報告書&レポート
エクアドルの鉱業政策を巡る最近の動き

エクアドルは、ペルーから続くアンデス山脈地帯に、銅や金の鉱床ポテンシャルが高いとして注目されているが、昨今、地域住民の環境問題に対する意識の高まりの中、反鉱山開発運動が広がりを見せていることに加え、2007年1月の急進左派政権の誕生で、ロイヤルティの導入や鉱区管理の強化等、資源の国家管理を強める動きが懸念されている。また、エクアドル初の本格的な銅山として期待されているMirador銅鉱山開発プロジェクトは、地元住民による反対運動の激化、さらには、政府による環境影響計画書(EIA)の却下により、現在、暗礁に乗り上げている。このような中、JOGMECリマ事務所は、今般、エクアドルを訪問し、エネルギー鉱山省や環境省の幹部より、今後の鉱業政策、鉱業活動に係わる環境規制、鉱山開発案件の動向等、最新の鉱業情報を収集する機会を得たので、その内容を報告する。 |
1. 鉱業政策の動向
(1) エネルギー鉱山省鉱山次官
7月3日、JOGMECリマ事務所は、エクアドルのJorge Jurado鉱山次官と面談し、最近の鉱業政策の方向性、Mirador開発案件の現状等について聴取した。この中で同次官は、エクアドルの鉱業振興のために、鉱業法の改正が大きなポイントであると述べるとともに、エクアドルには自然保護地域が数多く存在(国土の約1/4)しているため、他の国に比べ、環境に配慮した開発が必要であることを強調した。同次官の発言内容は以下のとおり。
-政府の基本的な鉱業政策について | |
(次官)エクアドルは、チリ、ペルーと同様、銅及び金のポテンシャルの高い国であることは知られているものの、まだ、本格的な鉱山は一つもない。今後の鉱業発展のためには、国内外から資本、技術、人材を受け入れる必要があり、そのために、現在、鉱業法の改正に取り組んでいる。 | |
-鉱業法の改正内容について | |
(次官)改正の柱は、鉱業権の厳格な審査、鉱業権期間の短縮、ロイヤルティの復活、零細企業の集約化と合法化、社会対策、自然環境保護、鉱山省の組織体制強化、地方分権化等。ロイヤルティの税率は現段階では決まっておらず、今後、関係業界と協議していく。また、所得税(現行25%)の引き上げの考えはない。鉱業権の有効期間については、現行30年を2年毎とし、更新可能に変更する。また、これまで投資に関しては報告義務がなかったが、これを義務付けることにより、鉱業活動の管理を強化し、長期間無活動の鉱業権を取り消す。さらに、環境保全に対する管理強化のため、現行、各ステップにおいて環境影響評価の報告を義務づけているが、更に監査を厳格に行う。 | |
-法案成立に向けた作業日程について | |
(次官)今後、早急に案を固め、大統領府に送り、緊急法案として国会に提出し、早期の成立を目指していく。 | |
-現政権が環境重視の姿勢を強めていることについて | |
(次官)エクアドルは、地球上で最も生物多様性に富む国であり、政府は様々な国際機関、環境NGOからこれら生態系を維持するための援助を受けている。鉱山開発地域は、これら自然保護区や水源になっている地域が多く、これがチリやペルーと大きく環境が異なるところで、我々は、環境保護を重視せざるを得ない。鉱山開発と環境保全がいかに共存共栄を図っていくかがポイントであり、両立は可能であると考えている。 | |
-昨今、相次いでいる反鉱山運動に対する政府の対応 | |
(次官)一部住民の過激で根拠のない鉱山開発反対運動については苦慮している。政府としては、全国規模で、政府、企業、地元住民との対話集会を開催しており、話し合いで沈静化するよう取り組んでいるところ。 | |
-Mirador銅開発プロジェクト再開の見通しについて | |
(次官)Miradorプロジェクトについては、2006年6月に一度、環境影響計画書(EIA)を承認したことは事実。その後、Ecuacorriente社より生産計画拡張のため、計画変更申請があったため、これを審査したところ、ピット計画や廃さいダム計画に重大な不備があったため、2007年5月、これを却下するとの判断を下した。現在、会社側が指摘された事項について、計画を練り直し中。 | |
-エネルギー鉱山省の組織改変の動きについて | |
(次官)このような重要かつ困難な課題に対処するため、鉱業セクターの組織強化が不可欠であり、エネルギー鉱山省から、鉱山部門を独立させるよう大統領府に要請している。現在、大統領府で検討中。 | |
