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インドネシア鉱業法改正の行方 その9-8月9日発行の議会雑誌Parlementariaから見る新鉱業法案成立の見通し-

インドネシア議会は1969年から、政府、国会議員、政党関係者を読者とする隔月刊誌「Parlementaria」を発行している。新鉱業法案は、既報のとおり第7委員会・特別委員会(PANSUS)で審議されているが、今般、Parlementaria(第60編XXXVIII,2007号)(7月~8月)に、新鉱業法案に関するアグスマン・エフェンディー(AgusmanEfendi)委員長のインタビュー記事と、同編集員による「新鉱業法が鉱業に対する最終的な答えとなることができるか」と題する記事が掲載されたので、本稿によりその内容(一部)を紹介するものである。
9月6日付けカレントトッピクス(インドネシア鉱業法改正の行方その8(2006~2007年度議会第4セッション(5月7日~7月20日)の審議状況:いまだ決着つかぬ議会審議の争点は?)は、一般紙*1に断片的に掲載された記事をとりまとめ、非公式に第7委員会関係者からの情報を加え報告を行った。

*1 Kompas、Suara Pembaharuan、Bisnis Indonesia、Koran Tempo、Harian Indonesia、PikiranRakyat、Republika、Suara Karya、Media Indonesia、Jakarta Post(JPのみ英字新聞)など
本稿を作成するにあたり議会事務局に対しJOGMECによる「Parlementaria」の翻訳記事の日本鉱業関係者への紹介の可否を問い合わせたところ、「Parlementaria」の発刊目的の一つは、内外投資家への情報提供でもあるとして了解を得ているので念のため申し添える。
<8月9日発行のParlementaria>
1 第7委員会アグスマン・エフェンディー委員長[ゴルカル党]インタビュー記事(粗訳)
同委員長は、インタビューの冒頭、新鉱業法案の改正に関する議論は困難を極め、2005年5月から現在に至るまで、未だに解決していない多くの問題があり、これら問題は単純なものではないと述べている。
Q1:この議論が長引いている原因は何か?
鉱業に関する問題は、国にとってセンシティブな問題であり、様々な問題を解決する必要がある。
例えば、(1)国と地方との間の利益分配、(2)環境問題、(3)閉山対策、(4)森林問題、(5)許可、(6)地域開発、(7)付加価値化など多くの問題を抱えている。
これらの問題の一部は既に審議を終了している。現在の審議の焦点は、ゴルカル党提案の鉱業事業協約(PUP:Perjanjian Usaha Pertambangan)に代表される鉱業事業許可の枠組み(Regime)の問題である。
さらには、鉱業法成立に伴う、既存鉱業権(KP)・既存鉱業事業契約(KK(COW))等の現行法に従う修正手続きの可否に関する問題である。
Q2:様々な利害関係者の意見があるが委員会はどのようにそれをまとめるのか。
ある法案の改正作業において様々な利害関係者がいるということは必ずしも悪いことではない。様々な立場での議論は結果的にベストな法案を生む原動力となる。新鉱業法案の審議に当たり、各会派には意見の対立はあるものの、それぞれの主張、価値観は共有できるものである。そのため、必ず合意できると確信を持っている。新鉱業法案の審議には、特別なトリックやメカニズムなどは存在しない。審議は通常のように行われている。まず、特別委員会(PANSUS)において議論を行い、次に作業委員会(PANJA)、調和チーム(TIMSIN)、法案作成チーム(TIMUS)、そして国会の本議会(Plenary Meeting)で審議することになる。
Q3:新鉱業法案改正の終了目標は?
新鉱業法案の審議は、当初、今期セッション(2006/2007年度第4セッション:5月7日~7月20日)で完了させる予定であったが、作業委員会(PANJA)における検討に時間を要している。法案の基本方針が作業委員会(PANJA)で合意されれば、作業委員会(PANJA)から調和チーム(TIMSIN)、法案作成チーム(TIMUS)、そして本議会(Plenary Meeting)という段階を経ることになる。
また、それ以外に未だ審議を終了していない問題がある。作業委員会(PANJA)では、新鉱業法案の実施細則となる政府規定案(RPP:Rancangan Peraturan Pemerintah)の検討も行っている。その目的は、新鉱業法案の改正趣旨を徹底し、鉱業活動の実効性を高めることにある。今までの歴史を見ると政府が法律と相反する政府規定を度々発行することがあった。
Q4:現在の新鉱業法案改正作業の状況についてアクセスが難しいという意見があったが、委員会は広く門戸を開け、様々な意見を取り入れるようにしているか?
