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ニューカレドニアのニッケル事情-ニッケル投資セミナー「The 3rd New Caledonia Nickel Conference」より-
| 3月25日から3月30日までの6日間、ニューカレドニアのヌメア(Noumea)において、ニッケル投資セミナー「The 3rd New Caledonia Nickel Conference」が主要ニッケル企業、ニューカレドニア当局関係者、周辺国政府・企業、本邦商社・ニッケル関係企業等が参加して開催された。 本稿では、「The 3rd New Caledonia Nickel Conference」について紹介する。 |
1. はじめに
「The 3rd New Caledonia Nickel Conference」には、ニューカレドニア国内でThioなどニッケル鉱山4か所とDioniambo製錬所を操業するLe Nickel SLN社(Eramet社ほか)、Goroニッケル鉱山を現在開発中のCVRD-INCO社、Falconbridge社の買収によりKoniambo鉱山の開発を引継いだXstrata-Nickel社(Xstrata社)、WMC Resources社を買収したBHP Billiton社、ロシア資本のNorilsk社などニッケル大手企業、Rio Tinto社、Anglo American社などの非鉄メジャー、投資銀行、市場調査会社など18か国から約300名が参加した。
セミナーでは、最近、急騰を続けるニッケル価格動向・需給予測、ニューカレドニアのニッケル生産施設の動向や新規プロジェクトの進捗状況などについて講演が行われた。
また、セミナー期間中にはDoniambo精錬所(操業中)、Goroニッケル鉱山、Koniambo鉱山(開発中)の見学ツアーが実施されたが、参加希望者多数のためキャンセル待ちの状態であった。
2. 価格・需給動向分析
(1) Macquarie投資銀行 -Jim Leonnon氏(Head Commodity Research)講演-
価格急騰は、中国・インドなどアジア諸国の経済成長に伴うステンレス需要急増、経済自由化の進展による需要増加、新規大規模プロジェクトの生産開始時期の遅れが重なり、LME在庫が記録的に逼迫していることが原因にある。価格高騰は、ステンレス製造におけるニッケル代替品や中国を中心に低品位フェロニッケル(Ferro-Nickel Pig Iron*1)の需要の伸び、ステンレスのリサイクルが進み、短期的には逼迫するものの中長期的には大型プロジェクトの生産が始まりバランスする。
一方で、大規模買収が続いた結果、上位5社**で世界のニッケル生産の74%を占め、将来的には80%を越える。
*1 Ferro-Nickel Pig Iron:ニッケル3~5%を含むフェロニッケル(通常のフェロニッケルはNi 25~40%)、硫黄・リン分を多く含む。近年、中国は低品位ラテライト・ニッケル(Ni品位0.8~2%)からのNickel Pig Ironを200系ステンレス向けに利用。
** Norilsk Nickel社(ロシア資本)、CVRD社(ブラジル)、BHP Billiton社(本社ロンドン/メルボルン)、Xstrata Nickel社(スイス資本、本社トロント)、Jinchuan(金川)社(中国資本)の5社。
(2) Brook Hunt London社 -Andrew Mitchell氏(Nickel Industry Analyst)講演-
需給は在庫が記録的に低い状態にあり、大規模プロジェクトの遅れが影響している。
生産コストは、2005年が2.57US$/lb(硫化ニッケル)・3.29US$/lb(ラテライトニッケル)で、今後、2008年が2.41US$/lb(硫化)・3.27US$/lb(ラテライトニッケル)、2012年が1.99US$/lb(硫化)・2.74US$/lb(ラテライトニッケル)程度で推移すると予測。
初期投資額は、Ravensthorpe(BHP Billiton社、西オーストラリア州)が10億→22億US$、Goro(CVRD-Inco社、ニューカレドニア)が14億→30億US$、Koniambo(Xstrata Nickel社、ニューカレドニア)が12億→24億US$など、主要大規模プロジェクトで当初投資予算額を大きく上回っている。
中国の生産動向では、低品位フェロニッケルの需要が短期的に増加するが(2005年は約10千t/年→2007~2009年は50千t台→2010年には30~40千t/年)、コスト効果が良くないことから価格が下落すれば生産量も減少する。また、Ramuニッケル鉱山(PNG)の本格操業により低品位フェロニッケル需要は減少すると考えられる。
3. 主要ニッケル企業の動向
(1) Eramet社 -Jacques Bacardats社長講演-
Eramet Group社(フランス資本)は、20か国39か所に生産関係施設を置き、従業員数14,000名(うちニューカレドニアは2,230名)で、Societe Le Nickel社(SLN;権益56%、ニューカレドニア)はEramet社のニッケル生産拠点(Eramet社のニッケル生産の80%を占める)。1989年よりニッケル市場サイクルの影響を軽減するため、事業の多角化を進め、ニッケル(Eramet Groupの収入の33%;1,019百万€)・マンガン(同38%;1,147百万€)・合金(同29%;892百万€)の3事業本部(Division)体制。
