報告書&レポート
インドネシア鉱業法改正の行方 その6(最近の鉱業セミナーにおける議論の傾向)

インドネシアでは鉱物石炭新鉱業法案(RUU Pertambangan Mineral dan Batubara、以下「新鉱業法案」)の審議が大詰めに入っている中、鉱業関係者による新鉱業法の議論が活発に行われている。 2007年1月から3月にかけて、新鉱業法案の内容を中心に鉱業投資を活性化させるためのセミナーがジャカルタで3回開催された。(財)国際鉱物資源開発協力協会(JMEC)とインドネシア鉱業協会(IMA)が1月22日に共催したインドネシア鉱業への新たな投資(資源国と消費国の相互繁栄を求めて)と題するセミナー(以下「JMECセミナー」という)および在インドネシア豪州大使館、豪州投資促進庁が1月30~31日に開催したOZMINE 2007: Australian Mining and Petroleum Exhibition and Conference(以下「OZMINEセミナー」)、並びにインドネシア鉱業協会(IMA)、インドネシア国際問題評議会(ICWA)、BIMASENA(鉱山エネルギー学会(Mining and Energy Society))の3者が3月20日に共催したインドネシア鉱業の重大な分かれ道(Indonesia Mining at A Critical Crossroad)と題するラウンドテーブル・ディスカッション(以下「円卓会議」)である。 本稿では、新鉱業法案の内容に関するこれらセミナーの概要と、セミナーに出席した要人の発言から現在議会で審議されている新鉱業法案の議論の傾向を紹介する。 バンドン工科大学地質鉱物学部長イルワンディ・アリフ(Irwandy Arif)教授1 は、3月20日の円卓会議の席上、「議会第7委員会(エネルギー・鉱物資源、技術調査、環境担当)から直接入手した最新情報として、第7委員会は、新鉱業法案のポイントのすべてに合意し、唯一まだ改定の可能性を残すのは鉱業事業協約(PUP:Perjanjian Usaha Pertambangan=Mining Business Agreement)制の導入と、鉱業投資における付加価値(加工や製錬)の義務付けに関する細則のみになっている。」と明言。 4月12日、エネルギー鉱物資源省鉱物石炭企業局Mangantar S. Marpaung局長と面談し、上記の事実の確認を行ったところ、同様の回答があり、新鉱業法案の議論の的は現在、上記2項に絞られてきたと見られる。 1インドネシア鉱業専門家協会(Association of Indonesian Mining Professional)会長、国営鉱山会社アネカ・タンバン(Antam)監査役 |
1. JMECセミナー
1.1 開催日2007年1月22日
1.2 主催者(財)国際鉱物資源開発協力協会及びインドネシア鉱業協会
1.3 開催場所ジャカルタ市内(Nikko Hotel)
1.4 出席者約130名
主要出席者は次のとおり。
(a) 国際鉱物資源開発協力協会(JMEC) | 高木俊毅理事長、山本敏明顧問 | |
(b) インドネシア鉱業協会(IMA) | ダルマ・アンビアール(Darma Ambiar)副会長 プリヨ・プリバディ(Priyo Pribadi Soemarno)専務理事 |
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(c) 投資調整庁(BKPM) | ダルマワン・ジャスマン(Darmanwan Djajusman)副大臣 | |
(d) 経済担当調整大臣府 | ウィンピー・ジェジェップ(Wimpy S Tjetjep)副大臣 | |
(e) エネルギー鉱物資源省 | シモン・スンビリング(Simon Felix Sembiring)鉱物資源石炭地熱総局長 |
JMECセミナー(平成19年1月22日)
左から投資調整庁ダルマワン・ジャスマン副大臣、
経済担当調整大臣府ウィンピー・ジェジェップ副大臣、
インドネシア鉱業協会プリヨ・プリバディ専務理事、
エネルギー鉱物資源省シモン・スンビリング鉱物資源石炭地熱総局長
1.5 概要
1.5.1 基調講演
(1) ムハマド・ルトゥフィ(Muhammad Lutfi)投資調整庁大臣 (ダルマワン・ジャスマン(Darmanwan Djajusman)副大臣代読)
