報告書&レポート
カナダ・ブリティッシュ・コロンビア州の斑岩銅資源操業鉱山と探鉱開発プロジェクトの概観
カナダ・ブリティッシュ・コロンビア州(BC州)政府は2001年の政権交代以後、鉱業再生のための対策を矢継ぎ早に講じてきている。2005年1月にはBC Mining Planなる総合政策パッケージを打ち出し、国際的な競争力をもつ資源州たることを目標に鉱業の再生に取り組んでいる。こうした州政府による資源投資環境の整備、また近年の資源価格の高騰により探鉱開発各社に豊富な資金が還流したこともあり、2006年にBC州全体に投じられた探鉱資金は前年を20%上回る2億6,500万C$と過去最高の水準を示すなど、顕著な活況を呈している。 BC州鉱山省・鉱物資源グループは2007年2月22日にJOGMECバンクーバー事務所および日系企業5社を対象に成果報告会を開催し、BC州稼行鉱山の現況、2006年の主な探鉱成果、州政府の取り組み、今後の見通しについて紹介があった。また引き続きBC州鉱山大臣 との懇親の機会も提供されるなど日本グループに対し積極的なアピールが行なわれた。2006年来、BC州並びにカナダ連邦は、アジア向け投資機会の提供・広報に力を入れているところであり、今回の報告会の開催もこうしたプロモーションの一環と窺われる。 本稿ではこの報告会の内容を踏まえつつ、とりわけ斑岩銅プロジェクトに焦点をあて、各鉱山・プロジェクトの現状と見通しについて紹介する。2005年4月のカレントトピックスにて同様の報告を行ったが、各鉱山の取り組み、また各プロジェクトの探鉱・開発ステージはこの2年の間に大きく「前進」しており、比較してご覧頂くと、この間の変化がよくお解り頂けると思われる。 |
1. 2006年のBC州への探鉱開発投資の概要
カナダ全体の探鉱開発企業の約60%はBC州に所在し、全カナダの約50%の探鉱資金が調達されているなど、BC州は世界で最も鉱業関係の専門家が集積する地域の一つになっている。このようなBC州における探鉱開発プロジェクトの特徴とは、各プロジェクトは多数の専門家により良く知られているという点、また経済性の上でマージナルなプロジェクトが多いという点にあると思われ、市況の高騰や投資環境の向上といった変化に鋭敏に反応して、具体的な投資が現れやすい傾向がある地域と見て取ることができる。
2006年にBC州に投下された年間探鉱投資額は7年連続で増加しており、とりわけ2004年以後顕著な増加を呈している(図1)。2006年にBC州内で行われた探鉱プロジェクト数は620件に達し、このうち探鉱費10万C$を越える主要プロジェクト数は前年比20%増の240件、また100万C$を越えるプロジェクトは前年比67%増の72件となった。また鉱床タイプ別では、斑岩型の50%を筆頭に、VMS型14%、鉱脈型12%が続いている。州内で申請・登録されている鉱区面積についても、インターネットを通じた鉱区取得を可能にしたことに伴い2005年から急増しており、2006年も前年比20%の増加をみせるなど高い水準を維持している。
2006年はBC州の鉱産物の生産額も増加した(図2)。2006年の内訳では、銅と石炭がそれぞれ生産額のほぼ1/3づつを占めており、モリブデン、金がこれらに次ぐ。BC州においては、とりわけ斑岩銅鉱床関連の鉱物資源が州の主要な生産額を担っていることが窺われる。
図1 ブリティッシュコロンビア州に投下された年間探鉱費の推移
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図2 ブリティッシュコロンビア州の鉱産物生産額の推移
(British Columbia Ministry of Energy and Mines , 2007bより転載) |
2. BC州の生産鉱山、探鉱開発プロジェクトの現状
BC州における斑岩銅資源の生産と探鉱開発の現状を概観するため、以下各鉱山およびプロジェクトを簡単に紹介する。なお文中の2006年の銅生産量、モリブデン生産量はいずれもBC州政府により2006年10月の時点で見積もられた予測値である。
(1) 稼行鉱山:2006年の生産量、新規投資など
Highland Valley Copper鉱山(HVC)(図3):
Teck Cominco社(97.5%)、Highmount Mining社(2.5%)が操業するBC州最大の操業中の銅山で、粗鉱処理量136,000t/日。2006年の産銅量は161,000t、モリブデン生産量は2,000tであった。2006年には4億C$を投じValleyピットの深部を開発し、マインライフを5年間延長、2013年までとすることを決定した。また2005年末からモリブデンに富むHighmonut Eastピットの生産を再開した。現在、更にマインライフを2019年まで延長するため、CESL Hydrometallurgical Smelterを山元に建設することが検討されている。
Huckleberry 鉱山(図3):
