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オーストラリア鉱業、資源ブームで加速する鉱山「再生」プロジェクト-セミナー報告「NSW Mineral Exploration & Investment Conference 2007」-
オーストラリアでは、空前の資源ブームを反映して数多くの探鉱・開発プロジェクトが実施されている。その中には、既に閉山或いは鉱量枯渇と考えられていた鉱山の深部や周辺部を再開発して鉱山を「再生」しようとするプロジェクトも数多く含まれている。 本稿では、「NSW Mineral Exploration & Investment Conference 2007」から、資源ブームで加速するオーストラリアの鉱山再開発プロジェクトの事例を紹介する。 |
1. はじめに
2007年8月23、24日の両日、シドニー市内でニューサウスウェルズ州一次産業省(NSW Department of Primary Industry)ほかの主催による探鉱投資セミナー「NSW Mineral Exploration & Investment Conference 2007」が開催された。
セミナーには、同州で鉱山を操業するNewcrest Mining社、CBH Resources社、Perilya社などの鉱山会社、同州を中心に活動している探鉱ジュニア企業、州政府関係機関等から約300名が参加し、約30件の講演が行われた。
2. ニューサウスウェルズ州における鉱山再開発プロジェクト
(1)Endeavor亜鉛・鉛鉱山プロジェクト
-CBH Resources Limited(本社シドニー、以下CBH社)-
Endeavor亜鉛・鉛鉱山は、シドニーから北西約700km、Cobarの北方に位置している。1983年、坑内採掘のElura鉱山として操業を開始、Pasminco社(2001年に倒産、後にZinifex社が大部分の資産を引継いだ)が操業を行っていた。年間生産量は、亜鉛50,000~80,000t、鉛20,000~45,000t、銀0.4~1.48百万oz、地下には斜坑と立坑、地上には選鉱場・貯鉱場・鉄道施設などのインフラが整備されていた。
2002年に現在の所有者であるCBH社が権益を取得、Endeavor鉱山として鉱山の再開発に着手した。
再開発の「鍵」は、過去の坑内採掘跡にペースト充填を行い、これまで坑内を支えてきた鉱柱を鉱石として回収することで新たに埋蔵量を獲得すること、更に、既存採掘部の下部にある深部鉱床を開発することであった。
ペースト充填と探鉱により、埋蔵量19.4百万t・亜鉛5.7%・鉛3.3%・銀51g/t、資源量26.3百万t・亜鉛6.7%・鉛4.0%・銀71g/t(含有金属量:亜鉛1.5百万t・鉛1.1百万t・銀60百万oz)、15年分の埋蔵量と20年分の資源量を獲得した。
2006/07年度は、採掘量97.4万t(含有金属量は亜鉛5.25万t・鉛2.66t万・銀17.4t)であった。今後は、深度300mまでは新たに建設する斜坑による採掘、深度400~1,100mは立坑による採掘が計画されており、2007/08年度の採掘量は1.2百万t、2008/09年度の採掘量は1.4百万t/年(亜鉛80,000t/年・鉛48,000t/年・銀100万oz)に拡張する計画。また、新たに銅回収系の操業も開始する予定である。*1, *2, *3, *4
図1.Endeavor鉱山開発イメージ | |
出典) | CBH Resources Limited”Diggers and Dealers Mining Forum”Kalgoorlie 6th-8th August 2007 プレゼンテーション資料に加筆 |
(2)Broken Hill鉱山 中央地区 西部鉱化帯(CML7)-CBH社-
Broken Hill鉱山は、1885年以来、120年以上にわたって200百万t以上の鉱石を産出してきた世界最大級の亜鉛・鉛鉱山である。BHP社(現在のBHP Billiton社)の発祥の鉱山でもあり、長い鉱山の歴史の中でBHP社、CRA社、North社(共に現在のRio Tinto社)、Pasminco社などの鉱山会社が操業をおこなってきたが、2000年初頭には鉱量が枯渇すると見られていた。
しかし、Pasminco社の倒産により、2002年にCBH社が同鉱山の中央地区を、Perilya社が北鉱山(North Mine)と南オペレーション(South Operations)を取得し、再開発が始まった。
中央地区の西部鉱化帯(CML7)は、同鉱山の中央部の主要鉱体「Main Load」に沿った約3.8kmの区域にあたる。新規開発のRasp鉱山は、地下600m以浅の資源量が10百万t・亜鉛4.9%・鉛3.5%・銀43g/tであり、更に北方に鉱化が伸びており、資源量の拡大が期待されている。
開発は、既存のKintore露天採掘ピットの最下底から斜坑を掘削して坑内採掘を行う計画で、2008年には生産開始予定。生産能力は、亜鉛精鉱量65,000t/年(Zn品位 50%)・鉛精鉱量35,000 t/年(Pb品位 70%)・銀80万oz/年である。これまでのインフラストラクチャーを利用できることから初期投資額を抑えることが出来るとしている。*1, *2, *3, *4
図2.Broken Hill鉱山 西部鉱化帯(CML7)(CBH Resources社鉱区) |
