2007年98号

オーストラリア鉱業の現場報告-｢Cadia Hill金・銅鉱山とCopper Hill銅・金鉱床見学会｣参加報告-

2007年9月19日、ニューサウスウェルズ州一次産業省(NSW Department of Primary Industry)ほかの主催による｢Cadia Hill金・銅鉱山とCopper Hill銅・金鉱床見学会｣が行われた。 　本稿では、この見学会について報告する。

1. はじめに
　2007年9月19日、シドニーの北西300kmのOrangeでニューサウスウェルズ州一次産業省ほかの主催による｢Cadia Hill金・銅鉱山とCopper Hill銅・金鉱床見学会｣が行われた。
　見学会には、鉱山会社、探鉱ジュニア企業、学生を含む大学関係者など約100名が参加、オーストラリアを代表するポーフィリー銅・金鉱山(鉱床)への関心の高さを示していた。
　Cadia Hill金・銅鉱山は、オーストラリア企業としては最大の産金企業であるNewcrest Mining社(本社メルボルン、以下Newcrest社)が露天採掘を行っており、隣接する坑内採掘のRidgeway銅・金鉱山と合わせてCadia Valleyオペレーションを形成している。
　Copper Hill銅・金鉱床探鉱プロジェクトは、ニューサウスウェルズ州を中心に活動している探鉱ジュニア企業Golden Cross Resources社(本社シドニー、以下CGR社)が、FS調査を実施している大規模低品位のポーフィリー銅・金鉱床であり、今後、開発が期待されている。

2. Cadia Valleyプロジェクト
(1)Cadia Hill金・銅鉱山及びRidgeway金・銅鉱山(操業中)
　Cadia Hill鉱山は、Orangeの南25kmに位置する埋蔵量122百万t・金平均品位 0.82g/tの低品位露天採掘鉱山である。鉱石は、ボーリング・発破、ショベルカー(一回の量が60t)とダンプトラック(230t)により採掘・運搬、年間処理量は17百万tである。2006年のCadia Hill鉱山の生産量は金 248,312oz、銅 22,209t、品位は金 0.65g/t、銅 0.17%であった。
　同鉱山の北西3kmにはサブレベルケービング(レベルの間隔は25m)を行う高品位坑内採掘鉱山のRidgeway鉱山(2006年の生産量は金 366,520oz、銅 39,938t、品位は金 2.4g/t、銅 0.79%)が位置しており、両鉱山は、2か所ある選鉱場などインフラ設備を共有しひとつのコンプレックスを形成している。
　Cadia Hill鉱床は、1992年に発見、1996年に鉱山建設開始、1998年8月に生産を始めている。鉱床周辺の地質は、オルドビス紀の火山岩・堆積岩中に幅約2km、走向方向約6kmにわたって北西方向にモンゾニ花崗岩が貫入している。金・銅鉱化作用は、オルドビス紀末期の玄武岩-安山岩質火山岩中のシート状の石英脈中に胚胎している。
　Ridgway鉱山は、1996年に発見、2001年度に操業を開始している(正式には2002年4月)。当初、4百万t/年であった鉱石処理能力は現在、5.6百万t/年に達している。
　鉱床周辺の地質は、オルドビス紀の火山岩・堆積岩中にモンゾナイトが貫入している。金・銅鉱化作用は、モンゾナイトの貫入に関連して、石英脈及びシート状の石英と硫化物からなる脈とストックワーク中に胚胎している。

　

表1.　操業中のCadia Hill鉱山及びRidgeway鉱山の概要

Cadia Hill鉱山 Ridgeway鉱山 操業開始 1998年8月 2002年4月 鉱床タイプ ポーフィリー ポーフィリー 鉱種 金、銅 金、銅 資源量 267百万t、品位：0.65g/t Au, 0.15% Cu(含有金属量：5.5百万oz Au、400千t Cu) 17百万t、品位：1.9g/t Au, 0.63% Cu(含有金属量：1.0百万oz Au、110千t Cu) 埋蔵量 122百万t、品位：0.79g/t Au, 0.17% Cu(含有金属量：3.0百万oz Au、210千t Cu) 14.5百万t、品位：1.97g/t Au, 0.67% Cu(含有金属量：0.92百万oz Au、 97千t Cu) 操業終了時期 2013年 2011年 採掘方法 露天採掘 坑内採掘 選鉱方法 浮遊選鉱/比重選鉱 浮遊選鉱/比重選鉱 鉱石処理能力 17百万t/年 5.6百万t/年 生産物 金・銅精鉱、金塊(bullion) 金・銅精鉱、金塊(bullion) 剥土比 1.9 (1.4 going forward)

