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エクアドル、鉱業政策の行方-政府主催の国際鉱業フォーラムが開催-

南米で銅資源のフロンティア国と呼び声の高いエクアドルで、Correa新政権による改革が着実に進んでいる。7月下旬、エネルギー・鉱山省が石油・鉱山省と電力省の2つの省に分割され、資源行政強化の方向性が打ち出された。このような中、9月18日、キトにおいて同国の鉱業振興に向けて今後の新しい鉱業政策のあり方を検討するための国際鉱業フォーラム(石油・鉱山省主催)が開催された。本稿では、本フォーラムで各パネリストより述べられた提言内容と、今後の鉱業法改正のポイントについて報告する。 |
1. 国際鉱業フォーラムの概要
本フォーラムは、カナダ、チリ、ペルーの鉱業専門家を招き「環境保全に配慮した持続可能な鉱業:Minería Ambiental y Socialmente Sustentable」というテーマで開催されたもので、鉱山会社の代表、鉱業会議所関係者、鉱業専門家、地元住民の代表者、マスコミなど、約300名が参加し、会場はほぼ埋め尽くされた。
開会の挨拶で、Galo Chiriboga石油・鉱山大臣は、政府は鉱山開発を推進することを基本方針とするが、地元住民対策、環境対策などの社会的責任を負って遂行しなければならいことが大前提であることを強調するとともに、本フォーラムの目的は、国内の鉱山会社、地元住民、環境NGO、マスコミ、一般国民に、鉱業先進国であるカナダ、チリ、ペルーなどの鉱業専門家に、各国の鉱業や関連法制の現状、鉱業活動に伴う問題解決の経験を紹介してもらい、それらの意見・提言を踏まえ、現政権がエクアドルに適した鉱業法を改正し、鉱山開発を推進するための方策を見い出していくことにあると述べた。
フォーラムでは、「企業責任と地元住民の理解」「鉱業のマクロ経済に与えるインパクト」「鉱業法、ロイヤルティ、経済インパクト」「環境管理と社会的責任」の4つのテーマについて討論が繰り広げられた。
2. 講演内容のポイント
(1)テーマ:企業責任と地元住民の理解
・Christian Lapointe在エクアドル・カナダ大使
カナダにおける鉱業の重要性と、地元住民との対話を通じて鉱山開発を行ってきたプロセスを説明。鉱業活動が軌道に乗るまでに様々な問題が発生するが、最も重要なことは地元住民と協調して、双方の利益を共有することであり、このためには継続した対話が必須である。カナダでは、鉱業に関する苦情センターを設け、地元住民を尊重する行政措置をとっていることを紹介。
・Edgar Pillajoエクアドル小規模鉱業会議所会頭
家内鉱業的な砂金採取などを小規模零細鉱業と位置づけ、これまで行政面で野放しの状況におかれていた結果、地域住民との紛争や周辺河川への汚染が深刻化している現状を報告。これらの問題解決には、政府が本腰をいれて、行政指導、資金援助をする必要性を強調するとともに、同会議所はこれら小規模零細鉱業を集約させ、近代的採掘に切り替えることに賛成すると表明。
(2)テーマ:鉱業のマクロ経済に与えるインパクト
・Alberto Salasチリ鉱業協会副会頭
チリでは中規模の国内企業が鉱業活動の一翼を担い、チリ経済の柱の一つになっていることを紹介するとともに、エクアドルも国内企業により鉱山開発の道があることを強調。また、チリでは鉱業に従事する労働者の給与水準は他の分野より高く、労働環境が最も安全かつ安定した職場であり、数年で地元住民の生活環境が大きく改善されたと報告。
・Steve Vaughanカナダ鉱業コンサルタント
エクアドルは、鉱山開発企業に対して、近代技術の導入を指導し、厳格な規制をもって社会・環境保全の責任を持たせることで、カナダと同様、鉱業の発展が可能であるとの見解を主張。
(3)テーマ:鉱業法、ロイヤルティ、経済インパクト
・Paolo Abadペルー鉱業法コンサルタント
ペルーとエクアドルの鉱業法を比較分析すると、現行のエクアドルの鉱業法は外国企業の誘致を優先するあまり、政府の監督権限が甘い。鉱業法を改正して、行政力を強め、法令違反に対する罰則規制を強めることが健全な鉱山開発推進には不可欠であると強調。
