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報告書&レポート

2007年6月14日 シドニー事務所 久保田博志、金属資源探査推進グループ 山路法宏報告 Tel:(シドニー)+61-2-9264-2493 (探査推進グループ)044-520-8610 e-mail:(久保田)kubota-hiroshi_1@jogmec.go.jp (山路)yamaji-norihiro@jogmec.go.jp
2007年54号

オーストラリアのウラン資源-セミナー報告「Australia’s Uranium Conference 2007」-

 オーストラリア労働党が、20余年にわたる新規ウラン鉱山開発禁止政策を廃止してから約1か月後の2007年5月15日、16日の両日、北部準州ダーウィンにおいて大洋州採鉱冶金学会(Ausralasian Institute of Mining & Metallurgy:AusImm)主催のウラン鉱業会議「Australia’s Uranium Conference 2007」が開催された。
 本稿では、この「Australia’s Uranium Conference 2007」の概要について紹介する。

1. はじめに-「Australia’s Uranium Conference 2007」の概要-
 資源ブームに加え、スポット価格が120US$/lbを突破するなどウラン価格が高騰を続けるなかで2006年のアデレードに続いて2回目の開催となった「Australia’s Uranium Conference 2007」には、オーストラリア国内をはじめ、米国、カナダなどのウラン産出国、日本、韓国、英国などのウラン消費国、更には今後、大幅な需要の伸びが予想される中国などから約300名が参加した。
 2日間にわたる学会では、「ウラン探鉱・地質」、「環境・リスク管理」、「ウラン処理プロセス」、「ウラン政策」などをテーマに約50件の講演が行われた。また、学会の前後には、北部準州内にあるオーストラリア最大のウラン鉱山のRanger鉱山(ERA Limited)、Cameco社(カナダ資本)及びCompass Resources NL社のウラン探鉱現場見学、オーストラリア地球科学研究機構(Geoscience Australia)とCameco社によるウランデータベース・ワークショップが開かれた。 

2. 「Australia’s Uranium Conference 2007」の講演から
(1) 北部準州におけるウラン探査・開発の現状
 -Uranium Mineral Systems and Exploration in the Northern Territory-
 I.Scrimgeour, J.Dunster(Northern Territory Geological Survey)
 北部準州は、オーストラリアのウラン輸出量の約52%を占め、300,000tU3O8の資源量が知られており、また、2007年3月時点で、約60社が準州内に探鉱鉱区を保有或いは申請している。
 北部準州の主要ウラン鉱床地域は、以下のとおりである。

   i  Alligator River(Ram Jungle)地域では、Alligator RiverやRam Jungle鉱床など原生代の不整合型鉱床が知られており、鉱床は10,000tU3O8(品位0.2~2%U3O8)程度の資源量を有しており、基盤中の炭酸塩岩と泥質変成岩の境界部に鉱化が見られる。このタイプの鉱床の探鉱ポテンシャルは高く、2007年からはRam Jungle地区でMount Fitch鉱床のF/S調査が開始されている。
  ii  Pine Creek地域では、Tolmer層群下位の不整合で初期探鉱のポテンシャルが高い。
 
iii
 Tanami地域では、Birrindudu層群下位の不整合で初期探鉱のポテンシャルが高い。
 
iv
 Central Australia地域では、下部の花崗岩をウラン供給源とする地表付近の古河川或いは砂岩に胚胎するウラン鉱床が探査の対象となっている。Amadeus Basinにあるロールフロント型のAngela鉱床は、資源量10,250tU3O8(品位0.1%U3O8)、Ngalia Basinにある砂岩型のBigrlyi鉱床は、資源量4.53百万tU3O8(品位0.14%U3O8・0.16%V2O5)など砂岩型は古生代のものが知られているが、
  v  Younger basin地域では、第三紀の砂岩型にはNew Well鉱床は資源量1.9百万t・0.036%U3O8・670tU3O8がある。また、Nolans Bore鉱床は大規模・低品位ではあるが、レアアース-リン酸塩鉱物等の鉱化を伴っており、新たなウラン資源となる可能性がある。
 
vi
 Westmoreland地域では、ウラン鉱床は原生代早期のWestmoreland礫岩層、Seigal火山岩類中及び不整合に伴って基盤であるCliffdale火山岩類上部に胚胎している。鉱床タイプは砂岩型と不整合型の中間的なものが多い。

