報告書&レポート
オーストラリアのレアアース資源-オーストラリア最初のレアアース鉱床開発 Mt. Weldプロジェクトの行方-
| 現在、オーストラリアでレアアースを採掘・生産している鉱山はないが、オーストラリアは世界有数のレアアース資源ポテンシャル保有国のひとつにあげられている。オーストラリア国内のレアアース鉱床の中で、今、最も開発・生産に近いプロジェクトが西オーストラリア州Laverton近郊にあるMt.Weld鉱床である。 本稿では、このMt.Weldレアアース・プロジェクトの進捗状況について紹介する。 |
1. はじめに
世界のレアアース生産の大部分は中国が占めており、その供給構造は極めて脆弱である。また、世界のレアアース埋蔵量*1も、中国が大きな部分を占めてはいるものの、米国、ロシア、そしてオーストラリアが数少ないレアアース資源ポテンシャル国として考えられている。
これまで、オーストラリアでは、ミネラルサンド鉱床に含まれるモナザイト、ゼノタイムなどを副産物として生産してきているが、レアアースを主として生産する「レアアース鉱山」は存在していない。
しかし、西オーストラリア州Laverton(パースから航空機で1時間のKalgoorlieの北200km)の南35kmに位置するMt.Weldレアアース鉱床は、F/S調査が完了、開発に必要な許可を取得し、2007年5月には採掘が開始される予定である。
*1 USGS, Mineral Commodity of Summary 2006

図-1.世界のレアアース生産シェア(2006年)
データ:USGS, Mineral Commoditiy Summaries 2007
図-2.世界のレアアース生産推移
データ:USGS, Mineral Commoditiy Summaries 1996-2007

図-3.世界のレアアース埋蔵量シェア(2006年)
データ:USGS, Mineral Commoditiy Summaries 2007
2. Mt.Weldレアアース・プロジェクトの概要
(1) プロジェクト概要
Mt.Weldレアアース・プロジェクトは、
i 西オーストラリア州のMt.Weldレアアース鉱床からレアアース鉱物(モナザイト等)をコントラクト・マイニイング(請負採掘)により採掘、西オーストラリア州南部のEsperance港からマレーシアへ海上輸送、
ii 新たに建設する分離・精製プラントで酸化レアアースを生産(当初5,000t/年→将来20,000t/年)、
iii 更に関係企業を通じて最終消費者の要求にあったレアアース製品とした後、米国・欧州・日本などへ販売する
とされている。
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図-4.Mt.Weldレアアース・プロジェクト位置関係図
(左図: Mt.Weldレアアース鉱床、右図: マレーシア鉱物分離プラント建設予定地) 出典)Sydney Round up 2007プレゼンテーション資料を基に作図 |
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(2) Mt.Weld鉱床の地質・鉱床*1
Mt.Weldレアアース鉱床を胚胎するカーボナタイト岩体は、Yilgarn CratonのEastern Goldfield地域の苦鉄質火山岩、蛇紋岩、中性火山岩、変堆積岩などからなる母岩に直径3kmの垂直パイプ状に貫入している。このカーボナタイト岩体は、細~中粒のSovite、Beforsiteなどからなり、貫入時期は約20億年前で、貫入に伴い周囲約500mに強い変質帯(フェナイト化作用)を形成した。
鉱化作用は、貫入したカーボナタイト岩体が侵食作用、氷河作用(2億8千万年前)により削剥され、6~7千万年前に強い風化作用を受けた結果、炭酸塩鉱物が移動して未風化のカーボナタイト直上に厚さ10~70mのレゴリス(Regolith)層を形成、その中に難溶性リン酸塩化物、酸化物、ケイ酸塩鉱物(Apatite、Magnetite、Vermiculite)が残留・濃縮し、アパタイトなどからなるリン酸塩鉱床胚胎層を形成した。残留鉱物含有層(Carbonatite regolith)の上部には物理的・化学的物質移動に伴う風化作用によって二次富化層(Supergene Zone)を形成、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、レアアース(REE)胚胎層となっている。
Mt.Weldレアアース鉱床は、初生モナザイト、アパタイト、微量のSyncysiteを起源とする低品位ゾーン、レゴリス中央部に多結晶集合体を呈する二次生成モナザイトが含有される高品位ゾーン(45%REEO)を形成(Central Lanthanide Deposit:CLD)、その北には、チタン(Ti)とニオブ(Nb)に富む多金属鉱床Crown Polymetalic Depositを形成している。
*1 平成4年度 発電機用超電導材開発等報告書



図-5.Mt.Weldレアアース鉱床の地質図・断面図
(上図: 地質平面図、中図: 地質断面図、下図:レアアース品位図)
出典)Sydney Round up 2007プレゼンテーション資料、2002年年次報告書を基に作図
| 表-1.主要レアアース鉱床の埋蔵量比較 |
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出典) Lynas社, Sydney Resources Round-up, 9 May 2007プレゼンテーション資料を基に作成