その意見は誤りである。政府、議会は様々な機会、例えばセミナーまたこのようなインタビューを通し最新の情報を流している。また、ステークホルダーの要求にも耳を傾けている。我々は新鉱業法案の審議過程において2005年8月24日から11月21日にかけて、ステークホルダーを招請し意見を聴取してきた。14人の専門家、4人の大学教授、8人の企業関係者、6人の地方政府関係者、そして3人のNGO関係者が参加した。現在も意見は書面で受け付けている。
Q5:1967年法律第11号との違いは何か?
今回の法案改正では、鉱業事業契約(KK(COW))制を廃止し、鉱業事業許可(IUP)制へ移行する。許可の種類は、探査許可(IU Eksplorasi)と生産活動許可(IUP Operasi Produksi)の2つとなる。一方、鉱業の許認可権は、地方自治法(1999年法律第22号)に基づき中央政府から地方政府へ移管する。
Q6:鉱業事業許可(IUP)制への変更問題について賛否はあるか?
鉱業事業契約(KK(COW))の廃止、鉱業事業許可(IUP)制への変更については突出した賛成、反対といった問題はない。我々は鉱業分野への投資を促進させるという共通の認識を持っている。基本的なことは、インドネシアへの投資を促進させ、国内に投資された資金を効果的に利用し、経済に対し最大の効果を及ぼす仕組みをどう構築するかである。ゴルカル党は、投資家の法的確実性を保障するために鉱業投資規模、場所、鉱種によって鉱業事業協約(PUP)制度の導入を提案している。ゴルカル党が提案する鉱業事業協約(PUP)は、鉱業事業契約(KK(COW))とは全く異なった概念である。政府側の署名者は政府ではなく国営企業もしくはそのために設立された特定の組織を想定している。しかし、本提案は作業委員会(PANJA)で未だ受け入れられておらず討議の段階にある。
Q7:地方分権化に関して、鉱山活動に関する許可出しの権限についてはどうか?
作業委員会(PANJA)で、鉱山の所在地及びその他の条件に基づき地方政府に対し権限を移譲する方向で大筋合意している。例えば、鉱山の所在地が単独の県に位置し、環境への影響も単独の県に留まる場合、県知事が鉱業事業許可(IUP)を発行する。もし、環境への影響が他の県に及ぶ場合は州知事が許可を発行することになる。県知事は、個人の事業者に対し住民鉱業事業許可(IPR:Izin Pertambangan Rakyat)を発行することができる。
Q8:今までの鉱業事業契約(KK(COW))制度は、インドネシアに不利益をもたらすという見方が多い。新鉱業法案改正の中ではその点をどうするのか?
新鉱業法案が成立すれば、鉱業事業契約(KK(COW))制は廃止される。しかし、既存の鉱業事業契約(KK(COW))については正当な権利として保障したいと考えている。ただし、鉱物の処理に関する規定については議会の各会派ともに全会一致で合意しているため、会派の中には既存の鉱業事業契約(KK(COW))についても、新法に従い改正すべきと要求しているところがある。したがって、作業委員会(PANJA)では暫定移行期間について議論を行っている。
2 「新鉱業法が鉱業に対する最終的な答えとなることができるか」
鉱業は様々な利権を生むため国民にとってセンシティブな投資分野となる。鉱業法は、過去、何度かの変遷を経て、現在の基本法令となる1967年法律第11号が発行された。同鉱業法は、天然資源を国民の共有の財産とし、国家が管理するという国民の要求にしたがって制定されている。しかし、今日、その法律は、中央集権的になりすぎているとの批判から、2005年5月20日に議会に上程され法改正が進められている。
(1)主要な議論
アグスマン・エフェンディー委員長は法改正の中で2つの大きな論点があると述べている。
i 鉱業事業協約(PUP)
ゴルカル党会派が提案している事業契約形態に関するもので、中央政府に利権を残した契約(Agreement)である。地方自治法(1999年法律第22号)では中央政府の所掌業務を外交政策、国防、治安、裁判、財政、宗教などに限っているため、地方政府から反発を生んでいる。
また、議会においては鉱業事業契約(KK(COW))を温存させようとする会派と、鉱業事業許可(IUP)制へ移行しようとする会派の対立がある。これは、ゴルカル党と闘争民主党(PDIP)との対立である。
ii 暫定移行期間問題
さらに闘争民主党(PDIP)は、前述の暫定移行期間を設けて既存鉱業事業契約(KK(COW))を変更することを要求している。鉱業事業契約(KK(COW))の変更、見直しは対象となる鉱物資源の種類、経済的価値によって異なる影響をもたらす。また、閉山後の環境修復についても同様であり新たな問題が山積みされている。
(2)その他の議論
i 罰則規定
サルジャン・タヒール(Sarjan Tahir)委員[民主党]は、1967年法律第11号は罰則規定が緩かったとして、新鉱業法案では包括的な(違法採掘事業者の取締りや鉱業事業者による環境破壊などに対する)罰則規定の策定を望んでいる。この議論の背景には、FreeportやExxonによる環境破壊及び地域住民に対する様々な問題が議論の根底にある。
新鉱業法案では投資家の利権のみを追及するのでなく、地域住民、政府の権利を保証するものでなければならない。
ii 法律のオーバーラッピング
作業委員会(PANJA)のソニー・ケラフ(Sony Keraf)委員長は、森林法(1999年法律第41号)や他の法律とのオーバーラッピング(土地所有権、企業の社会的責任)問題を指摘している。
例えば森林法では、森林保全地域については鉱業活動が禁止され、保護林については露天掘り採掘が禁止されている。特に保護林の露天掘り採掘に関しては、森林省令などに多くの条件(土地利用許可(借用許可)・実操業予定地の2倍の面積の用地の取得と拠出など)を満たすことが義務付けられている。
こうした関連法規との整合性、各省庁間における法制度の共通の解釈、運用を図る必要があるのではないのか?
