| タングステンは、粉末冶金や超硬工具、電子部品といったハイテク製品の材料となる重要な金属である。中国江西省は非鉄金属資源の豊富な省で、とりわけ、銅、タングステン、中重稀土類の生産量は中国国内で第1位である。9月に江西省贛州にある住友商事が出資しているタングステン粉末、炭化タングステンを製造している贛州江タングステン友秦新材料有限公司を視察したので最近の中国のタングステンの生産状況、資源政策と共に同社の現状について本稿で報告する。 |
1. タングステン生産状況 中国のタングステン精鉱生産量は世界第1位で、2006年の精鉱生産量は79,863t(WO3含有量65%の精鉱換算量)で前年同期比8.8%の伸び率で世界の総生産量の約90%以上を占めている。中国のタングステン精鉱は主として江西、湖南、広東の3省に集中し、2006年のタングステン精鉱生産量は、それぞれ江西省40,142t、湖南省27,001t、広東省7,659tである。江西省のタングステン精鉱生産量は2005年に比べ地方政府による乱掘の再発防止により10.29%減少したが依然国内生産量の50.3%を占めている(表-1参照)。
| 表-1 2006年中国省別タングステン精鉱換算量(WO3含有量65%の精鉱換算量)
単位:t
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地域 (タングステン精鉱) |
累計数量 |
累計数量の前年同期比 (%) |
| 江西 |
40,142 |
-10.29 |
| 湖南 |
27,001 |
+26.36 |
| 広東 |
7,659 |
+211.72 |
| 内モンゴル |
1,022 |
+9.92 |
| 広西 |
2,167 |
+15.33 |
| 雲南 |
841 |
+0.01 |
| 浙江 |
117 |
-8.59 |
| 合計 |
79,863 |
8.8 |
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2006年の中国のパラタングステン酸アンモニウム(以下APTと呼ぶ)の生産能力は16.38万t/年で、2005年の13.11万tと比べ24.9%増の3.27万t増加となっている。APT生産企業は江西、湖南の2省に集中し、2省の生産能力は12.0万tで総生産能力の73.3%を占めている。江西省贛州市だけでAPTの生産能力は7.8万tで国内APT総生産能力の47.8%、半分近くを占めている。また、2006年のタングステン粉末の生産能力は6.06万tで2005年の5.36万tと比べ13.1%増の0.7万t増加している。タングステン粉末の生産企業も江西、湖南の2省に集中し、2省の生産能力は2.80万tで総生産能力の46.2%を占めている。贛州地域のタングステン生産能力は、1.8万tで国内タングステン粉末総生産能力の29.7%を占めいている。 2006年の中国のAPTの生産量は約5.63万tで、2005年の5.18万tに比べ8.7%、0.45万t増加した。また、タングステン粉末の生産量は2.42万tで、2005年の2.06万tに比べ17.5%、0.36万tを増加している。
2. タングステン資源政策 中国政府は、生産量・埋蔵量で圧倒的に優位に立つタングステンについては輸出抑制策と国内資源保護政策を講じている。 2.1輸出抑制策 (1)輸出税暫定率の引き上げ 2005年1月1日にタングステン精鉱については輸出税暫定率が0から20%に引き上げられた。資源性かつ技術革新に資する商品の輸入を一層奨励し、高エネルギー消費・高汚染・資源性商品の輸出を規制するために、政府は輸出入暫定率を3回に渡り調整した。2006年11月1日から一部輸出入商品の暫定関税が調整された。タングステン製品関連の関税率は以下のとおりである(表-2参照)。
| 表-2 タングステン製品輸出税暫定率(2006.11.1) |
| 税コード |
商品名 |
現行税率 (%) |
2006.11.1の暫定率 (%) |
| 72028010 |
フェロタングステン |
0 |
10 |
| 72028020 |
フェロシリコンタングステン |
0 |
10 |
| 81019700 |
タングステンスクラップ |
0 |
15 |
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続いて2007年1月1日から石炭・原油・石材などのエネルギーまたは資源類製品に対し輸出関税が徴収されるようになった。そのうちタングステンの一次加工製品の暫定輸出関税が5~10%に引き上げられたが、具体的なタングステン品目は次表のとおりである(表-3参照)。
