報告書&レポート
メキシコ・ペニャスキートプロジェクトの開発状況
| メキシコは古くからの鉱業国であり、現在でも活発な探鉱活動・新規鉱山開発が行われている。しかしながら、同国で最近開発された鉱山は小~中規模なものがほとんどで、世界的に知られるような大規模鉱山の開発は近年稀となっている。その中にあって、メキシコでも有数の鉱山地帯であるサカテカス州コンセプシオン・デル・オロ市(Concepcón del Oro)近郊に位置するペニャスキートプロジェクトは大規模多金属(金・銀・鉛・亜鉛)鉱床として知られており、2008年の生産開始を目指して開発工事が進んでいる。 今般、ペニャスキートプロジェクトの開発現場を訪問する機会を得たので、同プロジェクトの現況について紹介する。 |
1. ペニャスキートプロジェクトの概要
(1) 位置
ペニャスキートプロジェクトは、サカテカス州マサピル町(Mazapil)西方12km(コンセプシオン・デル・オロ市西方27km)に位置する。

図1 ペニャスキートプロジェクト位置図
(出典:Glamis Gold社HP)
サカテカス州は古くからメキシコ有数の鉱山地帯として知られ、一説によると19世紀までに世界で生産された銀の20%はサカテカス地域から採掘されたものである。
(2) 経緯
ペニャスキート鉱区周辺では1950年代にPeñoles社が探鉱を行っていたが、良好な結果は得られなかった。その後1994年から、Kennecott社がポーフィリーカッパー鉱床を対象に250孔の試錐探査を含む本格的な探鉱活動を開始した。1996年に行われた試錐探査の結果、銀-鉛-亜鉛の鉱化を伴うチリ・コロラド(Chile Colorado)鉱床が発見されたが、Kennecott社の開発対象とはならなかった。
1998年3月にWestern Copper Holdings(WC社)*がペニャスキートプロジェクトの権益を100%獲得し、チリ・コロラド鉱床及びその周辺でCSAMT法及び試錐探査を実施した。2000年にはMauricio Hochschild & Cia Ltd.がプロジェクトの68%の権益が獲得可能な探鉱契約をWC社と結びチリ・コロラド鉱床を中心の試錐探査(14孔:総延長4,601m)を実施したが、権益獲得のオプションは行使せず、2002年からWC社が本格的な探鉱活動を再開した。2004年にペニャスコ(Peñasco)鉱床の試錐探査で金の高品位部が発見されたことがプロジェクトの転機となり、探鉱活動の中心は同鉱床に移された(金の高品位部を最初に捕捉した試錐跡の様子を写真1に、ピット開削予定地の様子を写真2に掲載する)。
*)2003年3月にWestern Silver Corporationに名称変更。2006年5月にGlamis Gold Ltd. に買収されWestern Copper Corporationに名称変更。2006年11月にGoldcorp Inc. がGlamis Gold社を買収。

写真1 金の高品位部を最初に捕捉した試錐跡
(後方は本鉱区内で唯一鉱化作用が見られる露頭)
写真2 写真1の露頭からピット開削予定地を望む
(3) 地質・鉱床概要
本地区の最も古い岩石は上部ジュラ系の石灰岩及びチャート(Zuloaga Limestone)であり、これらの岩石を燐灰質の層状チャート及び泥~砂質石灰岩(La Caja Formation)が覆っている。La Caja Formationは頁岩を挟む石灰岩層であるTaraises Formaitonに覆われている。Taraises Formationはコンセプシオン・デル・オロ地区の既存鉱山の最も重要な母岩の一つであるCupido Limestoneに覆われている。
Cupido Limestoneは下部白亜系のチャート質石灰岩(La Pena Formation)に覆われており、La Pena FormationはCuesta del Cura Limestoneに覆われている。頁岩、石灰質シルト岩及び泥質石灰岩から成るIndidura FormationがCuesta del Cura Limestoneを覆っている。主として頁岩と砂岩の互層から成る上部白亜系のCaracol FormationがIndidura Formationを覆っている。Caracol Formationはペニャスキート鉱区内で最もよく見られる岩石であり、第三系のMasapil Conglomerateに覆われている。
本地区の地下には大規模な花崗閃緑岩体が存在すると考えられている。数多くの中性~珪長質の貫入岩が見られ、これら貫入岩の年代は30~40Maと測定されている。
本鉱区には「Outcrop」及び「Azul」と名付けられた二つの熱水性ダイアトリームが存在し、これらの内部及び周辺でペニャスコ、チリ・コロラド、アスール(Azul)、エル・ソトル(El Sotol)等の鉱床が発見されている。鉱化は脈状、ストックワーク状または鉱染状の形で見られる。上記鉱床の内、現在のところ鉱量評価の対象となっているのはペニャスコ及びチリ・コロラド鉱床の二つである(表1、表2参照)。
| 表1 ペニャスキートプロジェクトの埋蔵量(Proven+Probable Reserves:2006年) |
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
(出典:Penasquito Feasibility Study, M3 Engineering & Technology Corp.) |
|
表2 ペニャスキートプロジェクトの資源量 |
|
||||||||||||||||||||||||||||||||
|
*)proven and probable reservesを含む |
ペニャスコ鉱床は「Outcrop」ダイアトリームの東半分に位置し、少なくとも幅500m、長さ1,000mの規模を有する。鉱体は小規模の石英斑岩岩株及び岩脈の周辺に形成されており、珪長岩の岩脈も伴われる。主要鉱石鉱物は閃亜鉛鉱、方鉛鉱、輝銀鉱であり、脈石鉱物として方解石、菱マンガン鉱、石英、蛍石等を産する。母岩の多くは貫入岩起源の熱水角礫岩であるが、貫入岩自体も鉱化作用を受けている場合もしばしば見られる。
チリ・コロラド鉱床は「Azul」ダイアトリームの南側に広がる南北方向の破砕帯に位置し、脈状及び割れ目を充填する産状を呈する。母岩は弱い珪化作用を受けた砂岩、シルト岩及び頁岩である。図2に両鉱床周辺の地質図を示す。
鉱化作用の南限及び西限は確認されておらず、本鉱区内では現在でも活発な探鉱活動(1日あたりのボーリング掘削長550m)が継続されている。

