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報告書&レポート

2008年1月10日 リマ事務所 西川信康 Tel:+51-1-221-5088 e-mail:ommjlima@chavin.rcp.net.pe
2008年03号

ペルー鉱業を巡る2007年の10大ニュース

はじめに
 2007年のペルー鉱業は、金属価格の高止まり、ベースメタル鉱山の大幅な生産増により、大きく躍進する一方、足元では、ますます深刻化する地元住民による反鉱山運動に加え、労働ストライキが多発、また、労働コストやエネルギーコストの上昇など、好調が続く鉱業に陰りが見え隠れした1年であった。本稿では、JOGMECリマ事務所が選んだ10大ニュースで2007年1年を振り返る。

1. 一層深刻化する反鉱山運動
 ペルーでは、環境汚染の懸念や地元への利益還元を求めた地元住民による反鉱山運動が後を絶たず、2007年も、Michiquillay、Rio Blanco、Huanzala鉱山など多くのサイトで、地元住民との対立が表面化した。2007年、最も話題をさらったのは、ペルーの北部ピウラ県にある大型銅案件の一つRio Blanco探鉱開発プロジェクトを巡る会社側と地元住民との対立である。同権益を保有する英国のジュニア企業Monterico Metals(現地法人名:Majaz)が、権益を獲得し、探査活動を開始した2004年頃から、同社が、一部の住民グループの許可のみで土地に不正に立ち入ったとして、地元住民が反発、加えて、農民コミュニティや環境NGOから環境汚染の懸念の声が広がる中、9月に行われた鉱山開発の是非を問う住民投票では、9割以上の住民が反対票を投じる結果となった。この結果に法的拘束力はないものの、政府は、住民との合意形成まで、鉱業活動の凍結を発表するとともに、今後、住民との対話を推進し、鉱山開発への理解を求めていくとの姿勢を示した。しかしながら、住民側は、投票結果の有効性を訴え、話し合いは平行線のままで、暗礁に乗り上げた状況である。この種の住民投票の動きは、隣のカハマルカ県のLa GranjaやMinas Conga鉱山開発プロジェクトにも波及する恐れがあり、ペルー鉱業の行方に暗雲が立ちこめている。
 ガルシア大統領は、背後に、一部の悪質な環境NGOや反政府組織による煽動があるとして、これらの運動を激しく非難するとともに、10月に、政府は、投資家の不安を払拭するため、大型銅開発案件を中心とする20の大型鉱山開発プロジェクトを国家の最優先プロジェクトとして後押ししていくとする法案を提出した。しかしながら、本法案には、具体的な地元住民対策が示されておらず、かえって、反対派の反発を招くとして、結果的には廃案となった。

2. 頻発した労働ストライキ
 金属価格の高水準化に伴い企業業績が好調な中、2007年は、賃上げや派遣労働システムの廃止、利益配当金上限の撤廃、年金制度の確立など、労働環境や労務制度の改善を求めた労働ストライキが多発した(ペルー労働省によると、2007年1月~11月までに、34件の労働ストライキが発生)。
 中でも、10月に発生したSouthern CopperのCuajone鉱山、Toquepala鉱山やIlo製錬所でのストライキによって、一時生産停止に陥り、供給不安の懸念から国際金属価格に影響も出た。また、11月には、ペルー最大の貿易港カヤオ港の港湾労働者ストライキの影響でワンサラ鉱山を含むペルー中部の鉱山が生産する精鉱出荷が10日間ストップするなどの被害が出た。さらに、5月及び11月には全国規模のストライキが発生、結果的に労働者のストライキ参加率は5%程度に留まり、操業への影響は限定的であったが、全国鉱山労働者連盟は、中央政府が鉱山における労使争議の解決に取り組まない場合、再び無期限ストライキに踏み切ると警告している。
 このように、ペルーの鉱山労働ストライキの特徴として、単に労使闘争という側面だけではなく、労務制度の改善など政府に対する要求も含まれており、解決に向けて労働省が主体的な役割を果たすケースが多い。
 バルディビアエネルギー鉱山大臣は、この種のストライキは政治的な思惑によるものだとしたほか、ガルシア大統領はこれらストライキの背後には、好調に推移している鉱業生産の足を引っ張ることで政府に打撃を与えようとする急進的な共産主義者が存在していると、激しく非難している。 

