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報告書&レポート

2007年3月29日 リマ事務所 西川信康 e-mail:ommjlima@chavin.rcp.net.pe
2007年28号

ペルー・ミチキジャイ(Michiquillay)入札を巡る最近の動向-鉱山開発反対派の勢力拡大で入札実施は不透明-

 ペルーのメガプロジェクトとして世界的に注目されているミチキジャイ(Michiquillay)銅開発プロジェクトの入札を巡る行方が不透明になってきた。本入札を担当する投資促進庁(Proinversion)は2回にわたり入札日程を延期し、現在のところ、入札日は4月30日と発表されている。しかしながら、最近になって、鉱山開発反対派の勢力が拡大していることが明らかとなり、現地視察もまだ解禁されていない状況の中、本日程での入札実現が疑問視されている。
 本稿では、JOGMECリマ事務所が実施した社会問題の専門コンサルタントによる現地調査結果をベースに、本問題の背景や現状、今後の見通しについて報告する。

ミチキジャイ開発予定地
 ミチキジャイ位置図

1. 入札日程を巡る経緯

(1) 入札情報のスクープ(2006年9月8日)
 JOGMECリマ事務所がミチキジャイ銅開発プロジェクトの入札を担当する投資促進庁の鉱業担当官に入札実施の見通しについて聴取したところ、入札実施の最大のネックになっていた地域住民との合意が得られる見通しがたったため、近く、正式に入札要領及び入札日程を発表するとの情報をキャッチ。
(2) 入札要領・日程の発表(2006年9月22日)
 投資促進庁はミチキジャイ入札案内を公示し、入札日を2006年12月15日に決定。
(3) 投資促進庁長官が入札日程の延期を示唆(2006年10月30日:現地新聞報道)
 投資促進庁のコルネホ長官は、現地の安全確保が保証できないため、現地視察が遅れており、入札予定企業からの要請もあり、入札日程の延期を示唆する発言を行った。
(4) 入札日程延期を発表(2006年11月14日)
 投資促進庁は入札日を2007年2月28日に延期すると発表。
(5) 投資促進庁長官が入札の透明性確保を表明(2006年12月4日)
 投資促進庁コルネホ長官は、在ペルー日本大使館及びJOGMECリマ事務所との面談の中で、本入札の透明性、公正性は十分確保されていると言明するとともに、入札延期の理由について、応札企業からの時間不足との要請に基づくものであり、地域住民問題が直接の原因ではないとしながらも、同プロジェクトが位置するカハマルカ県は、Yanacocha鉱山等地域住民との紛争が絶えない地域であり、同庁としては、入札希望企業の現地訪問の際には、この点を十分、配慮して問題が起きないよう対処すると明言した。
(6) 投資促進庁、入札再延期を示唆(2007年1月15日)
 JOGMECリマ事務所が投資促進庁の鉱業担当官に、年明けに予定されている現地視察が開始されていない理由について聴取したところ、一部の住民との合意形成ができておらず、現地の安全が確保できないとして、入札は再延期になるとの見通しを明らかにした。
(7) ミチキジャイ地域の治安が回復(2007年1月25日:現地新聞報道)
 地元各誌は、現地の治安部隊が、ミチキジャイプロジェクトサイトの元キャンプ場を占拠していた一部地元住民による麻薬密売組織を排除し、同サイトの奪還に成功したと報道。これに関して、コルネホ投資促進庁長官は、「警察の対応のおかげで安全性が確保された。麻薬製造問題から本プロジェクトを完全に切り離す必要があった。」とコメント。
(8) 投資促進庁、入札日程の再延期を発表(2007年2月6日)
 投資促進庁は、入札日を4月30日に再延期すると発表。なお、入札希望企業の現地視察については、後日日程を発表するとした。
 また、バルビディアエネルギー鉱山大臣は、2月6日、JOGMECとの面談の中で、今回の麻薬製造グループの一掃により、懸念されていた現地の治安は改善し、近日中に現地視察が開始されることに期待を表明した。
 

