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報告書&レポート

2007年6月28日 ロンドン事務所 オーウェン溝口佳美、金属資源開発調査企画グループ 神谷夏実報告 Tel:(ロンドン)+44-20-7287-7915 (金属企画グループ)044-520-8590 e-mail:(溝口)mizoguchi@jogmec.org.uk (神谷)kamiya-natsumi@jogmec.go.jp
2007年58号

国際銅研究会第15回総会参加報告-2007年、2008年は供給過剰幅が更に拡大の見通し-

 国際銅研究会第15回総会(総会議長:朝日資源エネルギー庁鉱物資源課長)が、2007年5月15日~16日、ポルトガル(リスボン)において開催された。
 今回の総会には、加盟国14か国・地域、オブザーバーとして、ブラジル、イラン、ナミビア、UNCTADが参加、この他に、銅関係の政府・民間関係者が参加し、銅の需給の現状と展望、産業動向、環境問題等について、講演やパネルディスカッション、研究会の下に設けられた委員会からの活動報告等が行われた。
 また、今回で2回目を迎える各研究会で行われる環境経済委員会のほかに、3研究会合同での環境経済委員会が5月14日に開催された。同会合の概要報告は、国際鉛亜鉛研究会春季会合報告に記載。
 国際銅研究会第15回総会の概要は以下のとおり。

1. 統計委員会
(1) 2007・2008年の世界の銅需給見通し

 

(a) 概説
 2006年の鉱山生産のレビューとして、ストライキ、労働不安に加えて新規プロジェクトの立ち上がりの遅延や操業に対する地域コミュニティーからの反発等により、2006年上半期は生産障害が大きな要因となり、結果的には2006年における鉱山生産は0.7%増と前年比横ばいの結果となった。2007年は、チリ、メキシコの鉱山生産がそれぞれ5.7%、35%伸びる可能性が期待され、銅価格高騰によって生産も増加することとなり、2007年は6.3%(939千t)の増加が見込まれる。さらに2008年は、新規プロジェクトおよび既存の稼動鉱山の拡張が見込まれることから、7.3%の増加の予測がされる。
 2007年の銅地金生産は、チリおよびメキシコでそれぞれ16%、22%の回復が見込まれており、このほかの増加が見込まれる主な国は、日本(5.5%)、インド(16%)、ロシア(9%)及び米国(5.6%)との予測がなされている。また、チリ、アフリカおよび米国においてSX-EW生産の増加が見込まれることから、2007年も74万t(4.3%)の増加が見込まれる。2008年も、主にアフリカ、アジア、北米からの生産が要因となり5%の増加が予測される。
 銅地金消費は、主に中国(12%)、インド(7%)、ロシア(8.5%)で伸びが見込まれるが、一方で、EU15か国で3.7%減となるとみられる。また米国(0.9%)および日本(0.1%)は微増となり、総じて2007年は、世界の消費が回復に向かうことが予測され4.7%の増加となる見通しで、2008年は、3.6%の増加が見込まれており、地域別では、中国を中心としたアジアとCIS諸国においての消費が伸びるとの見通しである。

  (b) 2007・2008年の銅需給について議論され、以下の研究会の見方が形成された。
 2007年の銅鉱山生産は、前年比94万t増の15.97百万t(+6.3%)、2008年は、前年比1.2百万t増の17.13百万t(+7.3%)が見込まれると予測。
 2007年銅地金(一次+二次)生産は、前年比74万t増の18.07百万t(+4.3%)。2008年は、前年比88万t増の18.95百万t(+4.9%)と予測。
 銅地金消費は、2005年が前年比1.3%減となったが、2006・2007年は5%弱の増加を見込んでおり、2007年は、前年比80万t増の17.80百万t(+4.7%)と予測。これは主にアジア地域(約6%増)が貢献、EUは2.5%増であるとの予測がなされた。2008年は、前年比64万t増の18.43百万t(+3.6%)と予測。
 以上のことから、2007年の銅地金需給バランスは、約28万tの供給過剰を見込み、2008年も、2007年を上回る52万tの供給過剰と予測。