-日本に対する要望 | |
(次官)過去のJICA/MMAJによる資源開発協力基礎調査に感謝。日本は、鉱害に対する取り組みが進んでいると聞く。鉱山省が目指す鉱業振興と環境保全の両立に向けて、日本の協力を期待したい。 |
(2) 環境省環境保護次官
7月4日、JOGMECリマ事務所は、エクアドルのUrquiza環境次官と面談し、鉱山開発に対する環境省の立場と役割等について聴取した。同次官の発言内容は以下のとおり。
-鉱山開発に係わる環境規制の内容について | |
(次官)エクアドルには、国立公園と森林保護区の2つの保護区があり、これらの地域での鉱業活動は制限されている。まず、国立公園内での鉱業活動は完全に禁止されている。なお、石油開発は国立公園内でも可能。これは、石油開発は国内経済に与える影響が大きいことに加え、これらの中には、すでに外国企業との契約済みのものがあり、取り消すことは困難であることが背景にある。一方、森林保護区内での鉱業活動は可能で、開発にあたっては、政府に、環境影響調査計画書(EIA)を提出し、環境省とエネルギー鉱山省とでこれを審査する。その他の地域(国立公園・森林保護区以外)はエネルギー鉱山省が管轄している。大型銅開発案件であるJuninやMiradorはその他の地域に位置し、環境省は直接関与していない。 | |
-地域住民による反鉱山活動に対する環境省の対応について | |
(次官)最近の地域住民による反鉱山活動は、環境汚染を言いがかりに、企業側から何がしかのベニフィットを得ようというものが多い。これらコミュニティ問題の解決は環境省の仕事ではないが、一部の環境NGOが根拠のない環境問題を主張し、住民を扇動していることについて、環境省としては、住民に対する適切な情報を提供すべく啓蒙活動を行っている。 | |
-エクアドルの鉱害被害の実態 | |
(次官)エクアドルで最も深刻な鉱害被害は、不法な金採掘による水銀・シアン汚染であり、現在、環境省としては、国連工業開発機関(UNIDO)に対し、これら対策のための信託基金の拠出を要請している。日本にも、このような鉱害分野での協力を期待している。 |
2. 民間企業の鉱業政策に対する評価
エクアドルで鉱業活動を行っているTransandes社 Hirtz社長、EcuaGold社 Bolanos社長、Lowell社Salazar社長より、コレア新政権の鉱業政策に対する評価、今後の投資環境の見通し等について意見交換を行った。概要は以下のとおり。
-現政権の鉱業政策について | |
Alberto Acosta 前エネルギー鉱山大臣 (6 月、制憲議会選挙出馬のため辞任 ) はエコロジストで、アンチマイング派であった。 Jorge Jurado 鉱山次官は、鉱業に理解があり、信頼できる人物。コレア大統領も経済学者で、インテリであり、鉱山開発には、ポジティブな姿勢。資源の国有化、資産の接収など、べネズエラやボリビアのような行動を起こすとは考えにくい。 |
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-活発化している反鉱山グループの動向とその対策について | |
2006 年末あたりから、地域住民による反鉱山運動が活発化している理由として、 Acosta 前大臣の姿勢や政策が拍車をかけた節がある。住民側は、プロジェクトがまだ探鉱段階であり、被害が出ていないにもかかわらず、一部の悪質な環境 NGO に洗脳され、理不尽な要求をつきつけている。また、探鉱地域の住民からはサポートを受けていても、その周辺の住民から新たな要求が出てくるケースが多い。我々は、彼らと直接交渉することはない。コレア大統領は問題解決に向けて強い姿勢 ( 全国で住民との対話集会を開始 ) で臨んでおり、徐々に沈静化していくものと楽観視している。 |
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- Junin や Mirador で何が起こっているのか | |
Junin プロジェクトについては、歴史的に悪質な NGO(DECOIN) に目をつけられてしまったことと、会社側 (Ascendant Copper 社 ) の交渉能力にも問題があったのではないか。隣接の金の鉱区 (Lowel 社 ) では、早くから地元住民との合意形成を行い、反鉱山運動は発生していない。 Mirador では、現地の住民指導者が、環境 NGO(Mining Watch) に対し、地元への経済効果が期待できる鉱山開発に対する抗議活動を止めるよう、嘆願書を提出しているという動きもある。 |
