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オーストラリア労働党のウラン政策変更-連邦野党、州政府与党である労働党の「新規ウラン鉱山開発禁止政策」の破棄とその後の見通し-
| オーストラリア労働党は、2007年4月28日、党全国大会において新規ウラン鉱山開発の「禁止」から「容認」へとその政策を180度転換した。 20年以上もの間、新規ウラン鉱山開発を頑なに拒んできた労働党の政策転換には、世界的なウラン需要拡大に乗り遅れることは資源大国オーストラリアの国益を損なうとの「民意」をつかみ、2007年後半に予定されている総選挙戦でこの方面で有利に立ちたいとの思惑が感じられる。 本稿では、労働党の「新規ウラン鉱山開発禁止政策」の変更とその見通しについて報告する。 |
1. はじめに -オーストラリアの政治構造と「3ウラン鉱山政策」-
オーストラリアの政治構造は、連邦政府と州政府(準州・首都特別区)から成り立っているが、州政府の独立性は高く、ウラン鉱山開発を含む鉱業や教育・労働などの行政のほか、司法、立法に到るまでひとつの「国」として振る舞っている。この点で中央集権的政治支配の強い日本の中央と県との関係とは大きく異なっている。
オーストラリアにおけるウラン・原子力政策は、1980年代の反核兵器・反原発の世界的流れの中で大きく変わった。1983年、連邦政府の政権を握っていた労働党は、新規ウラン鉱山の開発を禁止する政策を実施、当時国内のウラン鉱山が3鉱山であったことから「3ウラン鉱山政策(Three Mine Policy)」と呼ばれ、現在の自由党・国民党連立政権が誕生する1996年まで新規ウラン鉱山開発禁止が続いた。*1
*1 「3ウラン鉱山政策」は、対外的な事項(貿易・外交・国防など)に権限を有する連邦政府が、ウラン輸出を制限することによってウラン鉱山開発を事実上禁止した政策。ウラン鉱山開発許可の権限は州政府にあるが、国内でウランを消費しないオーストラリアでは、輸出を制限されることは実施的にウラン生産を制限されることを意味している。1996年にウラン開発を推進する自由党・国民党連立政権によって連邦政府レベルで「3ウラン鉱山政策」が廃止された後は、ウラン鉱山開発許可の権限を握る州政府が今日に到るまでウラン鉱山開発そのものを禁止していた。
2. 労働党全国党大会の決定
労働党全国党大会では、90分間に及ぶ議論の後、党幹部でもあるPeter Garrett影の環境相、反ウラン開発派Tony Albanese氏ら新規ウラン鉱山開発禁止政策変更反対派の修正案が205対190で否決され、南オーストラリア州首相Mike Rann氏による新規ウラン鉱山開発禁止政策廃止案が承認されて、「3ウラン鉱山政策」から25年に及ぶ新規ウラン鉱山開発禁止政策が廃止された。
このような政策変更に対して党内には依然として根強い反対意見があり、今回の新規ウラン鉱山開発禁止政策廃止の決定はこれら反対派に配慮して、「新規ウラン鉱山開発の許可・禁止の権限は各州に残される」とした拘束力の弱いものとなっている。
3. 連邦政府与党の反応
連邦政府は、労働党がウラン政策変更を決定した4月28日、Howard首相が、「ウラン鉱山開発及び原子力エネルギー政策に関して:オーストラリアの前進」と題するウラン鉱山開発および原子力の新たな戦略政策を発表している。
その中で、「世界の気候変動の重大性を鑑み、世界有数のウラン埋蔵量を有する国として、オーストラリアは、自国のウラン資源を持続可能な方法で開発する責任がある」、「オーストラリアにはウラン鉱山開発及び輸出を妨げている過剰な障壁があり、その結果、大きなビジネスチャンスを逃している」、「ウラン鉱山開発拡大を妨げるウラン鉱の採掘及び輸送に関する重複、煩雑な規制等の不必要な制約を排除する」ことを示している。
また、「オーストラリアは、最終的に原子力を使用することになるかどうかは別として、・・・」と慎重な態度をとりながらも「先進の第四世代原子炉開発計画への参加」など原子力発電推進を主張、反原子力発電の立場をとる労働党との政策の違いを際立たせている。