図1 世界の銅生産・消費量の推移
図2 世界の銅需給バランス

表1. 世界の銅需給バランス(2004-2008年)
(単位:千t)

区分

2004
実績

2005
実績

2006
実績見込

2007
予測

2008
予測

増減
2006/2005

増減
2007/2006

増減
2008/2007

供給合計

15,880.0

16,543.0

17,324.0

18,072.0

18,953.0

4.2%

4.3%

4.9%

消費合計

16,786.0

16,664.0

16,994.0

17,790.0

18,426.0

2.0%

4.7%

3.6%

需給バランス

-906.0

-121.0

330.0

282.0

527.0

 

 

 

 また、本委員会において、以下のプレゼンテーションが行われた。

 

(a)

イランにおける銅産業についての発表として、国営企業である国営イラン銅工業公社(NICICO: National Iranian Copper Industries Company)のSeyed Hassan Khoshrou氏より、『Iran Copper Industry』の講演がなされた。同氏から、イランにおける今後の銅の探鉱開発について、イランのカッパーベルトが有望であること、2005年にはイランの銅埋蔵量が14百万tとなり、ザンビアの19百万tに次ぐ世界第12位となったことが説明された。イランでは新規鉱山開発および製錬所能力の拡張が計画されており、2011年までに、イランの銅地金生産能力は現在の2倍の年間42万tとなる。このほか、同社の探鉱および開発プロジェクトとして、イランにおけるリモートセンシングによる調査結果として、予備的な鉱石埋蔵量はおよそ20億t(平均品位0.73%)と述べた。また、同国においては、世界の主要な環境基準も遵守されていることの説明もなされた。

 
(b)
ロシアおよび東欧圏における銅産業に焦点を置き、研究会はロシアのコンサルタントであるINFOMINE社に調査を委託し、2006年12月より作業が開始された。このほど報告書のドラフトが終了した段階として、INFOMINE社のKonstantin Levin氏より『Russian copper Market Study Project』についての報告がなされた。内容としては、ロシアにおける銅産業の構造、今後の銅精鉱生産の予測、銅精鉱貿易状況、銅スクラップ収集および消費・輸出状況等について説明がなされた。このほか、ロシアにおける銅の資源情報として、127の銅鉱床(銅埋蔵量は、62百万t)、36の稼動中の銅鉱山(銅埋蔵量は40百万t)があること、ロシアにおける銅生産の殆どはNorilsk Nickel社がシェアを占めていることについての説明がなされた。なお、同報告書は2007年6月に完成を予定している。

 
(c)
中国における銅産業についての研究の一部として、BGRIMM(北京鉱冶研究総院)のLi Lan氏からの『Outlook for China’s Copper Production and Consumption』についての講演がなされた。講演内容は、中国における銅の生産・消費の分析調査について、今後5?10年後の予測も含んだ広範囲に亘る同研究総院の見解を含むものである。主な内容として、現在中国は資源確保に非常に積極的であるとし、国内外(特に、南米・アフリカ)における活動が活発であること、また、今後は中国国内で不法に操業が行われている中小規模鉱山が閉山されることにより国内の銅精鉱生産が一時的に減少傾向に向かうが、2008年の精鉱輸入が前年比30%増加し、2009年以降は新規鉱山および製錬所からの生産が見込まれることから、国内生産は回復する見込みとの予測をしている。このほか、中国の主な銅消費分野は、インフラ整備、運輸産業分野であるとの説明がなされた。また、中国の経済的発展が加速し、中国政府による環境規制および輸出制限の強化が行われていることから、銅加工業者が生産拠点を海外(一例としてベトナムが挙げられた。)へ移転する動きがあることについての説明もなされた。最後に、銅価格が高騰している中、中国の銅ユーザーは製品によっては品質よりも、コスト削減を重視する傾向もあるとし、代替材料へとシフトする動きについての説明もなされた。