2. 鉱山開発反対派の活動状況

 このように、国家警察による麻薬密売組織の排除・現場サイトの回復によって、本入札実現に向けて事態が大きく好転するかに見えた。しかしながら、その後、鉱山開発に反対する住民グループの動きが、相次いで新聞各紙で報道されるようになり、入札の行方は混沌としてきている。以下は最近の主な報道記事の概要である。
(1) 入札実施に関し地元住民指導者が抗議(2月12日)
 ミチキジャイ原住民地域権利保護委員会(CEDICOM)のメルセデス・サウセド会長は、ミチキジャイ入札プロセスに関して投資促進庁からは一度も交渉の申し入れがなかったことを明らかにするとともに、中央政府による同地区内の鉱山入札の実施を拒否すると発言。その法的根拠として、「1963年7月25日に発行された決議No157(当時、鉱業権を所有していたAsarcoが署名)」に地元住民の所有権が明記されていると主張。また、同会長は、投資促進庁は当初から地元住民グループ(正規住民)とは接触せず、カハマルカ市への移住者(非正規住民)のみを対象に交渉を行っていたとし、2006年9月、前ミチキジャイ郡長のウイリアム・サウセド氏はエネルギー鉱山省とミチキジャイ入札に関する合意書に署名を行ったが、この合意書の内容について、ミチキジャイの正規住民は認知していないと訴えた。
(2) 地元住民が社会開発計画に参加を要求(2月15日)
 ミチキジャイプロジェクト周辺の複数のコミュニティーグループが、カハマルカ県政府との話し合いで、本プロジェクトの社会開発計画に参加を求める要請書を中央政府に提出した。
 本会合に出席したフェレル検事は「この要請の目的は、他の鉱山開発地域で発生している争議を未然に防ぐためである」とし、「主な問題はコニュニケーション不足である。住民側は4月30日に入札が行われることについて全く知らされていない。住民側はプロジェクトに参加し、落札企業が住民のために社会開発を実施することを望んでいる。」と述べた。さらに、同検事は、「一部の住民は、灌漑用水への汚染が懸念されるため鉱山開発に反対しているが、鉱山会社が水を汚染しないことを保証し、農業及び牧畜業の発展に寄与するのであれば、多くの住民が賛成に回るだろう。」との見方を示した。
(3) エネルギー鉱山大臣、Miciquillayでの地域住民問題は未解決と発言(2月27日)
 フアン・バルディビアエネルギー鉱山大臣は、ミチキジャイ入札に関し、地元住民との合意は得られていないことを認める発言をするとともに、地域コミュニティとの対話を行いつつ、水資源の保護、農業・牧畜産業の発展を地域社会に約束していなければならないと強調した。
(4) 政府によるミチキジャイ環境修復作業の実施を地元コミュニティは拒否(3月8日)
 ミチキジャイ地域では過去に行われた探査や選鉱、また尾鉱堆積場を原因とする土壌汚染や周辺河川への汚水流入などの環境被害が及んでいるとして、エネルギー鉱山省は、Activos Mineros(*)による環境修復作業の実施を決定した。これに対し、地元コミュニティは、国による事前の説明が全くないとして、この作業を拒否し、3月1日、エネルギー鉱山省に対し修復作業の実施にはコミュニティ評議会の同意が必要である旨を書簡で伝えた。
 (*) Activos Minerosは、国(エネルギー鉱山省)の委託を受けて、Centorominが所有していた旧国有鉱区の環境被害状況を調査し、その対策を行う政府機関。
(5) 地元住民側が、県政府に対し環境評価を要請(3月9日)
 ミチキジャイコミュニティの住民らは、県、区、地域コミュニティレベルで行われた会合において、鉱業活動に伴う環境汚染に対し懸念を表明し、県政府に対し環境被害の実態調査を依頼するとともに、投資促進庁に対して入札プロセスの説明を速やかに行うよう繰り返し要求した。
 カハマルカ副知事のアニバル・バルカサル氏は、今回の地域住民の一連の行動に関して、「地域住民は、鉱業活動に関する自分たちの意見が聞き入れられることや、灌漑用水や道路などの改善を求めて、直接県政府へかけあったのものだ」とし、ミチキジャイコミュニティは率直な相互対話が実現できないことを理由に中央政府に対し不信感を強めており、このまま放置すると、重大な社会問題に発展しかねないと警告した。
 

