報告書&レポート
2007年カナダ探鉱・開発協会総会(PDAC)報告

平成19年3月4日から7日までの4日間、カナダのトロント市内コンベンションセンターにおいて、第75回カナダ探鉱・開発協会総会(Prospectors and Developers Association of Canada: PDAC 2007)が開催された。昨今の金属価格、ウラン価格の高騰を反映して、探鉱が活発化しており、100か国を超える国から1万7,600人が参加した。平成14年のPDAC 2002の参加者が6,000人だったことを考えると隔世の感がある。トロント市内の利便性のよいホテルは全て満室状態であり、コンベンションセンターのみならず、周辺のホテルでは鉱業関連イベントが催されており、大鉱産国ならではの熱気が伝わってきた。以下、PDAC 2007の概要について報告する。 |
1. PDACの概要
(1)展示について
ⅰトレードショー
トレードショーでは政府関係機関、サービス企業を中心に300のブースを展示し、各国・州による投資環境の説明、最新機器、サービス等について説明を行っていた。ブース展示者は、地質調査所を含む政府及び政府関係機関が60と最も多く、物理探査43社、コンサルタントサービス30社、探鉱機器22社、掘削17社、ソフトウェア16社、空輸サービス13社、鉱業関係協会13団体、分析関係10社、探鉱・鉱業8社、リモートセンシング7社、大学5校、通信4社等となっている。
政府関連機関については、鉱山関連部局及び地質調査所から多数参加していた。地域毎の内訳は以下のとおり。
北米―― | 米国地質調査所、アラスカ州、アリゾナ州 カナダNWT準州、ヌナブト準州、BC州、ノバスコシア州、オンタリオ州、ケベック州、サスカチュワン州、ユーコン準州、アルバータ州他 |
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南米――― | アルゼンチン、ブラジル、ペルー | |
アジア―― | 中国、モンゴル、日本(JOGMEC) | |
大洋州―― | パプアニューギニア、ニュージーランド、タスマニア 豪州NSW州、クイーンズランド州、西豪州、ビクトリア州 |
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欧州―― | グリーンランド、アイルランド、スウェーデン | |
アフリカ― | タンザニア、マダガスカル、マリ、モーリタニア、モロッコ、ガーナ、南ア |
ⅱ投資関係
投資関連では、ジュニア探鉱会社、中堅生産会社、非鉄メジャー、証券、ブローカー他が450のブースを展示し、アナリスト、ファンドマネジャー、バンカーとの商談、個人投資家との面談、既存投資家との関係強化を行っていた。
(2)プログラム構成
ⅰテクニカルプログラム
最も力を入れているプログラムであり、主なものを挙げると以下のとおりである。
・鉱種別の市場見通し
- | 金、銀、銅、ニッケル、亜鉛、プラチナ、アルミ、ウランに関する市場動向等 |
・キーノート(鉱業21世紀に向けてのチャレンジ)
- | 資源ナショナリズムへの対応、M&Aとジュニア企業への影響、鉱山投資の光と影、今後の探鉱の行方 |
・ダイアモンド探鉱
- | カナダにおけるダイアモンド探鉱の新モデル、環境問題への挑戦等 |
・特別講演(アラスカPebble銅―金―モリブデン鉱床開発について)
・探鉱技術
- | 探査における2D、3D地理情報システム(GIS)の応用と評価、IPとMT開発、探鉱におけるGPS利用、政府の地質データベースの活用等 |
・アフリカのカッパーベルト
- | ザンビアのカッパーベルト、インフラ、コンゴ共和国、ザンビアでの投資リスク処理等 |
・鉱業における先住民族の役割(カナダ、豪州、アラスカを例示)
- | ヌナブト準州における鉱山開発とイヌイット、アラスカ州レッドドックにおけるモデル、先住民問題に関する豪州とカナダの比較、北西準州における一例 |
・物理探査データ評価
- | アングロアメリカンによるSQUID開発、深部変質ゾーンの電気抵抗マッピング等 ・新規発見鉱床の評価、展開 |
- | 中国Xietongmen銅-金プロジェクト、パプアニューギニアSolwara銅-亜鉛-金プロジェクト、エクアドルFruta Del Norte金プロジェクト、 コンゴ共和国 Twangiza金プロジェクト |
・金融
- | 金、銅、ウラン株式市場の動向、フロースルー株式市場、プロジェクトファイナンス、買収による新ウランメジャーの誕生等 |
ⅱ会社別投資説明会
鉱業専門アナリスト、ライターとの意見交換、並びに、亜鉛、ウラン、ベースメタル、銅/金、ニッケル/PGMs、ダイアモンド、アフリカ地域に特化した金、アメリカ地域に特化した金等、12のセッション毎に関係する企業70社が説明を行い、投資等に関して意見交換を行った。
ⅲコア展示
カナダのみならず、米国、メキシコ、アルゼンチン、チリ、豪州、タンザニア、コンゴ、カザフスタン等において、プロジェクトを推進する46の会社がコアを展示し、関係者と意見交換を行った。
