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報告書&レポート

2007年5月17日 リマ事務所 西川信康 Tel:+51-1-221-5088 e-mail:ommjlima@chavin.rcp.net.pe
2007年47号

ペルー・Michiquillay入札、Anglo Americanが破格値で落札

 4月30日、投資促進庁(Proinversion)において、カスティーヨ首相、バルディビアエネルギー鉱山大臣、コルネホ投資促進庁長官など政府要人の立会いの下、Michiquillay銅プロジェクトの入札が実施され、Anglo Americanが、最低入札価格の9倍以上の403百万US$という破格値で落札した。
 本稿では、ペルー政府にとり成功裏に終了したMichiquillay入札結果と今後の動向について報告する。

1. 入札直前の動き
 Michiquillay入札を巡っては、政府に対する地元住民の反発が拡大する中、入札実施が懸念視されていたが、入札日直前の4月20日、エネルギー鉱山省と投資促進庁は、リマにおいて、Michiquillay郡長、郡幹部ら40名と会合を持ち、政府と地域住民側との間で、鉱山開発の見返りに、Michiquillayコミュニティへの支援に関して合意したことを発表した。この支援内容は、保険、教育、インフラ、環境対策等、社会開発全般をカバーしているとされ、バルディビアアエネルギー鉱山大臣は、まず、Michiquillayの4か所で、電化事業を開始することを明言した。
 これに対し、鉱山開発反対派の急先鋒であるMichiquillayコミュニティ特別自衛委員会メルセデス・サウセド委員長は、この合意について、Michiquillay に居住する大勢の住民を無視したものであると憤慨、リマでの会合に出席したのは、Michiquillay の正規の代表者ではないと主張し、政府に対して正規住民との話し合いに応じるよう求めている。
 一方、ペルー政府は、4月20日の会合に出席した郡長その他幹部を郡の正当な代表者とし、今後もMichiquillay鉱山開発に関する話し合いは、彼らと行うと主張しており、鉱山反対派との交渉は棚上げにされたまま、4月30日の入札日を迎えた。

2. 入札結果
 入札は、投資促進庁の大ホールで予定より15分遅れの11時15分に開始された。公開形式のため、会場には、応札予定企業以外にも、政府要人、企業関係者、マスコミ等約100名が出席し、この歴史的な入札を見守った。
 入札の方法は応札者から2つの封筒が投資促進庁の係官に提出され、まず、封筒1の企業情報及び入札金額を担保する保証書が整っているか確認した後、入札価格書の入った封筒2が開封され、資格審査の申請順に応札価格が読み上げられた。
 最初にMilpoが提示した385百万US$という数字が読み上げられた瞬間、「ソーレス(1US$ = 3.2ソーレス)の間違いじゃないか」との声も聞える中、会場からどよめきがおきた。その後、本命の一角とされていた中国企業2社の応札価格がいずれもMilpoを大きく下回り、大方の参加者がこれで決定かという空気が流れていた。5番目のAnglo Americanから403百万US$というMilpoを上回る金額が提示され、会場がどっと沸いた。当職の後ろの席に陣取っていたAnglo Americanの関係者は、一様に喜びの表情を見せ、握手を交わし、マスコミ関係者のカメラのフラッシュに満面の笑顔で答えていた。
 Anglo AmericanのCynthia Carroll CEOは、勝利決定直後のスピーチの中で、「Michiquillayは、世界で最も有望なプロジェクトの一つであり、当社が、ペルーでの活動を拡大できる機会が得られて大変うれしい。今後、当社は、できるだけ早く、Michiquillay地区の住民問題、環境問題、健康・安全問題などの解決に向けて当社の世界最高水準の技術と経験で取り組んでいくつもりである。」と語り、課題である住民問題の解決に意欲と自信を示した。
 なお、応札企業6社の応札価格は以下のとおりである。

    ・Milpo(ペルー)
385百万US$
  ・Jinchuan Group(金川集団有限公司)
225百万US$
  ・Zijin Mining Group(紫金鉱業)
151.8百万US$
  ・Barrick Gold(加)
175.1百万US$
  ・Anglo American(英)
403百万US$
  ・Antofagasta(チリ)
110百万US$

 先に投資促進庁より最低入札価格が44百万US$と発表されており、今回の落札価格はこの9倍以上と破格の金額であり、また、その他の5企業もいずれも100百万US$を超える高水準の金額で応札したことは、本プロジェクトの有望性、将来性を示す表れと言える。

入札風景
関係者の喜びの様子(中央がAnglo AmericanのCynthia Carroll CEO)。
入札風景
関係者の喜びの様子(中央が
Anglo AmericanのTimothy Beale探査部長)