近年、供給サイドは、Norilsk Nickel社=自由経済化の進展によるロシア企業の台頭、CVRD社(Inco社を買収)・BHP Billiton社(WMC社を買収)・Xstrata社(Falconbridge社を買収)などの合併による巨大ニッケル企業、中国ニッケル需要の急増に対応して急成長(40千t/年(1995)→93千t/年(2006年)→150千t/年(目標))を続けるJinchuan(金川)社などがニッケル生産上位を占めているが、Eramet Group社は、ニッケル生産で世界第6位・フェロニッケル及び塩化ニッケル生産で同第1位を維持している。
(2) Xstrata Nickel社 -Mitchell Rioux 氏(Director General, Operations New Caledonia)講演-
(Falconbridge社を買収して誕生した)Xstrata Nickel社は、世界第4位のニッケル生産量(110,000t/年以上)であり、世界最大のニッケル・コバルト製品リサイクル企業。
カナダ(オンタリオ州Sudbury等・ケベック州)に5か所の鉱山と製錬所等の生産施設を、ドミニカ共和国(Bonao)にFalcondoフェロニッケル鉱山と処理施設を、ノルウェー(Kistiansand)にNikkelverk製錬所を操業、カナダSudbury地区では隣接するCVRD社(旧Inco社)と相乗効果を期待。また、Koniambo(ニューカレドニア)、Kabanga(タンザニア)、Araguaia(ブラジル)の新規3プロジェクトを開発中。事業実施にあたっては、環境、地域社会、保安は重点事項。
4. ニューカレドニアの主要ニッケル・プロジェクト
(1) SLNオペレーション -David Wilson氏(Pierre Alla社長、SLN社)講演-
4ニッケル鉱山(Tiebaghi、Nepoui-Kopeto、Kouaou、Thio)、1ニッケル製錬所(Doniambo)を保有。年間生産量(2006年)62,383t(Ni金属量、鉱石Ni品位2.5-3%)、売上げ1,068億CPF(880百万€)業員2,230名(94%がニューカレドニア人)。地域経済に与える効果は、ニューカレドニア輸出額の95%を占め、賃金支払い額150億CPF(117百万€)・地元調達額140億CPF・納税額140億CPF(117百万€、ニューカレドニア税収の10%に相当)・地元3県*1への配当額33億CPF(25百万€) *2。
新規発電所建設(70MW×3基)と欧州環境基準に適合のために1910年に操業開始のDoniambo製錬所の改修工事「Cleaner Doniambo」を実施し、Tiebaghi鉱山のフル生産により年間ニッケル生産量*3を、2006年の6.24万tから2012年~2013年頃までの約5年間で7.5万t年に拡張する。
また、1971年代から中断していた湿式製錬技術開発を再開。Northern ProvinceのPoum鉱山開発に向けた調査を実施。
(2) Goro -Phil du Toit氏(CEO、Goro Nickel社)講演-
CVRD-Inco社、住友金属鉱山(11%)、三井物産(10%)のJVプロジェクト。ラテライト・ニッケル鉱山と処理プラント(湿式*4)からなり、年間生産量ニッケル6万t(ニッケル金属純分量)、コバルト5,000t(コバルト金属純分量)。
CVRD社は本事業に関して、アジア(中国)に近いこと、湿式プロセスによるエネルギー費用・環境負荷の低減(SO2、CO2)などの優位性を上げている。建設期間は約3年、2008年第4四半期には工事完了予定。現在、3,000人が工事に従事、進捗状況はエンジニアリング80%完了。
(3) Koniambo -Kevin Brown氏(Koniamboプロジェクト・ディレクター)講演-
Xstrata Nickel(権益49%)、Societe Minierre du Sud Pacifique:SMP(51%)のJVプロジェクト。ラテライトニッケル鉱山と製錬所(乾式)からなり、年間生産量ニッケル6万t(フェロニッケル176,000t)。1998年にFalconbridge社がSMP社と提携、2002年プレF/S,2004年末F/S完了、2005年末採掘許可取得、2006年9月よりXstrata社による開発コスト・スケジュール・調達等の最適化のための計画見直しが開始、2007年8月完了予定。開発には発電設備、アクセス道路、鉱石運搬コンベア、港の浚渫などインフラ整備の割合も大きい。
(4) Gladstone -Gavin Bexker氏(Gladstone Pacific Nickel社,開発プロジェクト・ゼネラルマネジャー)講演-
