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報告書&レポート

2008年3月13日 メキシコ事務所 小島和浩 Tel:+52-55-5280-1099 e-mail:jogmec@prodigy.net.mx
2008年23号

メキシコ・チワワ州鉱業事情報告-小規模鉱山の操業事例-

 メキシコは古くからの鉱業国であり、現在でも銀・ビスマス等の世界の主要生産国である。中でもチワワ州(Estado de Chihuahua)は、ペニョーレス社の主力鉱山であるナイカ鉱山及びビスマルク鉱山を有するほか、近年はソノラ州境部のシェラマドレ山中で数多くの金プロジェクトの探鉱開発が行われる等、メキシコ屈指の鉱業が盛んな州である。また、同州はスペイン植民地時代からの長い鉱業の歴史を持ち、チワワ市やイダルゴ・デル・パラル市周辺等の古くからの鉱山地帯では、現在の金属価格の好調を背景に地元鉱山主による小規模鉱山の操業が活発に行われている。
 今般、チワワ州内の小規模鉱山及び選鉱場を訪問する機会を得たので、これらを中心に同州の鉱業事情について紹介する。

1. チワワ州の概要及び鉱業生産
(1)チワワ州の概要
 チワワ州はメキシコ北西部に位置し、東はコアウイラ州、西はソノラ州、南はシナロア州及びドゥランゴ州に接する。北側は国境線を挟んで米国・ニューメキシコ州と、リオグランデ川を挟んでテキサス州と接する。面積は245千km2に及び、同国31州の中で最大の広さを誇る。人口は300万人、州都はチワワ(Chihuahua)である。

図1 チワワ州位置図
図1 チワワ州位置図

(2)チワワ州の鉱業生産
 2006年のメキシコ国内及びチワワ州の主要鉱産物の生産量を表1に示す。チワワ州は金、鉛の生産で国内第1位を占めるほか、亜鉛の生産量がサカテカス州に次いで第2位、銀の生産量がサカテカス、ドゥランゴの両州に次いで第3位となっている。

表1 チワワ州の主要鉱産物生産量及び国内順位
鉱種 国内生産量 チワワ州生産量 生産比率 国内順位
金(kg) 38,961 11,573 29.7% 1
銀(kg) 2,969,845 423,524 14.3% 3
銅(t) 334,129 13,848 4.1% 4
鉛(t) 135,025 59,135 43.8% 1
亜鉛(t) 479,379 140,200 29.2% 2
鉄(t) 9,614,623 437,652 4.6% 4
出典:経済省鉱山局

 チワワ州の鉱業生産額を表2に示す。2003年の州内の鉱業生産額は約30億ペソ(2.79億US$:2003年の平均レート=10.7890ペソ/$で換算)であったが、その後金属市況に恵まれたため、大幅な成長を続け2006年の生産額は133億ペソ(12.2億$:2006年の平均レート=10.8994ペソ/$で換算)に達した。

表2 チワワ州の鉱業生産額(単位:ペソ)
  2003年 2004年 2005年 2006年
35,339,495 150,969,250 871,314,796 2,265,864,563
589,455,302 771,935,930 745,403,004 1,394,421,330
169,923,746 263,219,072 398,571,256 978,896,366
375,509,782 516,387,016 505,381,895 728,468,441
亜鉛 1,063,195,827 1,157,387,134 1,797,778,737 4,520,403,528
カドミウム 6,114,108 4,965,188 13,544,696 10,358,045
67,209,376 87,758,178 135,812,114 161,413,634
金属鉱物小計 2,306,747,638 2,952,621,768 4,467,806,498 10,059,825,906
非金属鉱物 705,592,761 718,911,269 3,301,179,139 3,281,086,665
合計 3,012,340,399 3,671,533,037 7,768,985,637 13,340,912,571
出典:経済省鉱山局、INEGI

写真1 エル・ポトシ鉱山立坑
写真1 エル・ポトシ鉱山立坑

2. 小規模鉱山の操業事例
(1)エル・ポトシ鉱山
 エル・ポトシ鉱山はチワワ市郊外に位置し、スペイン植民地時代から銀を生産している長い歴史を持つ鉱山である。19世紀末に米国企業によって、鉛・銀・亜鉛を対象として近代的な採掘が開始された。最盛期の採掘量は2,000t/日に達し、1939年には鉛鉱山として世界一の生産量を達成したといわれている。また、1925年~現在までの採掘量は20百万tと記録されている。現在の鉱山主はDaniel Valenzuela氏である。
 現在、同鉱山は4人×2交代で採掘を行っており、1日の採掘量は約80tである。採掘された鉱石はパラル選鉱場で処理され、亜鉛精鉱と鉛精鉱が生産されている。生産された精鉱はペニョーレス社のトレオン製錬所で委託製錬されている。パラル選鉱場への選鉱委託料は18.5US$/t、トレオン製錬所への製錬委託料は亜鉛精鉱が300US$/t、鉛精鉱が220US$/tであり、鉱石及び精鉱の運搬料は各々約16US$/tである。また、ペニョーレス社からポトシ鉱山へは、鉛価格の90%、銀価格の95%、亜鉛価格の90%が支払われ、精鉱引渡し2週間後に総額の70%が、2か月後に残り30%が支払われる契約となっている。
 パラル選鉱場のデータを基に作成したポトシ鉱山の操業状況を表3に示す。