3. 政府による本格的な鉱害対策が始動
 ペルー政府は、90年代から、鉱業環境関連法の整備など鉱害問題に着手しており、稼働中の鉱山・製錬所における鉱害対策については、環境適正化計画(PAMA)を適用し、着実な成果を上げつつある。しかしながら、休廃止鉱山対策など国が責務を負って実行しなければならない分野は、行政側の体制や必要な予算措置が不十分なために、これら法制度が適切に運用されているとは言い難い。また、昨今、頻発している地元住民による反鉱山運動の原因の一つが、環境汚染の懸念に根ざしたものであることもあり、ペルー政府は、2007年、こうした鉱害問題解決に向けて新しい施策に着手した。具体的な取り組みは以下のとおり。
 
(1)休廃止鉱山の鉱害対策
 2007年7月、鉱山省内に鉱業技術部を新たに設置し、過去のインベントリーマップから抽出された850か所に鉱害発生箇所の優先順位付けや具体的対策に向けた取り組みを開始。現在、カナダとの国際協力プロジェクト(PERCAN)によって優先付けガイドラインを開発中。 
(2)閉山計画書審査の開始
 稼動鉱山から提出された閉山計画書審査の迅速化を図るため、2007年7月より、地質、植栽、機械、化学分析、土木、水理の専門家からなるタスクチームを編成し、鋭意審査中。
(3)FONAM による鉱害対策
 FONAM(国家環境基金)は、約530万$の政府基金及び300万$の民間基金をベースに最も鉱害被害が深刻なカハマルカ県ジョウカノ川流域において、酸性水の中和処理施設の建設、エル・ドラド尾鉱堆積場の鉱害対策、再緑地化プログラムなどを実施。
(4)旧国有鉱区における鉱害対策を開始
 2006年9月、国営公社ACTIVOS MINEROSを設立、旧Centromin国有鉱区を中心に、環境修復作業を開始。2007年から2010年まで総額4270万$の予算を確保。 2007年は、オロヤにおける汚染土壌の修復作業、カヤオ港の汚染源調査、セロデパスコにおける鉱さいや酸性水など環境負荷の軽減など19件の鉱害対策プロジェクトを予定。現在、民間企業に委託し、作業を開始。
(5)不法採掘対策
 シアンによる環境被害、児童労働問題などが深刻化している金の不法採掘について、ペルー政府は、小規模零細鉱業合法化促進法の整備を図るとともに、スイス政府との零細鉱業環境政策(GAMA)プロジェクトによって、プーノ県La Rinconada金山で採掘していた不法労働者5000名を合法的な鉱山労働者に転職させるなど一定の成果をあげている。しかしながら、不法採掘は、カハマルカ県やマドレ・デ・ディオス県などに拡大、労働者も5万人超と言われており、全国規模の解決への道のりは遠いとされる。
(6)鉱害・保安監督強化
 2007年1月、鉱害・保安監督業務をエネルギー鉱山省からエネルギー鉱業投資監督庁(OSINERGMIN)に移管し、操業中の鉱山・製錬所に対する鉱害・保安監督強化に乗り出した。その後、大規模・中規模鉱山や製錬所など75社を対象に環境汚染、労働災害、地下水汚染、その他の重大な過失などに関する監査に着手し、現在までにVolcan社鉱山、Oroya製錬所等約150万ソーレス(50万$)の罰金を課している。一方、現在の罰金の規模は環境汚染や環境規則違反の抑止力となるほど高額なものではないことから、現在、国会において、罰金額の引き上げ等罰則強化に向けた法案が審議中。
(7)日本への鉱害技術協力の要請
 2007年6月20日、JOGMECとエネルギー鉱山省は、リマにおいて、日本とペルー両国の鉱害防止に係る法制度や現状等について相互理解を深めるために、鉱害関連情報交換会を開催。本イベントを契機として、双方で協議を重ねた結果、エネルギー鉱山省は、日本に対し、休廃止鉱山対策技術協力及び閉山計画書審査に関する技術協力の要請を行った。
 
