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オーストラリアの「探鉱戦略」(2)州政府/企業編-セミナー報告「2007 AMEC National Congress」-

2007年6月7日、8日の両日、パース市内において、鉱業投資セミナー「2007 AMEC National Congress」が開催された。セミナーには、連邦政府の資源関係機関、各州・準州政府、大手鉱山会社、ジュニア探査会社ら約300名が参加、約50件の講演が行われ、40の展示ブースが出展された。 本稿では、「2007 AMEC National Congress」の講演から、各州・準州政府、企業の探鉱戦略について紹介する。 |
1. はじめに
「2007 AMEC*1 National Congress」には、連邦政府からCSIRO:The Commonwealth Scientific and Industrial Research Organization(連邦科学産業研究機構)とGeoscience Australia(オーストラリア地球科学機構)、州・準州政府の全て、Rio TintoやTeck Comincoなどの大手鉱山会社、Nautilus社などのジュニア探査会社らが参加、講演と展示ブースで自社の活動を紹介した。
2007年も、企業や州・準州政府がその他関係機関と取組んでいるテーマについて講演が参加者の関心を集めた。
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The Association of Mining and Exploration Companies Inc. (AMEC)は、オーストラリアにおける主に中小企業の探鉱・採掘活動を大企業からの独立性を保ちつつサポートすることを目的に1981年に設立された団体。会員制で会員企業はAMECからのサポートを受けることができる。 |
2. 各州・準州政府の「探鉱戦略」
(1) 南オーストラリア州 -「PACE」プロジェクト-*1,*2,*3
南オーストラリア州政府は、全世界に対して州内への探鉱投資を促進するとして、2004年から5年間で22.5百万A$の予算で開始したが、新たに8.4百万A$の追加予算とプロジェクトの延長が決まっている。予算は、地球科学データ取得とデータベース等の探鉱データ・インフラ整備・提供に充てられるほか、同州は他州に先駆けて企業ボーリングの費用支援を行っている。
州政府は、このプロジェクトの目標を、(i) 2010年までに同州への探鉱投資を100百万A$、(ii) 2014年までに鉱山生産30億A$、鉱石処理10億A$として掲げている。
これまでの成果として、探鉱では、探鉱事務所の新設等10件・新規上場企業14社・新規ウラン探鉱60件以上・海外企業による探鉱投資10件以上・同鉱業投資4件、開発では新規操業4件・拡張2件・開発7件・開発に向けた探鉱20件をあげている。
(2) ニューサウスウェルズ州 -「New Frontiers」プロジェクト-*4,*5
ニューサウスウェルズ州政府は、これまでに「Discovery 2000」(1994~2000年、予算規模3.5百万A$)、「Exploration NSW」(2000~2006年、予算規模30百万A$)などの探鉱促進政策を実施してきた。「New Frontiers」プロジェクトはその名のとおり、これまで鉱床探査の進んでいない地域を中心に高解像度の地球物理データの取得、3次元地球科学図の作成、地球科学データベースの構築などに2006~2008年の2年間で8百万A$の予算が計上されている。
「New Frontier」には、(i) Thomson地域(Cobar Basin鉱床地帯の北西側の延長、金・ベースメタル鉱床ポテンシャル、地殻深部構造線の収斂部での鉱化等の可能性)、(ii) Koonenberry地域(硫化ニッケル・ベースメタル・金鉱化作用の可能性)、(iii) Stawell地帯(ビクトリア州から続く金鉱化作用の可能性等)が挙げられている。
(3) クィーンズランド州 -「Smart Exploration」、「Smart Mining」プロジェクト-*6,*7,*8
クィーンズランド州政府は、2005~2010年の間に、探鉱支援プロジェクト「Smart Exploration」に20百万A$、開発支援プロジェクト「Smart Mining」に29.08百万A$の総額49.08百万A$の鉱業分野への予算を計上している。
内訳は、新規の地球科学データ(空中磁気・放射能、ハイパースペクトル、重力、深部地震探査、地質図作成等)の取得に39百万A$、ボーリング費用等助成(CDI)に6.0百万A$、同一地区において2社以上がボーリング・物理探査を行う場合の動員費用助成(CFI)に0.8百万A$、探鉱ジュニア企業による探鉱ターゲット形成助成(INI)に0.48百万A$、土地アクセス改善に1.2百万A$、女性人材開発に1.6百万A$などとなっている。
