報告書&レポート
2007年オーストラリア鉱業の1年-ニュース記事で振り返るオーストラリア鉱業の1年-
2007年のオーストラリア鉱業は、堅調な中国需要を背景に、金属価格の高騰、鉱物資源生産増加と空前の資源ブームが続いた。4月には労働党のウラン政策転換が発表された。また、年初からZinifex社の製錬部門の分離と新会社設立、Consolicated Minerals社に対するPallinghurst Resources社ほか2社による買収合戦、7月にはRio TintoによるAlcan社買収提案、11月にはBHP BillitonによるRio Tinto合併提案など買収・合併の話題が目立った1年であった。 本稿では、新聞報道等のニュース記事をもと2007年オーストラリア鉱業の1年を振り返る。 |
1. はじめに
本報告は、2007年1月から12月初旬までの約11か月間に、JOGMECシドニー事務所が収集・データベース化した現地ニュース記事約2,300件を「話題・分野別」、「企業別」、「鉱種別」、「国・地域別」、「州・準州別」に分類・整理し、2007年のオーストラリア鉱業の「定量的な」解析を試みたものである。*
* 現地3大紙、The Australian(全国一般紙)、The Australian Financial Review(全国経済紙)、The Sydney Morning Herald(シドニー・NSW地方の有力紙)の記事を用いた。
2. 話題・分野別ランキング -「買収、買収、買収」、大手から中小企業に至るまで-
話題・分野別では、「買収」が記事件数全体の18.4%(2007年1位←2006年3位)を占めたほか、「合併」(12←12)も上位に入った。これは、Consolicated Minerals社に対するPallinghurst Resources社ほか2社による買収合戦がほぼ1年間続いたこと、Rio TintoによるAlcan社の大型買収があったこと、更に11月にはBHP BillitonによるRio Tinto合併提案が明かになったことがあげられる。
また、BHP Billiton、Rio Tintoの社長交代、Zinifex社の社長辞任後の後継者選びが難航したことなど「企業経営」(7←-)も上位に入った。
空前の資源ブームが続き、各社とも記録的な業績をあげていることから「生産動向」が上位(2←1)を占めたほか、金属価格の高騰や価格予想などの「市況・資源ブーム」(5←4)、資本参加・融資等の「投資・ファイナンス」(4←16)、新規株式公開の「株式・上場」(20←5)などが上位に入った。また、旺盛な探鉱・開発活動に関連した「探鉱」(8←2)、「JVプロジェクト」(11←7)も上位を占めている。
「ウラン・原子力」(9←6)は、既に織り込み済みではあったが労働党のウラン方針転換が4月の全国党大会で正式に承認された。「環境・保安」(10←9)では、地球環境の議論が大きく取り上げられることが多かったが、製錬所周辺や旧鉱山施設周辺での鉛汚染や亜硫酸ガスの問題も何度か指摘された。
その他、オーストラリア企業が年度決算日としている6月末日とその後の株主総会が集中する7~8月、中間決算日としている12月末日(この日を年度決算日としている企業もある)から株主総会にかけて生産動向関連の話題が、フィールドシーズンの7~10月にかけて探査とその結果に関する話題が集中した。
* ( )内の数字は順位の変動
図1.話題・分野別ランキング
(▲ランキング上昇、▽ランキング下降、←ランキング同じ、-新たにランクイン)
図2.話題・分野の月別推移
3. 企業別ランキング -買収でBHP Billiton、Rio Tinto、Consolidated Minerals社が話題の中心-
BHP Billiton(2007年1位←2006年1位)は、5月にChip Goodyear氏が退任し、Marius Kloppers氏(南アフリカ出身、44歳)を次期社長に指名、11月にはRio Tintoに対して総額1,400億US$に上る合併提案を行い業界に衝撃を与えた。
Rio Tinto(2←2)は、4月、Tom Albanese氏が同社では初めての米国国籍の社長となり、7月にはAlcan社(8←-)買収(総額380億US$)を提案(11月に買収完了)、11月にはBHP BillitonからRio Tinto合併提案されるなど激動の1年となった。
中堅鉱山会社のConsolidated Minerals社(3←13)は、3月に資源ファンド企業で元BHP Billiton CEOのBrian Gilbertson会長率いるPallinghurst Resources社(5←-)が買収を提案した後、ウクライナのマンガン合金企業Palmary Enterprises社(7←-)、オーストラリア資源企業のTerritory Resources社(17←-)が次々に買収を表明、三つ巴の様相を呈している。
鉄鉱大手を目指すFortesucue Minerals社(4←3)は、Pilbara地域(西オーストラリア州)での鉄鉱山開発に関わるBHP Billitonの鉄道利用を認める司法判断が下され、鉱山開発と鉄道建設を開始したが、ハリケーンの被害により計画に深刻な影響を受けた。