4. Michiquillay入札の実現
 ペルー最大規模の銅開発民営化案件と言われるMichiquillay入札は、当初2006年12月に予定されていたが、急進反対派による鉱山キャンプの焼き討ち事件や地元自治体指導者の交代に伴う混乱で、一時期、鉱山開発反対派が大勢を占め、入札の実施が危ぶまれた。2007年4月に入り、政府と地元指導者との対話が実現し、鉱山開発に対する基本的な合意が得られ、2回の延期を経て、4月30日、ようやく入札が実現した。入札には、6社が参加し、Anglo Americanが、最低入札価格の10倍あまりの403百万$という破格値で落札し、政府としては、結果的に、大成功に終わった。但し、一方で14社が入札を辞退し、地元住民問題を巡って評価が大きく2分された結果となった。
 Anglo Americanは、投資義務として、まず100万$を社会開発基金として拠出し、最大1年間かけて、地域コミュニティと交渉する。地域社会の合意が得られない場合、落札額を支払うことなく撤退が可能である。ゴーサインが出た場合は、215百万$(落札金額の半分)がプロジェクト影響下地域の社会経済発展のための信託基金へ充てられる。また、4年以内(1年延長可)に探鉱を終了し、開発オプション権を行使するか否かを決定。オプション行使後、3年以内(1年延長可)に開発工事を終了させることになっている。なお、同鉱床の鉱量は現在のところ、5.44億t(銅0.69%、金0.1~0.5g/t)と言われているが、今後の調査の進展次第でさらに拡大する可能性がある。
 現在、牧草の改良プロジェクトや炊事場建設など、地元住民との最終合意に向けて社会開発プロジェクトが順調に進展していると伝えられている。Michiquillay農民コミュニティのルイス・カサワマン代表は、一部環境NGO団体による暴力行為を遺憾だとしつつ、農民コミュニティは、自然環境に悪影響を及ぼさないのであれば、鉱山開発に賛成であるとの立場を明確にしている。
 
5. 活況を呈したペルー鉱業大会、国・企業・地域社会の融和がテーマ
 9月10日から14日にかけて、ペルー第2の都市アレキーパでペルー鉱業協会が主催する第28回ペルー鉱業大会(Convencion Minera)が開催された。この大会は2年に一度行われる鉱業分野ではペルー最大のイベントで、折からの好景気を反映し、国内外の鉱業関係者を中心に過去最大の15,000名を越える参加者とサプライヤーを中心とする700社を超えるブース(JOGMECも参加)が出展された。
 今回の鉱業大会のテーマは、「鉱業:ペルーの発展に向けた力の結集:Mineria:Union de esfuerzos para el desarrollo del Peru」で、国、鉱山会社、地域住民の融和・共生への取り組みの必要性が強調された大会となった。
 大会冒頭の挨拶でペルー鉱業協会のYsaac Cruz会長は、「2007年から2011年までの5年間にペルーの鉱業分野への投資金額は116億$が予測される。」として、依然、好調な鉱業投資が継続するという期待感を示す一方、Juan Valdiviaエネルギー鉱山大臣は、「ペルー人の多くは、鉱業を、地域住民の生活や農業を脅かすPolluterと見ている。我々は、持続的開発に向けてこのような見方を変える努力を払うべきだ」と述べ、地域住民に対する鉱山開発への理解の啓蒙、一層の社会支援、経済支援の必要性を強調した。
 さらに、Quijandria議長は、鉱業に対する社会的信頼の回復が課題であるとしつつ、地域社会による不信感は鉱山会社だけでなくエネルギー鉱山省をはじめとする政府機関にも及んでいることに言及した。
  大会の最後を締めくくったJorge del Castillo首相は、鉱業投資家の権利を遵守する国家の姿勢を強調しつつ、本大会で提案された要望を踏まえ、鉱業に対する投資の促進と社会的信用の回復を目的とした法律・規則の見直しを行うなど、政府も全力をあげて解決に向け尽力することを言明した。
 このように、今大会では、最大の懸案事項である地域住民問題や環境問題に対し、資源関係者の意識が共有されるとともに、ペルー政府の主体的な取り組みの必要性が改めて強く認識された意義深い大会となった。
 
6. ベースメタル鉱山生産が大幅拡大
 ペルーのベースメタル鉱山生産は、ここ数年、頭打ちの状況が続いていたが、2007年は、銅、亜鉛などのベースメタル生産が大きく拡大した。
 エネルギー鉱山省によると、1月から10月までの銅鉱山生産量は、前年比14.0%増の980,892t、亜鉛は、22.9%増の1,225,241t、鉛は6.9%増の274,053tとなった。銅については、2006年11月に精鉱生産を開始したCero Verde鉱山やペルー最大のAntamina鉱山の増産が大きく寄与している。また、亜鉛については、Antamina鉱山やペルー最大の亜鉛企業Volcan社の鉱山など主要鉱山が軒並み増産したことに加え、2007年7月に誕生したCerro Lindo鉱山(Milpo社、亜鉛金属量11万t/年)が大きく貢献している。
 対照的に、金は、世界最大のYanacocha鉱山の品位低下により、20.2%減の136.6tとなり、金の減産傾向は、しばらくは続くものと見られる。
 一方、ペルーの鉱産物輸出額は、こうした生産状況に加え、金属価格も依然、歴史的高値圏を維持していることから、1月から10月までの累計では、昨年比18.6%増の138億$に達している。内訳は、銅が22.2%増の58.4億$、亜鉛は同20.9%増の19.0億$、金は4.4%減の31.8億$。ペルーの総輸出額に占める鉱産物シェアも6割を超えている。