3. 現地調査結果

 JOGMECリマ事務所は、2月12日から2月23日の間、社会問題の専門コンサルタントによる現地調査を行い、ミチキジャイ入札に関する地方自治体や住民指導者、NGO等それぞれの意見や立場等の把握に努めた。
 
(1) 位置、インフラ状況
 ミチキジャイ銅開発プロジェクトサイトは、首都リマ市の約900km北方のカハマルカ県カハマルカ市ラ・エンカニャダ区ミチキジャイ郡ミチキジャイ村にある。ミチキジャイ郡は、キヌアマヨ、キヌアヨック、ミチキジャイ、チムチア、プログレソ・ラ・トマ、 カルアゲロ・アルト、ウニョス などの村落からなる。なお、ラ・エンカニャダ区には、Yanacocha鉱山を始め、Minas CongaやEl Galeno等の大型銅開発プロジェクトも位置している。ミチキジャイ村は、標高3,000mから3,600mに位置し、約2,500から3,000人の住民からなる村で、小規模の酪農と農業に従事する極貧困地域である。以下は現地の基礎インフラ等の状況。
 ・カハマルカ市の中心部からラ・エンカニャダ区役所のあるラ・エンカニャダ中央広場までは、公共小型バスが走っているが(所要時間は約1時間)、ラ・エンカニャダ中央広場からミチキジャイ村まで(約10km)の公共交通機関はない。
 ・ラ・エンカニャダ区の電力普及率は9割近くに達しているが、ミチキジャイ村には、公共電力は存在せず、自家発電に頼っている。
 ・ラ・エンカニャダ区内で、家屋内に上水設備がある家は45%で、また下水設備があるのは3%にすぎない。
 ・ラ・エンカニャダ区における小学校(6歳から12歳まで)の就学率は約7割だが、中学校(13歳から17歳まで)の就学率は約4割と大幅に低下。
 ・ラ・エンカニャダ区内では、中央広場に、簡易診療所と2006年6月にカノン税によって設立された総合病院がある。農村部の主な病気は、衛生上の問題から伝染病や寄生虫病、また、調理に薪を使用する頻度が多いことによる気管支炎、さらに、栄養疾患など。なお、農村地域の幼児の栄養失調率は7割に達していると言われる。
 
