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報告書&レポート

2007年12月20日 シドニー事務所 久保田博志、研究スタッフ:Barend van IJsseistein Tel:+61-2-9264-2493 e-mail:kubota-hiroshi_1@jogmec.go.jp
2007年109号

Rio Tintoの資産売却- Rio Tintoの売却資産を狙うオーストラリア等の鉱山会社-

 BHP Billitonから合併を提案されているRio Tinto(本社メルボルン/ロンドン)は、2007年11月26日、企業戦略を説明する投資家向けセミナーにおいて、オーストラリア国内のNorthparkes銅・金鉱山、Kintyleウラン鉱床プロジェクトなどを含む資産売却リストを公表した。Rio Tintoのこれら資産には、以前からオーストラリアの鉱山会社が関心を示していた。
 本稿では、売却リストに上がったRio Tinto資産とそれらを「狙う」オーストラリア等の鉱山会社の動向について報告する。

1. はじめに
 Rio Tinto(本社メルボルン/ロンドン)は、2007年11月26日、投資家向けセミナーにおいて、同社の企業成長戦略「Rio Tinto poised for exceptional growth(比類なき成長への体制を整えたRio Tinto)」を発表した。これには、Rio Tinto株主や合併提案をしてきたBHP Billitonに向けて、BHP BillitonはRio Tintoの企業価値を過小評価していることを示し、自社を合併から防衛する意味合いがあると見られている。
 Rio Tintoは、企業成長戦略として、「(1)伸び続ける鉄鉱石需要にPilbara地域を中心とした生産拡張による対応、(2)Alcan社の買収によりアルミニウム市場でNo.1の地位を占めること、(3)既存の銅鉱山に加え、La Granja(ペルー)やOyu Tolgoi(モンゴル)など世界クラスの開発プロジェクトを保有していること、(4)150億US$規模(300億US$に達する可能性もある)の資産売却による戦略的な資産見直し(Alcan買収による負債の返済)、(5)業績に対応した株主への利益還元(2007年の配当は30%増加、次年度以降2年間は20%以上の増配)を行うこと」をあげている。*1
 その中でも注目されるのは、オーストラリア国内のNorthparkes銅・金鉱山、Kintyreウラン鉱床プロジェクトなどを含む総額150億US$規模の資産売却リストの公表である。Rio Tintoのこれら資産は、以前から売却やオーストラリアの鉱山会社が強い関心を示している。

2. Rio Tintoの売却資産リスト
 Rio Tintoが、11月26日に明らかにした資産売却リストには、Rio Tinto Alcan Packaging(パッケージ製品、全世界)、Rio Tinto Energy America社(石炭、米国)、Rio Tinto Alcan Engineered Products(アルミニウム加工等、全世界)、Cortez/Pipeline(金、権益40%、米国ユタ州)、Greens Creek(亜鉛-鉛-銀鉱山、権益70%、米国アラスカ州)、Rio Tinto Minerals Talc(タルク、権益100%、欧州・オーストラリア・北米)、Northparkes(銅-金鉱山、権益80%、オーストラリア)、Sweetwater(ウラン鉱床、米国)、Kintyre(ウラン鉱床、オーストラリア)が上げられている。*1

図1.Rio Tintoの売却資産候補の位置図
図1.Rio Tintoの売却資産候補の位置図
出典)Rio Tinto 2006 Annual Report and financial statements, p60を元に作図