大臣は、インドネシアの鉱業概況、ならびに鉱業および鉱業サービス分野の投資の現況を紹介し、鉱業分野の投資環境改善については、(a) 法律の整備、(b) 鉱業投資に対する保障のコミットメント、(c) 鉱業投資インセンティブ、サービスの改善、(d) 外国人労働者就業条件の緩和、(e) 鉱区情報等の鉱業データベースの精度の向上、(f) 探鉱・鉱山開発活動の促進、(g) 鉱産物の付加価値化の創出施策、(h) 環境保護の徹底、(i) 企業の社会責任(CSR:Corporate Social Responsibility)の追求などの施策が重要であると提言。
JMECセミナー 講演聴講参加者
(平成19年1月22日)
(2) プルノモ・ユスギアントロ(Purnomo Yusgiantoro)エネルギー鉱物資源大臣(シモン・スンビリング(Simon Felix Sembiring)鉱物資源石炭地熱総局長代読)
シモン総局長がプルノモ・エネルギー鉱物資源大臣の代理として講演。シモン総局長は、事前に準備されていた大臣の基調講演資料を代読せず、自身の新鉱業法案改正に関する考えを披露。インドネシア鉱業は、1967年以降40年間にわたり鉱業事業契約(COW)制度の下、外国鉱山企業に市場を開放し、Freeport社、Newmont社、PT Inco社など多くの鉱山会社がインドネシアに参入し、経済発展に大きく貢献した。鉱業事業契約(COW)制度は、インドネシアの復興期に有効に機能したが、民主化、地方分権化の時代を迎え、国民共有の財産である鉱物資源(国の富)が外国資本に収奪され、国民に利益が還元されていないとする意見が議会関係者、国民の中にある。インドネシア憲法は、資源は国民の最大利益のために活用すると規定しており、鉱業政策の変更に迫られている。鉱物資源開発はグローバルな産業である。鉱業事業契約(COW)制度は、外国企業を優遇する一方で、国内企業に厳しい競争を課し、逆差別となっている。そのため、鉱業事業契約(COW)制度を廃止し、鉱業事業許可(Izin Usaha)に変更することで内外投資家の差別を撤廃しようとするもの。
鉱業投資が停滞している要因は、(a) 鉱業法と森林法((1999年法律第41号)(Undang-undang Nomor 41 Tahun 1999 Tentang Kehutanan))による規定:保護林内における露天掘り採掘の禁止と代償地問題、(b) 鉱業権の管理が中央政府から地方政府へ移譲されたことによる混乱、(c) 土地の補償(Land Compensation)と人権の問題、(d) 鉱滓管理(Tailing Management)、(e) 鉱業投資優遇措置、(f) 新鉱業法案の国会審議の停滞、(g) ステークホルダー間のミスコミュニケーション、(h) 中央政府の権限低下などが原因となっている。新鉱業法案には、地方分権化、環境保護、付加価値の義務化などが明記され、2007年3月に可決される。
(3) ウィンピー・ジェジェップ(Wimpy S Tjetjep)経済担当調整大臣府副大臣
ウィンピー副大臣は、鉱業投資の鈍化の要因は、(a) 1997年のアジア通貨危機、スハルト政権崩壊後の民主化の流れを受けて地方分権化が進展、(b) 鉱業法と森林法、地方行政法などとの関連法の不整合(オーバーラッピング)が発生し、(c) 地域社会開発に対する新たな要求、(d) 国民の環境意識の高揚による意見の対立、(e) 金属価格の高騰による天然資源収入配分の見直し、(f) 地域からの利益還元要求で、これらが鉱業投資リスクを増大させている。
経済担当調整大臣府は、2006年8月、石油・天然ガス及び鉱物資源開発分野において、産業界が指摘する法制度の不適合及び各省庁による施策の不調和等問題を解決するため、タスクフォースを設立し、税制、森林など政府間の連携、調整に当たっている。
新鉱業法の成立により鉱業投資が活性化することに期待を表明。
1.5.2 一般講演
(1) 国際鉱物資源開発協力協会 高木俊樹理事長
我が国とインドネシアとは深い相互依存・補完関係にある。日本はインドネシアにとって輸出入ともに最大の貿易相手国である。日本は、インドネシアから石油、天然ガス、金属鉱物など各種の天然資源を輸入し、インドネシアは日本から資本財、材料、部品等の産業用資機材を輸入している。日本企業はバツヒジャウ(Batu Hijau)鉱山、ソロアコ(Sorowako)鉱山へ資本参加し、グレシック(Gresik)銅製錬所を建設、運転を行なっている。インドネシアは日本にとって重要な資源供給国であり、日本は鉱業投資の活性化に重大な関心を持っている。