図2 ペニャスキートプロジェクト地質図
(出典:Penasquito Feasibility Study, M3 Engineering & Technology Corp.)
2. ペニャスキートプロジェクトの開発計画
2006年7月に完了したFSによると、鉱山開発はペニャスコ鉱床及びチリ・コロラド鉱床を対象として行われる。現在、道路・鉱山宿舎等の建設が進められており、2007年の第1四半期中に操業に必要となる当局の許認可取得、地表権の交渉作業、資金調達等を完了させる予定となっている。ショベル、トラック等の鉱山機械の調達は2007年第4四半期に終え、2008年第1四半期からピットの開削を開始する予定である。
操業開始当初は酸化鉱を対象にした金・銀のヒープリーチングのみを行う。酸化鉱処理プラントは2008年7月からフル操業に移行する予定である。硫化鉱の処理(亜鉛精鉱及び鉛精鉱(含金銀)の生産)は2系統のプラントで行う予定であり、第1系統は2009年7月、第2系統は2011年10月からの操業開始を計画している。

図3 ペニャスキートプロジェクト ピット・プラント配置図
(出典:Penasquito Feasibility Study, M3 Engineering & Technology Corp.)
初期投資額は882百万US$、粗鉱処理量は100,000t/日(開山当初は50,000t/日)、17年の鉱山寿命を予定している。年間生産量(17年間の平均)は、金387,500oz(12t)、銀22,846,000oz(711t)、鉛71,125t、亜鉛137,400tを予定している。銀、鉛及び亜鉛を副産物として評価した場合のキャッシュコストは、378US$/oz-Auである。プロジェクトの内部収益率(IRR:税引後)、正味現在価値(NPV)及び投資回収期間(Payback)の計算結果は表3のとおりである。
|
表3 ペニャスキートプロジェクトの内部収益率、正味現在価値及び投資回収期間 |
|
| (出典:Penasquito Feasibility Study, M3 Engineering & Technology Corp.) |
3. おわりに
開発が計画どおりに進めば、ペニャスキートプロジェクトは2010年には亜鉛75,000t、鉛40,000t、金6t、銀470tを生産し、現在メキシコ最大の亜鉛鉱山であるフランシスコ・I・マデロ鉱山(ペニョーレス社が操業:2005年の生産量は亜鉛65,400t、鉛8,900t、銀43t)を凌ぐこととなる。さらに、硫化鉱処理がフル操業に移行する2012年以降は、年間亜鉛生産量150,000t以上に達する世界有数の亜鉛鉱山となることが期待される。このため、同プロジェクトは今後のメキシコ鉱業の発展及び世界の亜鉛需給に少なからぬ影響を与えるものと思われ、その開発動向を注視する必要がある。
また、元々ポーフィリーカッパー鉱床を対象として本格的な探鉱活動が開始された経緯からも推察されるとおり、ペニャスキート鉱区の地質条件はポーフィリーカッパー鉱床のものと類似しており、同鉱区内の鉱床は「ポーフィリージンク」型と呼ばれるべき性質を持つ可能性がある。このため、これら鉱床の成因究明が大規模亜鉛鉱床を発見するための新たな探鉱指針の確立に寄与することが期待される。