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-鉱業法改正の目玉の一つであるロイヤルティ制度の復活について | |
ロイヤルティ制度導入は世界の趨勢から仕方のないこと。政府は、一方的に法案を作成することはなく、ある時点で、鉱業協会や進出企業と十分相談する機会を設けると言っている。ロイヤルティの率が 30% という一部の報道があるが、これは、石油の世界の話で、鉱業では、最大でも 5% 程度に留まることを期待する。 |
3. 所感
エクアドルの鉱業政策は環境保全に軸足を置きつつ、鉱山開発との両立を目指していくもので、今後のMirador開発案件の行方がこの国の鉱業振興の試金石になるものと見られる。活発化している地域住民による反鉱山運動に対しては、政府は、沈静化に向けて全国規模で対話集会を開催し、鉱山開発に住民の理解・協力を求める努力をしており、今後の住民側の反応を見守る必要がある。
今後のコレア政権の行方は、2007年9月の制憲議会選挙結果を待たねばならないが、コレア大統領がベネズエラやボリビアのような国有化政策を打ち出すとの見方は少なく、また、現在改正が検討されている鉱業法もグローバルスタンダードの範囲内との評価が一般的である。今回、いくつかの業界関係者との懇談したが、この国の将来の鉱山開発に対し、悲観的な声は聞かれなかった。
エクアドルは、現段階では、大手非鉄企業の進出は、ほとんどなく、カナダのジュニア企業や地元企業が鉱業活動の担い手となっている。このような状況下、我が国企業は、今後の同国の鉱業投資環境の行方を見極めつつ、投資対象国として、十分検討に値する国の一つであるものと思われる。
(参考)
(1) Mirador銅開発プロジェクト
本地域は、エクアドル南東部のZamora-Chinchipe地域内のCorrienteカッパーベルトと呼ばれる地帯(東西約20km×南北約60km)に位置する、ポーフィリー型の銅・金鉱床である。現在、Corriente Resources 社が権益を保有しているが、2005年4月にF/S終了し、政府によるEIA(環境影響評価書)承認後、2006年下期に鉱山工事に着手する予定であった。しかしながら、最近、地元住民による反鉱山開発運動が激化する中、2006年12月には、政府側から、これ以上の混乱を避けるために鉱業活動の一時中断を求められた。さらに、2007年5月には、エクアドルのエネルギー鉱山省より、同プロジェクトに関する環境影響計画を却下され、開発停止を求める決定が下された。
なお、現在の同社の開発計画によると、初期開発投資額は195百万$で、当初の操業規模は粗鉱量2.5万t/日(産銅量約6万t/年、産金量約1t/年、産銀量約12t/年)であるが、操業開始後3年を目処に粗鉱量を5万t/日に拡張する案も視野に入れている。当初の操業規模の場合、マインライフは38年である。本鉱床の資源量(measured & indicated)は441百万t(銅0.61%、金0.19g/t)、これ以外に予測資源量(inferred)として235百万t(銅0.52%、金0.17g/t)を計上している。
(2) Junin銅探鉱開発プロジェクト
本地域は、首都キトの北方約50kmに位置する、斑岩型の銅・モリブデン鉱床で、JICA/MMAJとペルー政府との共同による資源開発協力基礎調査により発見された。平成9年度に終了した同調査では、予想鉱量318百万t(銅0.71%、モリブデン0.026%)を得ている。本鉱床の探鉱・開発は、環境問題を懸念する地元の反対もあり、その後、大きな進展は見られなかったが、現在、権益を有するAscendant Copper社は、エネルギー鉱山省の支援をバックに、本格的なプロジェクト再開に向け地元との協議を継続している。しかしながら、プロジェクトサイトの同社施設が鉱山開発反対派によって放火される事件等数々の地元住民との紛争が断続的に続いており、同社は、地元との合意を前提に2006年内にプレF/Sレベルの調査開始を目指しているとされるが、プロジェクトの目立った進展は見られていないのが現状である。なお、同社は、独自の鉱量評価により、推定鉱量982百万t(銅0.89%、モリブデン0.04%)を計上している。

