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報告書&レポート

2008年1月24日 ジャカルタ事務所 池田 肇 Tel:+62-21-522-6640 e-mail:jogmec2@cbn.net.id
2008年06号

インドネシアPapua州Grasberg鉱山現地調査

 インドネシアで現在、銅を生産している鉱山は、PT Freeport Indonesia社がPapua州Mimika県で操業するGrasberg鉱山(写真11)と、PT Newmont Nusa Tenggara社がNusa Tenggara Barat州Sumbawa Barat県で操業するBatu Hijau鉱山の2か所である。両鉱山はともに世界有数の規模を誇り、日本との関係も深い。Grasberg鉱山は、1988年、Ertsberg鉱山を閉山する1年前に、Ertsberg 鉱山からわずかに北北西2.5km離れた場所で発見された。Ertsberg鉱山の総開発費128百万US$のうち24百万US$(18.75%相当)は日本企業コンソーシアムとの融資買鉱契約により調達された。Batu Hijau鉱山は、日本企業が権益35%を保有する。日本はこれら鉱山から銅精鉱を調達しており、その依存度は日本への全体輸入量の約2割に当たる。
 JOGMECジャカルタ事務所では、今回、サプライサイド分析の一環として、平成19年12月5日から12月11日にかけて、両鉱山の現地調査を実施したので、第1稿としてGrasberg鉱山の現状、今後の鉱山開発計画他について、その概要を紹介する。

1. 位置
 Grasberg鉱山は、南太平洋のニューギニア島の西半分を占めるインドネシア領Papua州の標高2,600~4,000mの高地に位置する。(第1図2)Grasberg鉱山へは、Jakarta(Java)からDenpasar(Bali)経由でTimika(Papua)まで空路約6時間を要し、Timika空港からは車両で約2時間で鉱山町Tembagapura(インドネシア語で銅の町)に至る。Tembagapuraは別名Hidden Valleyと称され、最南端のCargo DockからM(マイル)68ポストに位置する。リッジキャンプ(Ridge Camp)は、M71ポスト、選鉱場(Mill Complex)はM74ポストにある。(第2図3)
 Grasberg鉱山には、選鉱場(Mill Complex)からロープウェーを利用し鉱山エリアに入る。鉱山用重機は、Heat(Heavy Equipment Access Trail)Roadを利用し鉱山エリアに移動する。

第1図 Grasberg鉱山位置図
第2図 鉱山施設縦断図
第1図 Grasberg鉱山位置図 第2図 鉱山施設縦断図

 1 Asia Pacific Mining Conferenc, Manila, October 11-13, 2005, PTFI Tony Wenas講演資料
 2 PROSIDING TPT XVI PERHAPI 2007, Makassar, September 5 – 8, 2007,PTFI Mikael Adii講演資料
 3 Investment Mining, Sydney, May 8, 2007, PTFI Tony Wenas講演資料

2. 気候
 鉱山周辺の年間降雨量は5,000~7,000mmに達する。季節は、雨が激しく降る豪雨季と、定期的に雨が降り続く雨季に大別される。12月の露天掘り(標高3,750m)の気温は10℃以下と防寒着を必要とする寒さであった。12月7日、Ertsberg鉱山露天掘り跡は雲に覆われ見ることはできなかったが、Grasberg鉱山露天掘りは幸運にも雲の晴れ間から全景を遠望することができた。 

3. 株主
 Grasberg鉱山は、米国のFreeport McMoran Copper & Gold Inc.(FCX)がPT Freeport Indonesia(PTFI)を実質支配し操業する。株主構成は次のとおり。
 インドネシア政府:9.36%
 PT Indocopper Investama:9.36%
 Freeport-McMoRan Copper & Gold Inc.:81.28%
 PT Indocopper InvestamaもまたFreeport-McMoRan Copper & Gold Inc.傘下にある。 

4. PTFI
(1)財務状況
 同社の直近5年間の財務状況は第1表のとおり。

第1表 財務状況(2006年年次報告書より記載)
第1表 財務状況(2006年年次報告書より記載)