2. 産業アドバイザリーパネル(IAP)
(1) 産業界の新たな課題

  (a) 銅価格高騰とそのインパクトについて
 同パネルでは、銅価格高騰が続いていることが、現在の大きな懸念であることを前提として、パネル討議が行われた。一般的にアナリストは、価格高騰継続していることだけを懸念材料としているが、最近では他の金属(特にアルミ、ニッケル、鉛、亜鉛)に比べて、銅価格のボラティリティーが大きくなる傾向にあり、このことが代替傾向のドライバーではないかとの議論もなされた。このほか、LME銅価格と在庫の相関関係、リサイクル、価格サイクルについても討議がなされた。
  (b) ロシア、旧東側諸国における銅産業
 
i)
研究会は、ロシア及び旧東側諸国についての研究を行うことで合意。コンサルタントINFOMINE社から、ドラフトが産業アドバイザーに提出された、統計委員会においてINFOMINEより、これに関する講演がなされた。
 
ii)
旧東側諸国(旧ワルシャワ条約機構の加盟国、アルバニア、アルメニア、ブルガリア、チェコ共和国、グルジア、ハンガリー、カザフスタン、マケドニア、スロバキア、ウクライナ、ウズベキスタン)等の地域から、2008年の銅鉱山生産は7.5%増(比2001年)の75万tへの増加が見込まれ、これは世界の銅鉱山生産の4.5%を占める。このうち、カザフスタンが最大生産国であり、次いで、ブルガリア、ウズベキスタンが続く。また、2008年の地金生産は、2001年比29%増の75万tへの増加が見込まれており、世界の地金生産の3.8%を占めると予測された。
   地金生産においても、カザフスタンが最大生産国で、同国の年間生産能力は、43?45万t(世界シェア2.5%)である。加えて、同地域における銅地金消費も、2008年には2001年比50%増加の26万tとの予測がなされた。このことから、旧東側諸国は銅生産において重要な地位を占めていることが表明され、研究会では、今後もこれらの地域の銅生産・消費動向の調査を続け、次回会合には、これらの国からの講演者も招くことも報告された。
  (c) 3研究会合同環境経済委員会
 本委員会が行われる前日の5月14日(月)に、3研究会合同で、環境・衛生・保安に関連する規制についての議論が行われ、共通な課題として、①製品スチュワードシップの推進、②欧州新化学物質規制REACH、③化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)についての講演、討議が行われたことについての報告がなされた。
  * 化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)
 GHS(Globally Harmonized System of Classification and Labeling of Chemicals)世界的に統一されたルールに従い、化学品を危険有害性の種類と程度により分類し、その情報が一目でわかるよう、ラベルで表示したり、安全データシートを提供したりするシステム。

 最後に、事務局長より、REACHに限らず産業界にとって重要な課題を取り上げて、今後も合同IAPおよび統計委員会も検討もしたいとの説明があった。
 活動プログラム及びIAPの改善の意見として以下が、パネルより提案された。

  ヘッジファンドの動向についての調査。
  単純にスクラップ発生、消費等のデータ収集ではなく、スクラップの処理方法についても情報提供。
  LMEウィークと同じ時期における会合の開催。

3. 環境経済委員会
(1) 継続プロジェクトの実施状況

  (a) 銅セクターにおける価格高騰の影響に関する調査
本委員会では、先ずは、2006年の9月の会合において、今までにない、価格高騰が続く状況が影響する銅の代替に関して、代替量に関するデータ収集や分析を、新規経済プロジェクトとして、研究会加盟国および産業界を含めたワーキンググループを結成し、調査を実施することが提案された。

同プロジェクトの一部として、以下の講演がなされた。

   
i)
国際銅協会ICAのTony Lea氏より、銅の代替に関して、同協会の調査についての報告として、『Copper Market Substitution 2006』についての講演がなされた。この報告では、2004-6年の銅の代替として、この間に銅消費量の2.2%に相当する、
およそ35万tの銅が代替されたとの見方を示した。2006年には、代替が最も進んだ分野として、配管チューブ(97千t)、屋根用ストリップ(52千t)等が挙げられた。地域別では、激しく影響を受けたのは、西欧州地域の9万7千t(この内、屋根用材38千t、配管チューブ20千t、電気・ガス・水道の電力ケーブル10千t)との説明がなされた。同協会は、銅の代替動向の今後の分析方法として、ユーザー企業への調査等を続ける。
       