Imperial Metals社(50%)および三菱マテリアル(32%)、同和鉱業・古河機械金属・丸紅(各6%、計18%)ら日系コンソーシアムが操業中。粗鉱処理量21,000t/日にて2006年の産銅量は34,000t、モリブデン生産量は270tであった。2004年からの2か年の周辺探鉱を通じて現ピット北隣に1,740万tの新鉱量が把握され、今後の許認可取得に伴いピット拡張に着手する。これに伴いマインライフは2010年まで延長される見通し。
Kemess South鉱山(図3):
Northgate Minearals社(100%)により操業中。2006年の産銅量は36,000t、産金量は9.6tで、現在のBC州最大の産金鉱山である。現鉱量により2009年まで生産可能であるが、現在ピット東部の鉱化帯延長部を鉱量に加えるためのインフィル試錐と経済性評価が進められている。隣接のKemess North(埋蔵鉱量2億9,900万t、品位:銅0.16%、金0.3g/t)の開発如何によっては更に10年以上のマインライフの延長が可能になるが、西部に隣接するDuncan湖を尾鉱堆積場として埋め立てる計画が、環境影響評価をクリアする上での課題となっている。
Mount Polley鉱山(図3):
Imperial Metals社(100%)は、1997年から2001年まで稼行、その後休眠していた同鉱山につき、2003年から新たに周辺探鉱に着手した。この結果、新たに2鉱体を把握し埋蔵鉱量は4,070万t(品位:銅0.43%、金0.31%)に拡大、改めて経済性が見いだされ、同社は2005年から粗鉱処理量18,000t/日にて生産を再開した。2006年の産銅量は26,300t、産金量は1.22t。現在は北東部ピットからの硫化鉱生産に留まるが、2007年中には南東部に分布する酸化鉱20万tを処理するヒープリーチのテストプラントを立ち上げたいとしている。テストの結果が良ければ、南東部鉱体の酸化鉱約1,400万tにつき湿式処理による本格生産に移行したい考え。また2007年は新鉱量の獲得に向け、同社保有鉱区全域で計23,000mにおよぶ試錐が行われる計画である。
Gibrartar 鉱山(図3):
Taseko Mines社は、1972~99年まで操業した同鉱山の権益をBoliden社から1999年に獲得。休眠期間の後、Ledcor Mining社と共に2004年10月より操業を再開した。2006年の生産規模は粗鉱処理量32,000t/日、年間生産量は銅23,000t、モリブデン360t超である。最近の探鉱成果を踏まえ約40%の鉱量増加が発表され、現鉱量は2億3,200万t、品位は銅0.318%、モリブデン0.01%となった。これにより21年以上のマインライフが見込まれている。また2006年は6,200万C$を投じ、ミルの刷新、湿式鉱石処理施設の整備に着手した。精鉱生産についてはSAGミルの新設と浮選機の刷新により実収率を30%向上、また操業コスト10%のカットが期待されている(2008年初期の完了見込み)。また2007年末までには休止中のSX-EWプラントを調整し、再稼働させる計画で、年間3,170tのカソード銅生産が見込まれている。
(2) 開発準備中のプロジェクト
Galore Creekプロジェクト(図3):
Nova Gold社(100%)は、2006年10月に最終FSを完成。鉱量5億4,000万t(proven + probable)、品位:銅0.557%、金0.303g/t(カットオフ:銅換算品位0.25%)を報告した。初期資本投資約18億US$により、露天採掘鉱山、処理量65,000t/日の選鉱施設、関係インフラを整備する。マインライフは22年間で、当初5年間の平均年間生産量は地金ベースで、金10.6t、銀124.8t、銅19万5,000tとカナダでも最大規模の斑岩銅鉱山となる見通しである。2007年2月にはBC州の環境影響評価調査が完了したことから、同社は2007年央の建設着手を見込んでいる(完了までに約4年を要する)。Nova Gold社と先住民グループTahltan中央協議会は2006年2月に包括的な開発合意契約を締結、以後緊密な関係のもと許認可プロセスにあたってきた。本プロジェクトの州政府による環境認可は当初予想(2007年第2四半期)よりも早く得られたが、こうした先住民との協調関係が一連の手続きを促進したとみなされている。
Red Chrisプロジェクト(図3):
bc Metals社(100%)は、2004年11月にFSを完成、その後2005年8月にBC州環境影響評価事務所から開発承認が得られた。低品位貯鉱を除く鉱量は1億8,500万t、品位:銅0.414%、金0.32g/t。当初5年間は、粗鉱処理量30,000t/日にて、銅237,000t、金11.1tを含む精鉱を生産する。開発初期投資額は2億1,500万US$。マインライフは露天採掘17年、坑道採掘期間合算で25年を見込む。2006年10月には香港のGlobal International Jiangxi Copper Mining社を開発パートナーとすることを発表、Jiangxi社は開発費として1億500万US$を拠出し、プロジェクト権益の75%と産出物を市場価格で購入する権利を保有するとした。しかしその後、Taseko Mines社、およびImperial Metals社の両社がbc Metals社のTOBを発表、Jiangxi社との契約撤回も含め、Red Chrisプロジェクトおよびbc Metals社の行方は混沌としているところである。
