報告書&レポート
「World Mining Investment Congress」セミナー参加報告
最近アフリカ等における鉱業活動の活発化には目を見張るものがある。このような状況の中で当地ロンドンにおいて「World Mining Investment Congress」(開催日5月15~17日)が開催され、25か国以上から270名を超える参加者を集めた。本Congressは、拡大するマインニング・インダストリーにおけるエグゼクティブレベルの投資フォーラムとし、鉱業界、金融業界などの企業トップレベル及び著名アナリストにより、関連マーケット、企業、投資の動向等に係る講演及びパネル・ディスカッションなどが行われ、また、リージョナル・シンポジウムとして、アフリカ、アメリカ、豪州、アジアの各地域別のプログラムが設けられ、当該地域にフォーカスした鉱業投資関連の講演がなされた。そのうち、鉱業分野の新たな投資先として注目されている、アフリカに関連する講演の概要を以下に報告する。 |
1-1.「Developing Africa’s Resources Potential through increased Funding of National Mining Project」
アフリカにおける投資動向及びAfDBの活動動向に関する講演であり、概要は以下のとおりであった。
2003年以降、多くのアフリカ諸国は継続的な経済成長を実現した。これは、主に、経済・財政構造改革によるものであり、加えてG8イニシアテイブによるアフリカ重債務貧困国の債権放棄なども大きく影響した。政治情勢も改善され、地域紛争の数も減少してきている。資源保有国においては、その政治的リスクは縮小傾向にあり、特に、コンゴ民主共和国においては、顕著に示されている。
加えて、多数の国の産業政策については、民間投資にとって非常にフレンドリーなものに変化してきており、一部の国では、自由競争的視点で見ても、世界の中でもハイレベルと言える。鉱業税制は、概ね、鉱業ロイヤルティ0.6~3%、法人税は10~30%の変動制を多くの国で採用しており、数年間の非課税期間及び低源泉課税率なども採用されている。
鉱業権に関しても制度の整備がなされ、権利は法的に保護され、また、その管理も効率的に行われている。さらに、鉱業権全期間を通じ、法制及び税制上の安定化も保証された枠組みとなっている。
以上のような鉱業政策の枠組みは、昨今のアジア主導の世界的な経済成長による需要拡大も伴って、アフリカ地域への鉱業投資の増加につながっており、今や、ワールドクラス・プロジェクトの開発の準備段階に至っている。このような中、AfDBは、アフリカ全域において、ここ数年間においては、100億US$のプロジェクト予算を計画している。
アフリカ鉱業セクターにおける、現在のAfDBのポジションは、概ね以下のとおりである。
・ | 鉱業セクターを始めとする有望な産業において、政策・行政能力向上などの内部的な能力開発を支援することにより、より付加価値を創出すること。 | |
・ | モノカルチャー経済から経済の多角化を支援すること。 | |
・ | 鉱山開発においては、経済的及び社会的な視点で、地域社会との融合、調和を図るよう支援する。 | |
・ | 開発プロジェクトのファイナンス計画において、AfDBは資金提供者として、さらにアドバイザー、パートナーとしても機能する。 |
現在のAfDBが関与するプロジェクトのうち、最も重要なものが、マガダスカルAmbatovy Ni-Coプロジェクトであり、AfDBからは、2007年中に1.5億US$の融資を実施する予定である。このような大規模資金融資がAfDBの主要機能であるが、それ以外にも、出資、債務保証などの機能も持っている。
1-2.「Investing in South Africa」
南アフリカ鉱山会議所会長による、現在の南アフリカ鉱業の投資環境・動向に関する講演。内容は以下のとおり。
(1)南アフリカ鉱業の国内経済における役割
