報告書&レポート
オーストラリアの2006/07年度鉱物資源産業の実態-オーストラリア鉱業協会(MCA)の「Minerals Industry Survey Report 2007」の概要-

オーストラリア鉱業協会(MCA ; Minerals Council of Australia)は、大手会計事務所PricewaterhouseCoopersと共同で、12月14日、2007年の鉱物資源産業界の財務状況などからなる調査報告書「Minerals Industry Survey Report 2007」を発表した。本報告書は、MCA会員企業(探鉱企業を含む)の財務データを集計したもので、きわめてユニークかつ貴重なものである。 本稿は、「Minerals Industry Survey Report 2007」の概要を紹介する。 |
1. はじめに
調査報告書「Minerals Industry Survey Report 2007」は、オーストラリア鉱業界のタイムリーで適格な財務情報を提供し、オーストラリア経済における鉱物資源産業界の役割を議論する目的で作成されているもので、オーストラリア国内のダイヤモンド・ボーキサイト・銀・ウラン・ルチル・鉄鉱石・ニッケル・アルミナ・銅・亜鉛・鉛・ジルコン等の生産量の約90~95%をカバーする*企業**の2006/07年度***財務データ等をもとに経営実態を解析している。
* | 石油・ガス及び鉄鋼を除く |
** | 大手企業から探査企業までを含む |
*** | 一部2006年暦年を含む |
2. 生産と輸出
生産では、鉱山生産指数(2002/03年度=100)がゆるやかに2%上昇し、製錬生産指数も、2%上昇した。
鉱石生産では、鉄鉱石が対前年度比6%の増加。これは、Rio TintoのHopes Downs鉱山、BHP BillitonのRapid Growth Project Ⅲ等の生産能力拡張によるものである。また一部の地域ではサイクロンの影響を受け生産減となった。石炭は同2%の増加で、州政府・民間施設が混在する鉄道・港湾の輸出インフラの非効率性と悪天候の影響を受けた。
金は同2%増で、長雨の影響を受けた。金は約30億A$の建設中のプロジェクトがある(うちNewmontのBoddington鉱山拡張プロジェクトが20億A$)。銅は同2%増で、約5億A$の建設中のプロジェクトがある。ウランは同28%減で、鉱床の低品位化、大雨の影響を受けた。アルミナは、Alcan社のGove精錬所の拡張、アルミニウムはNorsk Hydro社のKurri Kurri製錬所が生産増に貢献し、それぞれ同3%増となった。
地金生産は、精錬亜鉛が堅調であったのに対し、精錬銅が対前年度比7%減少、鉛ブリオンが同9%減少、ニッケルが同3.5%増加、銀が同28%の減少となった。
輸出は、ABARE*によると輸出金額(原油、LPG、LNGを除く)が、908億A$(対前年度比16%増)となった。この輸出増は、主に金属価格の上昇によるもので、輸出量の増加はゆるやかである。鉱種別に目立ったものは、ニッケル(同142%増)、金(同45%増)、鉄鉱石(同20%増)、亜鉛鉱石(同67%増)、アルミナ(同18%増)、アルミニウム(同18%増)があげられる。また、減少したものは原料炭(同11%減)、一般炭(同6%減)である。
なお、オーストラリアの経済的実証資源量(EDR)は、2006年のデータで、石炭、鉄鉱石、銅、金、ルチル。ジルコン、白金属、銀、錫、タングステン、バナジウムが増加している。
* ABARE Australian Commodities, September Quarter 2007