2. テクニカルプログラム
上述したテクニカルプログラムの中から、その一部を紹介する。
(1)ウランの見通し(David Doerksen; Cameco)
原子力産業は、地球温暖化対策、エネルギー源の分散化の観点から成長が期待されている分野である。世界では、434基の原子炉が稼働しており、早ければ今後20年以内には580基に増加すると予測されている。かかることからその原料となるウランの開発が急務となっている。
原子炉用のウランは年間183百万lb(83千t)必要とされており、その2/3が鉱山からの一次生産となっている。残り1/3は在庫、解体核等からの2次生産であり、その供給は徐々に減少してきており、このことが昨今のウラン価格の上昇に繋がっている。
国際原子力機関(IAEA)は、現在のウラン価格ならば120億lb(5,443千t)以上のウラン資源が開発可能と推測しており、これは世界の原子炉を向こう70年間稼働させるのに足る埋蔵量である。
ウラン価格が高水準であったにも係わらず、2006年のウラン生産は2005年を下回っている。これは種々の理由があるが、増産するための生産能力を有していないというのは明白である。一方、既存鉱山は拡張計画を有しており、いくつかのプロジェクトは現在建設中である。また、ジュニア企業の探鉱活発化により、ウラン探鉱費は劇的に増加している。
鉱山が需要に見合ったウランの増産に適切に対応していくためには、将来投資を決断するに足る一貫したマーケットからのシグナルが必要である。
(2)今後の探鉱の行方 (Oliver Bogden; 元BHP Minerals)
現在の探鉱ブームは経済新興国であるBRICsの成長によりもたらされたものであり、BRICsは、今後、メキシコ、南ア、東欧、トルコを含めたグループへと 変貌していくと思われる。
大消費国である中国、インドに目を向けると、中国は、今後、10年の新しい探鉱スポットとして、国内に加え、中央アジア内陸地域、モンゴルなど先例のない地域での探鉱活動を活発化するであろう。インドについては、情報があまりないが、ヒマラヤ山脈によって中央アジアへのアクセスを遮断されていることから国内での探鉱を活発化していくだろう。
地質の視点では、世界でよく知られた原生代と始生代地域の深部、浅所の未探鉱部から次世代の鉱床発見が期待される。
(3)カナダNWT準州における先住民との協調による鉱山開発(Fortune Minerals社、Tlicho自治)
NICO(金-コバルト-ビスマス)プロジェクトは、先住民であるDene語族が土地保有するカナダ北西準州イエローナイフから北西160㎞のTlicho地区に位置しており、Fortune Minerals社が開発を行っている。
この伝統的な地区の存在は、先住民とカナダ政府との間で1921年に署名されたTreaty11で認められており、また、2005年8月には、カナダ政府、北西準州政府とのTlicho協定が効力を発し、土地の権利、資源の権利、並びに、伝統的な地区と先住民の権利が確約されたエリアの権利を持つTlicho自治が発足した。
同地区では、今までEkati、Diavik、Snap Lakeというダイアモンド鉱山が操業されていたが、Tlichoの役割は限定的であり、環境への影響も生じていた。最近では、Tlichoと鉱山は、積極的に雇用、ビジネスチャンス創出、訓練、教育等について係わっている。
NICOは1995年に発見され、Tlichoは当初から探鉱、環境調査に関与している。2006年には坑内での試掘が開始され、バンカブルF/Sも完了。今後、坑内堀、露天掘りの組み合わせにより採掘し、金、コバルトカソード、ビスマス精鉱を生産することとしている。
Fortune Minerals社とTlicho自治は、このプロジェクトがTlicho地区における持続可能な鉱山のモデルとして発展することを目標としている。
3. 終わりに
筆者は、2007年1月末のバンクーバーでのROUNDUPに続き、PDAC 2007に参加した。大小取り混ぜ、多数の鉱山会社、政府機関等が世界各国から一同に会する現場に居合わせ、このカナダの地が世界のマイニングをリードしているということ実感したところである。
この大会に先立ち、カナダ政府は「-Your Global Partner in Mining-」と題して、世界各国の政府関係者を招待し、カナダへの投資促進に向け、鉱業分野におけるカナダの重要性、振興策、環境問題、先住民問題への取組状況を紹介する等積極的にアピールしていた。また、PDAC会場では、鉱産国であるアフリカ、南米、豪州のみならず、中国、ブラジルが存在感を増しているように感じた。一方、JOGMECはこのPDACにブースを出展して4年を迎え、世界各国で探査活動を行っていることから来訪者も増え、大分認知度も上がってきたようである。しかしながら、情報収集、商談に訪れている日本企業はあまり目立たず、非鉄金属市場の寡占化が進む中、一抹の不安を感じたところである。