(4) ビクトリア州 -「Gold Undercover Initiative」プロジェクト-*9,*10,*11
ビクトリア州政府は、金探鉱を中心とした非鉄金属の探鉱促進プロジェクト「Gold Undercover Initiative」に、今後3年間で総額9百万A$、ボーリング費用助成プロジェクト「Rediscover Victoria」に5百万A$、非鉄金属以外に石炭探鉱へ1.5百万A$、次世代石炭エネルギー技術開発に103.5百万A$の予算を計上している。
「Gold Undercover Initiative」は、地球科学データ取得とそれらのデータを処理する情報・通信技術開発の2分野から構成されており、更にサブ・プロジェクト20件に分かれて実施されている。
同州では、地震探査・MT探査によるVictorian Lachlan Fold Beltの3次元地質モデル構築などのほかに、探鉱ターゲットの絞り込みのための探査ツールキット、金資源の新たな評価、地球科学データの新しい情報モデルの構築、オンラインによる情報提供メカニズムの改善などの通信情報処理分野に力を注いでいる点が他州と異なる。
(5) タスマニア州 -「TasExplore」プロジェクト-*12,*13,*14
タスマニア州政府は、同州北東部、北西部における金・錫・タングステン等の地質・鉱化作用の解明のためのデータ取得と探鉱促進を目的に、2006年からの4年間で総額5.05百万A$の予算を計上している。
プロジェクトは、地質図作成・鉱床生成区の考察・重力データ取得・3次元モデルの改善・地球科学データベース「TIGER」の更新・探鉱促進活動(プロモーション)からなる。特に同州北東部では、空中磁気探査・放射能探査(測線間隔200m)、重力探査を予定している。
また、探鉱ライセンス料の引下げを実施している(1年目200A$/km2←250 A$/km2、2年目300A$/km2←500 A$/km2、3年目500A$/km2←1,000 A$/km2、4年目700A$/km2←2,000 A$/km2、5年目1,000A$/km2←5,000A$/km2)。
(6) 北部準州 -「Bring Forward Discovery 2007-2011」プロジェクト-*15,*16,*17
北部準州は、初期探鉱を中心に、2007~2011年の5年間で12百万A$(地球科学データベース取得・整備に11.25百万A$、探鉱促進宣伝に0.75百万A$)を予算計上している。
プロジェクトでは、重力探査をPine Creekの延長部、Southern McArthur Basin-Murphy、Tennant Creek延長部、Arunta地域、Eastern Musgrave地域で実施するほか、新たな地球科学データ取得地域として、(i) East Pine Creek Orogen地域(地質図作成と基盤類の変成分帯)、(ii) Murphy Inlier地域(Murphy変成岩の分帯、McArthur Basinの地質構造・層序解析)、(iii) Arunta地域(東部・中央部の地質図作成、3次元モデル・データの無縮尺GIS化・広域的な鉱床ポテンシャル評価)、(iv) Amadeus Basin地域(資源ポテンシャルの調査等)を挙げている。
(7) 西オーストラリア州*18,*19,*20
西オーストラリア州は、金・ニッケル・鉄鉱等の資源で他州を圧倒するオーストラリア鉱業の中心的な州であるが、同州政府は、既知鉱床周辺探鉱だけではなく、(i) 探査された地域はまだ限られている、(ii) 詳細な地質・鉱化システムの理解は不十分である、(iii) 地表の大部分はレゴリスに覆われていて鉱化作用は地下百数十mにあるなど、初期探鉱の余地もまだ多く残されているとしている。
西オーストラリア州地質調査所(GSWA)は、探鉱促進と探鉱リスク軽減のために、地球科学データの取得・データベース化とこれら基礎情報の提供を積極的に進めている。
3. 民間企業の「探鉱戦略」
(1) 非鉄メジャーの「探鉱戦略」 -Rio Tinto-*21、*22
Rio Tintoは、「(i) 世界的により大規模で高品位の鉱床をターゲットに、(ii) 基本的には自社探鉱によって、(iii) 地域毎の探査体制ではあるが世界的視野に立って優先順位を考え、(iv) 自社が核としている鉱種・先住民との関係・新興鉱業国・既存鉱床周辺・商機などの要素から競争力のある地域で、(v) 既知鉱床地域で地質・地化学探査を中心に露頭鉱床を探し、(vi) 適切な手法を用いて探鉱を実施する」としている。
また、同社の探鉱支出は長らく減少傾向にあったが、2003年から再び増加に転じ、2006年は1997年以降最高額となった。探鉱費に占める初期探鉱の割合は大きいが、ここ数年の傾向として既知鉱床周辺探鉱の占める割合が以前に比べ大きくなっている。
同社パース探鉱事務所(オセアニア・アジア担当)の責任者でもあったEric Finlayson氏は、1990年代後半に同社探鉱投資の40%を越えていたオーストラリアが現在は10%を割っていることに関して、世界規模の鉱床の発見が難しいこと、先住権等による土地アクセスや探鉱・開発に関する諸手続きに時間がかかることなど投資先として他国に対する優位性がないことを指摘している。