南アフリカは多種多様な鉱物資源に富んでおり、中でも、金、バーミキュライト、プラチナ、クロムの生産は世界第1位である。加えて、アンチモニー、石炭、鉄鉱石、マンガン、ニッケル、ウラン、ダイヤモンド、銅、バナジウムなども主要な資源である。鉱業セクターの国内経済における主な経済指標のシェアは次のとおりであり、同国経済の主要産業の一つとなっている。
・ | GDPの15%~20%(間接部門も含む) | |
・ | 輸出額の50%(一次鉱石及び鉱産品) | |
・ | 固定資産投資額の12% | |
・ | ヨハネスブルグ証券取引所における企業時価総額の30% など |
(2)政治・経済改革
1994年の南ア初となる民主選挙以前、大多数の国民は、アパルトヘイト政策に基づき、鉱業への参加から排除されていた。1994年以降、これらの排除されてきた南アフリカ人(Historically Disadvantaged South Africans:HDSA)が鉱業に参入するための障壁を取り除き、積極的な参加を促進し、かつ、鉱業への投資を促進するための政府主導による建設的な努力が続けられてきた。加えて、世界的なコモディティブームに乗った結果、2006年における南ア鉱業への投資活動は、回復するに至った。さらに、中国、インドなどの需要拡大、鉱山企業のM&Aなどは、今後の継続した南ア鉱業拡大の好材料となっている。1994年の民主化以降の経済・産業改革プロセスの中で、鉱業セクターは、他の国内産業の先導的な役割を果たしている。
・ | 鉱業は、2002年10月、政府の強制無しに、南アで初のEmpowerment Charter(アパルトヘイト政策により排除されてきた人々に対する経済的権限を拡大する憲章)となる、「the Mining Charter」(鉱業憲章)を制定。 | |
・ | 鉱業憲章は、2004年の新鉱業法(Mineral and Petroleum Resources Development Act:MPRD法)の導入と同時に施行。 | |
・ | 鉱業憲章に、最初の5年間(2009年まで)において、鉱山企業の所有権15%を、最終的に10年間(2014年まで)で26%をHDSAに移行することを規定。 | |
・ | この鉱業憲章の規定は、政府が企業に鉱業権を許可する際の重要な要件となっている。 | |
・ | この規定は、他の産業セクターにおいても、法制化によって実施され、南アフリカ産業界全体の基準となっている。 | |
・ | これらの結果、直近3年間において、100億US$を超える企業の所有権が、BEE(Black Economic Empowerment)取引として、HDSAに移行され、HDSA所有による大企業の出現にまで至っている。 | |
・ | これらのBEEの実際の取引条件は、強制されたものではなく、取引当事者同士意思による、市場価格ベースに基づく。 | |
・ | さらに、このBEE化は、国内BEE企業と外国企業とのジョイントベンチャー形成といった投資機会も創出した。 |
(3)鉱業ロイヤルティ
鉱業における国家ロイヤルティ制の導入は、投資環境を考慮する上で、重要な点である。
産業界としては、ロイヤルティ制の導入は好ましくないが、政府は、回復不可能な鉱物資源の開発に対し、ロイヤルティを課す権利を有しているものであることは認識している。政府から提案されている、現在のロイヤルティ修正法案に対し、産業界の代表とし、Chamberから次のような意見を政府に提出している。
・ | 多くの鉱産物において、税率が引き下げられている点も含め、当初の法案から大きく修正されていることは、歓迎すべき。 | |
・ | 法案にある売上額課税ベースではなく、収益課税ベースを採用することが、国家経済にとって良い結果をもたらすことを、再度、強調する。 | |
・ | 法案中の鉱産物の加工度によって税率が2段階となるシステムについては、反対の姿勢である。その理由は、一次品(鉱石)輸出に対する高税率は、ある種の鉱物(下流部門における付加価値化による利益が極めて小さくなる、鉄鉱石、石炭、マンガン鉱石)にとっては、大きく競争力を損なうためである。理由のもう一つは、鉱石に高率課税するのではなく、下流部門の企業の誘致を導くような投資環境を創出することこそが重要であると考えている。 |