図-1.北部準州の主要ウラン鉱床
図-1.北部準州の主要ウラン鉱床
 出典)北部準州パンフレット「TOP:END:SECRET」より抜粋

(2) 南オーストラリア州におけるウラン探査・開発の現状
 -Uranium Mineral Systems in South Australia-
 M.Fairclough(Primary Industries & Resources South Australia)
 南オーストラリア州には、現在国内で操業中の3ウラン鉱山のうち2鉱山が存在し、年内に新たに1鉱山が生産を開始する予定である。多くのウラン鉱床が賦存するのは、ウラン鉱化システムをもたらす1,600-1,580百万年前のウランに富んだ花崗岩類が広く結晶質岩の基盤に貫入しているからである。
 南オーストラリア州のウラン鉱床は、以下の主要4タイプが知られている。

   i  角礫岩複合型 (Breccia complex) は、地殻レベルでの熱水或はマグマ活動によって生成しているが、原生代中期 (Mesoproterozoic) の花崗岩類に伴うことが多く、鉄酸化銅金ウラン型 (IOCGU) の Olympic Dam 、 Prominent Hill 、 Carrapateena 、 Acropolis 、 Wirrda Well 、 Canegrass 、 Oak Dam 、 Punt Hill 鉱床がある。また、原生代の基盤岩分布域の古生代の角礫岩に胚胎するものとしては、 Mount Painter 、 Armchair 、 Streitberg 、 Radium Ridge 、 Mt Gee 鉱床などがある。
  ii  ロールフロント型 (Roll-front) は、ウランを含んだ基盤岩を供給源とする中~粗粒の陸成・海成の砂層中に胚胎する。鉱化作用は、ウランに富んだ酸化鉱液が還元性環境の岩石 ( 炭素分の多い ) と反応して生じる。基盤岩の起伏や断層付近に位置している。南オーストラリア州では、第三紀の鉱床が多く、 Callabonna Sub-basin の Beverley 、 Honeymoon 鉱床や、 Eucla Basin の Warrior 、 Yarrana 鉱床がある。
  iii  脈状型 (Vein Style) は、断層・せん断帯に関連した空隙に胚胎するが、移動して他のタイプの鉱床を形成している場合がある。南オーストラリア州では、 Curnamona Province の Radium Hill 、 Crocker Well 鉱床などがある。
  iv  不整合型 (Unconformity-related) は、南オーストラリア州ではあまり探査されていない。鉱化帯はウラン分に富む基盤岩と砕屑岩層とを隔てる不整合面の直上・直下にある。南オーストラリア州では、原生代早期の Hutchinson Group と原生代中期の花崗岩類とを不整合で覆う原生代中期の Gawlar Craton の砂岩との間に胚胎する。

図-2.南オーストラリア州の主要ウラン鉱床
 図-2.南オーストラリア州の主要ウラン鉱床
 出典)MESA, Volume 41, April 2006, P8

(3) オーストラリアで「四番目の」Honeymoonウラン鉱山
 -Honeymoon- Developing Australia’s Fourth Uranium Mine-
 G Chchran(Uranium One Australia Pty Ltd.)
 Honeymoon鉱山は、南オーストラリア州東部、Broken Hillの北西75kmに位置する。同鉱山は、オーストラリアで「四番目の」ウラン鉱山として注目されていた。生産プロセスは、原位置抽出法(In Situ Leaching:ISL)で、生産規模は年間400tU3O8。資源量は1.2百万t、品位0.24% (平均GT値0.42m%) 、ウラン量2,900tU3O8
 操業は、カナダ系ウラン鉱山会社のUraniumone社が行っている。
 鉱床発見は、1972年で当初からISL法が検討され、1981年には450t/年規模の生産が州及び連邦政府から許可され、110t/年規模のパイロット・プラントが建設されたが、1983年に「3ウラン鉱山政策」により計画は中止。1998年からフィールド試験を再開、2001年にEISが承認され、2004年にはF/S調査の見直しが行われ、2007年に10年間の操業許可を取得している。生産開始は2008年初旬を予定。

図-3.Honeymoonウラン処理フロー
 図-3.Honeymoonウラン処理フロー
 出典)sxrUraniumone, Summary of Feasibility Study, July 2006

図- 4.Honeymoon ウラン鉱山写真(左:遠景)
図- 4.Honeymoon ウラン鉱山写真(右:パイロット・プラント)

図- 4.Honeymoon ウラン鉱山写真
( 左:遠景、右:パイロット・プラント )
出典 ) sxrUraniumone, Summary of Feasibility Study, July 2006 、同社 Web サイトより

