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オーストラリアのニッケル事情-オーストラリア農業資源経済局(ABARE)によるニッケル需給動向分析とオーストラリア生産予測-
オーストラリア農業資源経済局(ABARE)は、2007年3月末、四半期鉱物資源統計報告「ABARE, Australian Commodities, March Quarter 2007」において、2007年以降の鉱物資源の価格及び需給動向とオーストラリアにおける各鉱種の生産・輸出予測を発表している。 本稿では、このABAREの報告書からニッケルの需給動向とオーストラリアの2007年ニッケル生産予測について紹介する。 |
1. はじめに
2006年のニッケル平均価格は24,500US$/tと1988年以来の高水準となった。堅調な需要と供給障害などからニッケル需給は逼迫した情況にあり、2007年に入っても価格は高騰を続け、3月下旬には一時50,000US$/t台を超えた。市場では、需給の逼迫情況は当面、解消されず、また、価格を下げる要因もないとの見方から今後も高値は続くと考えられる*1。
*1 ABARE, Australian Commodities, Vol.14, No.1 March Quarter 2007
図-1.世界のニッケル価格・需給の推移(1960年-2005年)
データ:ABARE, Australian Commodities December Quarter 2006
2. オーストラリア農業資源経済局(ABARE)のニッケル需給動向分析
(1) 価格予測
ABAREが2006年12月末に発表した2006/2007年度のニッケル平均価格予測は、堅調なステンレス向け需要から消費が生産を上回るとして24,800US$/tであったが*1、ニッケル価格(Cash seller & settlement)は、2007年2月末には、既に44,500US$/tに達する予想を遥かに超えた高騰を続けており、ABAREが2007年3月に発表した短・中期予測*3では、2006/2007年度の平均価格は36,750US$/tと大幅に上方修正している。ABAREは、生産能力の効果が2007年下半期には現れるとしながらも、中国・インドのステンレス向け需要は依然堅調であること、カナダ・サドベリー鉱山などで発生した労働争議など生産障害も依然懸念されるなどとして価格は高値を維持すると予測している。
*1 ABARE, Australian Commodities, Vol.13, No.4 December Quarter 2006
*2 ABARE, Australian Commodities, Vol.14, No.1 March Quarter 2007
図-2.世界のニッケル価格・LME在庫の推移(2006年1月-2007年2月)
データ:LME Webサイト http://www.lme.co.uk/dataprices_daily_metal.asp
(2) 供給障害
ABAREは、2006年のニッケル価格高騰の原因に世界的な供給障害を挙げている。オーストラリアでは、度重なるサイクロンの襲来によって2006年3月末四半期は約10,000t、CVRD/INCO社はカナダとインドネシアの製錬所及び精錬所のトラブルによって約15,000t、PT Aneka Tambangはインドネシアの製錬所のトラブルで6,000tの生産障害が発生し、また、世界のニッケル鉱石生産の8%、ニッケル地金生産の4%を占めるニューカレドニアでは、2006年9月に発生したストライキによって生産及び新規開発プロジェクト進捗に影響を及ぼしたとしている*1。
*1 ABARE, Australian Commodities, Vol.13, No.4 December Quarter 2006
(3) 需給予測
世界のニッケル消費は、2007年は対前年5%増加の1.46百万tと予想されている*1。2006年のニッケル消費の61%(2005年は65%)はステンレス関係に用いられており、2006年のステンレス生産は対前年14%増加の28百万tに達し、その主な増加要因は中国(2006年上半期で対前年44%増加)であったと考えられる*1。
世界のニッケル需要は、2007年も堅調に推移すると予想されているが、ⅰ 米国経済の減速、ⅱ ニッケル価格の高騰が消費者の高品位ステンレス鋼から低品位ステンレス鋼へのシフトを促す、ⅲ ステンレス鋼、ニッケルの高価格がリサイクル原料の消費が進むなどのマイナス要因も指摘されている。また、ステンレス以外のニッケル需要、特に、航空機向け高性能合金(Super Alloy)の需要が伸びると考えられている*2。
世界のニッケル生産は、2006年はアジアでの増加(中国は対前年39%増加、インドネシアは同138%増加)はあったが、オーストラリア、ニューカレドニア等の生産障害が影響して対前年4%増加の1.39百万tに留まり、2007年以降も2008年半ばまでの新規・拡張プロジェクトは比較的小規模で供給能力に大きな変化はないとしている。
また、需要面では中国における低品位フェロニッケル(Nickel Pig Iron*)消費が伸びる、供給面ではラテライト・ニッケルの割合が増加する(新規プロジェクト生産量の約20%)と予測している*1。
* Nickel Pig Iron:ニッケル3~5%を含むフェロニッケル(通常のフェロニッケルはニッケル25~40%を含む)で、硫黄・リン分を多く含む。近年、中国はNickel Pig Ironをフィリピンなどの低品位ラテライト・ニッケル(Ni品位0.8~2%)から200系ステンレス向けに生産*1。
*1 ABARE, Australian Commodities, Vol.14, No.1 March Quarter 2007
*2 ABARE, Australian Commodities, Vol.13, No.4 December Quarter 2006
3. オーストラリアのニッケル生産予測
オーストラリアのニッケル鉱石生産量は、2005/2006年度は2006年3月末四半期のサイクロンによる生産障害から対前年度5%減少したが、2006/2007年度は対前年度10%増加の20.2万tと予測している。2007/2008年度は、新規プロジェクトの生産開始により更に10%増加、その後、これらのプロジェクトのフル生産やその他プロジェクトの生産開始などにより、2011/2012年度までにオーストラリアの生産能力は34.8万t/年に達すると予測している*1。