4. 鉱業界の反応
鉱業界では、オーストラリア鉱業協会(MCA)が、「労働党のウラン政策変更-歓迎すべき第一歩」と題して、労働党がウラン鉱山の新規開発を禁止する綱領の廃止決定を歓迎するとの声明を発表している。
一方で、MCA専務理事のMitchell H Hooke氏は、「この労働党綱領の歴史的転換は、過去のイデオロギーからの脱却を示しているが、豪州の現在の規制制度で事業拡大の許認可権を有している州法に根本的な変更をもたらさなければ、ただ単なる形ばかりの変更に過ぎなくなってしまう。」と警告。
また、「労働党政府の中には、ウラン鉱山開発に反対している勢力もいるが、これは、ウラン産業の効率的な開発、規制、拡大にとって重大な障害であり、時代錯誤であり一貫性がないものである。・・・ウラン鉱山開発に関して一貫した政策を確実に実施するため、州政府は、ウラン生産物の輸送を不自然に制限する政策を廃止すべきである。この政策のために、費用、スケジュール、道路、鉄道、海上輸送業務に影響が出ている」として、州政府に新規ウラン鉱山開発禁止政策撤廃を強く訴えている。
5. 政策変更に対する各州政府の反応
北部準州は、Clare Martin首相がウラン鉱山開発に反対しているが、準州法により準州大臣による鉱山開発許可は連邦政府の助言に従って行うとされていることから、北部準州でのウラン鉱山開発は最終的には連邦政府の意向(開発推進)に従うと見られている。現在、ERA社のRanger鉱山が存在し、Jabiluka鉱山の開発が期待されているほか、多数のウラン探査プロジェクトが存在している。 南オーストラリア州は、既にOlympic DamとBeverley鉱山が操業し、新たにHoneymoon鉱山も来年には生産開始が見込まれており、Mike Rann首相は、「南オーストラリア州では、160件の探鉱ライセンスをすでに発給し、更に60社が100件以上のライセンスを申請している」、「鉱業は同州の主要産業であり」、「(ウラン)政策変更は、同州にとって何ら悪影響を及ぼすものではない」として政策変更を歓迎している。 クィーンズランド州は、主要なエネルギー資源である石炭の産出があり、ウラン資源開発が州の基幹産業である石炭産業に悪影響を及ぼすことを恐れていると言われている。Peter Beattie首相は、3月に一時、全国党大会での方針に従う(新規ウラン鉱山開発禁止政策の破棄)との意向を示したが、閣内での反対に合い、4月には、「政策破棄の決議に関わらず、新規ウラン鉱山開発禁止政策を継続する」と態度を硬化させている。 西オーストラリア州は、鉄鉱石・ニッケル・金など鉱産資源による収益は大きく、あえてウラン資源の開発を行わなくても良い状況にある。また、天然ガスの州内への一定量供給など政策の独自性が強く、Alan Carpenter首相は、「ウラン鉱山を開発するか否かは州が決定すること」と主張、また、ウラン鉱山の環境への影響とウラン鉱山開発を認めたことで核廃棄物の処分地とされることを警戒しているとも言われている。一方で、西オーストラリア州では、鉄鉱石大手のRio Tinto社がKintyre鉱床を、同じくBHP Billiton社がYeelirrie鉱床など鉱区を保有しており産業界からの圧力も強いと見られている。 ニューサウスウェールズ州は、Morris Iemma首相が、「連邦労働党が新規ウラン鉱山禁止政策を破棄しても、これまでの政策を変更することはない」との態度をとっている。一方で、州政府鉱業関係者は、「Broken Hill地域西部は、南オーストラリア州から続くウラン鉱床地帯(南オーストラリア州で建設中のHoneymoon鉱山は州境に極めて近い)であり、大規模鉱床の可能性はともかく、ウラン資源ポテンシャルはある」としている。
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表1.ウラン探鉱・開発に関する連邦政府・各州政府の規制 |
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表2.オーストラリアにおける主要ウラン鉱山プロジェクト |