(4) オーストラリアで初めてのISL法を採用したBeverley鉱山の新たな試み
 -Variations in Permeability and Sedimentology and their Effect on the In Situ Leaching of Beverley Uranium Deposit-
 C.Daniel, L.Beinke, C.Nesbitt, R.Pobjoy, R.Phillips(Heathgate Resources)ほか
 Beverelyウラン鉱山は、南オーストラリア州東部、アデレードから約600km北北東に位置する。同鉱山は、オーストラリアで最初の原位置抽出法(In Situ Leaching:ISL)で、生産規模は年間1,000tU3O8(輸出許可量は1,500tU3O8)で国内第3位の規模、資源量は11,667,000t、1.8%U3O8。生産プロセスは、生産井フィールドとプラント処理の2プロセスからなる。
 操業は、米国軍需企業のGeneral Dynamics社から分離独立したGeneral Atomics社の「子会社」Heathgate Resources社(ASX非上場企業)が行っている。
 鉱床発見は、1969年であったが、1983年からの「3ウラン鉱山政策」による中断があり、2000年より生産を開始した。
 ウランは周囲の花崗岩体から酸化環境のもとで抽出され、古河川に沿って還元環境の場で堆積したと考えられている(古河川タイプとロールフロントタイプの折衷のようなモデルが有力説)。
 近年、浸出後(post-leaching)のBeverley鉱床地区での透水性とISL法との関係についての調査が進められている。主な内容は、抽出後ボーリング孔を用いた物理探査とその解析、抽出後まだウランが残っている地点への新たな生産井の設置法と岩相の比較検討などである。同社はこの調査によって今後のISL法に有益な知見が得られると期待している。

図-5.Beverleyウラン鉱床モデル
図-5.Beverleyウラン鉱床モデル

出典)
Australia’s Uranium Conference 2007-Variations in Permeability and Sedimentology
  and their Effect on theIn Situ Leaching of Beverley Uranium Deposit-
C.Daniel, L.Beinke, C.Nesbitt, R.Pobjoy, R.Phillips(Heathgate Resources)プレゼンテーションに加筆

図-6.Beverleyウラン鉱山概念図
図-6.Beverleyウラン鉱山概念図
出典)Uranium Information Center Webサイトに加筆

図-7.Beverleyウラン鉱山写真1 井戸と井戸フィールド
図-7.Beverleyウラン鉱山写真1 井戸と井戸フィールド
 出典)2006.7.25 Australia’s Uranium Conference 2006現地見学会にて撮影

図-8.Beverleyウラン鉱山写真2 イエローケーキ生成プラント
図-8.Beverleyウラン鉱山写真2 イエローケーキ生成プラント
 出典)2006.7.25 Australia’s Uranium Conference 2006現地見学会にて撮影

(5) ISL法における鉱床評価とJORC規程
 -Reporting of Uranium Resources for In Situ Leaching Projects Under the JORC Code-
 A.D.McKay, P.Stoker, Ian Lambert(Geoscience Australia)
 砂岩型のウラン鉱床からのウラン回収方法として、In Situ Leaching:ISL(原位置抽出法)が米国、カザフスタンをはじめとして用いられるケースが多い。オーストラリアでもBeverley鉱山に続いて新たに同国4番目のウラン鉱山として開発中のHoneymoon鉱山(ともに南オーストラリア州)でこの方法が採用されている。
 ISL法では、鉱体の原位置でウランを酸などにより溶出して回収することから、資源量を評価する際には、岩石(地層)中のウラン品位だけではなく水文地質学的な要素(回収率に影響)をも考慮する必要がある。
 また、1970年代から用いられているガンマ線測定によるウラン鉱化(品位)評価では、比較的若い年代のロールフロント型ウラン鉱床のように各核種が溶解と再沈殿を繰り返し、ウランとその核分裂で生じた親・娘核種が非平衡状態(Disequilibrium)の場合*1には、この方法の信頼性が疑問視されており、PFN: Prompt Fission Neutron(プロンプト分裂中性子)を用いた評価の方が正確であるとする見解が多くなっている。
 ウラン鉱床の資源量は、測定方法との関係において、下記のように評価するのが妥当であると考えられる。

  i ガンマ線測定のみで評価された場合には、その鉱床が非平衡状態ではないとしても JORC 規程の「 Inferred Resource 」
  ii ガンマ線測定と非平衡状態に PFN を用いたい場合が混在する場合は「 Indicated Resource 」
  iii