インドネシアで鉱業投資を阻害している要因は、法の不整合と未整備にある。アジア最大の鉱業国でありながら、近年の法制度の不安定さから積極投資を行うまでには至っていない。現状を打開するためには外資を活用し、環境とも調和した持続的な資源開発を進め、国民生活水準の向上に期することが重要となる。日本は、明治の復興期には外資や外国人技術者を活用することで、今日の経済の礎を築き上げた。JMECセミナーを通し、政府関係者による投資環境改善の一層の努力と、それによる鉱業投資の増加を祈念する。
(2) インドネシア鉱業協会 ダルマ・アンビアール(Darma Ambiar)副会長
ダルマ副会長(国営鉱山企業PT Antam開発担当取締役)は、2007年の展望(Outlook 2007: Challenges and Opportunities in Mining Investment in Indonesia)と題する講演を行った。同講演では、現在鉱業部門が直面している問題点、(a) 鉱業事業契約(COW)の存続の不確実性、(b) 保護林に関する露天掘り採掘禁止他、(c) 地方分権に係る問題が紹介された。
(3) 国際鉱物資源開発協力協会 山本敏明顧問
2006年10月、インドネシアを訪問し、鉱業・投資関係政府機関およびインドネシアで鉱山開発を手掛ける鉱山会社関係者と面談し、鉱業投資環境に関する意見交換と様々な法令を入手し、投資環境の現状分析を行った。その結果、インドネシアへの鉱業投資を活性化させるためには、(a) 法律間の整合を図った上で新鉱業法案を早期に成立させること、(b) 鉱業投資は、探鉱から開発までのリードタイムが長いため、政府が長期に鉱業活動のセキュリティーを保証すること。(鉱業事業契約(COW)および類似の契約により)、(c) 内外差別を撤廃すること、(d) 森林内における鉱山開発の規制は、世界水準に照らし適正かつ合理的であること、(e) 産官学の緊密な協力の下、鉱物資源分野における人材を育成し、地方政府に配置すること、(f) 鉱業投資分野における関係省庁間、中央―地方政府間の問題は、経済担当調整大臣府が迅速かつ的確に問題解決に当たること、(g) フレーザー研究所が指摘する政治的安定の確立、地質・鉱区データベースの構築、治安の改善につとめること、(h) 製錬の義務化はWTO、GATTの自由貿易ルールに抵触する恐れがあり、また、鉱業投資が更に落ち込むことになるので法律に盛り込むべきではない、等の提言を行った。
1.6 まとめ
JMECセミナーは、新鉱業法案が2005年5月に議会に上程されてから初めて外国鉱業関係者がジャカルタで主催したセミナーとなった。新鉱業法案の改正に対する産業界の意見は、これまで外国鉱山企業の代弁者であるインドネシア鉱業協会(IMA)が、議会、中央・地方政府、非政府機関などに対しロビー活動を行ってきたが、今回のJMECセミナーは、そうした状況の中で、日本の鉱業関係者がインドネシア政府に対し新鉱業法案に対する懸念を直接伝えた意義は大きく、参加者が約130人を得たこともインドネシア鉱業関係者が日本の鉱業界に寄せる期待と関心の強さを示すものとなった。
2. OZMINE
2.1 開催日2007年1月30~31日
2.2 主催者
豪州大使館、豪州投資促進庁(Australian Investment Committee)及び豪系企業27企業(PT Nusa Halmahera Minerals、Thiess Contractors Indonesia、Leighton Contractors Indonesia、Petrosea、Rio Tinto、ESI Alphatec、Mainpac、Mincom、iVolve、Surpac、Minex Group 他)
2.3 開催場所ジャカルタ市内(JW Marriot Hotel)
2.4 出席者総数約250名
主要出席者は次のとおり
(a) 豪州大使館、豪州投資促進庁 | ルイス・ハンド(Louise Hand)公使 | |
(b) エネルギー鉱物資源省 | プルノモ・ユスギアントロ(Purnomo Yusgiantoro)大臣 | |
(c) 国会常設第7委員会 | アグスマン・エフェンディ(Agusman Effendi)委員長 | |
(d) エネルギー鉱物資源省鉱物資源石炭地熱総局 | Simon Felix Sembiring総局長 | |