3. 関係者のコメント
(1) レネ・コルネホ投資促進長長官
 「この入札額は、鉱業投資としては過去最高額。世界第3位の大鉱山企業であるAnglo Americanがこれだけの金額を提示したことは、ペルー政府の投資誘致に対する取り組みが評価されている証拠である。」
(2) デル・カスティージョ首相
 「今回の入札結果は、ペルーが国家として世界中から信頼を得ていることを証明しているものだ。(プロジェクトが位置する)カハマルカ県に多くの雇用とカノン税収をもたらす本プロジェクトが進展することに非常に満足している。」
(3) バルディビアエネルギー鉱山大臣
 「最低入札価格のほぼ10倍となった落札額は、プロジェクトの有望性とペルーという国家に対する企業の信頼性を反映したものである。落札額の半分は地元の社会経済振興プロジェクトに拠出されることになっており、特に、カハマルカ県は、国内で最大の農地面積を誇るにもかかわらず、そのうち80%が雨期にしか農作業ができない耕作地であるため、貯水量向上への貢献に期待する。また、本プロジェクトによって発生する3,000人以上の雇用に対応できる優秀な人材の育成・研修を行う必要がある。」
(4) ヘスス・コロネル・カハマルカ県知事
 「Anglo Americanからカハマルカに拠出される2億150万US$を、住民のために直ちに利用する。既に上下水道施設の整備に関連する5つのプロジェクトをはじめ、教育や健康に関するプロジェクトが準備されている。県として、Anglo Americanとプロジェクト地域コミュニティの調整役となり、対立問題の解決・防止に努めていく。」
(5) メルセデス・サウセド氏(鉱山反対派のリーダーの一人)
 「政府は、我々地元に住む住民に何の相談もなく、鉱山開発に賛成する一部住民のみと合意し、最後まで鉱山開発に反対している住民の意見は、聞き入れられなかった。
 Anglo American に対して、我々は、Michiquillayに敬意を持って来る人々を歓迎し、話し合いに応じる用意がある。しかし、唯一願うことは、Michiquillay郡以外に住む人々ではなく、我々真の住民の声を尊重し考慮してほしい。」  

4. 今後の展開
 今後Anglo Americanは、まず100万US$を拠出し、最大1年間かけて探査活動が行える社会的環境を整えるべく、地域コミュニティとの交渉を開始する。地域社会の合意が得られない場合、Anglo Americanはこの落札金額の支払いを拒否する権利を持つが、合意が得られた場合、以下のルールで落札金額が支払われる。
 
 (1) Suspension期間(最大1年)の終了時    700万US$
 (2) 初期段階2年目の開始時         落札額の20%
 (3) 初期段階3年目の開始時         落札額の20%
 (4) 初期段階4年目の開始時         落札額の20%
 (5) 開発段階開始時              残高から700万US$を差し引いたもの
 
 また、落札金額の半分にあたる2億150万US$がプロジェクト影響下地域の社会経済発展のため信託基金として充当される。この信託基金は地方政府、地域社会、投資促進庁が共同で管理を行い、地域発展のために相互で取り組んでいくことになる。
 Anglo Americanは、4年以内(半年×2回の延長可能)にF/S調査を終了し、開発オプション権を行使するか否かを決定する。また、開発オプション権を行使する場合、3年以内(1年延長可能)に開発工事を終了させることになっている。これらに係る最低投資総額は7億US$にのぼる見通しである。
 バルディビアエネルギー鉱山大臣は、Michiquillayについては既に探査ステージが進んでいることから、Anglo Americanはより短期間でF/Sを完了することができるとの見方を示している。

4. 所感
 本入札を巡っては、一時、地域住民との完全な合意形成が成されないままの入札実施を疑問視する向きもあったが、4月に入り、政府側から、最大1年間、探査活動を中断し、地域住民との交渉期間を設けるという新たな提案(合意が実現できない場合は、落札金額を支払わずに撤退が可能)がなされたこと、また、入札日直前に地元指導者との基本合意が達成されてことが好材料となり、結果的には、6社が応札し、政府が設定した最低入札価格の10倍近い高値での売却となった。落札決定直後の政府関係者の安堵と喜びの表情が非常に印象的であった。
 このように、難産の末、結果的には成功裏に終わったMichiquillay入札だが、一方で、事前登録したと言われる20社のうち14社(*)が軒並み応札を辞退したという事実も見逃すことはできない。極論すれば、これら辞退した企業は、住民問題のため現地視察を行えないという異常な状況下での入札の実施、政府の対応のまずさ、根深い住民問題に対しノーという判断を下したということであり、今回の入札は、このようにMichiquillayプロジェクトに対する評価が、大きく2分された結果であったと結論付けられる。これは、世界の投資家が、現在のペルーの鉱山投資に対する見方を如実に反映した象徴的な事例であると言えよう。
 Anglo Americanがこれだけの入札価格を提示した理由としては、住民問題解決に強い自信があることに加え、公にされている鉱量(鉱量5.44億t、銅品位0.69%、金品位0.1~0.5g/t)に上乗せが期待できること、銅価が今後も堅調に推移していくとの見方をしていることなど相当の裏打ちがあったものと推察されるが、いずれにしても、ペルー南部のQuellaveco銅開発案件(一時、水利権の問題で開発計画が棚上げとなったが、2008年上期にF/Sが完了する見込み)と併せ、今後、ペルーでの鉱山ビジネス強化に向けて同社の並々ならぬ決意の表れであることは間違いない。
 最後に、今回のMichiquillay入札では、残念ながら、日本企業の応札はなかったが、今後の展開次第では、日本企業が参画していくという可能性も十分あるものと期待され、JOGMECリマ事務所としては、引き続き日本企業の関心度の維持を図るためにも、本プロジェクトの進展、とりわけ、反対派住民グループの動向を注視し、情報提供に努めていきたい。

(*)辞退した14社
Rio Tinto(英国)、Gold Field(南ア)、CVRD(ブラジル)、Hindalco(インド)、Oxiana(豪州)、PPC(日)、住友金属鉱山(日)、Yanacocha(米国)、Southern Copper(メキシコ)、Lundin Mining(カナダ)、Breakwater Resources(カナダ)、Iamgold(カナダ)、AUR Resources(カナダ)、Teck Cominco(カナダ)

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