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報告書&レポート

2007年6月21日 ロンドン事務所 オーウェン溝口佳美、金属資源開発調査企画グループ 神谷夏実報告 Tel:(ロンドン)+44-20-7287-7915 (金属企画グループ)044-520-8590 e-mail:(溝口)mizoguchi@jogmec.org.uk (神谷)kamiya-natsumi@jogmec.go.jp
2007年56号

国際鉛亜鉛研究会2007年春季会合参加及び3研究会合同環境経済委員会参加報告-2007年、鉛、亜鉛とも供給不足-

 国際鉛亜鉛研究会の春季会合が、2007年5月14日、ポルトガル(リスボン)において開催された。同会合では、加盟19か国・地域、オブザーバー(ブラジルおよびメキシコ)、国際機関が参加、鉛・亜鉛の需給の現状と展望、産業動向、環境問題等について、講演やパネルディスカッション、研究会の下に設けられた委員会からの活動報告等が行われた。
 また今回は、各研究会で行われる環境経済委員会のほかに、3研究会合同での合同環境経済委員会が5月14日午後に開催された。国際非鉄金属3研究会の合理化後の、第2回目の合同環境経済委員会として、3研究会共通の環境及び経済問題で、非鉄金属産業界において最も関心の高い議題についてプレゼンテーションがなされた。これらの会議の成果として以下のとおり報告する。

I. 国際鉛亜鉛研究会2007年春季会合
1. 常任委員会
(1) 鉛・亜鉛需給の2007年の展望について
 鉛は、2006年と同様、中国による旺盛な鉛地金消費が見込まれていることに加え、欧州でも増加が見込まれており、2007年は5年連続の供給不足になる見通しである。
 亜鉛は、世界の消費増加が見込まれており、特にアジア地域での増加が世界の消費増加の大部分を占め、生産面でも世界的に増加が見込まれることが予測されるが、2007年は52千tの供給不足となる見通しである。

表 1. 世界の鉛・亜鉛生産と消費量の推移 (2004 年- 2007 年 )

( 単位:千t )

 

亜鉛

2004
実績

2005
実績

2006
実績

2007
予測

2004
実績

2005
実績

2006
実績

2007
予測

西側諸国の鉱山生産量

1,963

2,104

1,983

2,190

6,500

6,708

6,626

7,127

東側諸国への精鉱輸出量

-452

-522

-582

-630

-426

-392

-524

-643

西側諸国の製錬可能量

1,511

1,582

1,401

1,560

6,074

6,316

6,102

6,484

西側諸国の地金生産量
(一次、二次)

4,592

4,788

4,760

4,851

6,671

6,495

6,452

6,669

西側諸国の地金消費量

5,424

5,456

5,411

5,418

7,424

7,067

7,256

7,400

東側諸国からの地金輸入量

515

509

627

521

471

258

472

677

米国の備蓄放出量

56

36

19

0

32

29

28

15

西側諸国の需給バランス

-261

-123

-5

-46

-250

-285

-304

-39

世界の鉱山生産量

3,128

3,423

3,423

3,789

9,732

10,127

10,381

11,354

世界の地金生産量

6,957

7,637

7,901

8,209

10,354

10,229

10,632

11,397

世界の地金消費量

7,284

7,801

7,936

8,261

10,666

10,614

11,004

11,445

世界の需給バランス

-271

-128

-16

-52

-280

-356

-344

-33

ⅰ 鉛:
   2007年の世界の鉱山生産は、10.9%増の3.79百万tとなる見込みである。鉱山生産の増加の主な要因として、中国における生産が11.9%拡大する見込みがあること、また、豪州のIvernia’s Magellan鉱山における生産再開による増産(前年比16.4%増)が寄与している。加えて、ボリビア、カナダ、メキシコ、ロシア、スウェーデンおよび南アフリカ共和国において、増産が見込まれる。
 2007年の地金生産は、3.8%増の8.21百万tとなる見込みである。主な要因としては、中国の6.3%増、欧州の3.3%増の他、カザフスタン、韓国、米国、豪州における増産が見込まれている。
 中国は、2006年9月に鉛地金輸出に対し輸出増値税還付を廃止したことから、同国からの2006年の鉛地金の輸出は24%減となると予測する。
 2007年の鉛地金の消費は、4.1%増の8.26百万tとなる見込みである。これには、中国における経済発展と自動車生産増加により、中国における消費量が12.4%増加することが要因となっている。一方で、欧州では2%の増加、米国では1.3%の微減が見込まれる。
 以上の予測から、2007年の世界の鉛地金の需給バランスは、52千tの供給不足となり、5年間連続での供給不足が予測される。
図1 世界の鉛生産と消費量の推移図2 西側世界の鉛需給バランス

表 2. 世界の鉛需給バランス

( 単位 : 千 t)

区分

2004
実績

2005
実績

2006
実績

2007
予測

増減
2006/2005

増減
2007/2006

供給合計

6,957

7,637

7,901

8,209

3.5%

3.9%

消費合計

7,284

7,801

7,936

8,261

1.7%

4.1%

需給バランス

-271

-128

-16

-52

 