(e) 鉱山技術者専門家協会 | イルワンディ・アリフ(Irwandy Arif) | |
(f) インドネシア鉱業協会 | アリフ・シレガル(Arif Siregar)協会長(PT Inco社長) | |
(g) PT. BHP Billiton Indonesia | アンドリュー・ウィルソン(Andrew Wilson)社長 | |
(h) Rio Tinto | チャーリー・ルネガン(Charlie Lenegan)社長 | |
(i) Oxiana Limited | オーウェン・ヘガティー(Owen L. Hegarty)社長 | |
(j) PT. Lahai Coal | インドラ・ディアンナンジャヤ(Indra Diannanjaya)社長 | |
(k) Leighton Contractors Indonesia | ステファン・ウィルソン(Stephen Wilson)社長 | |
(l) その他各社重役、上席調査員 |
2.5 概要
OZMINEセミナー
オープニングセレモニー(平成19年1月30日)
OZMINEセミナーでは、JMECセミナーで見られた新鉱業法案の内容に関する活発な質疑応答は見られなかった。同法案の趣旨に関するプルノモ・エネルギー鉱物資源大臣の基調講演およびシモン総局長の講演を聴講した後、退席する参加者が目立った。
(1) プルノモ・ユスギアントロ・エネルギー鉱物資源大臣基調講演
プルノモ大臣は、「インドネシア鉱業の持続的発展」と題する基調講演を行い、鉱業投資の停滞を是正するには、(a) 鉱業投資に係る法整備、(b) 内外差別の撤廃、(c) 地方分権化の促進、(d) 鉱業許認可の透明性確保が重要であるとした。また、これら一連の投資環境改善の取り組みとして、新鉱物石炭鉱業法案の議会への上程及び経済担当調整大臣府における連携調整チーム(森林省、環境省、エネルギー鉱物資源省、財務省、内務省)の結成をあげた。また、鉱業投資に関し、投資家とインドネシアとの相互利益を最大化させ、WIN-WINソリューションの関係を構築するためにも、地域住民の最大雇用、製品の付加価値化、地域住民との十分な対話、環境配慮、地域開発、企業社会的責任(CSR)の重要性を強調。
インドネシア政府は、鉱業投資を活用し、貧困を撲滅し、雇用を創出し、経済を軌道に乗せること基本方針としており、そうした方針に従う外国投資家の参入を歓迎するとした。
(2) シモン・スンビリング・鉱物資源石炭地熱総局長講演
シモン総局長は、JMECセミナーと同様の講演を同様の口調で行った。新鉱業法案は、(a) 鉱業事業契約(COW)を廃止、(b) 事業許可制(IUP)へ移行、(c) 鉱業権管理の地方分権化を明記、(d) 内外差別を撤廃、(e) 国家保有鉱区(State Reserve)を設定、(f)製錬の義務化を盛り込み、2007年3月に成立する。
シモン総局長は、鉱業事業契約(COW)制度の廃止について以下の理由を挙げた。
ⅰ 政府は、共同実施者(パートナー)ではなく法の番人(レギュレーター)である。
・Newmont Minahasa Rayaに端を発する政府と鉱山会社との係争、Grasberg銅鉱山の鉱業事業契約(COW)の見直し問題などを受け、政府の立場が複雑化している。
・地方分権化はステークホルダーに自由な発言の機会を与えたが様々な意見の対立を生み、政府は外国投資家のパートナーであり、レギュレーターである関係を両立させることができなくなってきた。
・資源のない日本、韓国が大きく発展し、資源のあるインドネシアが依然貧しい状況にある。ボゴール宣言によれば、先進工業メンバーは域内格差の是正を図るため、貿易、投資の自由化、円滑化を促進し、域内格差の是正を図るとされている。鉱業投資における利益の配分格差は拡大するだけで、途上国メンバーは何ら利益を享受していない。
・今期の新鉱業法の改正は、国民共有の資産である天然鉱物資源を次世代まで保護し国民福祉のために有効活用する鉱業政策の転換期にあたるものと考えている。
ⅱ 国際調停機関
・鉱業事業契約(COW)は、外国投資家に対し排他的権利を与え有効に機能したが、契約は、G2G(Government to Government)ではなく、G2B(Government to Business)である。一度、政府と鉱山会社に係争が生じる場合、国際調停機関で仲裁を受けることになる。しかし、2億4,000万人の人口を抱える国家が、一企業(講演では「ピーナッツ」と表現)から提訴され、国際調停裁判所で審判を受けることは、国家として許し難い屈辱である。