(2) 探鉱ジュニア企業の「探鉱戦略」 -Nautilus Minerals Inc社-*23
PNG沖の深海底熱水鉱床Solwaraプロジェクトを実施しているNautilus Minerals Inc社(カナダ資本)は、(i) トロントとロンドンのベンチャー市場への上場(Tront-V、AIM)、(ii) 資本増強(295百万US$)、(iii) 国際非鉄メジャーのプロジェクト参加(EPION Holdings 16.8%(ロシア資本)、Anglo American 6.4%(南アフリカ/英国)、Teck Cominco 5.8%(カナダ)、Barrick Gold 3.7%(カナダ))、(iv) 鉱区拡張(Solwara1~8鉱区、Solomon海やFiji沖での鉱区申請)、(v) 採掘専用船の建造(Jan De Nul社と提携、投資額120百万US$)など、2009年末の生産開始に向けて着実な進捗状況にあることを示した。
また、深海底鉱物資源開発の採算性につて、海面下千数百mでの探鉱は陸上での探鉱よりも割高ではあるが、深海底熱水鉱床はほぼ海底面に露出しており剥土量が少ないこと、鉱床自体はもろく容易に粉砕できること、鉱石が高品位であることなど陸上の鉱床より採掘面でコスト優位性があることを強調している。
表4.深海熱水鉱床と陸上鉱床の開発比較(銅年産200,000tの場合) |
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出典)Tony O’Sullivan, Nautilus Minerals Inc(200/6/8), ”Solwara Project”(AMEC National Mining Congress, Perth, Australia) |
4. おわりに
各州政府の探鉱促進プログラムは、ボーリング費用などの助成制度に違いが見られる程度で、互いに意識し合っているかのごとく内容は横並びではあるが、それぞれが充実したものとなっているほか、予算追加やプログラムの期間延長、新規プログラムの開始など積極的な姿勢が見られる。
他方、企業探鉱では、Rio Tintoが、鉱床ポテンシャルの高い地域で、世界規模の鉱床を、自社探鉱を中心に全世界的に展開する等「非鉄メジャーらしい探鉱戦略」、鉱床探査の「王道」を思わせる活動を行っている。一方、Nautilus社は、誰も手を出さなかった深海底鉱物資源探査に他社に先駆けて飛び込み、今や非鉄メジャーの参入も得て開発が現実のものとなりつつある。これも「リスクを恐れない」「ジュニアらしい探査戦略」と言えよう。
資源ブームもあって、オーストラリアでは、官民それぞれの立場で積極的な探鉱投資が行われている。
参考文献等 |
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*1 | Dr. Paul Heithersay, PIRSA, “Keynote: The State of Mineral Exploration with the Ministers”(AMEC National Mining Congress, Perth, Australia, 7 June, 2007講演) | |
*2 | Dr. Edward Tyne, PIRSA, “The PASE Program” (AMEC National Mining Congress, Perth, Australia, 7 June, 2007講演) | |
*3 | PIRSA, “PASE”パンフレット | |
*4 | Peter Lewis, Geological Survey NSW, “New Frontiers, New Opportunities, NSW” (AMEC National Mining Congress, Perth, Australia, 8 June, 2007講演) | |
*5 | Lindsay Gilligan, Geological Survey of New South Wales, “Metals mines and projects in New South”, (JOGMEC オーストラリアの鉱物資源探査と投資セミナー, 2007.2.28講演資料) | |
*6 | Dave Mason, Geological Survey Queensland, “Queensland’s – New Data and Funding-“(AMEC National Mining Congress, Perth, Australia, 8 June, 2007講演) | |
*7 | Dave Mason, Geological Survey Queensland, “ Exploration plays, emerging projects and new developments in Queensland” (JOGMEC オーストラリアの鉱物資源探査と投資セミナー, 2007.2.28講演資料) | |