図-6.Mt.Weld鉱床とBaotou(Baiyun Obo)鉱床のレアアース鉱物組成
3. Mt.Weldレアアース・プロジェクトの経緯
(1) 鉱床発見とLynas社
Lynas社の前身は、1983年、Yilgangi Gold NL社として設立され、1985年にLynas Gold NL社と社名変更し、1986年にはASX上場、西オーストラリア州Pilbara地域で金探鉱を行っていたが、2001年6月、Parabudoo金プロジェクトをSipa Exploration NL社に売却、本社をシドニーに移転し、社名をLynas Gold NL社からLynas Corporationに変更、Mt.Weldレアアース鉱床の探鉱開発に集中していった。
同社がMt.Weldレアアース・プロジェクトに参入したのは、1999年7月にAshton Mining社と同プロジェクトのJVを形成したことに始まる。JV相手であったAshton Mining社は、Carr Boyd Minerals社を1980年半ばに買収した際にMt. Weldプロジェクトを取得、JV形成までにボーリングと鉱床評価に25百万A$を費やしていた。
Lynas社はF/S費用を負担することで同調査完了までに同プロジェクトの権益35%を取得することになっていたが、F/S調査完了前に同プロジェクトの全権益を取得するためAnaconda Nickel社(Anaconda Industries社を通じて)とJVを形成している。更に、2002年5月、Lynas社は、Anaconda Nickel社からAnaconda Industries社を取得することによって、Mt.Weld鉱床の権益100%を取得した。Anaconda Industries社(現在のMt.Weld Holdings社)は、鉱区(20km2)の保有企業となっている。この買収によって、Lynas社はAnaconda Industries社の株取得のために、Ashton社に対して負債が発生している。
(2) 中国でのレアアース分離計画
Lynas社は、Mt.Weldレアアース・プロジェクトのコスト削減を図るため、中国国内(山東省)にレアアース分離プラントの建設を計画。2004年にはプラント建設用地を取得し、2005年6月までに環境・プロジェクト・中国での事業許可を取得、中国企業によるプラント設計を開始していた。
しかし、2006年に入って、レアアース産業に対する生産抑制、輸出制限、付加価値税(VAT)リベート見直し、環境規制など中国政府による締め付けが強くなったことから、Lynas社は、
i レアアース産業への統制が厳しくなり、ビジネス・リスクが高くなったこと、
ii 中国政府の政策変更により、操業コストが上昇、薬剤・ユーティリティ・労働コストなどが高騰したこと、
iii 他国に中国よりも有利な優遇税制を持つ国があること、
iv 中国通貨元が強くなり、為替レートの見直しが懸念されること
などの事情を考慮した結果、2006年半ばには中国国内でのレアアース分離プラント建設を断念している。
(3) マレーシアでの鉱物分離プラント建設
中国国内での分離プラントを断念したLynas社は、マレーシア東海岸のTerrenganu州Kemaman地域にあるTeluk Kalong工業地区を新たなプラント建設候補地とした。同地域は質の高い労働力、電力・天然ガス・水などインフラが整備されていること、英語に加え、プラント建設に関わる中国技術者とのコミュニケーションに必要な中国語を話せる人材が多いこと、各種の優遇措置が得られること(Lynas社は、10年間の免税などの恩恵を受けられるマレーシア産業開発当局(Malaysian Industrial Development Authority:MIDA)に戦略的先駆的な地位(Strategic Pioneer Status)を申請している。)など投資環境に優れていることを理由としている。
また、プラント建設地をマレーシアに変更したことで、新たにエンジニアリング企業を選定し、設計・資材調達・建設工事管理などを行わせることにしている。

図-7.Mt. Weldプロジェクトのレアアース分離プロセス
出典)Investor Presentation February 2007プレゼンテーション資料を基に作図

図-8.レアアース価格とMt.Weld鉱床のレアアースの価値
出典)Lynas社 2006年次報告書, 2007年第1四半期報告
4. Mt.Weldレアアース・プロジェクトの今後の展望
2008年第4四半期のマレーシアでの生産開始に向けたMt. Weldレアアース・プロジェクトの今後の開発スケジュールは、次の通り。
(マレーシアの分離プラント)
i エンジニアリング設計は、2006年第2四半期に開始、2007年第3四半期までに完了見込み。
ii 土木工事は、2007年第2~3四半期に開始、2008年第1四半期頃までに完了見込み。
iii 設備の据付は、2007年第4四半期に開始、2008年第3四半期頃までに完了見込み。
iv 分離プラントの試運転は、2008年第3四半期~第4半期中頃まで実施の予定。(Mt.Weld鉱山)
v 採掘区画確定のボーリングは、2007年第1四半期半ばまでに完了。
vi レアアース鉱石採掘開始は、2007年第2四半期半ば。
5. おわりに
Mt. Weldレアアース・プロジェクトは、鉱床発見から20年以上の歳月と数々の鉱山会社を経て、分離プロセスをオーストラリア国外に移すという新たな発想で初期コストを削減し、開発へ大きく踏み出した。その後、中国政府の政策変更からプラント建設地をマレーシアに移すなど計画は二転三転したが、いよいよ生産が見えてきた。オーストラリア初のレアアース鉱山となる Mt. Weld鉱山が成功すれば、今後、オーストラリア国内で同様のレアアース鉱山の探鉱・開発に弾みがつくかもしれない。
| 表-2.Mt.Weldレアアース・プロジェクトの経緯 |
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| 出典)Lynas社、四半期報告書 2002~2007年を基に作成 |
参考文献
Lynas Corporation Ltd.、年次報告書 2002~2006年
Lynas Corporation Ltd.、四半期報告書 2002~2007年
Lynas Corporation Ltd.、Sydney Round-up 2007プレゼンテーション資料
Lynas Corporation Ltd.、Investor Presentation February 2007プレゼンテーション資料
Lynas Corporation Ltd.、Extraordinary General Meeting 4 August 2006 プレゼンテーション資料
金属鉱業事業団、平成5年3月、平成4年度 発電機用超電導材開発等報告書(発電機用超電導材関係技術開発)