OZMINEセミナー 講演聴講参加者
(平成19年1月30日)
ⅲ その他
・鉱業事業許可(Izin Usaha)は、外国投資家がインドネシア法人(PMDN)を設立することで事業許可を与えるため、投資家フレンドリーな法案である。
・国家保有鉱区の開発は、外国投資家は国営鉱山企業(講演ではAntamやTimahではなく、政府出資100%鉱山会社と発言)とのB2Bで開放される。
・鉱業事業契約(COW)は、これまで国会、大統領の承認等許認可に2年を要していたが、事業許可(IUP)制では数か月に短縮できる。
・製錬義務化は、付加価値が消費国において生まれている現状を改善し、国内産業を育成し、雇用機会を創出するための措置である。
・製錬義務化は外国投資家に製錬所の建設を強いるものではなく、国内で地金化することを規定するもの。今後のグレシック製錬所の能力増強は、政府と投資家の相互利益に適うものであり歓迎する。
・政府は、政府規定2007年第1号により加工工業を含む15の分野で優遇税制措置を講じている。製錬所はその対象となっている。
[注]Simon総局長講演に関する質疑応答は、司会者による質疑挙手の問い掛けにもかかわらず、参加者からの質問はなく同氏は直ちに退場された。
(3) 業界関係者と識者の講演
インドネシア鉱業協会(IMA)による講演では、アリフ・シレガル会長(PT Inco代表取締役)がJMECセミナーと同様のタイトルと資料で実施した。
バンドン工科大学地質鉱物学部のイルワンディ教授は、地方分権がもたらす問題(The Problems of Decentralization of Mining Industry in Indonesia)と題する講演を行い、地方分権化は、(a) 地方によって異なる鉱業規則の制定、運用、(b) 人材不足、資質の欠如、(c) 鉱業権情報の隠匿、(d) 異なる交付基準の運用、不透明性の増大、(e) 鉱区セキュリティーの喪失、(f) 鉱業権審査手続きの煩雑化、(g) 異なる手数料、過重な地方税の徴収など、を惹起していると指摘し、最も憂慮すべき問題は、地方政府が鉱業に対して過重な地方税を課すことであると報告。
ただ、同講演の結論では、鉱業部門が直面している最大の問題は、地方分権ではなく、保護林に関する森林法の規定が事実上、鉱業投資を凍結している要因との現状認識を示した。
2.6 まとめ
(a) 豪系企業である、Rio Tinto(Ni)、Oxiana(Au,Ag)、PT Nusa Harmahera (Newcrest)(Au)、BHP(石炭)はインドネシアへの鉱業投資を加速させている。2 Oxiana社は、OZMINEセミナー前日(1月29日)、ススマトラ島にあるMartabe金鉱権益を保有するAgincourt社の買収計画(4億1,500万豪US$)を発表している。
(b) 新鉱業法案に係る豪系企業の最大の関心は、鉱業事業契約(COW)の廃止・存続、税制、森林省による森林指定区分(Functional Facility)変更の3問題となっている。
(c) 製錬義務化に関する豪系企業の反応は、探鉱案件の多くが、金、ニッケル、石炭をターゲットとしているため憂慮の声は少なく、ニッケル案件であるRio TintoのLa Sampala、Eramet(仏企業)のWeda Bayなどは共に製錬所の建設を前提としているためむしろ既定路線と受け止めているようである。
(d) さらに、豪州は、非鉄金属鉱石輸出国であるため、インドネシアの製錬義務化は豪州の競争力を高めることになり、日本と異なる立場の違いを鮮明にしている。
(e) OZMINEセミナーは石油企業の出展、関係者の参加は少なく、大手非鉄金属企業関係者が参加するセミナーとなった。
(f) OZMINEセミナーが、2か月もない準備期間を押して急遽1月に開催された理由は、2月中旬に豪州パースで開催されるAPEC鉱物資源閣僚会議に向けた外交資源政策の一貫として豪州政府のプレゼンスを高める狙いや、新鉱業法案の成立を目前に控え豪系企業の鉱業投資案件をアピールする狙いが窺える。
(g) OZMINEセミナーは、Rio Tinto鉱業事業契約交渉に対する豪州政府によるインドネシア政府へのプレッシャーと督促と言える。