3. 売却リストにある非鉄金属資産とそれを「狙う」オーストラリアの鉱山会社
(1)Northparkes銅-金鉱山(ニューサウスウェルズ州)
 Northparkesk銅-金鉱山は、Rio Tinto(権益80%)と住友グループ(権益20%)のJV事業で、1994年に採掘が開始された。当初は、露天採掘が行われていたが、1997年からは、ブロックケービングによる坑内採掘が行われている。直接雇用160名、コントラクター140名。*2
 生産量*(2006年)は、銅83,3000t(100%ベース、Rio Tinto権益相当分66,600t)、金95,000oz(同76,000oz)**、生産される銅精鉱の67%は日本の精錬所向け、14%がオーストラリア国内精錬所向け、19%はその他の国向けとなっている。埋蔵量*は、坑内採掘分が46百万t・銅品位1.06%・金品位0.46g/t、露天採の堀貯鉱分が3.8百万t・銅品位0.67%・金品位0.58g/tである。
 同鉱山は、同社が保有するBingham Canyon鉱山(米国)の年産銅265,600t、Escondida鉱山(チリ)の年産銅1,313,400t(Rio Tinto権益相当分394,000t)に比べ規模が小さく、以前から売却の噂があった。*3,*4
 買収候補としては、Oxiana社、Zinifex社、Newcrest Mining社、Perilya社(各社とも全て本社はメルボルン)などの名前が上がっている。*5
 名前の上がった各社は、これまでにPerilya社が、「Northparkes鉱山が市場に出されたら(売りに出たら)、手に入れたい・・・。」と興味を示しているほか、Zinifex社は、製錬部門を分離して鉱山部門に専念、銅鉱山プロジェクトを物色中であることから、Newcrest社は、同社のCadia Hill、Ridgewayの両銅-金鉱山がNorthparkes鉱山と同じ地質帯あり、地理的にも近いことから買収候補に挙げられている。ただし、Newcrest社の場合、同社の企業規模からするとNorthparkes鉱山は規模が小さいとの指摘もある。*5
 買収候補の最有力候補と目されているのが、Oxiana社である。Rio TintoがAlcoa社の買収後に資産整理をするとの話が出始めた2007年夏ごろから、Oxiana社は買収候補として度々話題に上っている。Northparkes鉱山に関して同社のOwen Hegarty社長は、「(Northparkes鉱山が採用している)ブロックケービング採掘法は、信頼のおける採掘法である」、「自社のProminent Hill銅・金鉱山(南オーストラリア州)の第3フェーズでの採掘法として検討し、特段の問題がないとの結論を得ている」、「Oxiana社は、ブロックケービング採掘法の経験のある各職階での技術者が必要となる」などとコメントして、銅・金資源だけではなくブロックケービング採掘法のノウハウも視野に入れて買収に積極的な姿勢を見せている。*6
 
* 精鉱中の金属純分量
** ブロックケービング法は、技術的・地質条件的な困難さもあり、オーストラリア国内ではNorthparkes鉱山が唯一の鉱山であったが、近年の金属価格高騰により、大規模・低品位の坑内採掘鉱山においてより経済的な採掘法として広く用いられるようになっている。*6
 
(2)Kintyreウラン鉱床(西オーストラリア州)
 Kintyreウラン鉱床は、Rangerウラン鉱山(北部準州)などと同じ不整合関連タイプのウラン鉱床で1980年代半にCRA Exploration Pty社(Rio Tintoの前身のCRAの関連会社)によって発見され計画生産量1,200 ~2,000 tU3O8/年、埋蔵量24,000t U3O8+資源量12,000t U3O8(0.2~0.4% U3O8)などが得られているが、1998年よりメンテナンス状態(中断)となっている。*7 同鉱床は、オーストラリ国内最大の未開発ウラン鉱床の一つとされているが、先住権保有者との交渉が行き詰まっていることと、州政府によるウラン鉱山開発禁止の政策変更が必要であることが開発の障害となっている。*8
 買収候補としては、Paladin Resources社(本社パース、ナミビアLanger Heinrich鉱山でウランを生産)、Mega Uranium社(カナダ資本)、Cameco社(カナダ資本)、Uranium One社(カナダ資本、オーストラリア4番目のウラン鉱山となるHoneymoon鉱山を建設中)、Areva社(フランス資本、旧Cogema社)、Toro Energy社(本社アデレード、Oxiana社が権益47.2%保有)などの名前が上がっている。*5
 買収候補として名前の上がっている各社は、Mega Uranium社が、「Rio Tintoとは、既にKintyre取得に関して事前に話し合いをしている」と、同プロジェク取得に向けて動いていることを明かしている。一方、Areva社は、「Kintyreプロジェクト買収に関しては、公式の発表がない段階では時期尚早で何も話すことはない」と同プロジェクト買収に関してのコメントを避けている。また、Paladin社は、「同鉱床が売りに出れば、その取得には興味がある」*5、Toro Energy社は、「Oxiana社は、KintyreやSweetwaterプロジェクトの買収を除外してはいない。我々のオプションは常にオープンである」*6と買収に強い関心のあることを示している。
 
(3)Cortez/Pipeline金鉱山(米国ネバダ州)
 Cortez金鉱山は、1968年に操業が開始され、現在は、Rio Tinto100%子会社Kennecott Minerals Company社(権益40%)とBarrick Gold(60%、オペレーター)のJV事業として操業されている。*9
 金年間生産量(2006年)は、444,000oz(権益100%ベース、Rio Tinto権益相当分178,000oz)、埋蔵量は、126百万t・金品位1.85g/t**、マインライフは15年。*3
 同鉱山の買い手としては、現在のJV相手方であり、権益取得優先権(preferential rights)のあるBarrick Goldが最有力候補と見られている。*5
 