 

ⅱ 亜鉛:
   2007年の世界の亜鉛の鉱山生産は、9.5%増の11.35百万tとなる見込みである。これには、豪州、ボリビア、カナダ、中国、カザフスタン、ペルー、ロシアおよび米国における大幅な増産が主な要因とっている。
 2007年の世界の亜鉛の地金生産は、6.9%増の11.4百万tとなる見込みである。生産増加の主な要因として、近年の中国精錬所における生産能力拡張が加速し、2007年は亜鉛地金生産が14.7%増加すると見込まれているほか、豪州、ドイツ、メキシコ、ポーランド、ロシアおよびスペインにおいても増産が予測されている。
 2007年の世界の亜鉛地金消費は、中国の旺盛な需要が要因となり、4%増の11.45百万tとなる見込みである。中国では亜鉛めっき鋼板の需要の伸びが予測されることから、中国の需要は更に8.4%の増加が予想される。加えて、インド、日本、韓国、台湾およびタイにおいても消費量の増加が見込まれる。欧州では、ロシアおよびスペインにおける消費の伸びに加え、イタリアにおける消費の回復がドイツにおける減少をバランスさせたことから、欧州全体では、1.5%の増加が見込まれ、米国においては、2006年と同レベルであることが予測される。
 以上の予測から、2007年の世界の亜鉛地金の需給バランスは、33千tの供給不足が予想される。

図3 世界の亜鉛生産・消費量の推移 図4 西側世界の亜鉛需給バランス

表 3. 世界の亜鉛需給バランス

( 単位 : 千 t)

区分

2004
実績

2005
実績

2006
実績

2007
予測

増減
2006/2005

増減
2007/2006

供給合計

10,354

10,299

10,632

11,397

3.2%

7.2%

消費合計

10,666

10,614

11,004

11,445

3.7%

4.0%

需給バランス

-280

-356

-344

-33

 

 

(2) セミナー予定
 リサイクルにおける統計データの改善法につき、リサイクルに関するジョイント統計プロジェクトとして、2003年より、業界団体(LDAⅡZA-Europe、Eurometaux等)と3研究会合同でRPT(Recycling Project Team)を組織して検討中である。中間報告として、『ベースメタルのリサイクルに関するセミナー』の開催を、秋季会合期間中の10月3日(午後)に予定しているとの説明がなされた。
 更に、国別鉛・亜鉛開発セミナーシリーズとして、2002年のストックホルムでのセミナー、2007年6月開催予定のナミビアでのセミナーがあるが、今後のセミナーの開催地としてアジア地域を検討していることも報告された。
 
〈メンバーシップ〉
 研究会メンバーシップの報告として、ポーランド(新加盟)とカナダ(再加盟)が正式に2007年1月に加盟国となった。
 
〈セミナー予定〉
 ナミビア政府代表者より、6月にナミビアで開催される『International Seminar on Mining Investment Policy for Base Metals in Southern Africa』投資セミナーについて、予定参加者はおよそ80人で、アフリカの主要鉱業国9か国の政府幹部の参加があることが報告された。また、主要参加者は、Rio Tinto社、Anglo American社、Southern African Development Community、African Development Bank、豪州政府、JOGMEC、LDAI、IZA等であることが報告された。
 
〈ILZSG第54回総会と今後の会合予定〉
 54回総会は10月4-5日、また、第106回常任委員会は、2008年4月2日の週にリスボンで開催することで合意された。

2. 産業アドバイザリーパネル(IAP)
 産業界のメンバーにより、鉛及び亜鉛市場の現状と市場成長、政策に関する課題が討議された。本パネルにおいて、現在の鉛・亜鉛の世界的な価格高騰インパクトとして、バッテリー用鉛消費が減少傾向に向かっていること、一方で、欧州における二次原料の消費量が増加していることが報告された。また、亜鉛めっき鋼の代替として、コンクリートの使用について、パネルで討議された。
 