   
ii)
BGRIMMのLi Lan氏より、銅価格高騰の影響と中国の銅産業における代替傾向について、『Substitution in China’s Copper Industry』についての講演がなされた。同氏によれば、中国における銅地金の代替要因は、1.銅価格高騰、2.供給タイト感、3.技術的パフォーマンスを挙げている。銅の代替材料として使用されて来ているのは、アルミニウム、プラスチック、ステンレス鋼、亜鉛である。現在の銅価格8,000US$で推移すると、加工事業者およびエンドユーザーが新しい材料の技術開発に着手する動きも見られるという。中国では低品質の製品では銅価格高騰の影響を受けやすく、銅の代替による消費の落ち込みが急速に進む可能性があることが報告された。このほか、同氏によれば、ICAが銅の使用を推進する活動は、中国では全く無意味であったとの報告もなされた。最後に、中国では今後、銅価格が6,000?6,500US$で推移すれば、2010年までにおよそ35万t、2015年までにはおよそ47万tの銅消費が代替されるとの予測も出した。
       
   
iii)
日本メタル経済研究所の主任研究員加藤氏より、『Outlook for Copper Recyclables in Japan』についての講演がなされた。日本の2000-2005年における銅、銅合金およびスクラップの供給と消費、スクラップ市場における細かな分析についての説明がなされた。また、今後のリサイクルの経済性、廃棄物をどのように使用するのか等問題も指摘された。日本国内の最新データを利用し、研究会が提案するリサイクル率の算定等を行い、銅リサイクルへの今後の対応を提言する内容であった。
       
  (b) 一次産品共通基金(UN-CFC)プロジェクトの状況と展望について、以下のような報告および講演がなされた。
進行中のプロジェクト:
   
i)
High Pressure Copper Die Casting Technology Transfer in India(2006年に開始され、2009年8月に終了の見込み。)
   
ii)
International Policy Review and Workshop – Energy Efficiency: A framework for Cooper(承認済み。インドでのワークショップ準備中。)

 

新規UN-CFCプロジェクト:
   
i)
銅を使用したアフリカにおけるヘルスケアのプロジェクト(アフリカ銅開発協会:CDAA、国際銅協会:ICA)
   
ii)
Proposal to Develop a Global Industrial Solar Thermal Program(国際省エネルギー協会:IIEC、国際銅協会:ICA)

 このほか、このほど終了したプロジェクトとして、UNCTAD(国連貿易開発会議)のOlle Ostensson氏よりUNCTAD Community Based Arrangementについての結果報告がなされた。これは、終了鉱山の閉山により影響を受ける地域での開発・生産継続のためのフレームワーク作りである。本プロジェクトは「コミュニティーベース協定」ともよばれ、ペルーのチンタヤ鉱山(Xstrata社所有)をモデルに、閉山地域の持続可能なコモディティー生産に焦点を当ててきた。鉱山・政府・大学が協力して、対策の枠組みを合意し、計画を立て対応することの重要性を述べた。
 
 また、本委員会では、西欧における銅リサイクル率を算定するための『Copper Flow Model(CFM)』が策定され、米国および欧州に適応化したモデル作りが実施されたが、今回はブラジルのモデルついての作業状況報告がなされた。また、国別レポートとしてザンビアの銅セクターについての分析、フローモデルについての簡単な紹介がなされた。
 最後に、研究会の今後の事業計画および優先課題として以下のとおり報告がなされた。

  Sustainable Development Drivers of the Copper及びTrends in Copper Content of Productsの2つのプロジェクトの中止(または終了)
  ヘッジファンドの重要性についてのプロジェクト(IWCCが主体となり、専門家を招いての講演を実施することになった。)

4. 常任委員会
 本委員会では、運営管理に関し、メンバーシップ、会計について報告がなされた。また、本総会にブラジル、イラン、ナミビアがオブザーバーとして参加し、2007年内にはブラジルの正式加盟が見込めることが報告された。

5. 総会
 総会では、メキシコ、ロシア、日本のナショナルステートメントが報告された。なお、総会議長は、現朝日議長(日本)が留任することで承認された。
 次回会合は、2007年10月1-2日にポルトガル(リスボン)にて開催する予定。

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