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出典) | CBH Resources Limited”Diggers and Dealers Mining Forum”Kalgoorlie 6th-8th August 2007 プレゼンテーション資料に加筆 |
図3.Broken Hill鉱山 西部鉱化帯(CML7)断面 |
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出典) | CBH Resources Limited”Diggers and Dealers Mining Forum”Kalgoorlie 6th-8th August 2007 プレゼンテーション資料に加筆 |
図4.Broken Hill鉱山 西部鉱化帯(CML7)の開発イメージ |
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出典) | CBH Resources Limited”Diggers and Dealers Mining Forum”Kalgoorlie 6th-8th August 2007 プレゼンテーション資料 |
(3)Broken Hill鉱山 北鉱山深部(North Mine Deep)、Potosi鉱床
-Perilya Limited(本社パース、以下Perilya社)-
Perilya社は、2002年、Broken Hill鉱山をPasminco社から取得、北鉱山及び南オペレーションで操業、Potosi地区、Flying Doctor地区及び北部鉱山深部の開発を行っている。
北鉱山の埋蔵量は11.6百万t・亜鉛7.3%・鉛4.8%・銀47.7g/t、年間採掘量は1.9百万t(含有金属量は、亜鉛12万t・鉛7万t・銀2百万oz)である。
開発中のPotosi地区では、探鉱斜坑を掘削(448mまで掘削済み)。資源量1.6百万t・亜鉛13.0%・鉛3.1%・銀43g/tを得ている(2006年6月末時点)。
Flying Doctor地区では、FS調査を実施中、12月末四半期までに完了予定、資源量0.52百万t・亜鉛5.4%・鉛7.1%・銀72g/tを得ている(2007年6月末時点)。
北鉱山深部(North Mine Deep)では、プレFS調査を実施中、9月末四半期までに完了予定、資源量4.2百万t・亜鉛11.2%・鉛13.7%・銀214g/tを得ている(2006年6月末時点)。
また、既知鉱床の資源量拡大・新鉱床発見により、現在5年の鉱山寿命を10年以上に伸ばすためにBroken Hill鉱山周辺探鉱に2007/08年度は12百万A$を投資している。*5, *6, *7
図5.Broken Hill鉱山 北鉱山(North Mine)/Potosi鉱床(Perilya社鉱区) |
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出典) |
Perilya Limited”Diggers and Dealers Mining Forum”Kalgoorlie 6th-8th August 2007 |
図6.Broken Hill鉱山 北鉱山(North Mine)/南オペレーション(Perilya社鉱区) |
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出典) |
Perilya Limited”Diggers and Dealers Mining Forum”Kalgoorlie 6th-8th August 2007 |
図7.Broken Hill鉱山 北鉱山(North Mine)/Potosi鉱床の断面図(Perilya社鉱区) |
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出典) |
Perilya Limited”Diggers and Dealers Mining Forum”Kalgoorlie 6th-8th August 2007 |
(4)Woodlawn亜鉛・銅鉱床プロジェクト
-Tri Origin Minerals Ltd(本社シドニー、以下Tri Origin社)-
Woodlawn亜鉛・銅プロジェクトは、シドニーの南西200kmに位置する。旧Woodlawn鉱山は、1978年~1998年まで約13.8百万t(品位:銅1.6%・鉛3.6%・亜鉛9.1%・銀74g/t・金0.5g/t)の鉱石を採掘したが、1998年、金属価格の下落と操業していた企業(Denehurst Ltd社)経営上の問題から約20年の歴史を閉じて閉山した。当時の鉱石価値は275A$/tであったが、2006年6月末時点では730A$/tと見積もられている。
再開発プロジェクトは、旧鉱山の下部を坑内採掘によって再開発する「Woodlawn 坑内採掘プロジェクト(Woodlawn Underground Project:WUP)と選鉱廃さいの再処理により金属を回収する「Woodlawn再処理プロジェクト」(Woodlawn Retreatment Project:WRP) から構成されている。Tri Origin社は、短期キャッシュフローの観点からWoodlawn 坑内採掘プロジェクトに注力する方針である。
