画調査も実施された。1977年にパナマ鉱物資源開発㈱はプレF/Sを実施したが、国際銅価格の低迷等により、パナマ政府との開発採掘契約の締結には至らなかった。
(2) パナマ資本及びカナダ企業による探鉱(1980年代~1990年代前半)
1986年にパナマ人資本家がペタキージャ鉱区の権益を取得し、GeoHoldinngs社(GoldHoldings Corporation)を設立した。1990年にGeoHolding社は権益の80%をカナダのMinnova社(Minnova Inc.:1993年にMetal Mining Corporationに、1995年にInmet Mining Corporationに社名変更)に譲渡し、同社がペタキージャ鉱区の探査を開始した。
1992年にMinnova社はカナダのAdrian社(Adrian Resources Ltd.:2004年にPetaquilla Minerals Ltd.に社名変更)に自社権益の40%(全体の32%)を譲渡した。Adrian社はBotija abajo、Vega地区においてボーリング調査を開始した。1993年にGeoHoldinngs社は残りの自社権益(全体の20%)をAdrian社に譲渡すると共に、社名をMinAmerica Corporationに変更、Adrian社株式の17.71%を取得した。
(3) カナダ企業による探鉱(1990年代後半)
カナダのTech社(Tech Corporation:現Tech Cominco Ltd.)は、Adrian社の権益の1/2を鉱山開発決定時に獲得できるオプション契約を結び、1996~98年にペタキージャプロジェクトのF/Sを実施した。この間、Adrian社、Inmet社及びTech社のJ/V(パナマ現地法人)であるMinera Petaquilla社(Minera Petaquilla S. A.)は1997 年2月にパナマ政府とペタキージャ鉱区の探鉱・開発契約(Asamblea Legislativa Ley No. 9)を締結し、1999年には積出港用地の買収も行っている。しかしながら、90年代後半の銅価格低迷のため、鉱山開発決定には至らなかった。
(4) 最近の動向
2005年9月にパナマ政府がペタキージャ鉱区の段階的開発計画を承認したことを受け、ペタキージャ鉱区内に位置するMolejon金鉱床の開発が銅鉱床の開発とは切り離される形で開始された。また、2006年4月には近年の銅価格高騰を背景に、1998年に完了したF/Sの見直しを行うことが発表された。
2. ペタキージャプロジェクトの概要
(1) 位置
ペタキージャプロジェクトは、首都パナマシティの西方約150km、コロン県(Provincia de Colon)ドノソ区(Distrito de Donoso)に位置する。
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図1 ペタキージャプロジェクト位置図
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(出典:Petaquilla Minerals社HP)
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(2) 地質・鉱床概要
地質は主として中新世の安山岩溶岩及び少量の同質火砕岩と漸新世の花崗閃緑岩(28~36Ma)から成る。鉱床は花崗閃緑岩バソリスの南端に位置し、高品位部はカリ変質帯中にある。ペタキージャ鉱区内には10以上の鉱化帯が知られているが、探鉱が進んでいるのはPetaquilla、Botija、Valle Grande鉱床等である。
1998年にTech社の主導の下にAMEC Engineering社が行ったF/Sの結果によると、ペタキージャプロジェクトの埋蔵鉱量(Petaquilla、Botija、Valle Grande鉱床の合計)は11.15億t、品位はCu 0.50%、Au 0.09g/t、MoSO2 0.015%と見積もられている。また、1996年にFlor Daniel Wright社が行った鉱床評価の結果は表1のとおりである。
表1 Flor Daniel Wright社による鉱床評価(1996年) |
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(出典:Petaquilla Minerals社HP)
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図2 ペタキージャプロジェクト鉱床分布図
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(出典:Petaquilla Minerals社HP)
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3. ペタキージャプロジェクトの現況
(1) プロジェクトの実施体制
