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報告書&レポート

2007年8月16日 ロンドン事務所 高橋 健一 Tel:+44-20-7287-7915 e-mail:takahashi@jogmec.org.uk
2007年77号

Mining Journal社「Platinum & Palladium Day」参加報告

 Mining Journal社主催の「20:20 Investor Series」と称されるセミナーシリーズの一環として、「Platinum & Palladium Day」が5月15日、ロンドンで開催された。同シリーズは、主に欧州の投資家向けに、各金属、あるいは国ごとのテーマにより、年間4、5回程度、開催されている。各セミナーの共通テーマは、金属の需給・価格動向、各国の鉱業法規、探鉱・生産動向、そして関連企業の事業内容・展望・投資ポテンシャルなどである。今回のセミナーでは、プラチナとパラジウムにスポットを当て、需給・価格動向に関する講演が1件、探鉱企業による自社プロジェクトの概況についての講演が8件行われた。以下、その主な講演の概要を報告する。

1. プラチナとパラジウム市場の展望

Johnson Matthey社(英) Mr.David Jollie, Publications Manager

 講演者のJollie氏は白金族金属(Platinum Group Metals、以下「PGM」)市場の分析において豊富な経験を持つ。毎年、この時期、Johnson Matthey社から発行されるPGMの需給レビュー誌「Platinum 2007」の筆者でもあり、講演はこの「Platinum 2007」の内容を基に行われた。
(1) プラチナの需給
 2006年のプラチナの需要は1.2%増加し、678万ozであった。
需要の伸びは、自動車触媒の420万oz(40万oz増)と工業用の187万oz(11%増)で見られた。
 自動車触媒需要が増加した背景には、継続的な欧州での小型ディーゼル車の需要増(販売された自動車の約半数がディーゼル車)に加え、強化された「Euro Ⅳ」排ガス規制が2006年1月から施行されたことにより、小型ディーゼル車の排ガスフィルターへの使用増加が主要因となる。これらが影響して2006年の欧州でのプラチナの消費量は216万ozを記録した。
 工業用需要は11%増加し、187万ozとなった。特にLCDガラス製造部門では2005年に比べて、3万ozの増加があった。
 これらに対して、宝飾用需要は36万oz減少し、161万ozとなった。プラチナが高価格であったため、在庫を利用し、リサイクル量(中古の宝飾品と売れ残りの宝飾品を使用)を増加した背景がある。特に中国でのリサイクル量は前年の約2倍となり、これらが反映され、中国での2006年の宝飾需要は、1998年以来、最低の76万oz(11.5万oz減)となった。
 2006年のプラチナの供給量は、12.5万oz増加し、678.5万ozであった。南アからの供給量が17.5万oz増加し529万oz、ロシア、北米、ジンバブエからの供給は前年とほぼ同量となった。
 

プラチナの需要と供給

(千oz)
 

2005年

2006年

伸率(%)

需  要  
  自動車触媒 (総需要)
    (リサイクル分)
  宝飾用  
  工業用  
  投 資  
6,695
3,795
-770
1,965
1,690
15
6,775
4,195
-855
1,605
1,870
-40
+1.2
供  給
6,640
6,785
+2.2
バランス
-55
10
参照:Johnson Matthey社「Platinum 2007」

プラチナ市場、価格の展望:
 欧州での小型ディーゼル車の需要は続くと見られているため、自動車触媒需要がさらに増加するのは確実。2007年第1四半期、SGE(Shanghai Gold Exchange)でのプラチナ取引量が増加していることから、中国のプラチナ需要の回復が期待される。ロシアからの供給量は今後、増えると見込まれている。2006年11月に、プラチナ価格は、一時1,400US$に達した事から、Johnson Matthey社では、2007年の価格予想を、上限1,400US$とし、下限は1,200US$下回ることはないと予測している。
 
