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報告書&レポート

2007年10月4日 バンクーバー事務所 武富義和 Tel:+1-604-685-1282 e-mail:takedomi@jogmec.ca
2007年91号

カナダBC州北東部Gibraltar鉱山を視察して

 平成19年8月30日から31日にかけ、バンクーバーに事務所を構えるJOGMECは、住友金属鉱山㈱、三菱マテリアル㈱とともに、空路1時間のBC州Williams LakeのMount Polley鉱山並びにGibraltar鉱山を視察した。どちらも昨今の金属価格の高騰を受け、ここ数年前に再開を果たした中小規模の銅鉱山である。現在、鉱山寿命の延命のため積極的な探鉱活動を行うとともに、増産、酸化鉱からの銅の回収等のための設備投資を積極的に行っている。ここではGibraltar鉱山の取組についてその一端を紹介する。

1. Gibraltar鉱山の歴史

 Gibraltar鉱山は、カナダBC州人口1.1万人のWilliams Lakeに位置し、旧Placer Dome社が1972年から生産を開始したポーフィリーカッパータイプの銅鉱山である。同社が事業を金に特化したため、1996年、当該権益をWestmin Resources社(後にBoliden社に買収される)に売却、1998年後半には、銅価格が0.6$/lbまで下落したため閉山している。その1年後、現オーナーであるTaseko Mine社が鉱山並びに鉱山施設を買い取り、銅価格が上昇するまで、コアとなる鉱山スタッフを温存し、2004年の第4四半期から再開にこぎ着けている。
 Gibraltar鉱山では、今まで最大で5万t/年、平均では3万t/年の銅を生産している。
 同鉱山からインフラへのアクセスについては、道路、鉄道とも利便性がよく、銅精鉱は北バンクーバーから船で出荷されている。
 Taseko Mine社は、Gibraltar鉱山の他、BC州にFS中のProsperityプロジェクト(銅換算埋蔵量315万t)、開発中のHarmonyプロジェクト(金換算埋蔵量4.6百万oz)を所有している。

 

2. 現状と拡張計画
 2004年の第4四半期から再開。2006年3月から年間5百万$を使い積極的な探鉱を行っており、同年12月には従来の埋蔵量が40%増加している。オープンピット方式で、現時点の推定+確定埋蔵量は256百万t(銅品位0.32%、Mo品位0.01%; 銅換算82万t、Mo換算2.6万t)、また、概測+精測資源量は611百万t(銅品位0.28%、Mo品位0.008%; 銅換算171万t、Mo換算4.7万t)となっている。2006年には粗鉱を1,090万t処理し、銅2.2万t、Mo367tを生産。2005年のキャッシュコストは1.15$/lb、2006年は1.50$/lbとなっている。なお、鉱山労働者は370名、うち先住民を20名採用している。

Gibraltar鉱山の資源ポテンシャル
定義 Cuカットオフ
品位
百万t Cu品位(%) Mo品位(%)
硫化鉱 埋蔵量(1) 0.20% 256 0.318 0.01
資源量(2) 0.20% 611 0.28 0.008
(1)+(2) 0.20% 867 0.291 0.008
酸化鉱 埋蔵量 0.10% 16.5 0.148 n.a.
※ 埋蔵量とは推定埋蔵量と確定埋蔵量を加算したものをいう。
※ 資源量とは精測資源量と概測資源量を加算したものをいう。

 現在進行中の拡張計画では130百万$を投資する予定。2007年末には粉砕機、大型浮遊選鉱機の設置を行い、選鉱施設の能力は36,750t/日から46,000t/日となる。更に破砕機、粉砕機、尾鉱排出システム、加圧フィルター等を増設し、2008年中には55,000t/日まで増強される見込み。訪問した際には、大型浮遊選鉱機、粉砕設備等の設置工事が行われていた。これらが完成すれば2009年には銅の年間生産能力は5.4万t、Moは435tとなり、キャッシュコストも低下すると見込まれる。増産体制に移行した後のマインライフは現時点では15年となっている。


 (容積160m3の新型浮遊選鉱機、旧式のデンバー型浮遊選鉱機と比べるとかなり大きい)

 酸化鉱の埋蔵量は17百万t(銅品位0.15%)あることから、酸化鉱からの銅回収に向けた取組も行われている。2006年末にSX-EW設備も完成し、小規模ではあるが、2004年10月の鉱山再開以来貯鉱してきた酸化鉱を使い試験運転中。年間3,175tの銅地金を生産予定。


 (溶媒抽出後の電解工程、LMEグレードの電気銅を生産)

 3. 終わりに
 Gibraltar鉱山は中小規模の銅鉱山であるが、積極的な探鉱活動を行うとともに、設備投資を行い、数年の間に一定の鉱量を確保し、増産体制を整えた。市況回復時期をしっかり捉え、タイムリーに130百万$に及ぶ投資を行うなど迅速な経営判断がなされているとの印象を受ける。また、この鉱山は鉱排水の問題がなく、現在の銅価格をベースにすれば十分採算がとれそうである。現在行われている探鉱、拡張工事を通し、鉱山の将来性が伺えることから現場は活気があり、鉱山、選鉱場とも非常に整然としいるのが印象的であった。
 採算性がよく、大規模な鉱山は、チリなどの南米に集中していることから、日本企業の原料調達先の大宗は南米となっている。カナダなどの先進国は環境対策が厳しく、コストが高い等マイナスイメージが定着しているが、反面、G7を構成する政治的に安定した国でもある。供給源の分散化の観点から勘案すると、鉱業に一定の理解のあるこのような先進国への投資も一案ではないだろうか。
 一時期、日本企業もカナダBC州での鉱山開発に進出したが、銅価格の低迷により撤退を余儀なくされた事例もあり、現時点で日本企業が出資し操業している鉱山は、BC州のHuckleberry銅鉱山とEndakoモリブデン鉱山のみである。
 今後、世界の金属需要が確実に伸びていくことを考えると、中小規模であっても長期安定的に資源獲得できるソースを持つことは極めて重要である。
 
 (参考資料)
 Taseko Mine社プレゼンテーション資料
 Taseko Mine社webサイト他

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