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2007年チリ鉱業総括

2007年のチリ鉱業は金属価格の高騰に支えられ、銅輸出額が過去最高を記録する等、2006年に引き続き活況を呈した。銅生産量はEl Abra鉱山やCODELCO Nort事業所(Chuquicamata鉱山、Radomiro Tomic鉱山)の生産量が品位の低下や下請け従業員によるストライキ等により大幅に減少したものの、2006年に生産を開始したSpence鉱山、Escondida鉱山のバイオリーチングプラントが本格操業に入り、前年を上回る555.7万tを記録した。各産銅会社の売上・収益も好調で、チリの銅産業界は過去にない順調な鉱業活動を行なったといえる。本稿では2007年のチリ鉱業を振返り総括するとともに2008年の展望についてコメントする。 |
1. 生産動向
(1)銅・モリブデン生産量
COCHILCOの発表によると、2007年のチリの銅生産量は2006年の536.1万tから3.7%増加し、555.7万tとなった。このうち、銅精鉱の生産は前年比2.8%増の262.1万t、SX-EWカソードの生産量は同8.3%増の183.2万t、その他(粗銅及びSX-EW法以外の電解銅)が110.4万tであった。SX-EWカソードの生産量が大幅に増加したのは、2006年に操業を開始した、Spence鉱山及びEscondida鉱山のバイオリーチングプラントが本格操業に入ったためである。
2007年のモリブデン生産量は、2006年の43.3千tから3.8%増加し、44.9千tとなった。モリブデン生産量が増加したのは、2007年のモリブデン平均価格が2006年の24.75US$/lbから22.1%上昇し、30.23US$/lbとなり、各鉱山でモリブデン生産を増加させたためである。
図1にチリの銅生産量の推移、図2にチリのモリブデン生産量の推移を示す。近年のチリの銅、モリブデン生産量は、順調に増加しており、特にSX-EWカソードの生産が伸びている。

図1 チリの銅生産量の推移

図2 チリのモリブデン生産量の推移
(2)鉱山別銅生産量
表1にチリの主要鉱山の2006年、2007年の銅生産量を示す。銅生産量が大幅に増加したのは本格操業に入ったSpence鉱山(2006年と比べ123.8千t増)、バイオリーチングプラントが本格操業に入ったEscondida鉱山(同228.3千t増)及びCollahuasi鉱山(同12.0千t増)、Candelaria鉱山(11.4千t増)等である。一方、2007年に銅生産量が減少したのは、El Abra鉱山(2006年と比べ52.6千t減)、Chuquicamata鉱山、Radomiro Tomic鉱山を有するCODELCO Norte事業所(同44.3千t減)、Los Pelambres鉱山(同35.1千t減)、Cerro Colorado鉱山(同16.8千t減)等である。El Abra鉱山の権益49%を所有するCODELCOはCODELCO Norte事業所のほか、El Teniente鉱山、Andina鉱山、Salvador鉱山とも生産量が減少しており、2007年のEl Abra鉱山の権益分を含むCODELCOの生産量は1,664.6千tとなり、2006年の1,783.0千tから118.4千t減少したこととなる。銅生産量減少の主な原因は、銅品位の低下、鉱石の硬質化による鉱石処理量の減少、鉱体の深部化による鉱石輸送時間の増加等である。
表1 チリの主要鉱山の銅生産量
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* | Mantos Blancos鉱山及びManto Verde鉱山 |
** | Los Bronces鉱山及びEl Soldado鉱山 |