表3 エル・ポトシ鉱山の操業状況(2007年11月)
  生産量(t) 品位 含有金属量
Au
(g/t)
Ag
(g/t)
Pb
(%)
Zn
(%)
Au
(g)
Ag
(kg)
Pb
(t)
Zn
(t)
粗鉱 1,174 0.15 278 4.97 4.56 176 326.3 58.33 53.52
鉛精鉱 69 1.28 3,072 59.57 2.50 88 212.1 41.13 1.73
亜鉛精鉱 67 0.00 250 2.50 52.00 0 16.7 1.67 34.79
尾鉱 1,038 0.09 94 1.50 0.98 88 97.5 15.53 17.01
注)生産量は乾燥重量

(2)サビナル鉱山

写真2 サビナル山坑内
写真2 サビナル山坑内

 サビナル鉱山は、チワワ市の北西約200km、ペニョーレス社の主力鉱山の一つであるビスマルク鉱山の南東約30kmに位置する。同鉱山では地表部から連続する鉱脈を坑内掘り(現在の坑道延長は120m)で採掘し、約10t/月の規模でAg-Pb精鉱を生産している。鉱石の平均品位はPb 1%、Ag 250g/t、精鉱品位はPb 50~55%、Ag 15~20kg/tである。また、亜鉛4~13%を含む酸化鉱が存在するが、現在のところ亜鉛の回収は行っていない。
 生産された精鉱はペニョーレス社のトレオン製錬所に送られている。製錬委託料は280US$/t、また、ペニョーレス社からサビナル鉱山へは、鉛価格の95%、銀価格の97%が支払われ、精鉱引渡し2週間後に総額の70%が、2か月後に残り30%が支払われる契約となっている。

3. パラル選鉱場の概要
 パラル選鉱場はイダルゴ・デル・パラル市郊外に位置する。同選鉱場は小規模鉱山の鉱石を選鉱処理するため、連邦政府機関であるSGM(メキシコ地質調査所)が保有する選鉱場であるが、現在は地元の鉱山主であるGustavo Duran氏に委託して操業を行っている。選鉱料は鉱石1t当たり18.5US$であり、この内1.88US$がSGMの収入となる。同選鉱場の処理能力は9,800t/月(350t/日×28日)である。現在、同選鉱場では鉛、亜鉛の各精鉱の生産を行っているが、さらに金を回収するための青化法プラントを設置中である。
 同選鉱場は2007年11月に14鉱山から合計12,657tの鉱石を受け入れており(1鉱山当たりの受入量は146~3,347t)、同月末現在の鉱石ストックは9,914tである。同月のパラル選鉱場の操業状況を表4に示す。

写真 3 パラル選鉱場浮選設備

 
写真 4 パラル選鉱場青化法プラント
写真 3 パラル選鉱場浮選設備
 

写真 4 パラル選鉱場青化法プラント

表4 パラル選鉱場の操業状況(2007年11月)
  生産(処理)量(t) 含有金属量
Au(g) Ag(kg) Pb(t) Zn(t)
粗鉱 8,874 4,504 946.5 227.8 259.9
鉛精鉱 288 2,933 671.1 162.0 19.4
亜鉛精鉱 317 56 63.7 5.6 169.4
尾鉱 8,268 1,515 211.7 60.2 71.1
注)生産(処理)量は乾燥重量。9鉱山の鉱石を処理。

4. おわりに
 メキシコ経済省鉱山局の調べによると、2006年のメキシコの主要鉱物生産に占める中小鉱山のシェア(生産量)は金57.8%(22.5t)、銀16.3%(483.7t)、鉛11.2%(15,114t)、亜鉛6.2%(29,687t)、銅1.1%(3,628t)となっている。一方、金属価格が低迷していた2002年における中小鉱山のシェアは、金26.5%(5.6t)、銀14.5%(398.0t)、鉛1.5%(2,230t)、亜鉛0.2%(754t)、銅4.5%(14,610t)であった。最近の金属市況の好調を背景とした地元鉱山主の操業再開・規模の拡大や、カナダ・ジュニア企業を中心とする外国投資によって、中小規模の鉱業が復興していることが覗える。

図2 チワワ州主鉱山・選鉱場位置図
図2 チワワ州主鉱山・選鉱場位置図

(1) ビスマルク(Zn,Ag,Cu) (8) ナイカ(Ag,Pb,Zn,Cu)
(2) サビナル(Ag,Pb) (9) ボリバル(Cu,Zn)
(3) エル・ポトシ(Ag,Pb,Zn) (10) エル・サウサル(Ag,Au)
(4) サンタ・エウラリア(Zn,Pb,Ag,Au) (11) サン・フランシスコ・デル・オロ(Ag,Pb,Zn,Cu)
(5) オカンポ(Ag,Au) (12) サンタ・バルバラ(Ag,Pb,Zn,Cu)
(6) モリス(Ag,Au) A.パラル選鉱場
(7) クシ(Ag)    

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