図-1. 鉱山生産指標の推移

図-2. 製錬所生産指数の推移
3. 財務状況
(1)バランスシート
2006/07年度の鉱山業界の総資産(Total assets)は対前年度15%増加の1,472億A$に達し、負債合計は942億A$(同13%増)、自己資本は529億A$(同20%増)、負債比率(Debt to debt plus equity ratio)*は18%であった。
* Debt to debt plus equity ratio = Debt / (Debt + equity)
(2)収入・利益
生産量の増加と操業コストの増加にもかかわらず、すべての収益性の指標は、世界の強い需要、金属価格高騰に支えられ、前年度に引き続き上昇している。
2006/07年度の鉱山業界の総収入(Total Revenue)は対前年度比18%増加の666億15百万A$に達し、売上げは鉱山部門で10%増加し、製錬部門では42%の増加となった。
純利益(Net Profit)は、対前年度比21%増加の149億90百万A$で、これは1977/78年度以来、過去最高水準に達しており、10年平均の50億21百万A$の約3倍である。株主資本利益率(Net profit return on average shareholder’s funds)*は前年度の24%から32%に上昇、これも過去最高で過去10年間の平均12%を大きく上回っている。総資産利益率(Net profit return on average assets employed)**は前年度の10%から11%に上昇、過去10年間の平均5%を大きく上回っている。
* | Net profit return on average shareholder’s funds = Net profit / average shareholder’s funds at the beginning and end of the period |
** | Net profit return on average assets employed = Net profit / average assets employed at the beginning and end of the period |
(3)キャッシュ・フロー
2006/07年度の鉱山業界の営業活動によるキャッシュ・フロー(Net cash provided by operating activities)は対前年度比32%増加の209億80百万A$、投資活動によるキャッシュ・フロー(Net cash used in investing activities)は同93%増加の149億21百万A$、財務活動によるキャッシュ・フロー(Net cash provided by financing activities)は同2%増加の70億78百万A$、期末現金残高は36%減少の19億27百万A$となった。
(4)費用
総費用(Total Expense)は、対前年度比17%上昇して464億12百万A$となった。そのうち、労働コストは同16%増加の75億26百万A$、州政府所有の鉄道・港湾の利用コストは同5%増加の8億23百万A$、生産・操業コストは同18%増加270億25百万A$、減価償却費は15%増加の48億39百万A$、金利コストは同43%増加の34億11百万A$となった。





図-3. 財務指標の推移
4. 税コスト
鉱業活動による政府に対する支出は、対前年度比17%増の90億40百万A$である。
直接的な税は、同17.6%増加の72億94百万A$である。このうち州・準州政府へのロイヤルティ支払が、同16%増加の20億82百万A$、連邦政府への収入税(Income Tax)が同18%増加の52億11百万A$に及んでいる。
他方、間接的な税である給与税(Payroll Tax)、フリンジベネフィット税(Fringe Benefit Tax)*、燃料税(Fuel Excise)、土地税その他税が28%増加の7億31百万A$であった。
* 金銭以外の被雇用者への便益供与に対して雇用主に係る税

図-4. 鉱業関係諸税の推移
5. 労働力
総雇用者数*は対前年度4%増加の87,965人(直接雇用**は同4%増加の62,740人)、総労働コストは同16%増加の75億28百万A$であった。労働者一人当たりのコストは同12%増の119,968A$で、コストの内訳は実質賃金、給与税納付、フリンジベネフィット税、雇用者保険などその他コストである。
実質賃金の大幅アップにもかかわらず、鉱山会社は、質の良い労働力の確保に苦労しており、結果的にプロジェクトのコスト増とスケジュールの遅れとなっている。MCAは、2015年までに、鉱物資源産業で新たに70,000人の労働力が必要になると推計している。
* | 探査、採鉱部門の労働者でフルタイム労働者の代替となるコントラクター(請負者)などを含む |
** | コントラクターは除く |

図-5. 直接雇用者数と労働コストの推移
6. 投資・探鉱
鉱業投資は、対前年度比93%増加の149億21百万A$で、このうち129億10百万A$は、総資本支出(Net capital expenditure)であり、同54%増である。
探鉱投資は、同38%増の17億A$と堅調であったが、ボーリング総延長は8,418mでピーク時の2001/02年度の12,857mに比べ目立って増加しているわけではない。ボーリングのコストは、1994/95年度の79A$/mに比べ2006/07年度は139A$/mと85%増加している。

図-6.鉱山・製錬所への資本投資の推移
表-1 2006/07年度の財務情報 |
|
*Borrowings /(borrowings + shareholder’s fund) |
7. まとめ
近年のオーストラリアは、鉱物資源の生産量、輸出額、鉱山会社の財務数値・各指標、鉱業投資、探鉱投資いずれも右肩上がりで推移しており、鉱物資源産業界の好調さを示している。
2007/08年度の見通しについては、ABAREによると生産量はボーキサイトを除くすべての鉱物資源で増加、投資も順調に行われると期待されている。金属価格も、アルミニウム、ニッケル、亜鉛を除けば、需要増が供給増を上回ることから、上昇基調にあると見られている。輸出は、原料炭、アルミニウム、アルミナ、ニッケル、亜鉛の輸出額が減少すると見られている。探鉱投資は引き続き活発に行われると見られている。
以上、2004/05年度から急速に上向いてきたオーストラリア鉱物資源産業界の経営状況は、4年目の2007/08年度も好調を維持し、ここ当分の間は、順調に推移すると思われる。
参考文献
MCA: Minerals Industry Survey Report 2007
ABARE: Australian Commodities, September Quarter 2007