図3 チリの主要山位置図
(3)銅生産見通し
表2にCOCHILCOの発表によるチリの2008~2015年の銅生産見通しを示す。
チリの既存鉱山による銅生産量は2008年の564.7万tから2015年には447.3万tに減少するが、新規鉱山の生産量が2008年の25.6万tから208.2万tに増加することにより、合計生産量は2008年の590.3万tから2015年には655.5万tに達する見込みである。この期間にチリで新規鉱山開発が計画されているのは、CODELCOのGabriela Mistral(Gaby)プロジェクト、Alejandro Halesプロジェクト、Antofagasta Minerals社のEsperanzaプロジェクト、Pan Pacific Copper社のCaseronesプロジェクト等である。
2007年の銅生産量が555.7万tであるので、2015年までの8年間にチリの銅生産量は99.8万t(18.0%)増加する見込みである。
表2 2008-2015年のチリの銅生産見通し
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(単位:千t)
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2. 輸出動向
(1)銅輸出量
2007年のチリの銅輸出量は567.3万tであった。2007年のチリの銅生産量が555.7万tであったことから、チリで生産された銅の大部分が輸出されたこととなる。銅輸出量が生産量を上回っているのは、鉱山の鉱石ストック量の増減の影響と銅スクラップの輸出量がカウントされていることによるものである。形態別の銅輸出量は銅地金が前年比11.7%増の291.0万t、銅精鉱が前年比4.0%増の225.8万t、粗銅が前年比10.6%増の50.6万tであった。チリの2007年銅輸出量の形態別構成割合は、銅地金が51.2%、銅精鉱が39.8%、粗銅が8.9%となった。
2007年チリの最大の銅輸出相手国は中国(113.2万t)で、日本(73.6万t)、韓国(42.7万t)、米国(42.4万t)、インド(36.2万t)の順となっている。2002年までは日本がチリの最大の銅輸出相手国であったが、2003年以降は中国への銅輸出が日本を上回り、トップの座を占めることとなった。
形態別では銅地金の最大の輸出相手国は中国(57.3万t)で、イタリア(35.2万t)、米国(32.7万t)、フランス(27.4万t)の順、精鉱の最大の輸出相手国は日本(66.7万t)で以下、中国(50.4万t)、インド(35.7万t)、韓国(17.5万t)の順となっている。2007年にチリで生産された銅地金は主に中国及び欧米諸国へ、銅精鉱は主にアジア諸国へ輸出されたこととなる。
図4にチリの形態別銅輸出量の推移、図5にチリの銅輸出相手国と輸出量の構成割合を示す。

図4 チリの形態別銅輸出量の推移

図5 チリの銅輸出相手国と輸出量の構成割合(2007年)
(2)銅・モリブデン輸出額
2007年の銅生産量が前年比3.7%増であったのに対し、銅輸出額は過去最高を記録した2006年の323.3億US$を大幅に上回り、前年比18.2%増の382.1億US$となった。これは、2007年の平均銅価格が2006年の3.05US$/lbから5.9%上昇し、3.23US$/lbとなったためである。また、モリブデン輸出額も2006年の27.6億US$から37.0%増加し、37.8億US$となった。これは、2007年のモリブデン平均価格が2006年の24.75US$/lbから22.1%上昇し、30.23US$/lbとなったためである。他の鉱産物の輸出額も金属価格の高騰により増加しており、チリの2007年の銅・モリブデンを含む鉱産物の輸出額は437.1億US$となり、チリの全輸出総額683.0億US$の64%を占めることとなった。
図6にチリの1996~2007年間の輸出額の推移を示す。この図から明らかなように、金属価格が高騰した2004年からチリの輸出額は大幅に増加しており、これは主に銅・モリブデン輸出額の増加によるものである。