7. 日本向け精鉱輸出が大幅増
 2007年に入り、我が国にとって、ペルーのベースメタル供給国としてのポジションが急激に向上している。銅精鉱については、WBMSによると、2007年1月から10月までのペルーからの輸入量は、前年同期の約2.3倍の517千t(精鉱量)、亜鉛精鉱については、国際鉛・亜鉛研究会によると、同63%増の178千t(金属量)と大幅に拡大している。これにより、ペルーは我が国精鉱輸入相手国として、銅についてはチリ、インドネシアに次いで第3位(2006年第5位)、亜鉛は、豪州を抜いてトップ(2006年第2位)に躍り出る見込みである。なお、銅精鉱の増加分は、我が国企業(住友金属鉱山、住友商事)が資本参加し、2006年11月に銅精鉱生産を開始したCerro Verde鉱山からの供給が大きく貢献している。
 今後もPPCによるケチュア銅探鉱開発プロジェクトの進展や住友金属鉱山によるペルーでの本格的な探鉱活動の開始などにより、日本との貿易関係は、持続的な拡大が期待される。 
 
8. 強まる中国の攻勢
 昨今、中国国内の相次ぐ銅製錬所の増強に伴い、ペルーから中国向け銅精鉱への輸出量が急速に拡大している(2002年は30.4万tであったのが、2006年は58.8万tとペルーの銅精鉱の総輸出量の3分の1を占め、中国は、最大の銅精鉱輸出国となっている)。現在のところ、既存の鉱山に中国企業が投資しているのは、ペルー南部イカ県にあるShougang Group(首鋼集団)のペルー現地法人Shougang Hierro Peruが保有する鉄鉱石鉱山のみであるが、2007年に入り、中国企業が3つの大型銅鉱山開発案件を所有するジュニア企業を相次いで買収するなど、中国企業の銅資源獲得に向けた攻勢が本格化した。
 一つ目は、ペルー北部ピウラ県に位置するRio Blanco銅開発プロジェクトで、中国・Zijingグループ(紫金鉱業、銅陵有色金属公司、複合投資企業のXiamen C&D)は、2007年2月、同プロジェクトを保有するMonterrico Metals社(英国)を約186百万$で買収。その後9月に、同グループが保有している株式89.9%のうち、10%を韓国LS-Nikkoに約20百万$で売却した。Rio Blanco銅プロジェクトは最低投資額14億4,000万$で年間推定生産量は銅約32万t、マインライフは20年、2010年の生産開始を目指しているとされるが、前述したように、現地企業Majas社と地元住民との対立が深まっており、現在、政府により鉱業活動が凍結されている。
 二つ目は、ペルー中部フニン県に位置するToromocho銅開発プロジェクトで、2007年6月、中国のアルミ大手であるAluminum Corporation of China(Chinalco)社が、本プロジェクトを所有するカナダのジュニア企業であるPeru Copper社を友好的に買収すると発表し、8月には、同社の株式の82%にあたる1億1340万株を1株あたり6.2$合計約7億310万$で取得した。これで、6月にすでに取得している9.9%分の株式と併せ、91.8%の株式を取得したことになり、Chinalcoは、経営権を完全に掌握した。Toromocho鉱山開発プロジェクトは、現在、FS段階にあり、開発投資額は最低で15億US$におよび、当初はまず、リーチングから生産を開始し、その後精鉱生産も併せて実施し、最終的には銅年産27万tを目指すとされる。
 また、12月には、中国Minmetals社(五鉱集団公司)、Jiangxi社(江西銅業集団公司)が、カナダのジュニア企業であるNorthern Peru Copper(NOC)社を、総額455百万C$で買収提案したことが明らかとなった。同社が所有しているGalenoプロジェクトは、現在、FS実施中であり、鉱量803百万t、銅品位0.63%(カットオフ品位0.4%)であり、マインライフは20年以上で、銅精鉱144千t/年の生産予定。
 さらに、2007年4月に行われたMichiquillay政府入札でも、Jinchuan Group(金川集団有限公司)及びZijing Mining Group(紫金鉱業)の2社が応札(結果はAnglo Americanに敗退)するなど、中国企業がペルーでの鉱山投資を本格化する動きが加速している。
 