 
(2)従業員
2007年1月現在9,127人
インドネシア人8,960人(98.2%)
パプア出身2,463人(27%)
その他出身6,497人(71.2%)
外国人167人(1.8%)
(3)Grasberg鉱山労働者(コントラクターを含む)
2006年 19,805人;インドネシア人 19,302人(97.46%) 外国人 503人(2.54%)
 
5. 沿革:
 Grasberg鉱山の発見、操業に至る経緯は次のとおり。

1936年   オランダ人地質技師Jean Jacques Dozyが高品位銅鉱床Ertsbergを発見。
1960年   世界大戦をはさみ、FCX Forbes Wilson、Del FlintらがErtsbergの探鉱を本格化。
1963年   オランダ領New Guinea、インドネシアへ返還。
1966年   FCX、Soeharto将軍の投資促進政策を受けErtsberg鉱山開発交渉を開始。
1967年   インドネシア政府との間で第1号となる第1世代COWを締結。
1970年   鉱山施設建設開始
1972年   Ertsberg生産開始、精鉱を出荷
1975年   East Ertsberg(Gunung Bijih Timur)探鉱開始
1976年   インドネシア政府、権益8.5%を買収
1988年   PTFI David Potterらがボーリング調査によりGrasberg鉱床を発見。
1989年   12月、鉱石生産開始。
1991年   第1世代COWを第5世代COWに更新。
PTFIの権益9.4%をインドネシア企業(PT Indocopper Investmasi)へ売却
東ジャワ州Gresik製錬所の建設に合意。
これと引き換えに2回10年間の延長オプションを含む50年間の権利を取得。
BlockB鉱区の探鉱権を併せて取得。
1998年   Gresik製錬所の竣工
2000年   DOZ(Deep Ore Zone)生産開始
2042年   鉱業事業契約期限

6. 鉱区面積:
 Grasberg鉱山の鉱業事業契約鉱区は、Block A (鉱業許可)、Block B(探鉱許可)の2ブロックから構成される。それぞれの面積は、次のとおり。

Block A
10,000ha
Block B
202,950ha

 Bloak Aには、Grasberg露天掘り、Ertsberg露天掘り跡、選鉱場(Mill Complex)、リッジキャンプ(Ridge Camp)が位置する。
 Block Bは、鉱山労働者の生活の拠点する鉱山町Tembagapura、尾鉱堆積場(ModADA:Tailing Deposition Area)をカバーし、低地のポートサイトまで南北に約100kmにおよぶ。

7. 地質、鉱床
(1)Ertzberg:スカルン鉱床
 花崗閃緑岩が古生代、中生代の砂岩・頁岩・石灰岩などと第三紀の石灰岩に貫入している。Ertsberg鉱床は、この花崗閃緑岩をとりまきパイプ状に発達したスカルン鉱床である。鉱石鉱物は磁鉄鉱(Magnetite:Fe3O4)、黄銅鉱(Chalcopyrite:CuFeS2)を主とし金の含有が高い。
(2)Grasberg:斑岩銅鉱床
 Grasberg鉱床は古第三系に貫入したGrasberg 貫入複合岩体に胚胎する。この複合岩体はいくつかの貫入岩体よりなるが、Grasberg 閃緑岩が最も重要な鉱床母岩である。細-中粒斑状組織を呈し磁鉄鉱は2~5%、硫化物は主に黄鉄鉱(Pyrite:FeS2)で2~4%に達する。Grasberg は磁鉄鉱と金に富む斑岩銅鉱床である。鉱石鉱物は黄鉄鉱、黄銅鉱、斑銅鉱(Bornite:Cu5FeS4)、イダイト(idaite:Cu3FeS4)、自然金および銀が主体でダイジェナイト、銅藍(Covelline:CuS)が黄銅鉱の縁辺部に生成している。黄銅鉱は割れ目や石英細脈に沿って産出する。銅1%以上の高品位部は石英網脈帯に生成し、銅0.5-1%はカリウム質変質帯に生成している。金は黄銅鉱と密接して産出する。

8. 鉱石埋蔵量
 Grasberg鉱山の鉱石埋蔵量は、28.2億t(Cu 1.07%、金 0.92g/t、銀 4.02g/t)で銅566億lb、金は5,810万oz、銀は1億8,080万ozとなっている。(第2表)