図6 チリの輸出の推移
3. 鉱業投資
COCHILCOのレポートによると、2007年から2011年までの5年間の鉱業投資額は143億US$で、この内115億US$が銅プロジェクトへの投資、残りの28億US$が金プロジェクトへの投資である。銅プロジェクトの投資額は全投資額の80.4%に相当する。また、同期間のCODELCOによる投資額は58.4億US$に達する見込みで、これは全投資額の40.8%に相当する。
表3にチリの2007~2011年の鉱業投資額の推移を示す。
表3 チリの2007~2011年の鉱業投資額の推移
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(百万US$)
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*CODELCO本社の投資額 |
CODELCO及び民間企業による主な鉱業投資プロジェクトを以下に示す。
1) CODELCOによる鉱業投資プロジェクト
・Gabriela Mistral(Gaby)鉱山の開発
投資期間:2006~2008、投資額:910百万US$
投資内容:鉱山開発及び生産量の150,000t/年のSX-EWプラントの建設
・Ministro Alejandro Hales鉱山の開発
投資期間:2008~2013、投資額:835百万US$
投資内容:鉱山開発及び鉱石処理量50,000t/日の選鉱場の建設
・El Teniente鉱山の拡張
投資期間:2000~2007、投資額:671百万US$
投資内容:選鉱場の処理能力の拡張
・Andina鉱山の拡張
第1フェーズ
投資期間:2005~2009、投資額:622百万US$
投資内容:選鉱場の処理能力を現在の72,000t/日から90,000t/日へ拡張
第2フェーズ
投資期間:2009~2014、投資額:2,300百万US$
投資内容:選鉱場の処理能力を現在の90,000t/日から230,000t/日へ拡張
2) 民間企業による鉱業投資プロジェクト
・Esperanza鉱山の開発(Antofagasta Minerals社)
投資期間:2004~2010、投資額:1,500百万US$
投資内容:生産量195,000t/年の鉱山開発
・Los Pelambres鉱山の拡張(Antofagasta Minerals社)
投資期間:2005~2010、投資額:600百万US$
投資内容:選鉱場の拡張により鉱石処理量175,000t/日に増加
・Lomas Bayas鉱山の拡張(Xstrata)
投資期間:2006~2011、投資額:270百万US$
投資内容:鉱山の拡張により生産量を195,000t/年に増加
・Los Bronces鉱山の拡張(Anglo American)
投資期間:2007~2011、投資額:1,700百万US$
投資内容:生産量175,000t/年の選鉱場の追加建設
・Caserones鉱山の開発(Pan Pacific Copper社)
投資期間:2007~2011、投資額:700百万US$
投資内容:鉱山開発及び生産量110,000t/年のSX-EWプラントの建設
4. 問題点
(1)環境問題
チリではこれまで鉱業活動に絡む目立った環境争議は無かったが、2006年に幾つかの環境問題が発生、2007年にも引き続き環境問題がクローズアップされた。また、2007年には閉山法制定に関する議論が国会で行われる予定であったが、チリ政府と鉱山業界との調整に時間がかかり、閉山法制定は2008年以降に持ち越された。最近、環境問題によりチリの鉱山が影響を受けた事例は次の通りである。
Los Pelambres鉱山ではEl Mauro廃さいダム建設にあたり、地元農民が灌漑用水に影響が出ているとして訴訟を起した。既にチリ政府当局の認可を得て建設中であったが、建設許可無効の判決がサンティアゴ高等裁判所から出され、鉱山会社と政府は最高裁判所に上訴した。El Mauroダムは、現在山元にある廃さいダムが2008年に満杯になることから建設を進めているもので建設中止となると鉱山の操業自体が不可能となる。最高裁判所の判決が下るのは2008年となる見込みである。また、同鉱山は2007年8月に廃さいダムへの揚水ポンプのバルブが破裂し、22時間半にわたり硫酸塩・モリブデンを含んだ鉱山廃水がCancumen川に流出する事故を起こした。本件については、第Ⅳ州環境委員会(CONAMA)の調査を受けたが、事故発生後Los Pelambres鉱山から環境委員会への報告までの時間が長かったため批判を受けることとなった。
CODELCOのAndina鉱山において、地元農民との紛争が原因となり、同鉱山の増産計画が延期される見通しとなった。これは、2007年4月にサンティアゴ市の高等裁判所がAconcagua川監視評議会の工事差止め請求に基づいて、Andina鉱山からLos Bronces鉱山に達する鉱業用水路の建設工事を中止する命令を下したものである。CODELCOは裁判所の命令はAndina鉱山の生産には影響しないが、同鉱山の第1次増産計画に影響を与えることとなるとコメントした。CODELCOと地元農民との問題はAconcagua川の環境保全と水利権に係る争いであり、地元農民代表の弁護士団はCODELCOは現在同社が保有しているAconcagua川の水利権を上回る水量を使用しようとしており、同地域内にこれ以上水利権を手放す農民はいないため、CODELCOの計画には無理があると主張している。
(2)下請け従業員によるストライキと請負法問題
2007年にチリで最も大きな問題となったのが、CODELCOの下請け従業員によるストライキとチリ労働局による下請け従業員の正規雇用化要請である。
