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報告書&レポート

2007年12月27日 ロンドン事務所 及川 洋 Tel:+44-20-7287-7915 e-mail:oikawa@jogmec.org.uk
2007年111号

国際ニッケル研究会(2007年秋:定期会合)概要報告

 2007年10月1日~5日の間、リスボンにおいて国際非鉄金属研究会(銅、ニッケル、鉛亜鉛)の各定期会合、ニッケル及び鉛亜鉛研究会については総会が開催された。
 国際ニッケル研究会は、10月2、3日、国際非鉄金属研究会本部で開催され、加盟国政府関係者(18カ国)、産業界及び非加盟国オブザーバーその他国際組織あわせ60名以上が参加した。2日間の日程の中で、第35回総会、産業アドバイザリー・パネル、環境経済委員会、統計委員会の一連の会合が行われた。以下、各委員会での議論の概要を紹介する。
 なお、次回会合は、2008年4月21、22日に、リスボンにて開催されることになった。

1. 総会(第27回)
 新規加盟を要請中のベルギー、カナダ、中国、インド、韓国、スペイン、南アフリカ、トルコ、米国の状況についての報告のほか、最近の事務局の活動状況、各国からの拠出金、その他財務状況につき事務局からの報告がなされた。

2. 産業アドバイザリーパネル(IAP(第25回))
 各国のニッケル消費についてのデータのレビューが行われた。
 また、本委員会では、最近のニッケル及びステンレス・スクラップ市場に関して、Norilsk Nickel社シニア・エコノミストのD. Wilson氏とELG社(ドイツ)のB. Kratz氏の講演があった。また、ギリシャでフェロ・ニッケル生産を行っているLARCO社CEOのC. Thanasoulas氏より、同社の概要についての紹介があった。以下、その概要を紹介する。
 
(1)Nickel Market Outlook : Norilsk Nickel社 D. Wilson氏
(i)寡占化の進行

90年代からNorilsk社などによる市場の寡占化が再び始まり、大鉱山会社による市場支配が強まっている。
2007年にはBig5による市場シェアは61%に達している(Norilsk-18%、CVRD Inco-17%、BHP Billiton-10%、Xstrata-8%、Jinchuan-8%)。銅の上位5社による市場占有率が28.5%であるのに比べ、ニッケルは寡占度が高い。
こうした寡占状況の原因は生産投資の不足、特にラテライト・プロジェクトの生産開始の遅れが影響している。また、2005年の供給障害(当初予想の72%減)の影響もある。

  
(ii)ニッケル供給

過去10年間で生産開始した鉱山は2つのみ(Loma do Nickel、Murrin Murrin)。需要増への対応は主に既存プロジェクトの拡張によりなされてきている状況。
また、中国のNickel Pig Ironの生産が急増しており、これがニッケル需要を補いつつある。中国のNickel Pig Ironの生産能力は、2006年約32千t/年に対し、2007年には80~90千t/年になると見込まれている。
鉱石の処理に関しては、ラテライト鉱に関してはHPALが主流であるが、技術的に複雑であること、完成まで時間がかかること、思いのほか操業コストがかかることから、フェロ・ニッケル・ルートや電気炉(EAF)によるNickel Pig Ironの生産など別な方法を模索する方向がある。また、硫化鉱に関してもバイオリーチングなどによる新世代のプロジェクトが進行中。

  
(iii)ニッケル消費

1次ステンレスの生産は、2006年は、対前年17%の伸びを示したが、2007年は対前年5.5%増に減速する見込み。これはニッケルの価格高騰により、特にアジアでの生産減が寄与している。他方2次利用分は増加する。
1997年~2007年の間の消費量の伸びは3.6%/年。直近の2005年~2007年では7.4%/年となっている。主用途はステンレスで全体の66%(2006年)を占める。
価格高騰はステンレスにおけるニッケルの代替を促している。1999年時点でオーステナイト系の比率は76%であったが、2007年には72%になる見込み。オーステナイト系のうち特に300番台の比率は、1999年には75%程度あったものが、2007年には60%台に下がっている。一方で、フェライト系とCrMn系とが増えている。
ステンレス生産に関しては、中国の伸びが著しい。2006年は対前年60%増、2007年は40%増と見込まれている。中国では2007年にステンレス生産が、国内消費を上回ると見られる。これに伴い、ニッケル消費は、2004年以降、約25%/年の伸びを示しており、2007年に330千t/年になる見込み。
世界全体でのニッケル需要は、2006年は対前年12%の伸び。2007年には鈍化し、2.3%となる見込み。

