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オーストラリアのレアアース資源(2)-Mt. Weldに続くオーストラリアのレアアース・プロジェクト-

オーストラリアには、現在、国内でレアアースを主として採掘・生産している鉱山はないが、世界有数のレアアース資源ポテンシャル保有国のひとつにあげられている。国内には、最も開発・生産に近いプロジェクトとして注目されているMt. Weld鉱床(西オーストラリア州)のほかにも幾つかのレアアース鉱床プロジェクトが知られている。 本稿では、Mt. Weldに続くオーストラリアのレアアース鉱床探鉱・開発プロジェクトについて報告する。 |
1. はじめに
オーストラリアのレアアース鉱床のうち、現在、鉱山建設が行われているMt. Weldレアアース鉱床(西オーストラリア州、Lynas Corporation、本社シドニー)が、最も生産に近いプロジェクトであるが、そのほかにも、北部準州のNolans Boreレアアース-リン-ウラン鉱床、西オーストラリア州のCummins Range金-白金-レアアース鉱床・Brockmanレアアース鉱床、ニューサウスウェルズ州のNarraburraレアアース鉱床・Dubboジルコニア鉱床、南オーストラリア州のMt. Geeウラン-レアアース鉱床など、レアアース及びそれらを伴う鉱床の探鉱・開発プロジェクトがある。
図1.オーストラリアの主要レアアース・プロジェクト位置図
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出典)各社四半期レポート、アニュアルレポート
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2. オーストラリアの主要レアアース鉱床プロジェクト
(1) Nolans Boreレアアース・リン・ウラン鉱床プロジェクト
Nolans Bore鉱床は、北部準州Alice Springsの北西140kmに位置している。探査のオペレーターであるArafura Resources Limited(本社パース、以下Arafra社)がプロジェクトの権益100%を保有している。
プロジェクトの開発ステージは、「進んだ探鉱」段階で、資源量8.6百万t*1・品位REO** 3.1%、P2O5 14.0%、U3O8 0.21%と見積もられている。
レアアース鉱床は、花崗岩-片麻岩類からなる母岩中に発達するフッ素燐灰石(fluorapatite)のストックワーク、細脈中に胚胎する。*2
鉱床は、1995年に発見(1,700×800m、REE品位5~7%)され、1999年にNorsk Hydro社が露頭サンプリング・分析(P2O5 33%、REE 7%以上、Ba 1,400ppm、Sr 3,100ppm、Th 97,500ppm、U 500ppm、Pb 150ppm)を実施している。2000年にArafra社が権益を取得、トレンチ、ピット、RCボーリングなどによる探査を実施、鉱化の深部方向への連続を確認している。*3
近年、Arafra社は、North Zone中央部において当初採掘予定(露天採掘)の100m以浅を対象に資源量確認ボーリング(総延長6,000m)を実施、2008/2009年度末のF/S調査までに埋蔵量評価を行う予定。これまでのボーリングで、幅5.4m・品位 REO 23.8%・U3O8 4.7lb/t、幅7.6m・REO 17.5%・U3O8 3.4lb/tなど好結果を得ている。*4
* | Indicated and Inferred |
** | REO:酸化レアアース |
出典)*1
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Arafura Resources Limited, ASXリリース、22 November, 2005 | |
*2
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Arafura Resources Limited Webサイト http://www.arafuraresources.com.au/rareearths-geology.html |
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*3
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Arafura Resources Limited, Prospectus, 2003 | |
*4
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Arafura Resources Limited, ASXリリース、9 July, 2007 |
(2) Cummins Range金・白金・レアアース鉱床プロジェクト
Cummins Range鉱床は、西オーストラリア州Halls Creek南南西130kmに位置している。探査のオペレーターであるNavigator Resources Limited(本社パース、以下Navigator社)がプロジェクトの権益100%を保有している。
プロジェクトの開発ステージは、「進んだ探鉱」段階で、資源量6.3百万t *, *1・品位REO** 0.5~1.0%、含有REO量47,250tと見積もられている。*1
レアアース鉱床は、原生代の基盤岩を貫く、アルカリ環状貫入岩体(Cummins Rangeカーボナタイト)に伴う。レアアース・ニオブ・リンに加え、銅・ウラン・タンタル・ジルコン・バナジウム・ストロンチウムなどの鉱化が認められる。*2
鉱床は、1978年にCRA Exploration Pty Ltd(現在のRio Tinto社)によって発見(資源量3~4百万t・REE品位2~4%)されたが、1989年に鉱区は放棄された。2001年にNavigator社が権益を取得、ボーリングなどによる探査を実施している。*2
Navigator社は、2007年4月からCummins Rangeカーボナタイト岩体を横断する浅所ボーリングを実施、更に、JORC規程に適合した資源量の評価を行うためRCボーリング(9,000m、400x400m、深さ90m)を計画。*3
* | Inferred |
出典)*1
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Navigator Resources Limited, Annual Report 2004, p6 | |
*2
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Navigator Resources Ltd, Prospectus, p56 | |
