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報告書&レポート

2007年9月13日 北京事務所 土屋春明 Tel:+86-10-6590-9520 e-mail:tsuchiya@jogmec.cn
2007年86号

モンゴル新鉱物資源法と超過利得税

 最近の鉱物資源価格の世界的な高止まり状況、国内における資源ナショナリズムの台頭からモンゴル政府の国内鉱物資源開発プロジェクトに対する鉱業権益取得への関心が2005年から強まってきた。2006年5月12日に「一部鉱物資源価格急騰による利益に対する税法」、即ち、超過利得税(Windfall Tax)が国家大会議で採択された。また、2006年7月8日には鉱区税や毎年の最低探鉱費用の導入、戦略的鉱床に対するモンゴル政府の権益保有比率を盛り込んだ新鉱物資源法がモンゴル国家大会議で採択された。
 2007年7月、鉱物資源石油管理庁(Mineral Resources and Petroleum Authority:MRPAM)及びモンゴル鉱業協会(Mongolian National Mining Association:MNMA)などの関係機関から新鉱物資源法及び超過利得税について情報収集したので本稿において新鉱物資源法、超過利得税の現状について紹介する。

1. モンゴル新鉱物資源法
○鉱業権

     鉱業権は、探鉱権(Exploration License)及び採掘権(Mining License)の2種類からなる。鉱業権は、国境、国の特別保護地域(国立公園、自然保護区、遺跡など)、また地方行政による保留地等を除いて設定できる。
 鉱業権の付与は先願主義である。鉱業ライセンスは譲渡可能であり、担保として利用することができる。鉱業権者は、鉱区内の鉱物資源を管理、販売する完全な自由を持っている。

○鉱業権取得の手続き

     外国投資家が鉱物資源の探鉱活動を行う場合には、鉱物資源石油管理庁から探鉱権を取得しなければならない。また、外国投資家が採掘権を申請する場合には、外国投資庁 (Foreign Investment and Foreign Trade Agency(FIFTA) の投資許可取得及び国家登記局への企業登記を行わなければならない。
 探鉱権の審査・発行、採掘権の審査・発行は、鉱物資源石油管理庁の地質局 (Geological Department) 及び鉱山局 (Mining Department) がそれぞれ行う。鉱業権の管理は地質・鉱業登記局 ( Geology and Mining Cadastre Department ) が行う。

○鉱業権保有資格

     モンゴル国内法に基づいて設立された法人で、かつ、納税実績のある者とされている(第12条(探鉱権)及び第21条(採掘権))。従来は、個人でも保有できた「探鉱権」につき、改正後は法人格がないと探鉱権の保有ができなくなる。ただし、地面を掘らない調査はライセンス不要で誰でも実施可能である。

探鉱権及び採掘権:モンゴル国内法に基づいて
  設立された法人で、かつ、納税実績のある者
探鉱権: モンゴル国民、外国人又は法人
採掘権: モンゴル国内法に基づいて設立された法人

○鉱業権許可期間

     探鉱権の有効期間は3年間とこれに続く3年間(さらに1回の更新が可能)で、合計で9年間の探鉱権の許可期間となる(第14条・第16条)。採掘権の有効期間は30年間であるが、埋蔵量によってはこれに続いて20年間(さらに1回の更新が可能)であり、合計で採掘権の許可期間70年間となる(第20条・第22条)。

探鉱権:最長9年
  当初3年間+3年延長x2
探鉱権:最長7年
  当初3年間+2年延長x2
採掘権:最長70年
  当初30年+20年延長x2
採掘権:最長100年
  当初60年+40年延長

 
○探鉱権

     新鉱業法によれば、探鉱権は対象地域について最初に適正な申請を行った申請者に対して発行され、発行手続きには約10日を要する。探鉱権対象鉱区の大きさは、25ha~40万haである(第15条)。探鉱権の鉱区税は探鉱権対象鉱区の大きさが25ha~40万haなので、探査を9年間実施すると、200US$~324万US$を鉱区税として納付する必要が有る(第28条)。また、毎年一定額以上の探鉱費用をかける義務規定が新たに導入された(第29条)。これにより、従来のような転売のための権利取得は避けられることになる。