ペタキージャプロジェクトでは、現在、Molejon金鉱床の開発と1998年にAMEC Engineering社が行った銅鉱床開発に関するF/S結果の見直しを行っている。これら二つの事業を効率的に実施するため、本プロジェクトの権益保有3社は2005年6月にMolejon金鉱床に関する権益を全てPetaquilla Minerals社に移すことで合意した。その後、2006年6月の株主総会でPetaquilla Minerals社から銅プロジェクト部門を分離独立し(Petaquilla Copper Ltd.の設立)、同社は金鉱床の開発に専念することが承認された。
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図3 ペタキージャプロジェクト実施体制
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(2) Molejon金プロジェクト
先に述べたとおり、本プロジェクトの開発計画は2005年9月にパナマ政府の承認を得た。現在、鉱床までのアクセスロード(延長10km)、キャンプサイト及び発電設備の建設を完了しており、全ての鉱山設備が完工するのは2007年4月の予定である。
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図4 Molejon鉱床ピット予定地
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図5 Molejon鉱床の鉱石サンプル
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Molejon鉱床はMain Zone、Central Zone、Northwest Zoneの3つの部分に分けられ、2005年10月に見直された最新の鉱床評価による金の埋蔵量(カットオフ品位:0.5g/t)は、893,000oz(27.8t)である。また、本鉱床の周辺にはMestizo、Mestizo East、Botija Abajoの3つの金鉱化帯が確認されており、将来の探鉱ターゲットとなっている。
表2 Molejon鉱床の埋蔵量
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(出典:Petaquilla Minerals社HP)
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図6 Molejon鉱床周辺金品位図
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(出典:Petaquilla Minerals社HP)
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開発計画による初期投資額は約21百万US$、年間採掘量は600,000t、10年の鉱山寿命を予定している。金価格は400US$/ozを想定しており、内部収益率(IRR)は35%と見積もられている。金の回収はCIP法(Carbon-in-Pulp)で行う予定である。
(3) 銅鉱床の開発
現在、1998年に実施されたPetaquilla、Bodija、及びValle Grande鉱床の開発に関するF/Sの見直しを行っている。過去に行われたF/Sでは、これら3鉱床の上部に位置する酸化帯は銅資源と見なされていなかったが、最近実施した地化学探査の結果からPetaquillaとBotijaを合わせた酸化帯の鉱量は95百万t程度に達すると考えられる。また、過去のボーリング調査では、地下深部の鉱化の状況が明らかにされていない。このため、酸化帯を含めたこれら3鉱床の埋蔵量確認のため、合計70,000mのボーリング調査を行う計画である。
現在実施しているF/Sでは埋蔵量の再評価と共に、ピットデザインの最適化、鉱石処理量の検討(40,000~120,000t/日の範囲)、電力供給方法の検討(発電所の建設と買電との比較)、積出港建設の代替案の検討(既存の港へ精鉱をトラック輸送)等を行っている。
本プロジェクトでは、銅価格=1.20US$/lbの想定の下、初期投資の回収期間=3年、内部収益率(IRR)=24%、鉱山寿命=30年、を開発決定の目標としている。
4. おわりに
発見以来40年以上の年月を経て、一部の金鉱床に限定されているとはいえ、ペタキージャプロジェクトが生産を開始する運びとなった。本命の銅鉱山開発のためには、電力供給、精鉱輸送路の整備、積出港の決定等、解決すべき問題が山積しているが、現地では開発に向けて精力的に調査が行われている様子が窺われた。
パナマは、ペタキージャ以上の資源ポテンシャルを持つと考えられるセロ・コロラドプロジェクト、現在までの調査で1億t程度の埋蔵量が推定されているチョルチャ(Chorcha)銅プロジェクトを有する。ペタキージャで銅生産が開始されることとなれば、他のプロジェクトにも弾みがつき、同国が銅供給源として脚光を浴びる可能性もないとは言えない。
詳細は明らかにされなかったが、中国企業がペタキージャプロジェクトのF/Sへの参加を検討しているとの話を現地で耳にした。我国としても、パナマを将来の有力な銅供給源の一つと考え、同国の銅プロジェクトの進捗状況を注意深く見守る必要がある。