 本委員会では、以下のプレゼンテーションが行われた。

亜鉛めっきについて、BE Wedge Holdings社のChairmanである、Jeremy Woolrides氏より、『General Galvanizing ? Effect of prices on recent demand』の講演がなされた。同氏によれば、欧州では年間で39万tの亜鉛がめっき用途に使用されている。2005-2006年において、ドイツとイタリアにおいて、亜鉛めっき需要が増加した。一方で、亜鉛のリスクアセスメントが最終段階に入っていること、欧州における水質基準に関する枠組指令(Water Directive)、欧州新化学物質規制REACHの施行は亜鉛めっき産業にとってチャレンジングな環境であると見ていると述べた。
中国における鉛・亜鉛産業開発状況について中国の金属情報機関である安泰科社(Antaike)の報告として『Chinese Lead and Zinc Market Commentary』が、事務局長によって代読された。中国国内において、鉛の原料が極めてタイトであり、2006年は前年より1.19百万tの鉛精鉱を輸入し、国内における鉛精鉱生産は、1.25百万tであると、同社は予測している。2007年の国内における鉛地金生産は50万tの増加が見込まれ、輸入も2006年を上回ると予測している。亜鉛においては、2006年、政府の環境規制強化により、小規模製錬所は強制閉鎖されたことにより、およそ20万tの製錬能力が失われた。しかし、他の製錬所における生産能力拡張により、およそ72万tは補うことが可能となるとみられる。また、亜鉛の探鉱費の増加が見られる他、2006年の鉛、亜鉛分野での設備投資は、50億人民元(前年比40%増)であると説明された。
研究会のエコノミストIan Burrell氏より、公共施設の建築資材として使用される亜鉛についての研究結果として『The Use of Zinc in Construction and Public Infrastructure』の講演がなされた。亜鉛の主要用途先は建設分野(48%)で、欧州において主に圧延鋼板が建材として使われ、北米においては鉄鋼産業と亜鉛めっき産業が共同で住宅用亜鉛めっきフレームの使用を推進、アジア諸国においては、厳しい環境下での亜鉛めっきフレームの使用が見込まれる。亜鉛価格高騰が続けば、今後の亜鉛需要は、他の代替金属(アルミ)、塗料(coating solutions)による亜鉛めっき鋼および圧延鋼の代替、めっき、鉄鋼業界におけるコスト吸収力によると見込まれる。
米国のバッテリーカウンシルより、National Ambient Air Quality Standards(NAAQS)の大気中における鉛の基準についての見直しが検討されているという報告がなされた。米国の環境保護庁(EPA)は、大気中の鉛の環境基準値を現在の1.5μg/m3から、0.025μg/m3への見直しを検討しており、2009年8月には同案が採択される見込みであることの報告がなされた。

Ⅱ. 3研究会合同環境経済委員会の概要
 本委員会では、非鉄金属産業を取り巻く環境問題について、専門家から以下のプレゼンテーションが行われた。
 
(1) 「非鉄金属におけるスチュワードシップ」への取り組みが、豪州政府、ICMM((国際金属・鉱業評議会)より報告がなされた。

 
豪州政府は、2006年10月に、『Leading Practice Sustainable Development Program』の一部として、スチュワードシップに関するハンドブックを刊行した。この取り組みは、今後、鉱業界が操業する上で必須条件とし、以下が議論された。
 ● 製品の生産過程におけるエネルギー、水消費の節約
 ● 人の健康および環境への危険レベルの低減
 ● 廃棄物の削減、リサイクル・再使用の推進
   豪州政府は、企業による自主的なスチュワードシップへの取組みを推奨している。豪州政府は産業界にとってチャレンジであるが、長期的にはスチュワードシップに自主的に取り組むことは、大きな価値があると説明した。

 

 
ICMMのDr Ben Davies氏より、ICMMが2006年の9月に刊行したマテリアルスチュワードシップに関するガイダンスである『Maximizing Value: Guidance on implementing materials stewardship in minerals and metals value chain』について説明がなされた。同氏によれば、先進的ビジネスプログラムとしてLCAを実行することで、製品における上流から下流までの知識についての理解が深まり、REACH規制にも役立つとしている。ケーススタディとして、旧Noranda社(現在は、Xstrata社の傘下)の子会社であった、Noranda Recycling社による、マテリアルスチュワードシップの実施例が紹介された。

(2) 欧州における金属のリスク管理戦略についての進捗状況と結果報告およびREACHについてのパネルディスカッションが行われた。1995年に欧州における亜鉛のリスクアセスメントが開始されてから、銅、鉛、亜鉛についてのリスク評価行われてきているが、そのうち銅と鉛は自主的リスクアセスメントが行われている。本会合にて、金属のリスクアセスメントの次の段階であるリスク管理のストラテジーについて報告がなされた。
(3) EUにおけるGHS(The Globally Harmonised System of Classification and Labeling of Chemicals:以下、GHS)の導入における準備状況が欧州ニッケル産業協会(ENIA)事務局長Waeterschoot氏より報告がなされた。EUでは、化学品をその有害性の種類と程度により分類する国際的な統一規則であるGHSの導入が検討されている。
 欧州委員会は、GHSをREACH規制と同じタイミングで施行したい意向であり、GHS導入に向けたコンサルテーション期間も設けた。(2006年10月21日締め切り。)。
 GHS導入の進捗状況としては、世界の表示方法標準化について、議論が進められていること、欧州においてGHSシステム導入による効果と予期せぬ結果を招くことの可能性等が報告された。
 GHSにより期待される効果は以下のとおり。

 
危険有害性の情報伝達に関し国際的に理解されやすいシステムを導入することによって、人の健康と環境の保護が強化される。
 
既存システムを持たない国々に対して、国際的に認められた枠組みが提供される。
 
化学品の試験及び評価の必要性が減少する。
 
危険有害性が国際的に適正に評価され確認された化学品について、国際取引が促進される。

 
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