(2) パラジウムの需給
 2006年のパラジウム需要は10%減少し、664万ozとなった。
 主な内訳として、宝飾用需要が、特に中国で大幅に減少(前年比32万oz減の44万oz)したことが影響して、全体で30%減少し、99.5万ozとなった。
 自動車触媒需要は前年より15万oz増加し、2001年以来の最大となる、402万ozであった。主要因は、ガソリン車における使用量は僅かに減少したものの、ディーゼル車において、プラチナに代わり、パラジウムが使用され始めたことによるものである。また、日本と中国での自動車触媒需要は、前年比19万oz増加した。電子製品向け需要は10%増加し、107万ozであった。
 2006年のパラジウム供給は、南アの生産量は30万ozの増産となったが、ロシアからの売却による供給量が72万oz減少したため、全体では34.5万oz減の806万ozとなった。
 南アからの供給増加は、主に、Anglo Platinum社、 Lonmin社、Aquarius社、ARM社などの増産によるものである。ロシアでもNorilsk社が2.5万ozの増産となった様に、ロシアでの実質生産量は増加したが、2006年12月の出荷分となる129万ozは、2006年の同国の供給量に含まれていないため、同国の供給量は減少した様な数値となった。

パラジウム市場、価格の展望:
 2007年の展望として、引き続き自動車産業での需要の増加は確実。特に欧州以外の中国や日本での需要増加が予想される。宝飾用需要の予測は難しいが、大きな伸びは期待されない。供給面では、ロシアの2006年12月の出荷分も2007年の供給量に加算される事もあり、かなりの増加が予想される。今後6か月のパラジウム価格は、420US$に達する可能性もあるとし、下限価格予測は320US$とした。

パラジウムの需要と供給
(千oz)
 

2005年

2006年

伸率(%)

需  要  
  自動車触媒 (総需要)
    (リサイクル分)
  歯科医療用  
  電子部品  
  宝飾用  
  その他  
7,355
3,865
-625
815
970
1,430
900
6,635
4,015
-800
800
1,065
995
560
-9.8
供  給
8,405
8,060
-4.1
バランス
1,050
1,425
参照:Johnson Matthey社「Platinum 2007」

 
2. 探鉱企業による講演

2-1. Ridge Mining社(英社、AIM上場)

Mr Francis Johnstone, Commercial Director

                   
 同社は現在、南アフリカBushveld ComplexのEastern Limbにおいて、Blue RidgeとSheba’s Ridgeの2つの開発段階のプロジェクトを実施中。同社は、さらに、同じくBushveld Complexに、Western Ridge、Fountain Ridge、Red Bush Ridgeの3つの初期段階の探鉱プロジェクトを保有する。最近のニュースとして、中国Zijin Gold Mining Group社20.3%シェアホルダー)が、Sheba’s Ridgeプロジェクトへの参入を狙いとし、Ridge Mining社の20.3%の資本権益を取得した。Zijin社は、今後、技術面とファイナンス面でSheba’s Ridgeプロジェクトに関与していく予定となっている。
(1) Blue Ridgeプロジェクト
 バンカブルFSが終了し、開発段階に入っている。4E PGM(Pt、Pd、Rh、Au)を年間125,000oz(うちプラチナ75,000oz、パラジウム35,000oz、ロジウム13,000oz、金1,600oz)を生産予定で、生産開始は2008年中旬となり、鉱山ライフは18年の計画である。同社がプロジェクトの権益100%を所有。生産鉱石は、オフテイク契約によりImpala Platinum社に供給される。
 
(2) Sheba’s Ridgeプロジェクト
 プロジェクト権益が、Ridge Mining社61.5%、Anglo Platinum社12.5%、南アIDC(産業開発機構)26%のJVプロジェクト。バンカブルFSを実施中で、2007年12月に終了予定。露天採掘による鉱山開発を予定している。プレFSの結果では、鉱物資源量合計(精測+概測+予測)は775百万t、ニッケル0.18%、Pt+Pd+Au 0.77g/t、銅0.07%となり、それぞれ含有量は、ニッケル138.8万t、3E 19百万oz、銅50万tと算定されている。
 同社は他に2つのプロジェクトを持つが、いずれもBEE企業とのJVプロジェクトである。それぞれのパートナーは、Fountain RidgeプロジェクトがMmakau Mining社、Western RidgeプロジェクトがHolgoun Mining社となり、いずれのプロジェクトも探鉱の初期段階である。

2-2. Eurasia Mining社(英社、AIM上場)