ニッケル地金生産量は、2005/2006年度はYabuluニッケル精錬所拡張にともなう生産障害から対前年度12%減少であったが、2006/2007年度は、Murrin Murrin、Kwinana、Yabuluニッケル精錬所の生産増加が見込めることから12%増加の12.4万tと予測している。その後も生産量は増加して2009/2010年度には18.2万tに達すると見られる*1。
輸出量(鉱石、中間品、地金中の純分)は、2005/2006年度はサイクロンの影響などにより対前年度7%減少したが、2006/2007年度は対前年度11%増加の22.4万t、2007/2008年度以降も新規プロジェクトが軌道に乗るとして増加すると予測している。輸出額は、2005/2006年度は対前年5.8%減少の35.2億A$に留まったが、2006/2007年度は約2倍に急騰とした価格の影響で139%増加の84.1億A$となり、2008/2009年度にピークに達した後、2011/2012年度には2006/2007年度の水準から20%程度減少して62億A$程度になると予測している*1。
*1 ABARE, Australian Commodities, Vol.14, No.1 March Quarter 2007
*2 ABARE, Australian Commodities, Vol.13, No.4 December Quarter 2006
表-1.オーストラリアの主要ニッケル・プロジェクト生産量
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* 9月末までの9か月間
** 6月末までの6か月間
*** Nickel West プロジェクトは、Kalgoorlie精錬所、Kambalda、Kwinana精錬所、Leinster、Mt Keith、Yakabindie等を含む
データ)各社アニュアル・レポート、四半期報告、MINMETデータベース
図-3.オーストラリアのニッケル生産の推移
データ:ABARE, Australian Commodities Statistics 2006
4. オーストラリア等の主要ニッケル探鉱・開発プロジェクト
鉱山プロジェクトでは、2007/2008年度にWaterloo(西オーストラリア州、生産能力4,000t/年;LionOre社)及びBlack Swan(同、13,000t/年;同)、Forrestania(同、8,000t/年;Western Areas社) Ravensthrope (同、50,000t/年;BHP Billiton社)、Sherlock Bay(同、12,000t/年;Sherlock Bay Nickel社)、Avebury(タスマニア州、8,000t/年;Allegiance社)、Sally Malay(西オーストラリア州、19,000t/年;Sally Malay Mining社)等の各プロジェクトが生産開始・拡張完了・生産能力到達、Ravensthropeプロジェクトは2年後の2009/2010年度にはフル生産に入り、Honeymoon Well(西オーストラリア州)、Nornico(クィーンズランド州)等のプロジェクト(生産能力合計74,000t/年)も同時期に生産が軌道に乗ると予測している。なお、Ravensthropeプロジェクトは、投資額は当初10.5億A$が22億A$、生産開始時期は2007年第2四半期が2008年第1四半期と計画に遅れが出ている。
製・精錬所プロジェクトでは、Yabulu精錬所拡張(31,200t/年→76,000t/年;BHP Billiton社)が2007年3月末完了予定*1。
出*1 ABARE, Australian Commodities, Vol.14, No.1 March Quarter 2007
図-4.オーストラリアの主要ニッケル探鉱・開発プロジェクト
データ)Minmetデータベースのデータを元に作図
表-2.オーストラリアの近年の主要ニッケル探鉱・開発プロジェクト
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*埋蔵量
データ)各社アニュアル・レポート、四半期報告、MINMETデータベース
5. おわりに
オーストラリアのニッケル生産者は、堅調なニッケル需要と2倍に跳ね上がった価格の恩恵を受けようとしている。ここ数年間に新規及び拡張プロジェクトも目白押しである一方、資機材高騰、労働力不足などによってスケジュールの遅れやコスト高を生じているプロジェクトも少なくない。また、中国系企業のプロジェクト参入の動きも活発化しており、オーストラリア国内のニッケル資源を巡る動向は今後も注視していく必要があろう。
図-5.オーストラリアのニッケル生産予測(2004/05~2011/12年度)
データ:ABARE, Australian Commodities vol.14 no.1, march quarter 2007
図-6.オーストラリアのニッケル生産の世界に占める割合(2004/05~2011/12年度)
データ:ABARE, Australian Commodities vol.14 no.1, march quarter 2007
図-7.ABAREによるニッケルLME価格と世界ニッケル在庫予測(2005~2012年度)
データ:ABARE, Australian Commodities vol.14 no.1, march quarter 2007
参考文献
ABARE, Australian Commodities, Vol.14, No.1 March Quarter 2006
ABARE, Australian Commodities, Vol.13, No.4 December Quarter 2006
AME Mineral Economics, Nickel 2006
The Australian Financial Review, 07/03/2007,“Resource Price at Risk”
Geoscience Australia, Australia’s Identified Mineral Resources 2006, 2007
London Metal Exchange(LME) Web サイト http://www.lme.co.uk/dataprices_daily_metal.asp