(4)最近の鉱業を巡る動向
最近、南ア鉱業界にとって、以下のようないくつかの重要な出来事があった。
・ | 南ア鉱業界にとって最も重要であった一つの出来事は、Chamberから政府に要求した、MPRD法の改正を、政府が受け入れたことである。2004年5月のMPRD法施行以後、旧鉱業権は政府の管理下に移行したが、鉱山企業は、MPRD法施行後3年間(2007年4月まで)のうちに、旧鉱業権を新鉱業権に転換し、その結果、没収される旧鉱業権については、補償請求を行うこととなっていた。政府に要求したMPRD法の改正点は、この期限を2011年までに延長する内容であり、延長することによって、MPRD法の施行により企業が鉱業権を失ったことについての損失の有無、程度について、より詳細に検討する時間が与えられたことになる。Chamberとしては、大規模な補償要求の動きになることは、南ア鉱業への投資に対し、ネガティブな印象を与えるものとして捉えているので、この方針は歓迎すべきものである。 | |
・ | もう一つの重要な出来事は、従来、鉱業界のボトルネックとなっていた、港湾、鉄道、水利、道路部門等のインフラ整備について、政府が、3年間に亘り、4150億ランドの公共投資を決定したことである。このうち半分以上の約2100億ランドが、特に鉱業にとって重要な、輸送インフラ及び電力供給分野に割り当てられる。また、Chamberメンバーであるプラチナ鉱山企業グループの協力の下、政府は、54億ランドの予算額で、North West ProvinceにおいてDe Hoopダム建設プロジェクトを計画している。同ダム建設により、ブッシュフェルト複合岩体Eastern limbでの新たなプラチナ鉱山プロジェクト群に必要な水、電力の供給が可能となる。 | |
・ | 鉱業投資及び鉱業生産は、2006年後半から回復基調にあり、投資額は前年比7%増となった。この数か月において、約2500件の探鉱権、約350件の採掘権が新たに許可された。 |
1-3.「An Overview of the Mining Sector in MOZAMBIQUE」
モザンビーク鉱物資源副大臣による同国における鉱業投資に関する講演であり、概要は以下のとおりであった。
現在のモザンビーク鉱業の目標は次のとおり。
・ | 持続可能な鉱物資源の探鉱、開発の確立 | |
・ | 鉱業活動、生産量の増加促進 | |
・ | 鉱業促進政策の強化(投資促進、許認可能力など) | |
・ | 社会的、環境的に調和の取れた鉱業民間投資の拡大 | |
・ | モザンビーク企業の開発への参加の拡大 | |
・ | 探鉱事業の拡大 |
これらの目標に対し、次のような具体的政策を執っている。
・ | 既存の鉱業に関連した法的枠組みの改正 | |
・ | 鉱業権管理制度の改正及びコンピュータ・システム化 | |
・ | 地質情報の基盤整備 | |
・ | 地質情報、資源情報システムの構築による各情報のデジタル化 |
モザンビークにおける主な資源ポテンシャルは、重砂鉱物、石炭、ベースメタル、金、工業原料用鉱物、グラファイト、ペグマタイト、ダイヤモンド、ウラン、レアアースなどである。金は、ジンバブエとの国境付近のMutare-Manicaグリーンストーン帯を中心に賦存し、銅などのベースメタルは北西部から中西部にかけてポテンシャルを有する。また、重砂鉱物資源は海岸沿い地域に賦存する。
現在、地質情報基盤整備プロジェクトが進行しており、モザンビーク全土は1/250,000、資源ポテンシャル地区においては1/50,000の地質図を作成している。最終的に、デジタル化された地質図及び鉱徴図にまとめられ、地化学探査及び物理探査データとともにデータベース化され、投資家向けに提供される。このプロジェクトにおいては、既に、約17万km2に及ぶ広域空中物理探査と、資源ポテンシャル地区における約14万km2の精密空中物理探査が完了している。