(2) ミチキジャイ入札に関する主な住民指導者及び環境NGOの基本的立場
 ⅰ. リンフォンシオ・ベラ(Linfoncio Vera) ラ・エンカニャダ区長
 リンフォンシオ・ベラ氏は、昨年11月のペルー地方選挙の際に、ラ・エンカニャダ区長に初当選。任期は4年。ベラ新区長は、前区長のバレラ氏(Fidel Valera)が、ミチキジャイ入札に関し、地元住民の意向を無視し政府や投資促進庁と統一的な行動をとっていたことで、地元住民の信頼を失っていたと証言。
 ベラ区長は、「現在、中央政府が一方的にミチキジャイ鉱山の入札プロセスを決定しそれに向けて進行しているようだが、私のところには、何の連絡も相談もない。その上、現場には、現在100名以上の警察官が不法占拠(3月2日に撤退)しており、麻薬密輸の村と汚名を着せられていることに憤慨している。」と述べ、政府や国家警察の対応に不満をあらわした。一方で、同区長は、鉱山開発による地元への経済効果を期待している向きもあり、2月中旬には、エネルギー鉱山省を訪問し、鉱山次官に対し現地訪問を要請した。同区長は、「政府の責任者が、地元住民と直接対話し、理解を得ることがが村民の支援を得る第一歩だ」と主張している。なお、同区長は、Yanacocha鉱山の東方に位置するMinas Conga銅開発工事の下請土木会社を経営していると言われている。
 ⅱ. ルイス・カサワマン(Luis Casahuaman) ミチキジャイ郡長
 ルイス・カサワマン氏は、昨年12月に2年毎に行われる郡長選挙で当選し、今年1月に郡長に就任。但し、同郡長は、先の郡長選挙において不正行為(同氏の操作で多くの農村部の住民が投票権の登録が出来なかったという疑惑)があったとして住民側が選挙管理委員会に調査を依頼し再選挙を求めている。従って、同氏の支持基盤は、弱いとされ、後述するフランシスコ・サンチェス氏やメルセデス・サウセド氏のミチキジャイコミュニティ指導者などと対立関係にある。
 カサワマン郡長は、前郡長のウイリアム・サウセド氏が、バレラ前ラ・エンカニャダ区長とともに、地元コミュニティの合意を得ることなく、政府とミチキジャイ入札開始に関する合意文書に署名したとして、前区長を非難している。
 カサワマン郡長は、ミチキジャイ銅開発プロジェクトについて、「(本地域は)農業や酪農が零細規模で技術的にも遅れているので、鉱山が誕生すれば雇用が生まれ、村民の収入も増え、経済的に裕福になるだろう」と鉱山開発効果に期待を表明している。しかしながら、住民からの支持拡大が最優先課題であるため、住民の声に配慮し、表向きは明確な態度を保留している。
 ⅲ. フランシスコ・サンチェス(Francisco Sanchez)氏(ミチキジャイ村の指導者)
 ミチキジャイ村出身の元ミチキジャイ郡長であるフランシスコ・サンチェス氏は、現在、ラ・エンカニャダ区役所に勤務。鉱山開発反対派のリーダーで、ミチキジャイ村民に最も信頼が厚いとされる人物の一人。同氏は鉱山技師の肩書きも持ち、鉱山開発による恩恵も理解しているとされているが、今回の入札プロセスに関する一連の政府の対応について、ミチキジャイ村の指導者や村民が完全に無視されている事に憤慨している。さらに、同氏は、麻薬製造に関わったとして、後述するミチキジャイ原住民地域権利保護委員会会長のサウセド氏とともに、現在、国家警察から起訴されている。同氏は、インタビューの中で、1月25日に国家警察がミチキジャイキャンプ跡に入った日のことを 「警察官は、化学薬品のことよりも鉱山開発反対である私を探し出し、私に向かって発砲したが、間一髪で、逃げることができた」と興奮気味に語り、また、「今までのように、村人が政府側の言いなりにはなるような時代は終わった。政府は、時代が変化したのを認識せず、今までのように圧力・権力をふるって政府の計画をごり押ししようとしている。」と中央政府に対し、根深い不信感、強い対抗意識を示している。なお、同氏は、先の郡長選挙で不正があったとして、カサワマン郡長とも対立している。
 ⅳ. メルセデス・サウセド(Mercedes Saucedo)氏(ミチキジャイ原住民地域権利保護委員会会長)
 サウセード氏は、ミチキジャイ村に隣接するキヌワマヨ村出身で現在ミチキジャイ原住民地域権利保護委員会(CEDICOM)の会長という肩書きを持つ。フランシスコ・サンチェス氏とともに、ミチキジャイ鉱山開発に対する反対キャンペーンを行っている。また、同氏は環境NGO団体との関係が深いとされ、最近になってメディアを利用した反対運動を展開しており、前述した現地住民による土地所有権を主張した報道記事(2.(2))もその一環と見られる。
 なお、先日のミチキジャイキャンプ地施設への警察当局による捜査の際、サウセド氏は施設内で発見された麻薬原料の化学物質に関する取り調べをサンチェス氏とともに受け、現在起訴されている。同氏はこれを全面否定しているが、昨年8月の倉庫(過去のミチキジャイで実施されたボーリングコアなどが保管)の放火事件については、関与を認めている。
 ⅴ. 環境NGOアラナ(Padre Marco Arana)神父
 ペルーの環境NGOであるGRUFIDES(持続的開発のための形成と仲裁をするグループ:なお、国際NGO組織OxfamAmericaが資金的な援助を行っているとされる)代表であるアラナ神父が、鉱山開発反対グループの急先鋒として、地元住民に最も影響力のある活動家としてマスコミ等で取り上げられている。これについて、同神父とのインタビューの中で、「そのような受け取られ方は、大きな誤解である。自分としては決して鉱山開発を否定する立場をとっているものではないし、鉱山と農村との共存共栄は可能だ。」と主張した。一方で、「現段階で、Yanacocha鉱山など会社側の環境対策への取り組みや地域住民への対応は、不十分・不適切である。」との認識を示し、「我々の活動は、被害に合っている住民側に立ち、住民の人権尊重や意識向上活動を行っている。国家も中立的な立場で鉱山開発へのコントロールを強めていく必要がある。」と指摘している。
 同氏は現在のところ、同区域にあるYanacocha鉱山における環境汚染問題に注力しており、ミチキジャイに関しては、今のところ、同神父をはじめその他の環境NGOも、表立った運動は展開していない。
 なお、アラナ神父は、最近、ミチキジャイ入札の関連で在ペルー中国大使がカハマルカ市を訪問したことに触れ、中国企業による鉱山開発には賛成できないとし、環境や住民を尊重する国の企業が落札してほしいと言及した。
 