9. 活発化するウラン探鉱
 ペルーは、世界的には、ウラン資源の埋蔵国としては知られていないが、昨今のウラン価格の高騰の中、今まで、マージナルであった低品位のウラン鉱床が注目され始めている。
 ペルーにおける最近のウラン探鉱の動向としては、カナダのジュニア企業であるVena Resources社の活動が代表的で、同社はペルー南部のプーノ県Macusani地域など14,000haの範囲で35本のボーリング調査を行うほか、カナダのウラン生産会社CAMECOが本プロジェクトに参入し、十分な量のウラン資源が確認された場合、CAMECOは約5億$を投じてウラン選鉱プラント建設を行うことを明らかにしている。同社以外でも5~6社のカナダ企業がこの周辺地域で探鉱活動を行っており、国立ペルー原子力エネルギー研究所(IPEN)によれば、プーノ県には、金属換算量10,000tのウランが存在しているとされる。
 また、その他にペルーの北部のピウラ県や中部のパスコ県に分布するリン鉱床に伴うウラン資源も注目を集めつつある。その代表は、ブラジルのCVRDが2005年3月の政府入札で獲得したピウラ県のBAYOVARリン鉱床で、今後の動向が注目される。
 さらに、IPENは投資促進庁(PROINVERSION)と共同でペルー国内におけるウラン探査への投資促進計画の策定を検討しているとしており、今後、世界的にウラン鉱石の供給不足が懸念されている中、ペルーのウラン資源ビジネスが活発化する可能性が高い。
 
10. 鉱業税制の動向、カノン税の配分方法が主要テーマ
 2006年は、政府や国会内で、自発的拠出金や余剰利益税など課税強化の議論が噴出し、投資家に大きな不安を招いたが、2007年は、新たな課税導入の議論は、影を潜め、議論の焦点は、カノン税や鉱業ロイヤルティの配分方法に関する議論が主体であった。
 5月、国会のエネルギー鉱業委員会のフジモリ委員長は、鉱業ロイヤルティの15%を軍備増強に充当する法案作成を提案。また、UPP党も、国家の保全と発展には近代的な軍備が必要不可欠であるとし、銅輸出による利益の一部を軍事費に充てているチリと類似の政策を実施すべきと主張。6月、経済財務省が、カノン税を鉱山地域以外の県にも再配分し、経済格差を是正すべきとの考えを表明。また、政権与党のアプラ党議員からは、配分先を精鉱の積み出し港が存在する地域にまで拡大すべきと主張。こうした動きに対し、鉱山地域の県や地方議員は、自らの既得権が侵されると猛反発し、議論はその後進展していない。
 こうした中、10月、政府は、治まる気配のない住民問題解決の切り札として鉱山区域に還元されるカノン税(全体の10%)のうち、35%を区域内の家庭に直接支給するための法案を国会に提出。各家庭への年間の最大支給額は6千ソーレス(約2千$)とし、これによって100万人以上の国民に裨益があることを強調。これに対し、地方の持続的発展というカノン税の目的から外れる、また、支給を受ける家庭と受けない家庭との間の格差や不公平感が生まれ、新たな対立を生む恐れがあるとの批判が広がっている。
 さらに、カノン税や鉱業ロイヤルティを十分活用できない地方行政の企画能力不足に問題があるとして、地方自治体の建て直しに取り組むべきとの声が高まっている。 
 
おわりに
 以上のように、2007年のペルー鉱業界は、大きな飛躍を遂げ、我が国との貿易関係が一層強まる一方、中国企業の本格参入で、ペルーを舞台に資源獲得競争の幕開けとなる年でもあった。
 依然衰えも見せない地域住民による反鉱山運動については、2007年のRio Blancoに象徴されるように、今後、大型の探鉱開発案件に波及していく懸念があり、ペルー鉱業の成長シナリオに不安の影を落としている。ペルーの持続的な鉱業発展を占う上で、このRio Blancoの解決が大きな試金石になるものと見られ、今後、プロジェクト再開に向けた住民側との対話の成り行きが大いに注目される。
 また、2007年は、こうした反対運動の根拠の一つになっている鉱害問題について、政府として新たな取り組みを矢継ぎ早に開始した鉱害対策元年とも言える年でもあった。こうした課題は、一朝一夕で解決できる性格の問題ではなく、地域住民問題と併せて、ペルー政府の果たすべき役割は大きく、政府の強い実行力と着実な成果を期待したい。

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