*3
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Navigator Resources Limitedプレスリリース、17 July 2007 |
(3) Dubbo Zirconia鉱床プロジェクト
Dubbo Zirconia鉱床は、ニューサウスウェルズ州Dubboの南20kmに位置している。探査のオペレーターであるAlkane Resources Ltd.(本社パース、以下Alkane社)が100%子会社のAustralian Zirconium Ltd.を通じてプロジェクトを実施している。
プロジェクトの開発ステージは、「F/S調査」段階で、資源量73.2百万t *,・品位ZrO2 1.96%、HfO2 0.04%、Y2O3 0.14%、Nb2O5 0.46、Ta2O5 0.03%、U3O8 0.014%、REO 0.75%と見積もられている。*1
レアアース鉱床は、ジュラ紀のアルカリ火山岩類から構成される複合岩体に、ほぼ垂直にパイプ状に貫入するToongi粗面岩(900×500m規模)に胚胎する。鉱化露頭は薄い風化岩中に丘状地形を呈している。*2
鉱床を胚胎するToongi岩体では、これまでに100孔を超えるボーリングが実施され、Toongi岩体中の品位がほぼ均一であることが確認されている。
2007年第1四半期時点で、回収プロセス改善を目的とした試験を実施しており、ANSTO Mineralsの敷地内に、実証プラント(Demonstration Pilot Plant:DPP)を建設、F/S調査を実施して2008年中旬には開発(露天採掘、採掘期間20年)を決定する予定。
なお、副産物のウランは、ニューサウスウェルズ州内での生産が禁止されているため安定化した後、処分する方針(ただし、生産が許可されれば副産物として生産する考え)。
* | Measured and Inferred |
出典)*1
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Alkane Resources Ltd AGM Presentation, 18th May 2007 | |
*2
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Alkane Resources Ltd, Annual Report 2002 |
(4) Mt. Geeウラン・レアアース鉱床プロジェクト
Mt. Gee鉱床は、南オーストラリア州Leigh Creekの東北東90kmに位置している。探査のオペレーターであるMarathon Resources Limited(本社アデレード、以下Marathon社、CITIC Australia Pty Ltd(中国資本)が同社株式19.9%を保有)がプロジェクトの権益100%を保有している。
プロジェクトの開発ステージは、「プレF/S調査」段階で、レアアース資源量34.0百万t*・品位REO 0.19%・La-Ce 51,800t**, *1、ウラン資源量45.6百万t・品位U3O8 0.068%・U3O8 31,250t**, *2
Paralana断層系の変形構造の方向に沿って配列する花崗岩質・赤鉄鉱質礫岩体中にウラン-レアアース-多金属鉱化作用が認められる。礫岩の起源は主として原生代の花崗岩類である。*1
1968~1972年にExoil社などからなる探査コンソーシアムがウランを対象にボーリングを実施(625孔53,000m、Mt. Gee鉱床を含む5鉱床で資源量3.8~5.3百万t・品位U3O8 1.0~1.2kg/t)、その後、CRA Exploration Pty Ltd(現在のRio Tinto社)、Goldstream Mining社を経て、2002年にはMarathon社の子会社がボーリング調査等を実施している。*3
Mt. Gee鉱床の東・西方向にウラン鉱化作用が拡がっている可能性があり、ボーリング調査による資源量の再評価を計画。2007年第1四半期にはRCボーリングを実施、幅5m・U3O8 0.41%、8m・0.11% U3O8などの鉱化を捕捉している。8月までに資源量の評価見直しが完了する予定。*4
* | ウラン・カットオフ品位U3O8 500ppmに基づく資源量 |
** | Inferred |
出典)*1
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Marathon Resources Limited, Company Announcement ASX, 2 August 2006 | |
*2
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Marathon Resources Limited, Company Announcement ASX, 30 August 2006 | |
*3
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Marathon Resources Limited, Company Announcement ASX, 2 August 2006 | |
*4
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Marathon Resources LimitedASXプレスリリース、02 July, 2007 |
(5)Narraburraレアアース鉱床プロジェクト
Narraburra鉱床は、ニューサウスウェルズ州Temoraの北北東15kmに位置している。探査のオペレーターであるCapital Mining Limited(本社キャンベラ首都特別区、以下Capital Mining社)がプロジェクトの権益100%を保有している。プロジェクトの開発ステージは、「進んだ探鉱」段階である。
鉱床は、Iタイプの過アルカリ花崗岩質複合岩体の分別結晶作用に伴う鉱化タイプ。鉱化に伴う金属は、ジルコン・イットリウム・ニオブ・レアアース・トリウム・ルビジウム・ガリウム・リチウム・タンタルなど。
鉱床は、線状の磁気異常と主要断層の方向とが一致、この断層系が、レアアースを濃集するペグマタイトや気成鉱床の形成に関係している。*1
Capital Mining社は、2鉱区(EL5629:11km2、EL5985:84km2)で探査を実施。EL 5629鉱区では、RCボーリング・予察的な冶金テストが実施されている。EL 5985鉱区では、地上放射能調査を実施、ボーリング地点の選定が行われている。*2
また、新たな鉱区(EL6787)84.7km2を取得。対象鉱種は、第三紀~第四紀の古河川に堆積しているジルコンを含むミネラルサンド、2007年第4四半期にボーリング実施予定。
出典)*1