| 表-3 タングステン製品輸出税暫定率(2007.1.1) |
| 税コード |
商品名 |
税則税率 |
2007.1.1年暫定税率 (%) |
| 26209910 |
主にタングステンを含む鉱灰及び残滓 |
0 |
10 |
| 28259012 |
三酸化タングステン |
0 |
5 |
| 28418010 |
パラタングステン酸アンモニウム(APT) |
0 |
5 |
| 28499020 |
炭化タングステン |
0 |
5 |
| 81011000 |
タングステン粉 |
0 |
5 |
| 81019400 |
未鍛造タングステン |
0 |
5 |
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また、2007年6月1日からメタタングステン酸アンモニウム(税コード28418040、以下同様)の暫定率が0から15%に引き上げられた。 (2)輸出増値税還付制度の廃止・還付率の引き下げ 2004年1月1日にタングステン精鉱については輸出増値税還付制度が廃止された。2006年9月15日から一部タングステン製品の輸出増値税還付制度を廃止し、それ以前に輸出還付税が廃止されていたもの及び今回輸出還付税を廃止した商品が加工貿易禁止類商品目録にリストアップされた。輸出増値税還付制度が廃止されたものは、三酸化タングステン(28259012)、APT(28418010)、炭化タングステン(28499020)、超微細炭化タングステン粉(2849902010)、その他の炭化タングステン(2849902090)、タングステン粉(81011000)、未鍛造タングステン(81019400)、鍛造タングステン線・棒・型材(81019500)の8品目である。 (3)輸出割当数量の削減 中国政府は、輸出抑制策の一環として、タングステンの輸出割当数量の削減をここ数年行っている。2005年のタングステン及びその製品の輸出割当数量は16,300tであったが、2006年には15,800t、2007年には15,400t、2008年には14,900tと毎年400~500t程度削減している。 2.2国内資源保護政策 (1)タングステン採掘総量の規制 2006年4月から中国国土資源部は資源的に優位性のあるレアアース、タングステンについて資源の乱掘・不法採掘防止、資源保護及び環境汚染対策の観点から採掘している省に対し、採掘総量の制限指標を発布し、採掘量をコントロールしている。2007年のタングステンの採掘総量は、タングステン精鉱(65%WO3)59,270tで、2006年とほぼ同水準である(表-4参照)。
| 表-4 2007年国内タングステン精鉱(65%)省別採掘総量制限指標 |
| 省(自治区) |
タングステン採掘総量 (タングステン精鉱65%、t) |
タングステン総合回収利用指標 (タングステン精鉱65%、t) |
| 江西省 |
32,200 |
800 |
| 湖南省 |
11,220 |
1,500 |
| 雲南省 |
3,500 |
|
| 広東省 |
3,200 |
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| 河南省 |
|
2,000 |
| 広西チワン族自治区 |
1,250 |
100 |
| 内モンゴル自治区 |
1,300 |
|
| 福建省 |
1,100 |
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| 浙江省 |
300 |
50 |
| 安徽省 |
700 |
|
| 青海省 |
40 |
10 |
| 国内合計 |
54,810 |
4,460 |
| 59,270 |
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江西省修水香炉山県では、地元の警察・検察・裁判所・司法部門・鉱山管理部門、安全監督部門などの15部門からなる合同法執行グループによる香炉山周辺と布甲高湖鉱区に対する大規模かつ集中的な治安整備が行われた。現在、合同法執行グループはこれまでに違法な選鉱場5か所、作業場3か所を強制撤去し、違法坑道100か所を爆破し、かつ大量の違法購入及び貯蔵、雷管・爆薬・導火線を押収している。また、同県では数か所の違法採鉱区と治安警備区域に対し当直制の管理体制を強化し、法執行グループのメンバーが毎日鉱山のパトロールを行い、管理に空白が生じる状況や乱掘の再発を防止している。