(h) 豪系企業は、小規模鉱山開発は鉱業事業許可(Izin Usaha)で、長期間の投資セキュリティーが必要な大規模鉱山開発は、税制の固定と森林区分の指定変更を行わないとする政府保証を必要とするとした。
2 Rio Tinto社は、中部スラウェシ州La Sampalaニッケルラテライト鉱開発。PTNHM社は、ハルマヘラ島北マルク県Gosowong金鉱開発。Oxiana社は中部カリマンタンKalimantan Gold、北スマトラ島Martabe金鉱開発、BHPはGagニッケル鉱開発と石炭鉱山
なお、OZMINEセミナーは2日間の日程で開催されたが、講演初日は、鉱業界は鉱業事業契約(COW)の廃止、保護林内にける露天掘り採掘の禁止、地方分権化に伴う鉱区セキュリティの喪失などによって外国投資が停滞していることに危機を警鐘するものであった。講演2日目は、Oxiana社による「開発途上国における鉱山開発と経済利益(Kalimantan Goldプロジェクトを含む)」、Thiess Indonesiaによる「インドネシアにおける鉱業契約の利益と課題」、Leighton Contractors Indonesiaによる「企業の社会的責任」、Kalimantan Gold社による「地域開発計画および住民対話の重要性」に関する講演が行われたが、現状の鉱業投資環境においても、鉱区セキュリティーや経済性が確保され、鉱山コントラクターとしてもビジネスチャンスに恵まれている状況の説明とも受け止められるので、投資環境が悪いとの印象はなく、初日とは異なる印象を持たざるを得ない、との発言もあった。
[注]JMEC・OZMINEの両セミナーでは、ゴルカル党(PD)が提案している鉱業事業協約(PUP)に関する説明は、政府講演の中では一切紹介はなかった。
3. 円卓会議(Roundtable Discussion BIMASENA)
3.1 開催日2007年3月20日
3.2 主催者
インドネシア鉱業協会(IMA)、インドネシア国際問題評議会(ICWA)、BIMASENA(鉱山エネルギー学会(Mining and Energy Society))
3.3 開催場所ジャカルタ市内(JW Marriot Hotel)
3.4 出席者総数58名(記者9名を含む)
主要出席者は次のとおり。
(a) インドネシア大学経済学部教授 (元環境担当国務大臣) |
エミル・サリム(Emil Salim) | |
(b) BIMASENA会長 | スブロト(Subroto)教授 | |
(c) インドネシア鉱業協会 | アリフ・シレガル(Arif Siregar)会長(PT Inco代表取締役) | |
(d) 国営鉱山会社Antam | デディ・アディティヤ・スマネガラ(Dedi Aditya Sumanagara)代表取締役 | |
(e) Freeport Indonesia | トニー・ウェナス(Tony Wenas) | |
(f) INGOLD management | ベニ・ワヒュウ(Beni Wahju) |
3.5 概要
円卓会議は、インドネシア鉱業関係者の重鎮が参集し、新鉱業法案に関する意見の交換が行われた。
円卓会議(平成19年3月20日)
この円卓会議は、第1部(9:30-10:30)で新鉱業法案および鉱業全般とかかわる基本的なポイント(例:鉱業と憲法との整合性、国家開発のために鉱業部門は必要か否かなど)が論じられ、第2部(11:00-12:30)では、新鉱業法案および鉱業投資における具体的な改善点について議論された。
第1部では特記すべき議論は見られなかったが、第2部では、スハルト政権のもとで環境担当国務大臣などの閣僚ポストを歴任したサリム教授が活発な発言を行い、注目すべき見解を提示した。
サリム教授はラウンドテーブルの一参加者でプレゼンテーターではなかったものの、パワーポイントで自らの提言をまとめた資料を持参し意見を述べた。サリム教授は新鉱業法案のポイントについて多くの提言を行ったが、中でも注目すべきは、鉱業事業契約(COW)を廃止し、事業許可に変更するという新鉱業法案の規定について、「こうした許可制は、許認可手続きの煩雑さや汚職を生みやすい土壌をもたらし、そのような問題が生じた場合は誰が解決できるのか」と懸念を表明。また、「2002年に成立した新石油ガス法では、上流部門においてはプルタミナとの鉱業事業契約は廃止されたものの、政府は石油ガス上流事業実行機関(BP-Migas、以下「実行機関」)を設立、BP-Migasと事業者の協業契約を可能にしている。鉱業部門はこれをビジネスモデルにする必要がある」との持論を披露した。また、同教授は環境大臣を務めた経験から、保護林保護と鉱業投資は環境保全策を徹底させることで両立できると強調した。