鉱区税 最低探鉱費用
探鉱権:1ha(ha)あたり、
 1年目→0.1US$
 2年目→0.2US$
 3年目→0.3US$
 4~6年目→1.0US$
 7~9年目→1.5US$
(9年間探鉱すると1haあたり8.1US$)
1haあたり
 1年目→無料
 2~3年目→0.5US$
 4~6年目→1.0US$
 7~9年目→1.5US$
(9年間探鉱すると1haあたり8.5US$)

 
○採掘権

     探鉱権が正式に与えられた地域においては、探鉱権を保有する企業のみが採掘権を申請できる。それ以外の地域においては、最初に適正な申請書を提出した企業に対して採掘権が与えられる。保護地域に対して採掘権を発行する場合には、議会の承認が必要である。
 申請手続きには約20 日を要する。採掘権の申請費用は1ha当たり15.0US$/年(石炭は1ha当たり5.0US$/年)である(第28条)。
 採掘権対象鉱区の形は直線を境界線とした多角形でなければならず、その境界線は東西・南北に延びる、長さ500m以上の直線とする。塩及びその他の広く分布する鉱物資源の場合、鉱区の境界線の長さは100m以上とする。

○国による鉱業権益保有比率(新たに導入された規定)

     「戦略的鉱床(strategically important deposits)」について、国の予算により調査をしたものについては上限50%、それ以外については上限34%まで国が参入できる(第5条)。戦略的鉱床については、「国家安全保障上、経済・社会開発上インパクトを与えるポテンシャルのあるもの」と定義されている(第4条)。既に、戦略的鉱床としてOyu Tolgoi鉱床を含む15鉱床が、また、戦略的鉱床候補として39鉱床がリストアップされている。

○鉱業権の売却

     企業が10%以上のシェアを売却する場合にはモンゴル証券取引所を通してしか売却できない。

○投資協定

     モンゴル政府と企業が締結する協定である。資源開発には莫大な投資が必要なため、開発の最初の5年間に一定規模以上の投資を行う場合には、その後税率の変更などがあっても適用しない旨協定を締結し、投資環境を安定させることにより外国投資誘致を促進することを目的とする(第24条)。

投資協定(investment agreement)
  5千万US$以上の投資→5年間
1億US$以上の投資→15年間
3億US$以上の投資→30年間
安定協定(stability agreement)
  2百万US$以上の投資→10年間
2千万U$以上の投資→15年間

○ロイヤルティ

     鉱業界におけるロイヤルティとは、生産鉱物資源が売却、処分されたとき、使用されたときの売上高に対して、その土地及び鉱物権の所有者である国及び行政機関に対して支払うものである。
 採掘権のロイヤルティは、国内向け燃料用石炭及び広く分布する鉱物資源(砂金を除く)に対して、国内での販売価格の2.5%と定められている。その他の鉱物資源の場合は、販売価格の5.0%となる。

販売価格(sales value)の5%
  (国内向け燃料用石炭と広範囲に存在する鉱物資源については2.5%)
販売価格(sales value)の2.5%
  (金については7.5%)

 販売価格は以下の基準に準じて算出する。

 ・ 鉱物資源を輸出した場合は、国際市場でのその月の平均価格及び国際貿易の規定に基づいて精算する。
 ・ 国内で売却、または消費された場合は、その商品の国内市場価格及び類似する鉱種・製品の価格に準じて算出する。
 ・ 国内で消費された場合で市場価格が不明な場合は、事業者の提出した売上金額を基準とする。