・Jerónimo Carcelen チリ鉱山省
チリでは、鉱業活動に対して特別な法的支援措置は一切なく、例えば法人所得税、付加価値税など全ての産業に統一的な税制度となっている。企業はその安定した法システムを基本に事業活動を展開している。一方で、腐敗のない厳格な行政が最も重要であると主張。
・Jaime Galarzaエクアドル文化会館長、社会学学者
エクアドルにおける鉱山開発は、第二次大戦後、外国企業の思いのままに進められてきたとし、その背景には、当国の鉱業に対する基本方針がなかったことも事実だが、行政側に腐敗構造が蔓延していた面もある。法令を改正し、行政組織を強化し、開発企業に対する厳正な行政を行うことが最も重要である。また、鉱業権益を与える条件として、開発地域の地元住民との合意書があることを前提にすべき。現在、各地で起きている地元住民や環境NGOとの対立は、この事前合意がないことに起因している。事例としてEcua Corriente(エクアドル初の本格鉱山として期待されているMirador銅開発プロジェクトの所有企業)を引き合いに出し、同社は、地元住民への説得には努力しているものの、鉱石輸送ルートの住民や、積み出し港となるBolivar港の零細漁民から反対運動が起きている。これは政府および企業が、事前にその対策・措置をとらなかったことによるものだと指摘。
(4)テーマ:環境管理及と社会的責任
・Pablo Lloretエクアドル水資源財団会長
エクアドルでは、特に小規模鉱山がある地域での鉱業排水による河川への汚染が地元住民の生活環境を脅かしており、政府は、直ちに近代技術の導入を図り、排水処理を義務づける必要があることを強調。このためには資金を提供して、施設を改善することが急務であるとしている。
・Lucy Ruiz鉱山・石油省自然環境保護次官
鉱山開発には自然破壊が伴うことは否定できない以上、政府はこの問題を最小限に食い止めるための行政指導を行うべきであるが、そのためには管理・監督の強化、人材のリクルート、更には組織改革が必要である。鉱業法改正により、自然環境保護次官室による、適切な行政が行われるような体制を期待したい。このような体制整備がない限り、法令のみ改正しても行政が骨抜きになると訴えた。
・Edgar Ruizキト中央大学地質・石油学部長
エクアドルが鉱業国として発展するためには、人材の育成が不可欠である。しかしながら、現実問題として、これまでの政府は大学の人的資源を無視してきたことから、人材は極端に不足している。政府は国・私立大学の研究者・学生を大いに起用すべきで、そうした人材に実践的な経験を積ませることで、将来の鉱業専門家育成の基礎が固まり、当国の技術水準も向上し、鉱業発展に寄与することになる。政府は、大学関係者の起用を人材育成の柱にするべきであると主張。
3. 鉱業法改正のポイント
国際鉱業フォーラムを開催した背景には現在の鉱業活動の実態、行政の問題、法制上の不備などを国民の前で明らかにし、原点に戻って、チリやペルーのような鉱業国を目指し、再出発しようとする強い意図があるものと見られる。今回のフォーラムで提言されたポイントとしては、
(1) 地元住民との対立解消に向けた対話継続、鉱業活動に係わる事前合意
(2) 小規模零細企業に対する支援、集約化
(3) 鉱業税制強化(ロイヤルティ制度の導入)
(4) 鉱業権の管理・監督の強化
(5) 環境汚染を最小化するための規制強化
(6) 人材育成、大学との連携
などがあげられる。
Galo Chiriboga石油・鉱山大臣は、本フォーラムの提言と併せて、鉱業活動に反対している地域の住民との対話も継続し、問題点を洗い出し、解決の糸口を見出す努力を続けると強調するとともに、最終的にこれらの意見や提言をとりまとめ、10月30日に設置される制憲会議において現鉱業法の全面改正を行う予定であると語っている。
環境保全と地元住民問題といったハンディをかかえているエクアドルで、投資意欲を喚起させるようなしくみを作れるかどうか、今後のエクアドルの鉱業発展の試金石となる鉱業法改正の行方が注目される。