(1) 業界関係者と識者の発言
円卓会議(平成19年3月20日)
左:インドネシア大学エミル・サリム経済学部教授(元環境担当国務大臣)
右:BIMASENA(鉱業エネルギー学会)会長スブロト教授
サリム教授の意見を受けて、出席した業界関係者や識者からも率直な意見が出された。
国営鉱山会社Antamのデディ・アディティヤ・スマネガラ代表取締役は、ゴルカル党(PG)が鉱業事業許可(Izin Usaha)以外に鉱業事業協約(PUP)の必要性を主張していることについて触れ、「一般的には、鉱業事業許可(Izin Usaha)制にした方が国内企業にとって有利になると解釈されがちであるが、実際は鉱業事業許可(Izin Usaha)制は、潤沢な資金を有する外資系企業が国内企業保有の鉱業事業許可(Izin Usaha)を買収する可能性があり、むしろ鉱業事業許可(Izin Usaha)と鉱業事業協約(PUP)の両方を認めた方が、国内企業のセキュリティー確保につながる。」との見方を示した。
一方、アリフ・シレガル氏は、「鉱業のセキュリティーは、事業許可制(Izin Usaha)でも鉱業事業協約(PUP)のいずれでも特に問題はない。しかし、大事なことは、鉱業に対する法的保証が確立されること」と指摘した。同氏の意見では、たとえ事業許可制(Izin Usaha)だけになっても、それが一方的に政府によって取り消されることがなければ問題ないとの見解を示唆した。この発言は、インドネシア鉱業協会(IMA)会長としての立場ではなく、PT Inco代表取締役として政府案に対し一定の理解を示したものと思われる。
このように、鉱業事業許可(Izin Usaha)と鉱業事業協約(PUP)に関しては、国営鉱山会社と外資系鉱山会社の代表によって微妙なニュアンスの違いがある。
その後の討論では、ゴルカル党(PG)が提案する鉱業事業協約(PUP)を認める必要があると全会一致の合意をみた。
第2部ではイルワンディ教授がモデレーターを務め、議会第7委員会(エネルギー・鉱物資源、技術調査、環境担当)からの最新情報として、「現時点で第7委員会は、新鉱業法案のポイントのすべてに合意し、唯一まだ改定の可能性があるのは鉱業事業協約(PUP)を導入するかどうか、鉱業投資における付加価値(加工や製錬)の義務付けに関する細かい規定のみになっている。」と議会内審議の現状が報告された。
3.6 まとめ
円卓会議では、「円卓会議で議論された内容を一つのサマリーとしてまとめ、政府、議会、一般社会に広く伝えていく」ことが全会一致で合意された。
政府に対する政策提言の裏づけとなる基本的なデータは「鉱業白書」のような形でまとめることも提案された。
また、鉱業関係者は一致団結して、新鉱業法案を投資家フレンドリーな法案に改正していくために、より具体的な行動を起す必要性を確認し、サマリーがまとまった時点で、サリム教授のような識者と業界関係者が一緒に議会に陳情に行くことも合意された。
4. 全体のまとめ(今後の国会審議の傾向)
新鉱業法案に係る議会審議は、鉱業事業契約(COW)の廃止から、ゴルカル党(PG)が提案する鉱業事業協約(PUP)の導入の是非に焦点が移ってきている。また、製錬義務化の議論はすでに議会内の承認を得、細則の検討が進められている。
保護林に関する森林法の規定問題は、経済担当調整大臣府の連携調整委員会において、鉱業界の意向を反映する一部修正が加えられるとの情報も一部に伝えられている。
上記3セミナーの議論を通し、インドネシア鉱業界は、新鉱業法案の内容の改善に強い意欲を示し、活発に抵抗を行っている。
こうした状況の中、外国の鉱業関係者がセミナーなどを企画し、インドネシア政府、議会関係者にメッセージを発信することは、国内の鉱業関係者の前向きな意欲を勇気付け、政府と議会に対し一定の外圧にもなりうる。その活動を継続させる意義は大きい。
特に、今後は、製錬義務化に関する実施規定が審議されてくることになるが、鉱業投資家が許容できうる規制に留まるよう議会関係者に働きがけを行う必要がある。JOGMEC Jakarta事務所は、製錬の義務化に関し最大の関心を持って、機会あるごとにインドネシア政府、議会関係者を訪問し情報の収集に努めていく所存である。