Mr Christian Schaffalitzky, Managing Director & CEO

               
 同社は、ロシアにおいて3つのPGMと金の探鉱プロジェクトを実施している。その中の2つが紹介された。
(1) Kola PGMプロジェクト
 北西ロシアのコラ半島に位置する、Anglo Platinum社とのJVプロジェクトである。プロジェクト権益の80%はEurasia Mining社とAnglo Platinum社の合弁企業(両社権益50:50)が所有し、残り20%は、Eurasia Mining社が所有するが、Anglo Platinum社が探鉱資金10百万US$の負担をすることで、6百万US$で残りの権利を取得するオプションを有する。探鉱ライセンス地区は3か所(Volchetundra、West Imandra、Monchetundra)、総面積は450平方kmとなる。初期の調査で、プラチナ最高品位25g/tなどのハイグレードな結果が出ている。最近のVolchetundra地区でのボーリング調査では、着鉱幅44.6m・Pt+Pd平均品位1.7g/tなどの鉱化帯が確認されている。同プロジェクトの将来的なメリットとして、道路、鉄道、電力供給などのインフラに恵まれている点をあげている。
 近隣にはBarrick Gold社のFederova TundraプロジェクトとConsolidated Puma Mineral社のKukshaプロジェクトが実施されている。

(2) Urals Alluvial PGM JVプロジェクト
 Anglo Platinum社とのJVプロジェクト。Anglo Platinum社は、バンカブルFSまでの費用を100%負担することで、プロジェクト権益50%を獲得する。West Kytlim地区におけるピットサンプリングでは、最高品位1,500mg/m3が確認されているため、同地区ではかなりの経済性を見込んでいる。生産開始予定は2009年、年間PGM生産量15,000oz以上を見込んでいる。
 Urals地区にはUrals Bedrock PGMプロジェクトも調査進行中。

2-3. Platinum Group Metals社(加社、TSX上場)

Mr R. Michael Jones, President & CEO

                    
 Platinum Group Metals社(以下、「PTM社」)は、バンクーバーを本拠地とするカナダの企業であるが、マネージメント・チームはカナダ人/南アフリカ人で構成されている。PTM社の事業内容は探鉱、鉱山開発、鉱山操業に及ぶ。PTM社のPGM探鉱プロジェクトは、南アのBushveld ComplexのWestern Limbで進行中。3つのJVプロジェクトがある。
(1) WBJVプロジェクト1
 PTM社37%、Anglo Platinum社37%、Africa Wide社(BEE企業)26%のJVプロジェクト。2007年1月に終了したプレFSの結果では、4E PGM(Pt、Pd、Rh、Au)の概測+精測鉱物資源量は6.4百万oz、年間生産規模25万oz、鉱山ライフは18年の結果となっている。現在バンカブルFS中で、ファイナル・エンジニアリングと鉱山設計が開始された。
 
(2) WBJVプロジェクト2
 PTM社18.5%、Anglo Platinum社18.5%、Africa Wide社(BEE企業)13%、Wesizwe社(BEEプラチナ探鉱会社)50%の権益によるJVプロジェクト。4E PGM予測鉱物資源量は8.5百万oz。バンカブルFS中。
2007年は、さらにプロジェクト3(プロジェクト2の隣)のボーリング調査も始まる。
 
2-4. NKWE Platinum社(南ア社、ASX上場)

Mr Maredi Mphahlele, Managing Director

                   
 同社はPGM探鉱プロジェクトを専門とするBEE企業。同社のPGMプロジェクトは、南アBushveld ComplexのWestern Limbに2か所(De Wildt、Rooderand)と、Eastern Limbに5か所(Garatouw他4件)ある。最大株主は、BEE企業であるGenorah社で、同社のシェア48%を所有。今後、ロンドンAIMとヨハネスブルグJSEへの上場を検討している。同社のプロジェクトの中でも、最大規模のGaratouwプロジェクトは、Eastern Limbに位置する、Genorah社(権益26%)とのJVプロジェクトであり、現在までに、プレFS調査が終了している。その結果、これまでに算定されているMerensky ReefでのPGM含有量は22百万oz、同じくUG2では34百万ozとなっている。現在、FSのためのボーリング調査を実施中である。
 
 上記各社の他、Benton Resources社(加社、TSX Venture Exchange上場)、Pacific North West Capital社(加社、TSX Venture上場)、Marathon PGM Corporation(加社、TSX上場)、Beartooth Platinum Corp.(加社、TSX-V上場)の講演も行われた。

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