iii 地方分権
新鉱業法の施行によって、約440に及ぶ地方政府が鉱業許認可権限を有することになる。エネルギー鉱物資源省石炭企業局マンガンタル・マルパン(Mangantar S. Marpaung)局長は「地方政府は約3000の鉱業事業許可を発行することになる。」と述べている。一方、議会内委員の中には鉱業権の許認可権限を地方政府へ移譲することに反対する声もあるという。インドネシアは、地方政府レベルでは縁故主義、汚職、賄賂などが未だ蔓延しており、違法採掘事業者と地元有力者との癒着がなくならない現状において、鉱業権の地方への移譲は、鉱業事業現場の混乱と不正の温床を助長することになると警鐘を鳴らす意見もある。また、鉱業投資家は、地方政府による鉱業利益の地域への還元要求としての課税、手数料等の徴収強化や企業の社会的責任に対する不当な要求が高まることを懸念している。法的枠組みを構築する前に、地方政府の実施体制、キャパシティービルディングが重要ではないのか?
iv 鉱物資源/石炭
新鉱業法案では、鉱物資源と石炭を区別することなしに一つの法律の中で扱ってきた。また、鉱物資源についても製品用途や価格、特性の異なる多種多様な鉱物資源を一つの法律の中で議論してきた。これら問題は、製錬義務化に係る対象鉱種の検討過程において新たな問題を惹起しているのではないか?
v 付加価値化(製錬の義務化)
鉱業擁護ネットワーク(JATAM-Jaringan Advokasi Tambang)のアディ・ウィドヤント(Adi Widyanto)氏は、「インドネシアは約40年間、鉱物資源を先進国へ輸出し鉱業に携わってきたが、下流産業は育成されず新たな労働力を吸収することもできなかった。鉱物資源政策の抜本的な転換がない限り、インドネシアは先進国に中に埋没し環境破壊と貧困だけが残される。」と主張。あるべき鉱業の姿を実現すべく鉱業政策の転換に期待を寄せる。
2. おわりに
本稿は、議会雑誌「Parlementaria」に掲載された新鉱業法案の関連記事を中心に紹介したが、地元紙によれば、2004年から2007年の4年間、第7委員会委員長を務めたアグスマン・エフェンディー氏は8月27日、ゴルカル党の議会委員会委員長の交代人事に伴い退任し、新委員長にはアイルランガ・ハルタルト(AirlanggaHartarto)氏が就任。今般の「Parlementaria」のアグスマン・エフェンディー前委員長のインタビュー記事は、交代人事を前にしての2年3か月にわたる鉱業法案審議の委員長総括とも言える。全体的なトーンは、鉱業法案の2007年度内の成立は、困難を予想させるものである。
一方、アイルランガ・ハルタルト新委員長は9月4日、地元紙のインタビューに答えて、議会は、法案作成チーム(TIMUS)での法案作成作業を概ね終了している。暫定移行期間については、5年間とする方向で調整を進めている。また、鉱業法は12月末までに成立させると述べ、闘争民主党(PDIP)寄りともとれる発言が気になるところである。
次回カレントトッピクスは、「9月後半までの審議状況」と題し、ゴルカル党と闘争民主党(PDIP)との暫定移行期間を巡る攻防他を追い紹介する。
なお、議会には製錬義務化に関する各会派の対立はなく、政府規定案(RPP:Rancangan Peraturan Pemerintah)の中で、規制対象鉱種、最終製品目標など具体的な検討が進んでいると思われる。
現状を推察するところ、鉱業法案の議会審議のターゲットは、2007~2008年度議会第2セッション(11月4日~12月末(未定))の最終日が現在のターゲットと言える。
(参考までに鉱業法案の議論の争点を次表にとりまとめてみた。)
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