報告書&レポート
ペルー等における中国の鉱物資源確保に向けた最近の動向

中国の資源確保のための「走出去」(海外進出)は、目を見張るものがある。特に、ペルーでは、中国国内で自動車生産やインフラ整備などに大量に消費する銅資源の確保に向けた中国企業による大型銅開発案件の獲得が相次いでいる。 本稿では、ペルーを中心とした中国企業の進出状況とこうした中国の攻勢に対する我が国の対応等について報告する。 |
1. 中国企業のペルーへの進出状況
中国国内の相次ぐ銅製錬所の増強に伴い、ペルーから中国向け銅精鉱の輸出量が急速に拡大している。2001年は14.9万tであったのが、2006年は58.8万tとペルーの銅精鉱の総輸出量の3分の1を占め、中国は、最大の銅精鉱輸出相手国となっている。また、2007年は、2006年の倍増となる勢いである。

中国の銅地金生産量とペルーからの銅輸入量の推移
出典:WBMS (但し、2007年は1~11月) |
現在のところ、既存の鉱山に中国企業が直接投資しているのは、ペルー南部イカ県にあるShougang Group(首鋼集団)のペルー現地法人Shougang Hierro Peruが保有する鉄鉱石鉱山のみで、非鉄金属鉱山に資本参加している鉱山はないが、2007年に入り、中国企業が3つの大型銅鉱山開発案件(いずれもFS段階)を所有するカナダ等のジュニア企業を相次いで買収するなど、中国企業の銅資源獲得に向けた攻勢が本格化した。
(1) Rio Blanco銅開発プロジェクト
2007年2月、中国・Zijingグループ(紫金鉱業、銅陵有色金属公司、複合投資企業のXiamen C&D)は、ペルー北部ピウラ県に位置するRio Blanco銅開発プロジェクトを保有するMonterrico Metals社(英国)を約186百万$で買収した(その後9月に、同グループが保有している株式89.9%のうち、10%を韓国LS-Nikkoに約20百万$で売却)。
Rio Blanco銅プロジェクトは、埋蔵量12.6億t(銅品位0.57%、モリブデン0.023%)、現在、FSを実施中で、最低投資額15億$で年間推定生産量は銅20万t、マインライフは20年、2011年の生産開始を目指しているとされる。
(2) Toromocho銅開発プロジェクト
2007年6月、中国のアルミ大手であるAluminum Corporation of China(Chinalco)社が、ペルー中部フニン県に位置するToromocho銅開発プロジェクトを所有するカナダのジュニア企業であるPeru Copper社を友好的に買収すると発表し、8月には、同社の株式の82%にあたる1億1,340万株を1株あたり6.2$合計約7億310万$で取得した。
Toromocho鉱山開発プロジェクトは、埋蔵量12.6億t(銅0.53%,モリブデン0.018%)で、現在、FS段階にあり、開発投資額は最低で15億US$におよび、当初はまず、リーチングから生産を開始し、その後精鉱生産も併せて実施し、最終的には銅年産27万tを目指すとされる。
(3) El Galeno銅開発プロジェクト
2007年12月、中国Minmetals社(五鉱集団公司)、Jiangxi社(江西銅業集団公司)が、ペルー北部カハマルカ県に位置するEl Galeno銅開発プロジェクトを保有するカナダのジュニア企業であるNorthern Peru Copper(NOC)社を、総額455百万C$で買収提案した。El Galenoプロジェクトは、現在、FS実施中であり、鉱量803百万t、銅品位0.63%(カットオフ品位0.4%)であり、マインライフは20年以上で、銅精鉱144千t/年の生産予定。
(4)Michiquillay入札への参加
2007年4月に行われたMichiquillay政府入札では、Jinchuan Group(金川集団有限公司)及びZijing Mining Group(紫金鉱業)の2社が応札した。政府の最低入札価格44百万$に対し、Jinchuan Groupは225百万$、Zijing Mining Groupは151.8百万$で応札したものの、結果はAnglo Americanが403百万$という最低入札価格の約9倍となる破格値で落札した。中国企業による獲得はならなかったが、中国企業の存在感を大いにアピールした結果となった。
2. 鉱山開発案件を巡り深刻化する地域住民問題
中国が獲得した案件はいずれも、ペルーでは大型案件に属するが、しかしながら、今後の開発が、額面どおり順調に進んでいくかについては、不透明な状況である。
昨今、ペルーでは、環境保全や地元への利益還元を求める地域住民による鉱山反対運動の頻発など、今後の鉱業投資にブレーキをかける動きが顕在化している。特に、中国・Zijingグループが獲得したRio Blanco銅開発プロジェクトは、その象徴的な事例として、ペルーでも大きく報道され、その動向に注目が集まっている。同権益を保有する英国Monterrico Metalsが、探査活動を開始した2004年頃から、同社が、一部の住民グループの許可のみで土地に不正に立ち入ったとして、地元住民が反発、加えて、農民コミュニティや環境NGOから環境汚染の懸念の声が広がる中、2007年9月に行われた鉱山開発の是非を問う住民投票では、9割以上の住民が反対票を投じる結果となった。この結果に法的拘束力はないものの、政府は、住民との合意形成まで、鉱業活動の凍結を発表するとともに、今後、住民との対話を推進し、鉱山開発への理解を求めていくとの姿勢を明確にしている。この種の住民投票は、隣のEl Galenoプロジェクトが位置するカハマルカ県など他の大型開発案件のあるサイトにも波及する動きもあり、ペルー鉱業の成長シナリオに陰りが見え始めている。