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図1.オーストラリアにおける主要ウラン鉱山プロジェクト
(データ出典:MINMETデータベース、Intierra)
6. 今後の展望
労働党全国党大会で新規ウラン鉱山開発禁止政策は廃止されたものの、実際には新規ウラン開発の是非は州政府の判断に委ねられたことから、準州法に基づき最終的には連邦政府の意向に従うとされている北部準州、現在ウラン鉱山がありウラン鉱山を含め鉱業が同州の主要産業である南オーストラリア州、新規ウラン鉱山禁止路線を取りながらも州労働党内が必ずしも一枚岩ではないクィーンズランド州、資源ポテンシャル的に期待される西オーストラリア州と「ウラン鉱山新規開発難易度」の州別ランキングの順番に大きな変化はない。
しかし、労働党が連邦総選挙で勝利しKevin Rudd政権が誕生した場合、連邦政府が「新鉱山開発は禁止しないが積極的に認めもしない」(各州政府に判断を委ねる)という立場を取ると、現状、新規ウラン鉱山開発に反対の立場を示している準州政府が新規ウラン鉱山の開発を認めないとした場合、連邦政府が積極的に開発を指示するとも考えにくいことから、現在、新規ウラン鉱山を最も開発し易いとされる北部準州が、反対に開発がしにくいという状況が発生する可能性も考えられる。
オーストラリアにおける新規ウラン鉱山開発の将来は、この4月の労働党全国党大会が大きな節目とされてきたが、2007年後半に予定されている連邦総選挙次第では意外な展開も考えられる。
7. おわりに
中国・インドでの原子力発電所建設計画や、地球温暖化対策としての原子力発電の見直し、米国の原子力発電政策の転換などを背景にウラン価格は高騰し、ウラン資源確保が激化している現状で、世界の埋蔵量の36%(第1位)でありながら、世界のウラン生産量の23%を産出している(第2位、第1位はカナダの約30%)に過ぎない現状に、オーストラリア鉱業界を中心に「ウラン鉱山の新規開発を禁止する政策は国益を損なう」との考えが国全体に広がっている。労働党は、この民意を捉え、2007年後半に予定されている連邦議会総選挙を見据えて、より現実的な政策を国民に提示したと言える。
また、州政府としては唯一、新規ウラン鉱山開発に積極的な南オーストラリア州では、既に中国企業が新規ウラン鉱山開発禁止政策撤廃を見越してオーストラリアの探鉱開発ジュニア企業への資本参加やJVを形成しており(Marathon社へのCITIC Group社(中国)による資本参加、PepinNini社とSinosteel社(中国)とのJV形成、Compass Resources社へのHunan Nonferrous Metals Group社(中国)による資本参加とプロジェクト権益取得等)、中国によるオーストラリアでのウラン資源の長期安定供給戦略が現実のものとなってきたと考えられる。
参考文献
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‘Howard pulls nuclear switch in climate debate’ AFR 28-29/04/07
‘Rudd: it’s fair go’ Labour vs. Self-interest’ AFR 28-29/04/07
‘Beazley factor may help overturn mines ban’ AUS 28/04/07
‘Mines policy shafted’ AUS 28-29/04/07
‘Mines policy shafted’ AUS 28-29/04/07
‘Australian Labor Party lifts ban on new uranium mines, but how far?’ Author: Ross Louthean, http://news.scotsman.com/latest.cfm?id=657142007 28/04/07