New Aftonプロジェクト(図3):
New Gold社(100%; 2005年央にDRC Resources社から社名変更)は、鉱量枯渇のため1990年代に閉山した旧Afton露天採掘ピットの下部鉱床の開発を計画。現在はFS作成に注力しており、2007年3月末に完了する見通し。同社が発表する最新の資源量は6,500万t、品位:銅1.02%、金0.77g/t(カットオフコスト:操業コスト10C$/t)である。この資源量のうち約70%が鉱量(measured)に移行する見通し。想定される採掘はブロックケービング法坑内掘である。初期資本2億5,000万C$を投じ、粗鉱処理量11,000t/日、12年のマインライフの鉱山建設を見込む。環境影響評価の終了は2007年央、生産開始は2009年とそれぞれ見込まれている。なお2006年も探鉱が継続されたが、掘進幅112m間、銅1.7%、金1.47g/tの着鉱を得るなど、深部に新鉱化帯が捕捉された。
Mt. Milliganプロジェクト(図3):
元Placer Dome社役員が中心となり2006年に発足した新興ベンチャーTerrane Metals社(100%)が有するFS段階のプロジェクト。Placer Dome社はMt. Milligan権益を1990年に取得。その後FSを作成し、開発許可を取得したが、市況の低迷から長らく休眠していた。2005年には再度開発判断が行われたが、再び保留され、その後のPlacer社の買収により、Goldcorp社へと本プロジェクト権益は渡っていた。Terrain社は2006年7月に1億2,000万C$相当の自社株式と引き替えにGoldcorp社からこれを獲得、2006年中に再度環境影響評価プロセスに着手、また2007年末までにFSを完成させるとしている。直近の埋蔵鉱量は2億590万t、品位:銅0.247%、金0.6g/t。選鉱試験試料の取得と、資源量1,700万tの鉱量繰り入れを目的として現在8,200mの試錐が行われている。想定される生産規模は粗鉱処理量で5万t/日。2010年の生産開始が期待されている。
Schaft Creekプロジェクト(図3):
Copper Fox Metals社はTeck Cominco社が100%の権益を保有する同プロジェクトにつき2002年1月にオプション探鉱契約を締結した。契約は2011年末までに総額1,500万C$を投じ、ポジティブなFSを完成することにより、最大93.4%の権益が得られるという内容。過去計上された鉱量(measured + indicated)は6億2,600万t、品位は銅0.35%、モリブデン0.026%、金0.21g/t(カットオフ品位:銅換算0.3%)。2006年は9,008mの試錐が行われ、選鉱試験試料が採取された、また探鉱的には分析区間15.1m、平均金品位19.5g/tの新たな金富鉱部の着鉱が報じられた。2006年中に環境影響評価プロセスが申請されており、今後2008年中のFS完成、2011年の生産開始が期待されている。現在想定される生産規模は粗鉱処理量で6万5,000t/日、年間の生産量として、銅62,000t、金4.5tがそれぞれ見込まれる。
Prosperityプロジェクト(図3):
Taseko Mines社(100%)は1998年にいったん同プロジェクトのFSを行ったが、市況の低迷からこれ以上の投資を凍結。2005年に再開を決定し、同年11月から環境影響評価プロセスに着手すると共に、2006年はFSのアップデート、開発に向けた先住民団体との協議が行われた。1998年時点の鉱量(measured + indicated)は4億9,080万t、品位:銅0.22%、金0.42%。環境影響評価の終了時期として2007年春が見込まれている。現段階では開発初期投資額として7億5,600万C$、粗鉱処理量7万t/日、19年のマインライフが想定されており、2010年の生産開始が期待されている。
(3) 主要な探鉱プロジェクト
Lorraine (Jajay)プロジェクト(図3):
Teck Cominco社が2006年にEast Fieldグループ、Lysander社らが保有する同プロジェクトに参入し探鉱を行っている。契約は2010年までに900万C$を投じることによりTeck Cominco社は51%の権益を獲得、更にポジティブなFSを完成することにより権益は65%まで増加するという内容である。過去Kennecott社、Lysander社らが探鉱を行っており、1998年の時点で資源量3,200万t、品位:銅0.66%、金0.25g/tが計上されている。部分的に高品位を示すことが特徴で、Teck社は2007年に大規模な試錐を計画している。
Kerr-Sulphuretsプロジェクト(図3):