(4)Greens Creek鉱山(米国アラスカ州)
 Greens Creek亜鉛-鉛-銀鉱山は、坑内採掘と選鉱場が1983年に操業を開始、1993年には一時操業停止となるが、その後、144百万US$を投資して近代化・再開発を行い、1996年に操業を再開している。現在は、Rio Tinto100%子会社Kennecott Greens Creek Mining Company社(権益70%)とHecla Mining Company社(権益29.7%)とのJV事業として操業。
 年間生産量*(2006年)は、銀8,866,000oz(権益100%ベース、Rio Tinto権益相当分6,230,000oz)・金63,000oz(同44、000 oz)・亜鉛47,500t(同33,400t)・鉛16,900t(同11、900t)、埋蔵量は、7百万t・銀品位494g/t・金品位3.86g/t・亜鉛品位10.4%・鉛品位3.98%*10、マインライフは17年と評価されている。*11
 買収候補としては、タスマニア州などで多金属鉱床の開発・操業に実績のあるZinifex社の名前が上がっている。*12
 
* 精鉱中の金属含有量

表1.Rio Tintoの売却候補資産と買収候補企業
売却候補資産 所在 買収候補企業
Northparkes銅-金鉱山 オーストラリア
ニュ-サウスウェルズ州
Oxiana社(本社メルボルン)
Zinifex社(本社メルボルン)
Perilya社(本社メルボルン)
Newcrest社(本社メルボルン)
Kintyreウラン・プロジェクト オーストラリア
西オーストラリア州
Paladin社(フランス資本)
Mega Uranium社(カナダス資本)
Cameco社(カナダス資本)
Uranium One社(カナダス資本)
Areva社(フランス資本)
Toro Energy社(本社アデレード)
(Oxiana社権益47.2%保有)
Sweetwaterウラン・プロジェクト 米国ワイオミング州
Cortez金鉱山 米国ユタ州 Barrick Gold(現在のJV相手方)
Greens Creek亜鉛-鉛-銀鉱山 米国アラスカ州 Zinifex社(本社メルボルン)
出典) Rio Tintoプレスリリース“Rio Tinto poised for exceptional growth” 2007.11.26,
‘Rio Tinto Asset Sales Draw early Interest From Buyers’, CNN Money.com,2007.12.3
http://money.cnn.com/news/newsfeeds/articles/djf500/200712030207DOWJONESDJONLINE000045_FORTUNE5.htmを元に作成

4. おわりに
 世界第3位の鉱山会社の資産売却に、オーストラリア等の大企業、更なる飛躍の起爆剤としたい準大手や中堅鉱山会社が熱い視線を向けている。また、ウラン資産には、オーストラリア企業だけではなく、カナダ、フランスなどのウラン大手企業も強い関心を示している。
 Rio TintoによるAlcan社買収、更には、BHP BillitonによるRio Tintoへの合併提案と大規模な合併・買収に続いて、新たな「買収」競争が始まろうとしている。
 
 参考・引用文献

*1 Rio Tintoプレスリリース“Rio Tinto poised for exceptional growth” 2007.11.26
*2 Rio TintoWebサイトhttp://www.riotinto.com/library/445_4382.asp
*3 Rio Tinto 2006 Annual Report and financial statements, p44,48
*4 JOGMECニュースフラッシュ「Oxiana社、Rio TintoのAlcan買収に伴う資産売却に関心へ」2007.7. 19 シドニー 久保田博志
*5 ‘Rio Tinto Asset Sales Draw early Interest From Buyers’CNN Money.com,2007.12.3 http://money.cnn.com/news/newsfeeds/articles/djf500/200712030207DOWJONESDJONLINE000045_FORTUNE5.htm
*6 ‘Oxiana eye’s Rio growth options’ The Australian Financial Review, 2007.12.4
*7 Uranium Information Centre Webサイトhttp://www.uic.com.au/pmine.htm#kintyre
*8 JOGMECニュースフラッシュ「豪州・Rio Tinto、Northparkes鉱山(NSW州)売却へ」
2007.11.27 シドニー 永井正博
*9 Rio TintoWebサイトhttp://www.riotinto.com/library/445_4341.asp
*10 Rio Tinto 2006 Annual Report and financial statements, p44,45,48,49
*11 Rio TintoWebサイトhttp://www.riotinto.com/library/445_4332.asp
*12 JOGMECニュースフラッシュ「Zinifex社、2007年株主総会」
2007.11.27 シドニー 久保田博志

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