スイス資本のXstrata(9←4)は、10月末にオーストラリアの中堅ニッケル企業のJubilee社(11←-)に対して友好的な買収に合意している。
Zinifex社(5←16)は、会社設立以来、亜鉛・鉛の鉱山から製錬までの一貫生産を行っていたが、2006年末にベルギーの亜鉛製錬・加工企業のUmicore社(32←-)と両社の製錬部門を分離して新会社Nyrstar社を9月に設立し、10月末には株式を公開して約16億A$の売却益を得て、海外での探鉱を積極的に進めている。
国内企業最大の産金企業Newcrest社(10←6)は、7月、日鉄鉱業と三菱マテリアルが探鉱中のNamosi銅・金JVプロジェクト(フィジー)への参入を明らかにした。
表-1.話題となった企業
|
|
|
4. 鉱種ランキング -鉄鉱、ウラン等が話題の中心に-
鉱種別では、中国を中心として需要増加に対応するため鉱山拡張・増産が続く鉄鉱石がトップ(2007年1位←2006年2位)、金(2←1)は価格高騰と探鉱投資の話題を中心となった。
ウラン(3←4)は、労働党の新ウラン鉱山開発が正式に承認、中国・ロシアへの輸出許可とインドとの輸出交渉、Ranger鉱山・Olympic Dam鉱山の埋蔵量増加と拡張計画などが話題となった。
ベースメタルでは、価格高騰のほか、銅(4←3)では、Olympic Dam鉱山の拡張に伴う銅精鉱輸出(現在は、山元製錬で地金を輸出)が、亜鉛・鉛(5←6)では、Zinifex社の製錬部門分離と海外での積極的な権益取得と探鉱活動が、ニッケル(7←7)では、Jubilee社やMincor社などの中堅鉱山会社の急成長とXstrataによるJubilee社買収が話題となった。
図3.鉱種別ランキング
5. 国・地域別ランキング -需要拡大の中国・インドと買収・合併の北米が上位に-
中国(2007年2位←2006年2位)は、経済成長と需要の拡大を続け、鉄鉱石の最大の輸出相手国であり、ウラン輸出協定を結んで投資が具体化している。インド(5←6)は、中国に次ぐ市場として注目されているが、ウラン輸出に関しては未だ交渉中。米国(4←3)、カナダ(3←4)も上位を占めている。Rio TintoとBHP BillitonによるAlcan社(カナダ)、Alcoa社(米国)の買収が噂され、Alcan社はRio Tintoによって買収されたこと、北米系企業がオーストラリア国内のウラン探査に参入していること、反対にカナダなどにオーストラリアの探査ジュニア企業が進出していることから話題となった。日本(5←5)は、鉄鉱石のほかに非鉄探査プロジェクトに日本企業が参加するなど上位を占めた。
近隣諸国では、PNG(6←7)、インドネシア(9←13)、フィジー(15←20)、ラオス(16←16)、フィリピン(13←14)、ニュージーランド(22←-)、ニューカレドニア(24←-)などがあげられる。
その他、Zinifex社とともに製錬部門を分離したUmicore社の本拠地であるベルギー(14←-)、アフリカ(16←-)では、南アフリカ(12←11)、コンゴ(16←24)、ザンビア(22←-)などが話題となった。
図4.国・地域別ランキング
6. 州別ランキング -鉄鉱石・金・ニッケルの西オーストラリア州が話題の半数以上を占める-
州別は、例年どおり鉄鉱石・ニッケル・金の国内最大の産出地である西オーストラリア州が他州を大きく引き離してトップとなっている(2007年54%←2006年48%)。次いで、石炭・アルミナ/アルミニウム・銅が話題となったクィーンズランド州(13%←13%)、ウラン探鉱・開発などで鉱区申請が急増、Olympic Dam鉱山の拡張計画も話題となった南オーストラリア州(11%←9%)がニューサウスウェルズ州(9%←10%)を抜いて3位となった。北部準州(5%←5%)は、Ranger鉱山の操業状況・埋蔵量拡大も話題となった。
Beaconsfield金鉱山事故ニュースに登場することが多かったタスマニア州(3%←6%)は、ニッケル鉱山の開発、Zinifex社の主要鉱山・製錬所の操業状況が話題となるにとどまった。ビクトリア州(5%←9%)はミネラルサンド探査と金鉱山(再)開発が話題となった。
図5.州別の割合
*( )括弧内は、2006年の割合
7. おわりに
オーストラリア鉱業の2007年は、4月に労働党による党全国大会において新規ウラン鉱山開発を禁止していた「3ウラン鉱山政策」を正式に破棄する大きな政策変更と、12月の連邦議会選挙で労働党が政権政党となったことの鉱業への影響などが話題となった。
また、Zinifex社の製錬部門を分離・売却(株式公開)、Rio Tintoがアルミニウム大手Alcan社を買収、そのRio TintoはBHP Billitonから合併提案を受けるなど企業再編の動きも多く取上げられた。
2008年は、BHP BillitonによるRio Tinto合併が成功するのか、労働党政権誕生により西オーストラリア州、クィーンズランド州等がウラン採掘禁止政策を破棄するのか、などが注目されよう。参考文献
以下各紙の2007年1月4日から12月7日までの記事
The Australian(全国一般紙)
The Australian Financial Review(全国経済紙)
The Sydney Morning Herald(シドニー・ニューサウスウェルズ州地方の有力紙)