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報告書&レポート

2007年9月20日 シドニー事務所 久保田博志、研究スタッフ研究スタッフBarend van Ijsseistein、Walker Ayako Tel:+61-2-9264-2493 e-mail:kubota-hiroshi_1@jogmec.go.jp
2007年87号

オーストラリア鉱業における労働不足と女性労働力の資源分野への参加への期待

 空前の資源ブームのなか技能労働者をはじめとする深刻な労働者不足に直面しているオーストラリアでは、最近、資源分野では遅れていた女性労働力が注目されている。大洋州鉱業冶金学会(Australasian Institute of Mining & Metallurgy:AusIMM)は、タスクフォース「Women in Mining Network:WIMNet」(鉱業における女性ネットワーク)を組織して、オーストラリアの資源分野への女性の雇用促進とその維持等に向けて動き出した。
 本稿では、オーストラリアの資源分野における女性労働力の現状と女性労働者の参加促進への取り組みについて報告する。

1. はじめに
 オーストラリアでは、「鉱物資源ブームを持続させるために企業は新たに3人に1人の割合で雇用者を確保する必要がある」、「鉱物資源関連分野において、今後10年間で更に7万超の労働者が必要になってくる」*1と言われるように、近年の鉱物資源需要に対応した国内生産量の急激な増加に伴い、資源分野における技術者・労働者確保の必要性は深刻になっている。
 労働力不足の解決策のひとつに給与水準の引き上げがあるが、オーストラリア資源業界の労働者の給与水準は、資源ブームの影響から他産業に比べ急速に上昇しており、資源分野の労働者の平均給与は、2005年から2007年までの2年間で18%増加している。また、(大学)新卒者の初任給は、過去に例を見ないほどの高水準に達しており、初任給7万5千$以上(一般は6万9千$)の割合がそれまでの2倍近くに増加し、全体の34%を占めるに到っている*2, *3
 他方、より明白な解決策として資源業界では女性労働力の参加により労働力不足を解消しようとする動きが高まっている。

2. 資源産業における女性労働者の進出に関わる主な問題点
(1) 資源産業における女性労働者の進出状況
 オーストラリアの労働者数に占める男女比率は、女性45%に対して男性55%とほぼ同じ割合で女性の社会進出が進んでいることを示していが*4、資源分野での労働者数の男女比率は、女性18%に対して男性82%、技能鉱業者の男女比率も同様に女性18%に対して男性82%と男性労働者の比率が圧倒的に高くなっている。更に、資源分野における現場労働者数の男女比率に至っては、女性3%に対して男性97%となっており*4、資源業界は「完全に男の職場」となっている。

図1.オーストラリア全体の労働力男女比
 
図2.資源分野の労働力男女比
図1.オーストラリア全体の労働力男女比
 
図2.資源分野の労働力男女比

図3.資源分野の技術・専門職労働力男女
 
図4.資源分野の現場労働力男女比
図3.資源分野の技術・専門職労働力男女
 
図4.資源分野の現場労働力男女比
   
出典) 図1~図4まで、Miriam Lyons-Stanborough, Women in Mining Network, Australasian Institute of Mining & Metallurgy, Alcoa Business System Manager, Pinjarra Refinery, Alcoa of Australia, AMMA National Conference, Perth, March 22, 2007

(2) 資源産業における労働賃金の男女格差
 大洋州鉱業冶金学会-鉱業における女性ネットワーク(AusIMM, Women in Mining Network)が2007年5月に発表した報告書「The AusIMM Remuneration & Employment Survey Report 2007」(給与と雇用調査報告書)は、オーストラリアの上級管理職クラス(調査報告書中最高レベルのLevel 5)の年間給与は、女性154,846A$に対して男性201,992A$と男性が女性よりも約25%高い給与水準(男女格差)にあり、時間給与でも男女格差は20%に及んでいることを指摘している。一方、若年労働者クラス(調査報告書中のLevel 2、新卒者がLevel 1)の場合、男女格差は年間給与で15%、時間給与5%となっている。このように調査結果は、上級管理職クラスになるほど給与の男女格差が大きくなることを示している。
 オーストラリア国内と資源業界における男女の賃金格差がもたらす要因として、上級管理職になるまで勤務する女性労働者が少ない(=高額所得者が少ない)、女性には昇進の壁がある、女性技能者を確保しにくい、現場で働く女性が少ない(通常現場では特別手当により支給額が高いとされる)ことなどがあげられている*5, *6, *7