2007年6月にCODECLOの下請け従業員によるストライキが発生、一部の暴徒化した下請け従業員がCODELCOのEl Teniente事業所、Andina事業所、CODELCO Notre事業所等で道路封鎖や施設の占拠を行う等、過激な行為を繰り返した。この問題はCODELCOの下請け従業員28,000人が組合を作り、労働条件の改善と一時金の支払いを求めCODELCO側に要求したもので、ストライキはCODELCOの各事業所で36日間に亘り実施された。ストライキはCODELCOが労働条件の改善と450,000ペソ(約900US$)/人の一時金を支払うことで終結したが、CODELCOの被った損失は1億US$を超え、約5,000tの銅生産量減となった。チリの民間の各鉱山ではCODELCOと同様に多数の下請け従業員を雇用しており、この問題が他の鉱山に波及することが懸念されたが、大きな混乱はなかった。
また、2007年12月にチリ労働局が新たに改正された請負法に基づき、CODELCOやEscondida鉱山等の大規模鉱山に対し、下請け従業員を正規雇用するよう要請、CODELCOには約5,000人、Escondida鉱山には767人の下請け従業員を正規雇用するよう指示した。これに対し、CODELCO、Escondida鉱山は地方裁判所に不服申し立てを行った。現在、CODELCOのChuquicamata鉱山、Radomiro Tomic鉱山、Andina鉱山、El Teniente鉱山、Ventanas製錬所及びEscondida鉱山で労働局の措置を違法とする判決が下されたが、El Salvador鉱山では労働局を支持する判決が下された。労働局は最高裁判所への上告を検討しており、この問題は2008年に継続されることとなった。
(3)電力・水問題
順調な鉱業活動が続くチリにおいて、電力問題、鉱山用水問題がコスト増加の大きな原因となり、将来の鉱業投資阻害要因となっている。
電力問題については、2006年冬期にアルゼンチンからの天然ガス供給停止が頻発化し、チリの産業界は深刻な影響を受けたが、2007年冬期も天然ガス不足が発生した。天然ガスの供給不安に対処するため、チリ政府、産銅企業はチリ国内で独自に電力・エネルギー確保を進めようとしているが、2007年はチリの鉱山会社による発電所の建設が具体化した年であった。BHP Billitonは2010年以降チリ北部の鉱山操業に必要な電力を確保するため、石炭火力発電所建設の入札を実施した。また、CODELCOがチリの電力会社とチリ第Ⅱ州のMejillones市に液化天然ガスのターミナル及び再ガス化プラントの建設を計画していたが、建設が開始されることとなった。新規鉱山開発には電力・エネルギーの確保が不可欠で、2008年以降も電力確保は各鉱山会社にとって避けられない問題となっている。
チリ北部の砂漠地帯で操業している鉱山にとって、鉱山用水の確保は重要である。チリ北部は世界でも最も乾燥した地帯で、利用可能な水脈も乏しいうえ、この地方で活動している他の産業と水利権を分かち合う必要がある。特にアタカマ地方では農業が盛んに行なわれているため、水利権の確保が難しい状況である。2007年には、水を管理しているチリ当局と鉱山会社との間で幾つかの問題が発生した。
第I州環境委員会(CONAMA)は鉱山用水揚水で周辺の湿地帯の水位が低下したとして、Collahuasi鉱山に対し、Coposa塩湖からの取水量を1,000ℓ/sから750ℓ/s(同社の必要水量の70%)に減らすよう要請した。さらにCONAMAは同鉱山に対し、2011年までに取水量を300ℓ/sまで減らすよう求めている。Collahuasi鉱山は1,041ℓ/sの取水権を持っていたにもかかわらず取水制限を受けることとなり、79百万US$を投じて29km離れた場所から300~500ℓ/sの水を採取・運搬しなければならなくなった。
Cerro Colorado鉱山では、CONAMAがLagunillas湿地帯の水位が低下したとして89,000US$の罰金を課した。これに対して同鉱山は、70百万US$を投じてCoposa塩湖の北方で揚水井戸を掘削する予定で、300~500ℓ/sを確保すると発表した。また、Escondida鉱山では、1,000ℓ/sの能力を持つ2番目の海水脱塩プラントを建設するため、6億US$の投資を行うと発表した。脱塩プラントで作る鉱山用水は海岸のプラントから200km、海抜3,100mの場所にある鉱山まで鉱山用水をポンプアップすることが必要であり、鉱山近くの水源から取水する水のコスト(0.4~0.5US$/m3)の6倍近いコスト(2.4~2.5US$/m3)となる見込みである。
各鉱山会社は、地下水を今後も継続して使用すると、自然水脈の枯渇に繋がる恐れがあるため、継続使用は困難であると判断し始めており、環境への影響と最近の水利権の規制強化を考慮して、地下水の使用をできるだけ控えるよう試みている。
5. 2008年への展望
COCHILCOのレポートによると、2008年の銅価格は2007年を下回ると予測されているが、以前として高水準にあり、チリの鉱業界は2007年に引き続き2008年も活況を呈するものと考えられる。
2008年にはGabriela Mistral(Gaby)鉱山の生産が開始される予定であり、El Teniente鉱山、Andina鉱山、Los Pelambres鉱山等で鉱石処理量を増加させる拡張工事が計画されている。チリの2008年の銅生産量はCODELCOの既存鉱山で採掘現場の深部化、鉱石の硬質化・低品位化等により生産量が減少する見込みであるが、新規鉱山の開発により、2007年の555.7万tから34.6万t増加し、過去最高の590.3万tとなることが予測されている。
電力エネルギー問題、鉱山用水問題、環境問題は2008年に入っても依然としてチリの鉱業投資阻害要因として残る可能性が高い。電力エネルギー問題については、Mejillonesの液化天然ガスプラントの建設が開始され、問題解消に向けた取組みが始まったところであるが、鉱業用水問題については新規鉱山開発により益々厳しい状況となることが予想される。また、人件費の高騰や世界的なエネルギーコスト、原料コストの高騰により、チリの各鉱山はコスト上昇に直面しているが、この傾向は今後も継続する見込みであり、コスト削減に向けた努力が不可欠である。