第2表 鉱石埋蔵量
第2表 鉱石埋蔵量

  Grasberg鉱山は上記のとおり10鉱床が知られている。その全体的な位置関係は、第3図4 のとおりである。

第3図 鉱床位置関係図
第3図 鉱床位置関係図

4 PTFI Underground Mines Division, 12 Dec.,2007現地入手資料

9. 粗鉱生産能力及び鉱石処理能力
 Grasberg鉱山における露天掘り掘削重機は次のとおり。電気他ショベル17台(O&K RH200 30m3 3台; Bucyrus 495 42m3 4台; P&H 4,100 42m3 4台; P&H 2,800 34m3 6台)、ダンプトラック148台(Caterpillar785 135t 11台; Caterpillar793 220t 98台; Caterpillar797 320t 12台;Komatsu930E 290t 27台)、発破装填機18台など。1日の粗鉱生産能力は750,000t。選鉱場(第1・第2・第3・第4)の鉱石処理能力は240,000t/日である。
 2005年の日平均粗鉱生産量は69万2000tで、鉱石と表土の掘削量の関係を示す剥土比(Strip Ratio)は3.1、2006年の日平均粗鉱生産量は66万3000tで剥土比は2.9であった。Ertsberg鉱山開山以来の年度別、日平均鉱石処理量の推移を第4図5に示す。2004年度の日平均鉱石処理量は、2003年地すべりの影響により185,000t/日まで低下したが、2005年には230,000t/日に回復した。

第4図 年度別、日平均鉱石処理量(単位千t/日)
第4図 年度別、日平均鉱石処理量(単位千t/日)

5 Asia Pacific Mining Conferenc, Manila, October 11-13, 2005, PTFI Tony Wenas講演資料

10. 銅精鉱生産量
 PT Freeport Indonesiaの2005年の精鉱生産量は264万5,550t、銅は79万3,505t、金は108t、銀は224tを生産した。過年度の生産実績を第3表に示す。

第3表 Grasberg鉱山年度別精鉱、銅、金、銀生産実績
第3表 Grasberg鉱山年度別精鉱、銅、金、銀生産実績

11. 今後の鉱山開発計画
 Grasberg鉱山は、露天掘り(GRS OP)の深部化に伴い生産コストが上昇することから坑内採掘に移行することとしており、2015年からブロックケービング法(GRSBC:Grasberg Block Cave)で採掘を開始する。2015年の露天掘りファイナルピットの最下底は海抜3,055mが計画されており、現在より更に300m掘り下がる。垂直深度は約1km以上に達する。坑内掘り鉱山への移行に当たっては、DOZ(Deep Ore Zone)の生産能力を増強しつつ、BG(Big Gossan)、ESZ(Ertsberg Stockwork Zone)、GRSBC(Grasberg Block Cave)、MLZ(Mill Level Zone)、Kucing Liarを順次開発して鉱石生産量を維持する方針である。(第5図6)

第5図 生産開発計画(2007~2046)
第5図 生産開発計画(2007~2046)

 生産開発計画におけるPTFIの最大の課題は、2015年から2025年にかけて生じる鉱石ショートであり、そのギャップを如何に埋めるかが坑内掘り採掘の設計と将来の安定操業にかかっている。
 今回の現地調査ではDOZに入坑し、坑内に設置された第2クラッシャー(粉砕能力 2,450WMT/時間)を見学した。(写真2)
 PTFIは、2006年7月ベンチレーション設備(4200HP)の増強も完了させており、2009年までに80,000t/日の採掘体制を実現させたいとしている。
 坑内掘削重機は、次のとおり。ロックブレーカー8台、キャタピラーLHD43台、キャタピラーホールトラック(30t/55t)16台、ジャンボ掘削機8台などがある。
DOZ(Deep Ore Zone)は2000年から本格的生産に移行して、逐次、生産能力の増強が図られている。(第6図7)