図5.年間給与男女格差
 
図6.時間給与男女格差
図5.年間給与男女格差
 
図6.時間給与男女格差
   
出典) 図5、図6、AusIMM, Women in Mining Network,
“The Mining Gender Pay Gap: Remuneration Check for Companies”

 
(3) 女性の資源業界に対する「マイナスイメージ」
 オーストラリア鉱業協会(Mineral Council of Australia:MCA)とオーストラリア連邦政府がQueensland大学とCurtin大学に委託した調査結果をまとめた報告書「Unearthing New Resources, attracting and retaining women in the Australian minerals industry」(新しい資源の発見、オーストラリア鉱業界における女性労働の確保と維持)*8には、女性から見た資源業界へのイメージ*が記されている。
 都市部を離れた遠隔地での労働、「厳しく」・「汚く」・「危険な」労働環境など一般的な資源業界へのマイナスイメージに加え、セクシュアルハラスメント・女性らしさを失う・男性中心の職場など女性に固有のイメージがあげられている。
 報告書「Unearthing New Resources」は、ここにあげられた女性の資源業界に対するイメージが、必ずしも事実と一致するものではないこと**を指摘する一方で、事実であるか否かよりも資源産業が女性からどのようなイメージで捉えられているのか、資源業界が広く女性の参加と雇用を維持していく上での改善点を示しているとしている。

*   女子大学生に対するインタビュー調査結果に基づく
**   調査結果である女性の資源業界に対するイメージの多くは、インタビューを受けた女子学生が長期休暇中の職場体験で自身が実際に感じたこと、或いは、家族・親類・友人らから聞いた話などに基づくものであり、資源産業の現場では既に解決されているか、或いは実際には起こっていないことも多く含まれており、これらのイメージが、必ずしも事実と一致するものではないとしている。

表1.女性から見た鉱業界の特徴

否定的なイメージ 肯定的なイメージ
男性的な職場環境
セクシュアルハラスメント
女の子らしさをなくす
自分自身を高く見せなければならない
長時間/シフト制/現場への移動
遮断された生活・作業の多様性のなさ
教育されていない労働力が支配的
ゴシップ/噂/暗示
孤立
暑くてほこりっぽい
業界の搾取的なイメージ
家庭/人間関係に対するプレッシャー
仕事と家庭のバランス
興味深い
お金
ライフスタイル
休日が充実する
作業中、作業場から離れられる
プロジェクトに直接関わることが出来る
社会を変える機会
雇用機会が広がる経験
都市部から離れられる
   
出典) Mineral Council of Australia/Australian Government Office for Women,“Unearthing New Resources, attracting and retaining women in the Australian minerals industry”

3. 女性労働力の確保のためのシンポジウムとオーストラリア資源業界への課題
 オーストラリア鉱業協会(MCA)とオーストラリア連邦政府は、女性の資源分野への労働参加促進の5年計画を策定するためのシンポジウム「Women and Mining」(女性と鉱業)を開催した*9,*10。2007年5月、オーストラリア鉱業協会主催の「Minerals Week 07」(2007年5月29日~30日)の期間中に開催された「Women and Mining」の発足シンポジウムでは、オーストラリア連邦政府教育科学訓練大臣(Minister for Education, Science and Training)、女性問題担当首相補佐(Minister Assisting the Prime Minister for Women’s Issues)のJulia Bishop氏が女性の労働問題をテーマにした基調演説を行い、オーストラリア鉱業協会(MCA)とオーストラリア連邦政府によって作成された「Unearthing New Resources, attracting and retaining women in the Australian minerals industry」(新しい資源の発見、オーストラリア鉱業界における女性労働の確保と維持)と題した報告書が発表された。同報告書は、資源分野への女性の進出の障害となっている諸問題に対して、取り組むべき課題をあげている*8

