報告書&レポート
オーストラリア「鉱山会社の研究」(3)非鉄メジャー編その2-Rio TintoのAlcan買収等に見る非鉄メジャーの資源ビジネスにおけるポートフォリオ-
Rio Tinto(本社メルボルン/ロンドン)は、2007年7月12日、アルミニウム大手のAlcan(カナダ資本)を381億US$相当で買収すると発表した。一方、非鉄メジャーのBHP Billitonが同じくアルミニウム大手のAlcoa(米国資本)を買収するのではないかとの見方が有力となっている。 本稿では、Rio Tinto及びBHP Billitonによるアルミニウム企業の買収の動きから、非鉄メジャーの資源ビジネスにおけるポートフォリオ(経営の多角化)について考える。 |
1. はじめに
近年の鉱物資源の生産増加、価格高騰はかつてないほどの勢いであり、その原動力となっているのは中国の目覚しい経済発展と更なる今後の成長への期待によるものと言える。特に、鉄、アルミニウム、ニッケルは中国の消費量の増加に伴い価格も急上昇を続け、ウランは、今後の中国での大きな需要増加を見込んで価格が急騰している。
このような「資源ブーム」の到来に対して、非鉄メジャーはどのような行動をとったのか、2007年7月初旬にアルミニウム大手Alcanの買収を発表したRio Tintoと、現在、価格が高騰しているニッケル・銅・ウラン大手生産者であったWMC Resourcesを2005年に買収し、今、また、アルミニウム大手のAlcoaを買収すると見られているBHP Billitonをもとに、その企業経営戦略を考えてみる。
![]() |
![]() |
|
出典)ABARE, Australian Commodity Statistics 2006 ABARE, Australian Commodities March Quarter 07.1, 2007 |
出典)ABARE, Australian Commodity Statistics 2006 |
|
![]() |
![]() |
|
出典)ABARE, Australian Commodity Statistics 2006 ABARE, Australian Commodities March Quarter 07.1, 2007 World Metal Stratistics 2007 |
出典)ABARE, Australian Commodity Statistics 2006 ABARE, Australian Commodities March Quarter 07.1, 2007 |
|
![]() |
||
出典)ABARE, Australian Commodity Statistics 2006 ABARE, Australian Commodities March Quarter 07.1, 2007 |
||
図1.金属価格・中国消費量の推移とRio Tinto、BHP Billitonによる他社買収時期
|
![]() |
図2.Rio Tinto、Alcan買収後の企業規模
出典)2007年7月13日付け、The Sydney Morning Herald |
2. Rio TintoによるAlcan買収とその効果 -選択と集中、強固な経営体質-
Rio Tintoは、Alcanを買収することによって、BHP Billitonに迫る世界第2位の鉱山会社の地位を確固たるものにするとともに*, *1、ボーキサイト・アルミナ・アルミニウムとアルミニウム・ビジネスの上流から下流に至るまでの全てにおいて世界トップクラスの生産規模となる。**
また、Rio Tintoの収益構造は、買収前が銅と鉄鉱石が収益***の30~40%*2を占める「2大中核事業体制」であったのに対して、買収後は、アルミニウム部門が大幅に拡大されて、銅・鉄鉱石・アルミニウムが収益のそれぞれ約20数%~30%*2を占める「3大中核事業体制」へと事業の多角化を実現することになる。
Rio Tintoの多角化戦略は、Alcan買収時のTom Albanese社長の「鉄鉱石、銅、アルミニウムは、中国で需要性のある3金属である」、「世界的な炭酸ガス排出問題や中国のエネルギー需要などに対して、原子力発電とウランは重要な位置を担っている」、「銅、鉄鉱石が力強いパフォーマンス(収益)をあげているが、Rio Tintoは、将来の(発展・成長の)機会を見据えている」*3とのコメントに表されている。
一方で、Alcan買収に伴ってRio Tintoは、同社にとっては事業規模の小さい経営資産を売却するのではないかとみられている。Rio Tintoの財務担当役員は、既に資産売却に関して引き合いがあること、Alcan買収に関連した資産売却の決定は来年以降であることなどを明らかにしている。*4
表1.Rio TintoのAlcan買収後の企業規模 |
|
出典)Rio Tinto Webサイト |
![]() |
![]() |
買収前 | 買収後 |
図3.Rio TintoのAlcan買収後の事業別の収益構造
出典)Rio Tinto Webサイト, Investor “Offer for Alcan”, Factsheet |