(3)現地調査のまとめ
 今回の現地調査の結果、以下のことが判明した。
 ⅰ. ミチキジャイ入札プロセスに関して、昨年9月に政府と合意した地元指導者はすでに、昨年末の選挙で落選、失脚しており、従って、現段階では、入札を積極的に支持するグループはカハマルカ市に移住している一部の住民に過ぎないものと見られる。
 ⅱ. 現在の住民指導者や大多数の地元住民は、政府から、入札プロセスに関する一切の説明がないとして、現状のままでの鉱山開発に反対の立場を表明している。
 ⅲ. その中で、ラ・エンカニャダ区長のベラ氏とミチキジャイ郡長のカサワマン氏は、政府との交渉を要求しており、最終的には、政府や落札企業が地域の社会開発や環境対策を行う見返りに鉱山開発に賛成していく可能性もある。
 ⅳ. ミチキジャイ村の指導者であるサンチェス氏及びサウセド氏は、強硬な鉱山開発反対派であり、彼らを支持する勢力は拡大傾向にある。また、両氏とも、先の郡長選挙に不正行為があったと主張し、現在のカサワマン郡長と対立関係にある。
 ⅴ. 上記のミチキジャイ村の指導者であるサンチェス氏及びサウセド氏が関与したとする麻薬製造疑惑については、その事実関係は不明であるが、両者だけでなく、区長、郡長もこれを全面的に否定している。また、現地の麻薬検査官も、本地域はもともとコカ栽培地域ではないことから、今回の報道は、唐突な印象があり、国家警察がキャンプ地に潜入するための口実である可能性も否定できないとコメントしている。
 ⅵ. さらに、2月末に、ミチキジャイ村の灌漑用水に、周辺の休廃止鉱山から流出した汚水が混入したため、その水を飲んだ多くの家畜に被害が及ぶという事件が発生したが、地元住民は、これを占拠していた国家警察によるものと主張しており、地元住民による政府や国家警察に対する不信感は頂点に達している模様である。
 ⅶ. 今のところ、アラナ神父に代表される環境NGOによるミチキジャイ鉱山開発反対運動は認められない。

