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報告書&レポート

2007年3月22日 シドニー事務所 久保田博志、永井正博 e-mail:kubota-hiroshi_1@jogmec.go.jp masahiro-nagai@jogmec.net
2007年24号

オーストラリアの金事情 2007(1) -国際競争力、オーストラリアは世界一の産金国になれるのか!?-

 米国地質調査所(USGS: U.S. Geological Survey)の最新データ「Mineral Commodity Summaries 2007」によると、オーストラリアは、全世界の金生産量の約10%を占め米国と並んで世界第2位となった。南アフリカに迫り、金生産量世界第1位の座も視野に入ってきた。
 本稿では、オーストラリアが世界最大の産金国になれるのかを検討した。

1. はじめに

 オーストラリアの金生産量*1は、2005年が266t、2006年(推定)が250tとやや減少したものの200t台で推移している。世界最大の産金国である南アフリカが減産を続けている一方で、ペルーや中国など新興産金国の生産の伸びも大きい。果たしてオーストラリアは、世界最大の生産国となる可能性があるだろうか。
*1 ABARE, Australian Commodities Statistics 2006
 

2. 生産量

(1) 金生産の推移と世界シェア
 オーストラリアの金生産量*1、*2は、第二次世界大戦前までは20t~50tの間を上下し、世界の金生産量に占めるシェアは3~4%程度であった。第二次世界大戦後は1960年代前半まで20t台から30t台、世界シェアは2%台を推移していたが、その後1980年代初頭には20tを下回り、世界シェアも1%台で金生産は低迷した。オーストラリアの金生産量が飛躍的に増加したのは1980年代後半で、1987年には100tを越え、1990年代には200t台となり、世界に占める割合も10%以上となった。2000年に入って生産量は200t台半ばを推移している。
 一方、世界最大の産金国の南アフリカは、1970年台初頭には世界の金生産の約70%を占めていたが、以降、生産量の減少が続き、現在は10%台まで落ち込んでいる。他方、ペルー、中国などがシェアを上げている。
*1 USBM, Minerals Yearbook 1936~1994, USGS, Minerals Yearbook 1995~2004
*2 USGS, Mineral Commodity Summaries 1997~2007

図-1 世界の金生産量とオーストラリアのシェアの推移
データ:USGS, Minerals Yearbook 1932~2004,
Mineral Commodity Summaries 1996-2007
ABARE, Australian Commodity Statistics 2002-2006

3. 生産コスト

 金の総生産コスト(Total Cost)*1は、金生産の上位を占める南アフリカ(金生産量1位*2)、オーストラリア(2位*2)、米国(2位*2)が世界平均(262.7US$/oz*1)を超えている。近年生産量を急激に伸ばしているペルー(1999年7位→2006年推定4位*2)は世界平均以下で、副産物クレジット(銅の生産に伴って金を生産する場合に発生)のあるインドネシア(6位→6位*2)の総生産コストは極めて低い。
 オーストラリアは、採掘コスト、製錬コストは世界平均並みであるが、副産物クレジットが低いため(金のみを生産する鉱山が多い)、操業コスト(Cash Cost)*1では世界平均を上回っている。
 南アフリカは、製錬コストは低いが、採掘の深部化を反映して採掘コストが極めて高く、操業コスト(Cash Cost)*1では世界平均(197.3US$/oz*1)を大きく上回っている。
 また、ペルーは、採掘コストは極めて低いが、製錬コストと非現金コスト(償却費等)の占める割合が高い。
*1 AME, Mineral Economics Gold 2003, 2006
*2 USGS, Mineral Commodity Summaries 1997~2007

図-2 主要産金国の金生産コストの比較
データ:AME, Mineral Economics Gold 2003, 2006

4. 埋蔵量

 鉱石を採掘して新たに鉱床(鉱量)が見つけられなければ埋蔵量は減少する。即ち、埋蔵量の変化は、採掘と探鉱のバランス、特に探鉱活動の効果を計るバロメータと言えよう。主要産金国の埋蔵量*1の変化を見ると、次のように分類できる。
 (1)微増或いは一定水準を維持している産金国:オーストラリア、インドネシア、中国
 (2)減少を続ける産金国          :南アフリカ、米国
 (3)急増した産金国            :ペルー
 埋蔵量がわずかながら増加しているオーストラリア、同様に、一定水準を維持しているインドネシア、中国は、探鉱が一定の成果を上げていると考えられるが、減少を続ける南アフリカ、減少傾向にある米国は、探鉱(成果)が低下し、一方、埋蔵量が急増したペルーは、探鉱による成果が上がっていると考えられる。
*1 USGS, Mineral Commodity Summaries 1997~2007

図-3 主要産金国の金埋蔵量の推移
データ:USGS, Mineral Commodity Summaries 1997~2007

5. おわりに

 オーストラリアの金生産は、米国と並んで世界第2位となったが、生産量はここ数年200数十tと横ばいである。埋蔵量もここ数年は一定水準を保っている。一方、生産コストは、産金国の中でも南アフリカに次いで高コスト国の一つである。金価格が高騰している間は、高コストの鉱山でも操業は可能であるが、金価格が下落すればコスト高で操業が困難になる鉱山も現れるであろう。
 一方、世界最大の産金国である南アフリカは、生産量の減少、埋蔵量の減少、高コストが定着していることから、これからも生産量は減少を続けるであろう。したがって、オーストラリアが南アフリカの生産量を抜く可能性もないとは言えない。他方、中国、ペルーなど近年の金生産量の急増が続けば、オーストラリアを抜くことも考えられる。
 オーストラリアの懸念としては、金探鉱の投資金額が伸び悩んでいることである。この要因としては、(1) 多くの企業が新規鉱床発見よりも既存鉱床近傍の探鉱を行っていること、(2) これまでの金探鉱を行っていた探鉱ジュニア企業が価格高騰著しいウラン探鉱に乗り換えていること、(3) オーストラリアでは容易に探鉱できる地域が少なくなり困難な地域しか残されていないとの判断からアジア・アフリカ等の海外への進出を志向する企業が増加していることが挙げられる。
 何れにせよ、新たな埋蔵量の獲得、世界規模の低コスト鉱山の発見が「世界最大の産金国オーストラリア」実現の鍵となろう。
 
参考文献
 USGS, Minerals Yearbook 1936~2004
 USGS, Mineral Commodity Summaries 1997~2007
 ABARE, Australian Commodities Statistics 2006
 AME, Mineral Economics Gold 2003, 2006

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