 
(iv)マーケット・バランス

2006年は約35千tの供給不足。2007年は第1四半期は供給不足が続くが、第2四半期から第3四半期にかけて供給過剰となる見込み。最終的には、40千t弱の供給過剰となる。これは、中国以外でのステンレス生産の減少・代替の進行と中国のNickel Pig Ironの供給が増加することによる。この結果、ニッケル在庫は回復する。
2007年第4四半期は、消費がやや回復する見込み。

 
(v)価格

在庫レベルは、歴史的な低水準状態にある。2007年5月にLME在庫は3000tまで減少した。
こうした低在庫に加え、ステンレス生産の急増、プライマリー・ニッケル生産の伸び悩み、そしてファンドの介入が、価格高騰の原因となっている。
市場のファンダメンタルズは、価格高騰の説明にはなっているが、これほどまでの高騰の理由は説明できていない。2007年、コモデティ・マーケットには1,600億USDの資金が投資されており(2005年は900億USD)、うち2%がニッケル市場に向けられていると言われている。これはニッケル10万tに相当する。
ベースメタルの市場には500億USDの投機資金が入っていると推定されている。うち、27%がインデックス・ファンド、37%がヘッジ・ファンド、36%がCTAやプロップデスクとなっている。

 
(vi)2008年の見通し

中国のステンレス生産は、8.4百万tに上昇。中国での1次ステンレスの供給超過は、約1.2百万tとなる見通し。
ニッケル需要は、中国の需要増を背景に、平均4.8%の増加となる。また、中国のNickel Pig Ironは、85~90千tで安定する見込み。これにより、欧米から中国へのステンレス・スクラップの流れは減少し、欧州内でのスクラップの2次使用が増加してきている。
ニッケル市場は、2008年通じて供給超過で推移する。

 
(2)Stainless Steel Market ‘07 : ELG Germany社 B. Kratz氏

ELG Germany社は、世界最大級のステンレス・スクラップ処理メーカーのひとつ。
同社によれば、現在、世界のステンレス生産は30.2百万t/年で、これが2008年には33.2百万t、2010年には35.0百万tに増加する見込み。
最近のLMEニッケル価格の下落は、LMEによる介入以降、在庫が積みあがってきているためであり、スクラップのアベイラビリティとLME価格との間には正の相関がある。
ステンレスの価格に関して、Alloy Surchargeはニッケル価格下落後、下落傾向にあり、他方Base Priceは過去から低いままである。
今後、2010年までは、スクラップ需要は増加するにもかかわらず、スクラップ在庫は増加し、需給は緩んでいくと見ている。

 
(3)An Introduction to Larco : LARCO社 C. Thanasoulas氏

LARCO社(ギリシャ)は、1963年に設立されたフェロ・ニッケル生産会社。1969年にギリシアのEvia鉱山での鉱石生産を開始した。また、1976年に世界で始めて粒状のフェロ・ニッケルを生産した。
同社は、欧州唯一の域内鉱石からフェロ・ニッケルを生産する会社であり、完全輸出型。年間の鉱石処理量は2.0~2.5百万t(品位1.05%)で、欧州のニッケル需要の6~7%を満たし、1966年以降、400千t以上のニッケルを生産してきている。
現在は、ギリシア国内に4つの鉱山(Evia、Agios Loannis、Kastoria、Sevrvia Lignite)とLarymnaに精錬所を有している。同精錬所の生産能力はフェロ・ニッケル20千t/年(ニッケル含有量18~23%)。

 
 その他の議題としては、中国における国内制度の変更のため、Nickel Pig Ironの生産増加、特にニッケル含有量が従来の1~2%から最近は10%に近づいていることを背景として、ニッケル貿易量を正確に捕捉する必要性が高まってきているとして、Nickel Pig IronのHSコード上の取り扱いにつき議論がなされた。最終的にはWCO(World Custom Organization)においてカテゴライズの方法等決める必要がある問題であり、また、事務局として中国のデータの捕捉に努めることが必要との意見が出された。事務局からは、本件に関するWCO(World Custom Organization)へのコンタクトの仕方については、2008年のニッケル研究会でその方針を決定したいとの説明があった。