○環境保護

     モンゴルにおける環境対策に関する承認・管理は国家大会議に直属する独立機関である国家専門検査庁(The State Specialized Inspection)中の自然環境地質鉱業管理局が行っているが、地方自治体がそれぞれの地域において鉱業活動に関する環境管理を主体的に行っている。また、環境対策は鉱物資源石油管理庁の承認も必要とされている。
 鉱山開発事業には、政府機関による許可書と環境評価書が必要である。環境評価書は事業または開発計画が環境に対して悪影響を及ばす可能性を評価し、環境保全計画を明確に示さなければならない(第33条~第36条)。環境評価書の作成は新規探鉱事業開始、鉱業権更新、鉱業権譲渡の場合において必要である。
 地方自治体は、探鉱権や採掘権が発行される前に、政府の土地開発計画に基づいて、申請者が提出した環境評価書、環境保護計画、必要設備説明書等に対して、意見を述べる権限を持っている。法令遵守違反者に対しては2か月間の鉱業活動停止、環境に深刻な損害を与えた場合には、以後20年間のライセンス発行禁止の罰則がある(第57条)。○外国人雇用の上限(新たに導入された規定)

○外国人雇用の上限 ( 新たに導入された規定 )

     旧法では「ライセンス所有者は探査・採掘にあたりモンゴル人を雇うこと」という規定のみだったものが、新たに「外国人労働者は10%を超えてはならない」旨も規定された(第39条)

○情報提供(新たに導入された規定)

     ライセンス保有者は一般市民向けに、総販売額、納税額を含む生産・販売関係の情報を公開しなければならない(第44条)。違反した場合は最高100万トゥグルグの罰金を支払わなければならない(第57条)。

 なお、本新鉱物資源法にはウランは含まれず、ウランに関する鉱業法は新鉱業法をベースに環境対策や平和利用などの条項を加えたものを現在作成中であるが施行時期は未定である。
 モンゴル最大の開発案件であるオユ・トルゴイ銅・金鉱床開発プロジェクトは、現在、新鉱物資源法に盛り込まれた戦略的鉱床に対するモンゴル政府の権益所有比率、投資協定条項などについて国家大会議で審議中であるが、いつ承認されるかについてはモンゴル鉱業関係者の間では不明とのことである。

2. 超過利得税
 モンゴル政府は、資源開発を発展させるために、金以外の鉱物資源に対する課税を全体的に低くしてきたが、2006年5月12日から金、銅の価格がある水準を超えて上昇した場合、それ以上の価格部分に対して課税を行うこととし、国会で「一部鉱物資源価格急騰による利益に対する税法」を可決した。この新税は、超過利得税(Windfall Tax)と呼ばれ、対象品目は金、銅及び銅精鉱で、基準は、LME で金1ozが500$、銅1tが2,600$を超える場合、超えた分に対し、売上高の68%に相当する税金を納めることになる。しかし、この新税導入によって採掘量の虚偽報告、金の不法取引等が引き起こされるという弊害を生む結果となっている。
 なお、現在は金、銅地金及び銅精鉱以外の非鉄金属品目については超過利得税の対象品目とする計画はないとのことである。本政策は、人民革命党政権が選挙目当てに実施したものでモンゴル鉱業協会などの民間団体の間で非常に評判が悪く、同協会は国家大会議に廃止の意見具申、裁判所への不服申し立てを行っている。

3. おわりに
 今回施行されたモンゴルの新鉱物資源法は、転売を目的とした探鉱権の取得を避けるため毎年一定額以上の探鉱費用をかける義務規定、戦略的鉱床に対する国による鉱業権益保有、外国人雇用の上限設定及び生産・販売の情報提供義務などが新たに導入され、モンゴル国内の資源ナショナリズムを反映したものとなっている。とりわけ、戦略的鉱床に対する国による鉱業権益保有比率、国と企業が締結する投資協定条項には関心が高く、オユ・トルゴイ銅・金鉱床開発プロジェクトも現在、国家大会議の承認が得られていない。
 超過利得税は、現人民革命党政権が来年の選挙目当てに施行した経緯もあり、モンゴル鉱業関係者の間では不評であり、国家大会議への廃止の意見具申、裁判所への不服申し立てが行われている。
 人民革命党現政権の支持基盤が弱く、2008年6月に実施される国家大会議選挙で政権の交代も予想され、今後のモンゴルの政治動向を注視する必要がある。

モンゴル鉱物資源石油管理庁(MRPAM)
モンゴル鉱物資源石油管理庁(MRPAM)

モンゴル鉱業協会(MNMA)
モンゴル鉱業協会(MNMA)

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