ニューカレドニア(Societe des Mines de la Tontoura社:SMT)からラテライト・ニッケル鉱石(Limonite、Saprolite)をオーストラリアへ輸出し、クィーンズランド州に建設予定のGladstoneの製錬所(HPAL)で処理する。その理由として、多雨地域では問題となる製錬残渣の処分が、半乾燥地域のオーストラリアでは容易であること、インフラ等が整っていることなどがあげられている。
*1 3県:Southern Province, Northern Province, Island Province
*2 2006年実績
*3 フェロニッケル、マット等中のニッケル金属量
*4 HPAL:High Pressure Acid Leach=加圧硫酸浸出
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表-1.ニューカレドニアの操業中の主要ニッケル・プロジェクト(SLNオペレーション)
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*1 鉱石量
*2 含有金属量(Ni)
*3 Enrichment ore (鉱石前処理で品位を上げている)
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表-2.ニューカレドニアの開発中の主要ニッケル・プロジェクト
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*1 鉱石量
*2 含有金属量(Ni, Co)
*3 土砂等+鉱石量
*4 NST:Falconbridge社の乾式製錬プロセス「Nickel Smelting Technology」


5. ニューカレドニアの法制度改正 -Mathieu Hanaut弁護士(Norman Waterhouse Lawyer)講演-
(1) ニューカレドニアの法制度改正 -Mathieu Hanaut弁護士(Norman Waterhouse Lawyer)講演-
ニューカレドニアは、現在、フランス領であるが、徐々に「独立政府」としてフランス政府からニューカレドニアへ諸権限が移譲されている(Noumea Accord of May 1998, Organic Act of 19 March 1999)。
既に移譲されているものは、雇用・海外投資規制・通信・探鉱・採掘等。現在、移譲途上のものとしては、民間登記・民法・物権法及び商法関係・地方自治関係・教育等。ニューカレドニア及びフランスの双方によって扱われるものとしては、外交関係・出入国管理(移民)等がある。また、フランスが(ニューカレドニアの完全な独立まで)維持するとしているものには、防衛(軍事)・司法・対外的な財政関係がある。
現在、鉱業・労働関係・出入国管理(移民)等の分野での法制度の見直しが進められている。
鉱業分野では、従来法体系が古く不明瞭で分散的なものであるとの認識のもとづいて、地域発展に貢献するニッケル産業の育成を目的に鉱業法の改正作業中で、既に、法案は完成しており、2007年中に議会を通過する予定である。
労働関係法及び出入国管理分野では、ニッケル産業を中心に現地住民だけでは不足する外国労働者、特に技能を持った労働者に関する特別な労働条件や資格の設定についてニューカレドニア現地住民の雇用確保とのバランスに考慮しつつ改正が進められている。
(2) 労働争議
2006年9月、新たに組織された労働組合「New Caledonia’s Worker Union:CSTNC」の呼びかけによるニューカレドニア住民労働者による大規模な労働ストライキが行われ、その影響でGoroニッケル鉱山(開発中)のフィリピン等からの外国人労働者がニューカレドニアから離れるという事態が発生した(替わりに約120名のフィリピン人労働者が12月に到着)。また、労働当局の統計は2005年の民間部門のストライキ等による損失は対前年33%増加の33,000日(人)*1であったと報告している。
*1 直接ストライキに参加したもののほかにストライキによって職場に入れず労働できなかった労働者数分も含む。
6. おわりに
SLN社など地元企業(フランス系資本)によって100年以上にわたってニッケル鉱山開発が行われてきたが、近年、Xstrata社(Falconbrdge社)、CVRD社(Inco社)など国際非鉄メジャーが大規模鉱山開発プロジェクトに参入してきている。これらのプロジェクトの多くは、ラテライト・ニッケルを湿式(HPAL:高圧酸浸出)によって回収するものである。一方、ニューカレドニア政府も鉱業法をはじめ外国投資、鉱業関係法制度の改正に着手するなど、ニューカレドニアのニッケル開発プロジェクトは新たな時代を迎えたと言えよう。
参考文献
Le Nickel – SNL社パンフレット”New Caledonians and SNL : a family story” Le Nickel – SNL社パンフレット”Jour & Hunt, La Societe Le Nikel depuis 125 ans” Xstrata Nickel社パンフレット New Caledonia Business & Resources, Issue 1, 2007/03/30 その他「The 3rd New Caledonia Nickel Conference」プレゼンテーション及びその資料