4. 今後の動向

 現在、注目されているのは、政府(エネルギー鉱山省、投資促進庁)の出方である。当事務所が、今後の政府の方針について、エネルギー鉱山省に確認したところ、現在、鉱山次官が中心となり、対応を検討しており、早期の解決に向けて努力しているところであるとの回答であった。
 今後の政府の対応としては、まずは、ラ・エンカニャダ区長のベラ氏が主張しているように、政府の責任者が地元住民と直接対話を図り、ミチキジャイ入札プロセス及び本プロジェクトによってもたらされる恩恵を説明し、住民側の態度を軟化させ、政府に対する信頼回復を得ることが第一歩であろう。ここで注意しなければならないのは、住民グループは一枚岩ではなく、先のミチキジャイ郡長選挙を巡り現郡長とミチキジャイ村指導者と対立していることから、両グループへの働きかけ、最終的には、両グループとの合意が必要となることである。このうち、当面の政府側の交渉相手としては、穏健派のベラ区長及びカサワマン郡長であると推察されるが、仮に強硬反対派とされるサンチェス氏、サウセド氏のグループとの交渉を無視した場合は今回と同じ過ちを繰り返す恐れがある。なお、現在、対立しているこれら2つのグループの仲介役として、元区長のManuel Vasquez氏と顧問のGustavo Llanos氏が意見の調整を図っているとの情報もあり、住民指導者側の動向も注目される。
 また、現在のところ、ミチキジャイ入札に関し、目立った活動はしていないが、鉱山開発反対グループに影響力を持つと言われるアラナ神父とのコミュニケーションも密に図り、ミチキジャイ鉱山開発への理解も得ておく必要があろう。
 いずれにしても、世界のメジャー企業など約20社が関心を寄せているとされるミチキジャイ銅開発プロジェクトを巡る入札は、地元住民との交渉が振り出しに戻ったことで、暗礁に乗り上げた格好である。現在ミチキジャイで起こっている問題は、まさに、現在、ペルーで多発している地域住民問題の縮図と言え、地方の貧困問題、鉱害問題、さらに、ペルー人同士の権力闘争など、一朝一夕では解決できない複雑な要因をはらんでいる。入札実現に向けた今後の政府の取り組みとそれに対する住民側の反応・対応が大いに注目される。
 
 <参考1>ミチキジャイプロジェクトの概要
 ・位置:ペルー北部のカハマルカ県に属し、県庁所在地カハマルカ市の東北東47km、標高3,000m~3,600m。鉱区面積は18,978ha。
 ・鉱床タイプ鉱床:金、銀を含むポーフィリーカッパー型鉱床
 ・鉱量・品位:鉱量5.44億t、平均銅品位0.69%、金品位0.1~0.5g/t
 ・過去の調査:Asarco社(1958年~1969年)及びJICA/MMAJ・日本企業(1973年~1975年)による探鉱で、延べ159本のボーリング(総掘削長41,600m)、探鉱坑道2,500mを実施。その結果、4万t/日規模の露天掘り鉱山とする開発計画を策定。
 
 <参考2>政府と地元コミュニティとの社会協定
 ミチキジャイ銅開発プロジェクト入札に関し、2006年9月に、ミチキジャイ農村コミュニティ、ラ・エンカニャダ区役所、エネルギー鉱山省、及び投資促進庁の4者間で社会協定を締結した合意内容は以下のとおり。
 ・鉱山開発プロセスへの支援
 ・落札金額の50%を信託基金へ充当し、プロジェクト影響地域における社会発展プログラム(環境対策、土地修復等)に役立てる
 ・これら社会発展事業において、ミチキジャイ農村コミュニティの人々を優先的に雇用する。
 ・ラ・エンカニャダ区域に属する14地区の電化プロジェクトの実施(投資総額50万$)。

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