2006年以降、湖南省では30数か所の重点鉱区を集中的に整備し、合計2,189ヵ所の違法鉱山を取り締り、違法行為のあった鉱山5,342か所(件)の操業停止と整理を行っている。 (2)タングステン産業への新規参入条件の発布 国家発展改革委員会は2006年12月22日に、国内資源の保護、環境汚染対策及び産業構造を改善するため、公告「タングステン、錫、アンチモン産業への参入条件」を発布し、新規製錬所・工場の建設及び拡張工事にたいする規制を強化している。具体的なタングステン産業への参入条件に記載されている生産規模は、タングステン製錬がパラタングステンの生産能力5,000t/y以上、炭化タングステンの生産能力2,000t/y以上、タングステン材がタングステンブリケットの生産能力100t/y以上、超硬合金が200t/y以上である。
3. 贛州江タングステン友秦新材料有限公司設立の経緯と現状 3.1経緯 住友商事は2006年10月31日に、江西希有稀土タングステン業集団公司、安泰科技と共同で3,000t/yのタングステン粉末、1,000t/yの炭化タングステン粉末、混合粉末500t/yの工場を2007年から操業開始すると発表した。3社はそれぞれ35%、45%、20%の出資率により、登録資本金7,300万元の贛州江タングステン友秦新材料有限公司を2006年12月18日に設立した。江西希有稀土タングステン業集団公司はタングステン精鉱の大手メーカーであり、安泰科技は中国において粉末冶金業界の大手である。タングステン粉末工場への投資総額は13,300万元で工場へのタングステン原料は江西希有稀土タングステン業集団公司が供給する。 3.2現状 2007年1月18日に工場建設を完了し、操業を開始した。生産は順調で2007年8月までの生産実績は、タングステン粉末が600t、炭化タングステン粉末が100tである。タングステン粉末の輸出量は、60tで輸出先はイスラエル、日本である。江西希有稀土タングステン業集団公司の輸出割当数量枠は600tであるので今後生産が順調に伸びれば、特に日本への輸出量を増やしたいとのことである。現在、生産能力の増強だけではなく、タングステンの超微細化粉末の製造も重要課題として位置づけ、設備や実験室の整備等を進めている。
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| タングステン粉末工場入り口 |
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タングステン粉末工場内部 |
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| タングステン粉末製品 |
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実験室(タングステン粉末粒度測定) |
4. 終わりに 2006年3月に開催された中国第10期全人代第4回会議の「中華人民共和国国民経済・社会発展第11次5か年(2006年~2010年)計画要綱」では鉱物資源分野において素材産業の構造及び配置の調整、国内(西部地域)資源開発の推進及び海外資源開発の奨励、資源の有効利用の促進、鉱物資源の管理・備蓄の強化が重点課題として採択された。また、生産量・埋蔵量で圧倒的優位性を占めるレアアース、レアメタル分野ではこの会議を境に中国政府は輸出抑制策、国内資源保護策などの措置を次々と講じており、これらの大半を中国からの輸入に依存する日本にとっては憂慮されるところである。最近では、2007年11月7日に中国政府は「外国企業投資産業指導目録」改訂版(以下“目録”と略称する)を公表し、新たに外資によるタングステン、モリブデン、錫、アンチモン、蛍石などの鉱床への探査開発投資を禁止した。また、非鉄金属資源の豊富な江西省ではタングステンや稀土類中重金属元素など21種類の鉱物資源の開発量に制限を設け、省の資源の持続可能な開発・利用を実現する計画である。 中国政府によるレアメタル、レアアース資源の輸出抑制策、国内資源保護政策が強化される中、タングステン関連では住友商事(株)による贛州江タングステン友秦新材料有限公司への35%出資、タンガロイ社による五鉱集団公司傘下の南昌硬質合金公司の株21%買収、レアアース関連では昭和電工(株)による贛州昭日稀土新材料有限公司(ネオジウム磁石生産合弁会社)の設立など日本企業の進出が相次ぎ、今後の動向が注目される。
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