* | 時価総額において、BHP Billitonが1,820億US$であるに対して、Alcan買収後のRio Tintoは1,600億US$ |
** | Rio Tinto Webサイト, Investor "Offer for Alcan", Factsheet |
*** | 収益は、EBITDA:Earnings Before Interest, Tax, Depreciation and Amortizationを指す。 |
出典) *1 | 2007年7月13日付け、The Sydney Morning Herald | |
*2 | Rio Tinto Webサイト | |
*3 | 2007年7月25日付け、The Australian Financial Review | |
*4 | 2007年7月19日付け、The Australian Financial Review、The Australian、The Sydney Morning Herald |
3. BHP Billitonの買収とその効果 -買収のタイミングと安定した収益構造-
BHP Billitonは、2005年にWMC Resourcesを買収し、同社の主力鉱山であり世界最大クラスのウラン・銅・金鉱山であるOlympic Dam鉱山と西オーストラリア州の多数のニッケル鉱山・鉱床を取得している。現在、世界第5位のウラン生産量(生産量を3倍にする露天採掘化拡張計画が実現すれば、世界最大級のウラン鉱山に発展)のOlympic Dam鉱山を獲得したことで、ウラン生産のなかったBHP Billitonは、一躍、世界トップクラスのウラン生産者となった。また、中国に「地理的に最も近い」巨大銅鉱山を取得したことは、対中国ビジネスに大きく貢献すると見られている。更に、自社の既存のニッケル資産に当時オーストラリアのニッケル・ビジネスの中心的な存在であったWMC Resourcesのそれを加えたことで、ニッケル事業の強化を実現している。
WMC Resourcesを買収した直後の2005年からのウラン価格の高騰、オーストラリアでの新規ウラン鉱山解禁、2006年後半からのニッケルや銅価格の高騰など、BHP BillitonのWMC買収は絶妙なタイミングであったと言えよう。
また、2007年は、アルミニウム大手のAlcoaの買収への動きを見せており、これが実現すれば、BHP Billitonの収益構造*は、鉄鉱石・ベースメタル・アルミニウムがそれぞれ全体の20~20数%*1を占め、次いでステンレス材料(ニッケル等)と石油関連が10数%*1を占めて、金属資源からエネルギーに至るまで全ての鉱種にわたってバランスの取れたものとなる。
![]() |
![]() |
現在 | 買収が行われた場合 |
図4.BHP BillitonのAlcoa買収が行われた場合の事業別の収益構造
出典)2007年7月7日付けThe Financial Review (Source:Credit Suisse) |
![]() |
図5.世界の主要ウラン鉱山の生産能力
出典)Uranium Information Centre, Webサイト, World Uranium Mining, Nuclear Issues Briefing Paper 41, 2007/7/1 |
![]() |
図6.世界の主要ウラン生産企業
出典)Uranium Information Centre, Webサイト, World Uranium Mining, Nuclear Issues Briefing Paper 41, 2007/7/1 |
* 収益は、EBIT:Earnings Before Interest and Taxを指す。
出典)*1 Credit Suisse
4. おわりに
このところの金属価格の高騰で、毎年、「記録的な」利益を上げている非鉄メジャーのRio TintoとBHP Billitonの両者は、資源ブームの波に乗り、更に、その先にある次のビジネス・チャンスを的確に捉えて事業を展開していく、ダイナミックかつ周到な経営戦略がうかがえる。
参考文献等
2007年7月13日付け、The Sydney Morning Herald
Rio Tinto Webサイト
2007年7月25日付け、The Australian Financial Review
2007年7月19日付け、The Australian Financial Review、The Australian、The Sydney Morning Herald
Credit Suisse
ABARE, Australian Commodity Statistics 2006
ABARE, Australian Commodities March Quarter 07.1
Uranium Information Centre Webサイト, World Uranium Mining, Nuclear Issues Briefing Paper 41, 2007/7/1