3. 環境経済委員会(EEC(第20回))
 ニッケルのリサイクル、最近の環境規制やニッケル産業に影響を及ぼしうる政策イニシアティブについて議論、専門家による講演があった。
 リサイクルに関しては、2005年から事務局で取り組んでいるリサイクリング・モデル構築の進捗状況、2007年から始まったステンレス用のニッケル使用量調査、1次・2次それぞれのニッケル使用量データの収集等の活動につき事務局から説明がなされた。特に事務局からはニッケルのリサイクリング・パフォーマンスを正確に捕捉する上で、依然、使用量及びスクラップ発生量に関するデータが不足しており、加盟国の一層の協力が要請された。
 EHS(Environment, Health & Safety)規制に関して、事務局が行っている各国の法制度や規制情報の2007年版へのアップデートの作業状況につき説明がなされるとともに、各国への最新情報提供についての協力要請があった。
 また、事務局より環境・経済分野での活動状況につき説明があり、その中でCFC(Common Fund for Commodities)より、東南アジアで研究会とともにニッケル関係のプロジェクト実施の提案があったことが紹介された。
 なお、本委員会の中で行われた、欧州におけるEHS関連の動きに関するENIA(European Nickel Industry Association)EU政策担当マネージャー M. V. Straeten氏の講演のポイントは以下のとおりである。
 
(1)The Nickel EHS Agenda; Challenges & Future Outlook : ENIA M.V. Straeten氏
 ニッケル産業が対応していくべきEUのEHS関連政策アジェンダに関して、リスク・アセスメント成果の普及、REACH対応、EUの持続性(Sustainability)アジェンダについてのENIAのこれまでの取り組み、成果の紹介があった。
(i)リスク・アセスメントの普及

ENIAとしてリスク低減戦略を策定。また、EUも承認したリスク低減に関する科学的対応策の導入を各地域の規制機関に働きかけている。これらはEUのIPPC指令の改定、OEL(Occupational Exposure Level Strategy)に反映されるもの。
また、「Dangerous Substances Directive」に従い、150に上るニッケル含有品のグルーピング・クラシフィケーションを行った。

 
(ii)REACH対応

ニッケル産業界のREACH対応について大きな成果をあげている。具体的には2007年1月のニッケル産業のREACHコンソーシアの立ち上げ、REACH Implementation Projectへの対応など。
REACHに関して懸念されるのは、ニッケルが「承認(Authorisation)」対象物質と指定された場合、業界として社会・経済評価(Socio-Economic Analysis(SEA) for Authorisation and Restriction)を用意する必要があること。
SEAは、対象物質の持つ社会的・経済的有用性が、リスクを上回っていることを証明するものであり、これに対応しなければ、もうひとつの道である「Adequate Controll Route」しか選択肢はなく、すなわち代替物質への転換を進めねばならなくなる。ニッケル業界には、この選択肢はない。
SEAに関してはガイダンスが2007年12月から2008年1月にかけて用意され、これを受けて対象物質についての評価書類は2009年~2010年に用意される必要があるが、他方、「有用性」の定義や測定方法など今後明確化する必要のある論点が多い。

 
(iii)EU持続性アジェンダ(EU Sustainability Agenda)
・EUの持続性アジェンダの主要項目は、以下の3点。
- 温暖化政策(EU Climate Change Policy):エネルギー問題、温暖化に係るLCAなどが対象
- 持続的生産・消費政策(EU Sustainable Production and Comsumption Policy):資源政策、廃棄物・リサイクル政策などが対象
- 持続的産業政策(EU Sustainable Industry Policy):低CO2・省エネ技術、製品・サービスなどが対象
 持続的産業政策の中にニッケルを含めることに成功した。

4. 統計委員会(STAT(第35回))
 今回、研究会として見直しが行われた2006年~2008年の世界のニッケル需給は、以下のとおりである。

 

<一次ニッケル生産>

<一次ニッケル消費>

2006年(暫定)

1.36百万t

1.40百万t

2007年(予想)

1.47百万t

1.35百万t

2008年(予想)