写真2 DOZ坑内
写真2 DOZ坑内

第6図 DOZ(Deep Ore Zone)の生産能力増強
第6図 DOZ(Deep Ore Zone)の生産能力増強

 今後の、坑内掘り鉱山開発計画の概要は次のとおり。
(1)GBT (Gunung Bijih Timur):鉱量枯渇
  -マインライフ 1980-1994 -生産能力 28,000t/日
(2)IOZ (Intermediate Ore Zone):鉱量枯渇
  -マインライフ 1994-2003 -生産能力 10,000-26,000t/日
(3)DOZ (Deep Ore Zone):生産中
  -マインライフ 2000-2018 -生産能力 25,000→35,000→50,000→80,000t/日
(4)ESZ (Ertsberg Stockwork Zone):開発中
  -マインライフ 2008-2021 -生産能力 35,000~50,000→80,000t/日
(5)MLZ (Mill Level Zone):将来
  -マインライフ 2016-2026 -生産能力 35,000t/日
(6)Deep MLZ:将来
  -マインライフ 2021-2042 -生産能力 40,000~50,000t/日

6IMA Conference, Jakarta 31 October 2007, PTFI Dr. Gatut S. Adisoma Wahyu Sunyoto, M.Sc PT Freeport Indonesia
7PTFI Underground Mines Division, 12 Dec.,2007現地入手資料

12. 主な銅精鉱の出荷先
 Grasberg鉱山で生産される銅精鉱は、インドネシア、スペイン、日本、フィリピン、韓国、中国、インドなどへ出荷されている。インドネシア、スペイン向け出荷は、PTFIがそれぞれ権益25%、100%を有するPT Smelting、Atlantic Copper向けとなっている。全精鉱出荷量に占める両者の割合は次のとおり(2006年年次報告書より記載)。
2006年  PT Smelting(Indonesia Gresik) 27%、Atlantic Copper(Spain Huelva) 23%

13. PTFIを取り巻く最近の出来事

(1) 2000 年5 月、GrasbergでWanagon Basinの表土が流出しWanagon Lake が氾濫し、鉱山労働者4 名が死亡、Wanagon 渓谷一帯は洪水となり銅山は操業を一時中止。
(2) 2003 年10 月、12 月に露天掘りピットで大規模な斜面崩壊事故が発生。世界の銅マーケットに影響を与える。
(3) 2006年2月、インドネシア政府は、パプア州Grasberg銅金鉱山で重大な環境汚染が認められる場合は、鉱業事業契約(COW)を見直すと発表。
(4) 2006年3月、Grasberg鉱山に対する抗議活動で、警察官・空港職員4名が死亡、数十名が負傷
(5) 2006年3月、地滑りで3人死亡。
(6) 2007年8月、政府監査チームはFCXに対し、Grasberg鉱山周辺の環境に与える影響を軽減するため鉱石生産量を縮小するよう要請。

 なお、PTFI Adrid Indaryanto 広報担当(Corporate Communication)によれば、政府による事業契約の見直しについては未だ調査中で結論は出ていないと言う。

14. 国家歳入への貢献
 PTFIが国家に納付した納税額等は次のとおり報告されている。

   
直接
間接
  2006年
16億US$
 
11億US$
 
  1992-2006年累計  
51億US$
 
111億US$
 

 直接額は、法人税、所得税、ロイヤルティ、利益配当金、ランドレント、地方税などの総額である。間接額はPTFIによる鉱山活動によってもたらされた第三者の経済活動の利益に伴い発生した納税等による

15. おわりに
 現地調査の結果、Grasberg鉱山は第5図に示すとおり、露天掘りで大規模な斜面崩壊やDOZ(Deep Ore Zone)で岩盤崩落事故がない限り、2012年頃までは生産を順調に伸ばすと予想される。しかし、世界最大規模の露天掘り鉱山から坑内掘り鉱山への移行は、露天掘り斜面の自立や地下空洞の応力制御に技術的な困難を伴い、経済的かつ安定的な操業を確保するためにはこれまで以上に技術の結集が求められる。Grasberg鉱山は、現在、世界最高水準の岩盤制御、採鉱技術を擁して坑内掘り鉱山の開発が進められている。
  今回、カレント・トピックスを発行するに当たり、Grasberg鉱山を見学する貴重な機会を提供頂くとともに、各鉱山現場で便宜、ご協力、ご説明を頂いたPT Freeport Indonesia関係者に深く感謝申し上げる。

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