Woodlawn坑内採掘プロジェクトは、2007年3月末四半期にプレFS調査が完了、資源量10.1百万t・銅1.8%・鉛4.0%・亜鉛10.2%・金0.55g/t・銀85g/t、年間鉱石生産量440,000t・亜鉛・銅・鉛精鉱生産量80,000t以上、鉱山寿命8年と見積もられており、2008年第3四半期にはFS調査が完了する予定。
Woodlawn再処理プロジェクトは、3ヶ所ある廃さい堆積場から約10百万tの廃さいを年間1~2百万t処理して、精鉱を生産しようと言うもので、2007年3月末四半期より、西及び南廃さい堆積場での資源量確認のためのボーリング調査が開始された。*8, *9, *10, *11
また、Tri Origin社は、2006年末に旧露天採掘ピット跡を廃棄物処分場として開発している(地上部分の使用権利を保有する)Veolia Environmental Services社と旧Woodlawn鉱山を操業していたDenehurst社の管財人らと採掘権SML20(Mining Lease)の移転に関して合意し、再開発計画を進めている。*8, *9, *10, *11
写真1.Woodlawn鉱山の現状(廃棄物処理場) |
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出典) |
Tri Origin Minerals Ltd, ASX Company announcement 23 April 2007, |
図8.Woodloan鉱山再開発(坑内採掘)イメージ |
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出典) |
Tri Origin Minerals Ltd, ASX Company announcement 23 April 2007, |
3. おわりに
オーストラリアでは、新規鉱山開発に加え、一度は閉山した(閉山しかけた)鉱山の再開発プロジェクトが加速している。各プロジェクトはそれぞれ、既知鉱床の深部開発、坑内充填、廃さいの再処理などによる鉱量獲得によってプロジェクトの採算性を上げる試みがなされているが、近年の金属価格の高騰が最大の「追い風」になっている。各プロジェクトとも金属価格が高値安定の内に生産・増産を果たし、収益を確かなものにしたいと願っているのだろう。
参考文献等 |
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*1 |
CBH Resources Limited, “CBH – Setting a Cracking Investment Pace in NSW”(NSW Mineral Exploration & Investment 2007 Conference, 23-24 August 2007プレゼンテーション) |
*2 |
CBH Resources Limited, “CBH – Setting a Cracking Investment Pace in NSW”(NSW Mineral Exploration & Investment 2007 Conference, 23-24 August 2007, Conference Summaries) |
*3 |
CBH Resources Limited, “Diggers & Dealers Forum 2007, Kalgoorlie 6th -8th August 2007”プレゼンテーション |
*4 |
CBH Resources Limited Webサイト |
*5 |
Len Jubber, Chief Exective Officer, Perilya, ”Broken Hill Renaissance” (NSW Mineral Exploration & Investment 2007 Conference, 23-24 August 2007プレゼンテーション) |
*6 |
Len Jubber, Chief Exective Officer, Perilya,”Diggers & Dealers Forum 2007”プレゼンテーション |
*7 |
Perilya社Webサイト |
*8 |
Bruce Robertson, Managing Director, Tri Origin Minerals, ”Rebirth for Woodlawn – Base Metals -” (NSW Mineral Exploration & Investment 2007 Conference, 23-24 August 2007プレゼンテーション) |
*9 |
Bruce Robertson, Managing Director, Tri Origin Minerals, ”Rebirth for Woodlawn – Base Metals -” (NSW Mineral Exploration & Investment 2007 Conference, 23-24 August 2007, Conference Summaries) |
*10 |
Tri Origin Minerals, Corporation Presentation, “Woodlawn Zinc Copper Project Feasibility Study”23 April 2007 |
*11 | Tri Origin Minerals社Webサイト |