1.57百万t

1.47百万t

 
 ニッケルの消費は、2006年から2007年初にかけて大きく伸びている。しかしながら、2007年後半以降、世界の多くの地域でステンレスの生産が減少しつつあること(欧州での減少が大きく寄与)に伴い、2007年のニッケル需要は2006年より少なくなると予想している。2008年については世界的なステンレス生産の回復、特に中国での需要増により、消費は回復すると予想している。
 このほか、委員会の中ではIAPでも取り上げられたNickel Pig IronのHSコード上の取り扱いにつき議論があった。その中でHCコードは50百万USD以上の貿易量有するものに与えられるものであること(現状、Pig Ironはそれ以下)、まずは事務局としても中国のデータを捕捉する必要があること、等が指摘された。
 また、最近のニッケル市場に関連して、Raw Materials Group社(スウェーデン)M. Ericsson氏及びISSF(International Stainless Steel Forum)(ベルギー)P. Kaumannsしから、それぞれニッケル生産への投資状況、ステンレス市場の状況につき講演があった。そのポイントは以下のとおりである。
 
(1)Nickel Industry Supply – What lies ahead? : Raw Materials Group社 M. Ericsson氏
 ニッケル生産、企業形態の過去から現在までの変化のトレンドを中心とする説明があった。

ニッケルの生産は、過去、1970年代は北米(カナダ)が主流(世界の39%、1975年)であったが、その後アジアに中心が移ってきている。2006年では、北米(カナダ)が17%、アジアが18%となっている。オセアニア(豪州)は、1970年代から変わらず、世界の生産の約20%を占め続けている。
企業に着目すると、金属全般で寡占化が進んでおり、ニッケルでも3大企業のシェアが大きくなってきている。しかしながら、それでもニッケルは寡占度で見ると中くらいに位置する。近年、金属業界ではM&Aが活発であるが、大型のものは銅であり、ニッケル業界のM&Aは少ない。
他方、ニッケルに関しては、鉱山から精錬までの垂直統合の度合いは他の金属に比して高いのが特徴。上位20の鉱山所有企業の80%以上が精錬所を有しており、逆に上位20精錬所所有企業の80%が鉱山を有している。
また、ニッケルは、他の金属と比して、国有ないし国のコントロール下にあるものの比率が低い。その比率は1989年をピークに、減少してきており、現在は生産量のシェアで15%程度である。ただし、近年、政府の関与は強まる傾向にある。
ニッケル・プロジェクトへの投資案件数、金額の上でもアジアへのシフトが進んでいる。なお、金属開発投資額に関して、2006年、世界の投資額は約380億USDであり、うち銅が25%、金が20%、ニッケルが18%、鉄が16%となっている。
品位に関しては、0.5~1.0%のものが主流になっており、鉱山の大型化が進んでいる。
こうした最近の傾向は今後も継続すると見ている。

 
(2)Stainless Steel Markets in Fall 2007 : ISSF P. Kaumanns氏
 ステンレス産業の状況、地域ごとの需給動向等につき説明があった。

世界経済は引き続き強く、中国を中心として工業生産も伸びている中で、ステンレス市場については2006年後半から落ち込み、2007年半ばからやや回復してきている状態。
中国は新規生産設備投資により需要・生産とも増加、他方、その他アジア、欧州・アフリカでは減少している。これに同調してLMEニッケル価格も下落している。SUS304(CrNi)の価格もLMEニッケル価格と完全に相関している。
ステンレスの種類ごとの需要に関しては、欧州はCrNi系(ステンレス生産量の65%を占める)が多く、アジアはCrMn系の比率が高い。アメリカではCr系が多いのが特徴。近年、インド、中国ではCrMn系が大きく増加し、アジアでのSUS304(CrNi)の比率は下降傾向にある。
ステンレスの生産見通しに関して、2007年は対前年5.1%増と見ているが、第3、4四半期でアジア、欧州でCrNi系を中心に生産カットがなされる。このため、在庫取り崩しとあいまってニッケル価格は下落すると見ている。2008年については、対前年6.5%増と予想している。
業界にとっては、価格水準よりも投機によるボラティリティのほうが問題。LMEでは11百万t/年のニッケルが取引されているが、過去は3百万t/年程度だった。

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