校正を行った PFN を用い、水文地質学的に検討が行われた場合は「 Measured Resources 」

 なお、このISL法を用いるウラン鉱床の資源量評価に対するJORC規程及びそのガイドラインは近年中に公表される予定である。

*1 U238が、核分裂して行く過程で娘核種Pb214及びBi214に変化する際にガンマ線を発生する(参考)。このガンマ線を利用してウラン鉱化(品位)を計算で求めることが出来る。従来この方法で間接的にウラン鉱床の品位を算出してきた。しかし、若い堆積岩層では、地球化学的要因により親核種(ウラン)と娘核種が分離されて、非平衡状態が生じ、ガンマ線を検出できないことがある。この場合、ガンマ線のみをウラン品位の尺度として用いると、実際にはウラン鉱化があるのにそれを見落としてしまう可能性がある。

(6) ウラン産業の新たな枠組み
 -Uranium Industry Framework Implementation-
 M.S.Chalmers(FAusIMM, Chair, UIF Implementation Group)
 「Uranium Industry Framework(UIF)」Groupは、2005年、Ian Macfarlen連邦産業観光資源大臣の基に企業・連邦政府・南オーストラリア州政府・北部準州政府により組織されている。「法規制」、「先住民」、「輸送」、「技術教育」の4つのワーキング・グループがあり、それぞれのワーキング・グループの構成人員は8~10名である。
 「法規制」ワーキング・グループ(座長Heathgate Resources社)では、諸手続を円滑に行うための既存のウランに関する法規制マップを作成、また、手続きの簡素化(One Stop Shop:1か所で買い物が済むように簡単に行える手続き)についての検討を、「先住民」ワーキング・グループ(同ERA社)では、先住民との良好な関係の構築や先住民の雇用と技術的なトレーニングについての検討を、「輸送」ワーキング・グループ(同BHP Billiton)では、ウラン開発に前向きな南オーストラリア州と北部準州以外の州の港へのアクセス問題やインフラストラクチャの整備等についての検討を、「技術教育」ワーキング・グループ(同オーストラリア鉱業協会(Mineral Council of Australia:MCA))では、放射性物質を扱うことに関する安全やJORC規程におけるウラン資源評価などについての検討を行っている。2006年には、「UIF」、「House of Representatives(HOR)」、「Prim Minister’s Uranium Mining, Processing and Nuclear Energy Review (UMPNER)」の各種レポートを発表している。  

3. おわりに
 今回の会議では、北部準州と南オーストラリア州に関するものほか、中央アジア(カザフスタン、ウズベキスタン、キルギスタン)など諸外国に関する講演も目を惹いた。
 労働党の4月末の全国党大会で、新規ウラン鉱山開発禁止政策が破棄されたが、ウラン鉱山開発の可否は州政府に委ねられたことで、実質上はウラン開発を推進する自由党・国民党連邦政府に最終権限のある北部準州と既存鉱山がありウラン開発に積極的な南オーストラリア州のみ新規ウラン鉱山が可能(西オーストラリア州とうクィーンズランド州は探鉱のみ可能で、その他の州は探鉱も不可)であり、ウラン鉱山開発がこれらの州を中心に行われるであろうことが際立ってきた印象を与えた。
 なお、2008年は、第1回に続き再びウラン探鉱・開発に積極的な南オーストラリア州アデレードでの開催が予定されている。

参考文献

Australia’s Uranium Conference 2007 講演集及びプレゼンテーション資料

  -Uranium Mineral Systems and Exploration in the Northern Territory -
   

I.Scrimgeour, J.Dunster(Northern Territory Geological Survey)

  -Uranium Mineral Systems in South Australia -
    M.Fairclough(Primary Industries & Resources South Australia )
 

-Honeymoon ? Developing Australia’s Fourth Uranium Mine -

   

G Chchran(Uranium One Australia Pty Ltd.)

  -Variations in Permeability and Sedimentology and their Effect on the In Situ Leaching of
    Beverley Uranium Deposit -
    C.Daniel, L.Beinke, C.Nesbitt, R.Pobjoy, R.Phillips(Heathgate Resources) ほか
 

-Reporting of Uranium Resources for In Situ Leaching Projects Under the JORC Code -

    A.D.McKay, P.Stoker, Ian Lambert(Geoscience Australia )
  -Uranium Industry Framework Implementation -
  -Uranium Exploration Australia Limited 、“ Strategic Exploration Tool Prompt
    Fission Nuetron 北部準州パンフレット「 TOP:END:SECRET 」 MESA, Volume 41, April 2006,P8
sxrUraniumone, Summary of Feasibility Study, July 2006 、同社 Web サイト Uranium
  Information Center Web サイト
  JH Lally, Zu Bajwah (Northern Territory Geological Survey), 2006, “Uranium Deposits of The Northern Territory ”, Report 20
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