Seabridge Gold社は2006年9月、Falconbridge社が有する65%のオプション権を自社株式との交換により買い取り、100%の自社プロジェクトとして探鉱を再開した。過去Placer Dome社らにより計上された鉱量は、Kerr鉱床は鉱量1億4,100万t、品位は銅0.75%、金0.36g/t、隣接のSulphurets鉱床は鉱量5,480万t、金品位1.02g/tである。2006年は24孔、計9,100mの試錐が行われ、このうち未評価のMitchell Zoneで行われた15孔のうち、10孔は金0.8g/t、銅0.15%のほぼ均一な分析品位を示したという。プロジェクトは険しい氷河地帯に位置しているが、この15年の間に氷河の前縁は約1km後退し、また厚みも100m減少するなど地域の露出が進んでいる模様である。
Kinaskan/GJプロジェクト(図3):
Canadian Gold Hunter社(100%)は2004年から同プロジェクトの探鉱に着手、2006年末までに128孔、計37,100mの試錐を行った。この結果、過去Texas Gulf社、Amoco社らの探鉱により明らかになっていたDonnely Zoneの北部に新たな鉱体が捕捉され、鉱量が大きく拡大する見通しとなっている。2006年3月に報告された既存の数値は、鉱量(inferred)9,170万t、品位:銅0.373%、金0.381g/t、また推定鉱量(inferred)2,800万t、品位:銅0.354%、金0.369g/tであったが、2007年は新たな鉱量計算が行われるほか、環境ベースライン調査、プレFSの実施が計画されている。
Kuwanikaプロジェクト(図3):
Serengeti社により2006年に新発見された斑岩銅金鉱床である。K-06-09孔は分析区間111.13m、銅0.69%、金0.54g/tの平均分析品位を示した。同社は探鉱費として2007年2月に520万C$の資金調達をエクイティ・ファイナンスにより完了したところである。
図3 2006年のブリティッシュコロンビア州の斑岩型銅鉱山、主要探鉱開発プロジェクトの分布
(破線の部分はパインビートルによる森林被害がおよぶ範囲) (British Columbia Ministry of Energy and Mines 2007bを参照) |
3. おわりに
現在カナダ全土で52の鉱山プロジェクトが環境許認可の発行を待っているとされるが、BC州にはこのうち25のプロジェクトが集中している。BC州の探鉱開発各社は、環境影響評価プロセスや各種許認可を急ぐよう州および連邦に対し強く申し入れているところであり、ここ数年来の主張となっている。この点、最近、最大規模であるGalore Creekの開発について、州による環境影響評価調査が予想よりも早く終了したことは印象深い。これはBC州からの「大型斑岩型鉱床が開発可能な北米の州」という開発側に対するメッセージとも受けとめることができ、BC州政府の鉱業の再興にかける意気込みというものもまた感じ取れるのである。
探鉱投資に関して言えば、現状BC州の探鉱資金は休眠中の高ステージの既存案件に集中的に投じられており、2006年は総額の82%が高ステージへの支出に相当した模様である。しかしながら、今後こうした既存案件に対する投資が一巡すれば、次はグラスルーツの探鉱が増加すると言われている。BC州地質調査局によれば2007年は、新たな探査余地を求める動きが顕在化する年になるという。また別の視点としては、最近州内に広がる森林の深刻な害虫被害について、探鉱活動の活性化によって関係住民を救済しようとする動きがあり、こうしたこともグラスルーツ探鉱を促す要素になりそうである。BC州は2007年の新政策として、州内陸部のパインビートルによる森林被害地(図3)の住民を救済するため、BC州内陸部での資源探鉱に対し、探鉱経費の30%の税額控除を認めることを発表した。連邦による15%の控除と相まって、計45%のクレジットは新たな探鉱インセンティブとして機能することが予想され、その効果に関係者の期待は高まっているところである。
主な文献と資料
Schroeter, T., 2007, British Columbia Mining, Development and Exploration -2006, Mineral Exploration Roundup Conference, Vaoucouver B.C., Jan 29, 2007 British Columbia Ministry of Energy and Mines, 2007a, Exploration and Mining in British Columbia 2006. 112p. British Columbia Ministry of Energy and Mines, 2007b, British Columbia Mines and Mineral Exploration Overview 2006. 28p. 各社プレスリリース、ニュースレター |