(1)
女性雇用者の参入にかかわるリーダーシップの強化
(2)
女性が持つ業界に対するマイナスイメージの払拭
(3)
教育から雇用へ実用化を目指す大学の総括的カリキュラムの確立
(4)
プロ育成に基づく女性志願者の増加に向けたリクルート戦略の見直し
(5)
男女の多様性に対する雇用管理上の問題提起、作業システム・プロセスの実用化
(6)
先住民女性の確保と拡充、専門指導などの「特別対策」の実用化
(7)
シフト制やパートタイム制御柔軟化に向けた雇用体制の改善
(8)
生活全般からみた雇用環境の改善
(9)
男性中心文化の問題認識、リーダーシップ強化
(10)
家庭と仕事を両立する被雇用者に対するサポート

4. 女性労働力の確保のためのオーストラリア資源業界の新たな戦略
 オーストラリア鉱業協会は、報告書「Unearthing New Resources」において、資源業界における女性の人材確保に関して、「資源業界は入念な市場調査を実施し、ネットワークを用いて女性が持つ業界のマイナスイメージを払拭することが求められている」とし、これまでとは異なる戦略を打ち出している*8

(1)
あらゆる雇用機会に関する情報提供
(2)
統計的なプロフィールに関する情報提供(主要会計事務所が行っているような)
(3)
代表機関を通じた市場調査実施とネットワーク構築。男女雇用機会の均等化を促進している業界の努力を認識し、柔軟な勤務体制を整え、高等・大学教育制度に反映させる。
(4)
鉱業で成功を収めた個人に焦点を充てたプロモーション開発
(5)
高等・大学レベルの女子学生を対象に資源分野におけるサクセスストーリーや肯定的な女性の役割モデルが取り上げられやすくするネットワーク構築
(6)
統括的な大学教育プログラムの確立

5. おわりに
 オーストラリアの資源業界では現在、各種の報告書に基づき、資源分野への女性進出に向けた動きが高まっており、技術者不足の解消策のひとつとして期待されている。女性の観点からすれば、資源業界のマイナスイメージは数多くあるが、調査を通してこうした問題を明らかにし、これらの問題に対する企業や行政の適切かつ迅速な対応が求められている。

参考文献等
*1 ‘Overhaul aims to mine female talent’ AFR 9/07/07
*2 AusIMM, “Mining Survey Indicates More Money, Shorter Hours But Less Training in Bid to Meet Skills Needs”
*3 AusIMM, “Addressing Gender Pay Gap in Mining Requires Proactive Steps: Industry Association”, 8 August 2007
*4 Miriam Lyons-Stanborough, Women in Mining Network, Australasian Institute of Mining & Metallurgy, Alcoa Business System Manager, Pinjarra Refinery, Alcoa of Australia, AMMA National Conference, Perth, March 22, 2007
*5 WIMNet News Quarterly Newsletter for AusIMM Women Mining Professionals, issue 2. August 2007
*6 AusIMM, Women in Mining Network,“The Mining Gender Pay Gap: Remuneration Check for Companies”
*7 AusIMM, “Addressing Gender Pay Gap in Mining Requires Proactive Steps: Industry Association”, 8 August 2007
*8 Mineral Council of Australia/Australian Government Office for Women,“Unearthing New Resources, attracting and retaining women in the Australian minerals industry”
*9 Mineral Council of Australia, 29/05/2007, Media Release: National Women & Mining Symposium – A World First
*10 Mineral Council of Australia, 5/05/2007, Media Alert: Minerals Week 2007, 29 – 31 May

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