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Capital Mining Limited Prospectus 2006 08/Nov/2006 | |
*2
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Capital Mining Limited Webサイト | |
*3
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Capital Mining Limited ASXアナウンスメント09 July 2007 |
(6) Brockmanレアアース鉱床プロジェクト
Brockman鉱床は、西オーストラリア州Halls Creekの南東18kmに位置している。探査はMt Gibson Iron Limited(権益100%)とABM Resources NL社(オペレーター、権益取得中)のJVである。
プロジェクトの開発ステージは、「F/S調査」段階、資源量50百万t*・品位ニオブ4,400ppm・タンタル270ppm・ジルコニウム1.04%・イットリウム1,240ppm・ハフニウム350ppm・ガリウム110ppm・レアアース900ppm。*1
レアアース鉱床は、褶曲した原生代の堆積岩類及び火山岩類中に胚胎する。ジルコニウムとレアアース以外にニオブ・タンタルの鉱化がコロンバイト(Columbite)中に部分的に認められている。*1
鉱床は、約20年前に発見され、地質調査・冶金試験が行われてきたが、レアアース及びジルコニウムの回収が困難なことから、経済性に欠けるとされてきた。*3
2006年、冶金試験・重液分離試験を実施、同年10月、独立系コンサルタントより、従来法(破砕とスクリーニング)による処理では、利益を上げることは困難との報告を受ける。プロジェクトの継続の可否に関してJV相手と検討中。*2, *3, *4
* | Measured Indicated Inferred |
出典)*1
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ABM Resources NL, Annual Report 2004, 27.October 2004 | |
*2
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ABM Resources NL, Quarterly Report ended 30 September 2006, | |
*3
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ABM Resources NL, Quarterly Report ended 31 December 2006, | |
*4
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ABM Resources NL, Quarterly Report ended 30 March 2007, |
図2.オーストラリアと世界の主要レアアース鉱床の資源量 |
データ)
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Arafura Resources Limited Webサイト、Lynas社, Sydney Resources Round-up, 9 May 2007プレゼンテーション資料、Alkain社プレゼンテーション資料、Minmetデータベース、を元に作図 |
3. おわりに
オーストラリアのレアアース鉱床の探鉱・開発が活発化の兆しが見えてきた。その背景には、中国のレアメタル・レアアース等の輸出制限から、オーストラリアが中国に代わるレアアース資源供給国としてのポテンシャルが高いこと、ウラン探鉱の活発化の影響(ウラン鉱床にレアアース鉱化が伴うこと、それとは反対にレアアース鉱床がウランやトリウムなどの放射能元素を伴うことから、ウラン探査の過程で結果的にレアアース鉱床が発見されるなど)がある。また、Mt. Weldレアアース鉱床開発が、オーストラリアにおけるレアアース鉱床開発を現実味のあるものとしたことも大きな要因と言えよう。
参考文献等
ABM Resources NL, Annual Report 2004, 27.October 2004
ABM Resources NL, Quarterly Report ended 30 September 2006,
ABM Resources NL, Quarterly Report ended 31 December 2006,
ABM Resources NL, Quarterly Report ended 30 March 2007,
Alkane AGM Presentation, 18th May 2007
Alkane Exploration Limited, Quaterly Report to 31 March 2007,
Alkane Exploration Limited, Webサイト
Arafura Resources Limited, ASXリリース、22 November, 2005
Arafura Resources Limited Webサイト
Arafura Resources Limited, Prospectus, 2003
Arafura Resources Limited, ASXリリース、9 July, 2007
Capital Mining Limited Prospectus 2006 08/Nov/2006
Capital Mining Limited Webサイト
Capital Mining Limited ASXアナウンスメント09 July 2007
Marathon Resources Limited, Company Announcement ASX, 2 August 2006
Marathon Resources Limited, Company Announcement ASX, 30 August 2006
Marathon Resources Limited, Company Announcement ASX, 2 August 2006
Marathon Resources LimitedASXプレスリリース、02 July, 2007
Marathon Resources LimitedWebサイト
Navigator Resources Limited, Annual Report 2004, p6
Navigator Resources Ltd, Prospectus, p56
Navigator Resources Limitedプレスリリース、17 July 2007