出典)見学会資料

(2)Cadia East鉱床及びRidgway Deeps鉱床(開発中)
　Cadia East鉱床は、操業中のCadia Hill鉱山の隣に位置している。鉱体は東方向に約2.5km、幅600m、地下1.9mに及んでいる。
　資源量は、露天採掘と坑内採掘の2つのゾーンで見積もられており、地表付近の低品位鉱石は露天採掘により鉱石生産量14百万t/年、金 140,000～150,000oz/年、銅 50,000～60,000t/年、操業期間10年が計画されている。また、地表下700～1,500mは、坑内採掘が計画されており、鉱体までのアクセスに7km、その他開発のために6kmの斜坑が建設され、オーストラリアでは初めてのパネル・ケービング採掘法(Panel Caving Mining)により24百万t/年、金 450,000～600,000oz/年、銅 60,000～80,000t/年、操業期間30年が計画されている。
　Ridgeway Deeps鉱床は、Ridgeway鉱山の下部鉱体にあたり、その開発には、今後2年間で545百万A$が投資され、2010年のフル稼働を目指している。採掘方法は、ブロックケービング法が採用され(現在は、サブレベルケービング法)、金～180,000oz/年、銅～22,000t/年、操業期間8年以上が計画されている。

表2.　開発中のCadia East鉱床、Ridgeway Deeps鉱床の概要

Cadia East鉱床 Ridgeway Deeps鉱床 開発段階 F/S調査 プレF/S調査、建設 資源量 金：18百万oz 銅：2.9百万t 金：2.5百万oz 銅：0.28百万t 埋蔵量 金：6百万oz 銅：0.63百万t 金：2百万oz d 銅：0.23百万t

出典)見学会資料

3. Copper Hill銅・金鉱床プロジェクト
　Copper Hill銅・金鉱床プロジェクトは、Orangeの北西約20kmに位置するポーフィリー銅・金鉱床である。2004年時点で、資源量 133百万t・銅品位 0.32%・金平均品位 0.28g/t(含有金属量銅 421千t・金 1.2百万oz)、年間8百万t規模の鉱石処理量で333百万A$の初期投資が必要と評価されている。
　Copper Hill鉱床は、1845年にニューサウスウェルズ州で最も早い時期に銅を生産した鉱山であったが、近代的な探鉱が開始されたのは1960年代からで、米国のポーフィリー銅鉱床モデルに基づいた予察的な探査が1970～80年代に実施された。1989年にCyprus Gold Australia Ltdがボーリングにより銅・金鉱化を確認(銅品位 0.72%、金品位 1.17g/t)、その後、CGR社が権益を取得、これまでに8百万A$(最近の2年間で5.5百万A$)を投資するなど積極的な探鉱を実施している。
　鉱床周辺の地質は、安山岩質溶岩・凝灰岩にオルドビス紀から中期デボン紀のストック状のモンゾナイト・ダイオライト・トーナル岩・デイサイトが貫入している。金・銅鉱化作用は、これら貫入岩に関連してオルドビス紀に生じており、強い変質と磁気異常を示している。高品位鉱化帯(銅1.0%、金1.5g/t以上)は、部分的に石英-赤鉄鉱脈や炭酸塩脈をともなった強い熱水変質を受けたデイサイト・ポーフィリー中にストックワーク状或いはシート状の鉱脈として、低品位鉱化帯(銅 0.3%、金 0.3g/t)は細脈或いは鉱染状の鉱化を呈している。
　

　
　

表3.　開発中のCadia East鉱床、Ridgeway Deeps鉱床の概要

区分 鉱石量(百万t) 品位 含有金属量 銅(%) 金(g/t) 銅(千t) 金(百万oz) 初生鉱 (Primary) 127 0.32 0.28 401 1.16 二次富化鉱(Supergene) 1.2 0.61 0.36 8 0.01 酸化鉱(Oxide) 4.2 0.31 0.22 13 0.03 合計 133 0.32 0.28 421 1.20

出典)見学会資料

　
　

4. おわりに
　オーストラリアの銅鉱床としては、古くはMt Isa銅鉱山(クィーンズランド州)、近年ではOlympic Dam鉱山(南オーストラリア州)が有名で、双方ともにIOCGタイプの巨大鉱床である。
　一方、今回見学会が行われたCadia Hill、Copper Hill鉱床を含むLachlan Fold地帯は、Cadia Hillに隣接するRidgeway金・銅鉱山やNorthparkes銅・金鉱山(ともにニューサウスウェルズ州)などポーフィリー銅・金タイプのポテンシャルの高いとして注目されてきた地帯である。
　
参考文献等
　Golden Cross Resources Limited, 見学会資料 “Golden Cross Resources (GCR) Copper Hill Project”, 19/September/2007
　Golden Cross Resources Limited, ”Excellence Mining and Exploration 2007”, 9-11/September/2007プレゼンテーション
　Golden Cross Resources Webサイト
　Newcrest Mining Limited, 見学会資料 “Cadia Valley Operations, Newcrest Mining Limited, Site Visitor Information”, 19/September/2007
　Newcrest Mining Limited,“Major Development s in the Cadia Valley”, NSW Mineral Exploration & Investment 2007 Conference, 24 August 2007プレゼンテーション
　Newcrest Mining Limited Webサイト
　NSW Department of Primary Industries, “Australia – more to explore, Lachlan – Thomson – Delamerian Orogenes”