一方、Toromocho銅開発プロジェクトに関する住民側との交渉は順調に推移していると伝えられている。本地域は、もともと、零細鉱業に従事する村民が多く、周辺に存在する尾鉱堆積場によって土壌の汚染が進んだため、農業は発達していない。Peru Copper社は、同鉱床の上に位置するMorococha村に対し現在の住居の買取と新たに同社が建設する村への移転計画を提示し、Morococha村は投票によりこれを承認した。Peru Copper社は3千万$を投資して移転先の新しい居住地、上下水道、街灯、学校、医療施設、警察署、市役所を建設するほか、地元住民を優先的に雇用すること、また、村人の子弟に対する奨学金プログラムによって研修を行い、将来的に鉱山労働者を育成することなどを約束していると言われている。
両プロジェクトは、企業側と住民側との関係が対照的な事案であるが、いずれにしても、鉱山開発には、地域住民との合意、地域社会との共生が大前提であり、今後の中国企業の手腕がためされる。
3. その他近隣諸国での中国企業の動き
中国企業の進出は、ペルーに留まらず、近隣のボリビアやエクアドルにも及んでいる。
ボリビアのエチャス鉱業冶金大臣は、2007年12月、中国を訪問し、ボリビアでの鉱物資源開発促進に向けた2つの協定書に署名した。
一つは、ボリビアの鉱業冶金省傘下の地質鉱山技術サービス局(Sergeotecmin)が計画しているボリビア国内の地質図幅作成調査に対し、中国の江西省地質鉱物資源探査開発局が、60百万$を融資するというもので、Sergeotecminのモンカダ局長によれば、中国の融資によってボリビア国内の地質図の7割が作成されることになるほか、探査、環境調査、データベース化、研修制度なども対象となっているという。但し、具体的な調査内容は、これからという段階であり、詳細はまだ何も決定されていないという。
もう一つは、中国開発銀行とのオルロ分析センター設立に向けたもので、中国側350万$、ボリビア側150万$を出資し、Sergeotecminの敷地内に本格的な化学分析所を設立するものである。
両プロジェクトとも、ボリビアでの今後の鉱山開発を見据えた基盤作りへの投資として、中国のしたたかなボリビアでの資源獲得戦略が見受けられる。
一方、エクアドルでは、2007年11月にコレア大統領が訪中した際、中国Min MetalとChinalcoが中心となり、EcuaCorrienteがMiradorで生産する銅鉱石を全量買いつけるとともに、中国政府は、生産する銅・モリブデン鉱石の鉱山からボリバール港までの道路建設と港湾工事費として13億$の融資を検討する内容の覚え書きに調印したとされる。これを受け、コレア大統領は、12月22日、EcuaCorrienteのMirador銅開発プロジェクトに出されていた鉱業活動一時停止処分を撤回し、ゴー・サインを与えた。Miradorプロジェクトは、エクアドル初の本格的な鉱山として、その開発動向が注目されているプロジェクトで、初期開発投資額は195百万$で、当初は産銅量約6 万t/年、産金量約1t/年。マインライフは38年。鉱量は441百万t(銅0.61%、金0.19g/t)。2007年5月、エネルギー鉱山省より、拡張分のEIAにつき、ピット計画や廃さいダム計画に重大な不備があったとして、却下され、活動停止の処分を受けていた。
4. 我が国の対応
以上のような、出遅れ感のあったペルーやボリビア等でも、中国企業の急激な進出が加速化しており、我が国の持続的かつ安定的な資源確保に大きな脅威となっている。
こうした状況を、我が国として、手をこまねいて見ているわけにはいかない。鉱山投資に向けた我が国民間企業の一層の奮起を期待するのはもちろんだが、我が国政府としても、資源外交を強め、何らかの手を打つ必要があろう。
現在、ペルー政府は、地域住民問題の根幹原因の一つである環境対策に本腰を入れて取り組もうとしているが、人材不足、技術力不足、資金不足といった問題を抱えており、日本を始め海外の政府機関に対し技術支援、財政支援を求めている。このような課題・要請に対し、我が国が国内で長年にわたり培ってきた鉱害防止対策に係わる制度面、技術面の経験・ノウハウをペルー側に積極的に提供して、ペルー政府との協力関係を強化していくことは、日本のプレゼンスを大いに高めるチャンスであるとともに、本邦企業活動の側面支援にも繋がる。
また、ボリビアでは、国土の90%以上が未探鉱地域であり、これらフロンティア地域の地質鉱床評価が急務となっている。こうした基礎調査の分野にJOGMECが積極的に関与して、将来的に日本企業の権益確保に繋げていくようなスキームをボリビア政府と話し合って構築していくことなどは有力な手段であると考えられる。
ペルー、ボリビアでは、今、こうした官民一体となった総合的かつ戦略的な取り組みが求められている。