*8 | Geological Survey Queensland Webサイト | |
*9 | Paul McDonald, Geological Survey Victoria, “Victoria’s Gold Undercover Initiative”(AMEC National Mining Congress, Perth, Australia, 8 June, 2007講演) | |
*10 | Geological Survey Victoria, “Gold Undercover”, Discovery Victoria’s Earth Resources Journal, March 2007 | |
*11 | Geological Survey Victoria Webサイト | |
*12 | Robert Richardson, Mineral Resources Tasmania, “TasExplore Project: the first steps”(AMEC National Mining Congress, Perth, Australia, 8 June, 2007講演) | |
*13 | Dr Geoff Green, Mineral Resources Tasmania, “Exploration and mining in Tasmania: Continual growth and new developments” (JOGMEC オーストラリアの鉱物資源探査と投資セミナー, 2007.2.28講演資料) | |
*14 | Mineral Resources Tasmania Webサイト | |
*15 | Chiristopher Natt, Minister for Mines and Energy Northern Territory, “Keynote: The State of Mineral Exploration with the Ministers”(AMEC National Mining Congress,Perth,Australia,7 June, 2007講演) | |
*16 | Ian Scrimgeour, NT Geological Survey, “Norther Terrytory – Australia’s Final Frontier”(AMEC National Mining Congress, Perth, Australia, 8 June, 2007講演) | |
*17 | Ian Scrimgeour, NT Geological Survey, “New developments and opportunities in the Northern Territory”(JOGMEC オーストラリアの鉱物資源探査と投資セミナー, 2007.2.28講演資料) | |
*18 | Fran Long, Minister for Resources Western Australia, “Keynote: The State of Mineral Exploration with the Ministers”(AMEC National Mining Congress, Perth, Australia, 7 June, 2007講演) | |
*19 | Dr Tim Griffin, Geological Survey of WA, “GEoscience Information for Discovery in WA”(AMEC National Mining Congress, Perth, Australia, 8 June, 2007講演) | |
*20 | Dr Tim Griffin, Geological Survey of WA, “Base metal opportunities in Western Australia” (JOGMEC オーストラリアの鉱物資源探査と投資セミナー, 2007.2.28講演資料) | |
*21 | Eric Finlayson, Head of Exploration, Rio Tinto, “The global Rio Tinto Exploration program” (AMEC National Mining Congress, Perth, Australia, 7 June, 2007講演) | |
*22 | The Financial Review, 8 June, 2007 | |
*23 | Tony O’Sullivan, Nautilus Minerals Inc (200/6/8),”Solwara Project” (AMEC National Mining Congress, Perth, Australia, 8 June, 2007講演) |