鉱業セクターにおける投資促進政策としての、鉱業権管理制度の改正及びコンピュータ化においては、鉱業権は法的に保障され、ライセンス手続きも透明化が図られている。鉱業権の取得は先願主義の原則に基づく。また、鉱業権の設定状況は誰でもアクセス可能となっており、オープン化が図られている。
鉱業関連法としては、2002年に制定された鉱業法、2003年制定の鉱業規則、2004年制定の鉱業関連環境規則、2006年制定の鉱山保安規則などがあり、鉱業に関連した税制は、1994年に制定(2006年改正)されている。これらの法令において定められている鉱業権・ライセンスは次のとおりである。
・ | Reconnaissance License | ||
広域的な探査のためのライセンスで、期間は2年間(更新は不可)。排他権はない。 | |||
・ | Exploration License | ||
本格的な探鉱のための、排他権を有するライセンスで、期間は5年間。更新可能であり、最長10年間まで保有可能となる。 | |||
・ | Mining Concession | ||
採掘権であり、期間は25年間。更新可能であり、最大25年間の延長が可能となる。 | |||
・ | この他、小規模採掘事業者に対する、Mining Certificate(期間2年間)、Mining Pass(期間12か月)もある。 |
2002年の鉱業法制定以降、モザンビークでの鉱業ライセンス取得数は大きく増加し、2002年の約3百件から、2006年においては8百件を超える数となった。また、鉱種別のライセンス取得数では、PGM&ベースメタルと、タンタライトが各25%、石炭10%、金8%の割合となっている。
1-4.「Evolution of a Mid-tier Producer – Timing and Perseverance through the Metal Cycles」
現在、ザンビアLumwana銅鉱山を建設中であり、2008年の生産開始以降は、これまでの探鉱ジュニア企業から、中堅クラスの銅生産者となる見込みであるEquinox Minerals社(豪)のCEOによる講演である。講演のテーマは、新規参入企業によるアフリカでの鉱山開発に関し、Equinox社の成功事例の紹介を内容とした講演であった。
同社が建設を進めるLumwana銅鉱山は、精測+概測+予測の合計鉱物資源量ベースでの銅含有量は6.3百万t、生産当初6年間において、年間170千t規模の銅を生産する計画で、鉱山ライフは37年間となっており、アフリカ有数の大規模新規鉱山開発案件である。また、鉱床中にはウランリッチな部分が独立して存在し、これまでに確認されている酸化ウランの合計は、概測+予測資源量で21.8百万lbであり、銅鉱山の建設と同時並行でウラン採掘のFSが進められている。
講演では、Equinox社の設立から、現在の鉱山開発に至るまでの主要な経緯及び関連する外部環境について講演があった。概要は以下のとおりである。
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同社の事例では、新境地となるザンビアでの鉱山開発に至るまで、数多くの重要な決断も必要とされたとし、また、産業を巡る環境の変化も大きく、決断のタイミングも非常に重要であったとしており、特に同社の事例からは、鉱業において重要であると思われる具体的なポイントは、次のとおりであるとしている。
・ | アドバンテージとなる技術能力の保持 | ||
Equinox社のIOCG(Iron Oxide Copper-Gold)鉱床の事例に見られるような、探鉱事業において核となる地質学に関する優位性を保持することにより、世界的な規模において探鉱の機会が増大。 | |||
・ | 鉱業特有の産業サイクルの中で生き残るための忍耐 | ||
産業市況低迷時における戦略転換など | |||
・ | 先進的なファイナンシング(資金調達など)の導入・活用 | ||
金融アドバイザーの活用など。 | |||
・ | タイミング | ||
- | 産業及び市場サイクル低迷時におけるワールドクラス資産の獲得。 | ||
- | 開発資金の調達において、所有する鉱業資産に対し、市場の評価を受ける時期。 |