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オーストラリアの鉱物資源探査で活躍する「ニューテクノロジー」

オーストラリアでは、鉱物資源探査に「ニューテクノロジー(新技術)」が積極的に利用されている。銅・亜鉛・鉛鉱床などの地化学探査における携帯X線分析装置、ニッケル鉱床探査におけるSQUID(超電導量子干渉素子)電磁探査装置、ウラン探査におけるプロンプト分裂中性子線測定装置などがその好事例である。 本稿では、オーストラリアの鉱物資源探査に適用され、成果を挙げている「ニューテクノロジー」について報告する。 |
1. はじめに
オーストラリアでは、鉱物資源探査に「ニューテクノロジー」が積極的に利用されている。探査ジュニア会社や鉱山会社が四半期ごとに発表する探査報告にもその成果が示されている。ニッケル鉱床探査におけるSQUID、銅・亜鉛・鉛鉱床などの地化学探査における携帯X線分析装置、ウラン探査におけるプロンプト分裂中性子線測定装置などがその好事例である。
2. 携帯X線分析装置 -地化学探査の効率を飛躍的に向上-
(1)携帯X線分析装置とは
携帯X線分析装置とは、蛍光X線分析装置を重量わずか1.3kgまでコンパクト化したものである。片手で扱える同装置のセンサー部を鉱石、土壌、堆積物、精鉱、尾鉱などのサンプル表面に直接あてるだけで、その場で多元素同時分析(Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Rb、Sr、Zr、Nb、Mo、Ag、Sn、Sb、Ta、Hf、W、Pb、Bi等)が可能であり、約2時間の充電で6~12時間使用でき、約3,000件の分析データを保存することができる。
オーストラリアの探査関係者の間では、携帯X線分析装置と言うよりもその商品名NITON(Thermo Scientific社製、NITON portable XRF analyzer)の方が通りがいい。
探査現場では、ボーリングコアの予備分析や、GPSなどと組合せて位置情報とともに地化学探査データを取得するなど、その特性を活かして利用されている。*1
(2)Broken Hill亜鉛・鉛鉱床周辺における地化学探査の事例
Broken Hill鉱山中央部のMCL7鉱区を開発しているCBH Resources Limited(本社シドニー)は、同鉱山周辺部の探査プロジェクトZincSearch-JV(相手方は、PlatSearch NL社とEaglehawk Geological Consulting Pty Ltd.)における広域的な土壌地化学探査においてこの携帯X線分析装置を使用している。同装置を用いることにより、1日当たり200件以上の土壌サンプルの地化学データを野外(原位置)にて取得、JV探査を開始した2006年半ばから2007年12月末までに100,000件以上の地化学データを取得している。*2, *3, *4, *5
表1.ZincSearch-JVプロジェクトにおける地化学データ取得情況 |
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出典) | * | PlatSearch NL 2007年第4四半期報告 |
** | PlatSearch NL 2007年第3四半期報告 | |
*** | PlatSearch NL 2007年第2四半期報告 | |
**** | PlatSearch NL 2006年第4四半期報告 |
同じく、Broken Hill鉱山の北鉱山と南オペレーションを操業するPerilya Limited(本社パース)は、同鉱山の周辺地域で広範囲にわたってこの携帯X線分析装置用いた土壌地化学探査を行っている。同装置によって2005年9月までの15か月間に46,000サンプルの地化学データを取得し、17か所の地化学異常を抽出、それらに対してボーリング調査を行っている。Broken Hill地域で過去120年間に取得された地化学データが63,000件であることと比較して同装置が短時間で飛躍的に大量のデータを取得できるかがわかる。*6

写真1.Broken Hill地域における地化学探査への利用(Perilya社) |
(撮影:2006年「Broken Hill Exploration Initiative」巡検参加時) |

図1.Broken Hill地区(Perilya社鉱区)の広域土壌地化学探査の状況 | |
赤色:既存の地化学探査データ取得地区 | |
黄色:携帯X線分析装置による地化学探査データ取得地区 | |
出典) | Len Jubber, CEO Perilya Limited, “Broken Hill Promising Opportunities to Enhance Value”、NSW Mineral Exploration & Investment Conference, 1 September 2005) |
(3)ボーリングコア分析の事例
携帯X線分析装置をボーリングコアの予察的な化学分析(品位分析)に使用する場合も多い。Western Area NL社(本社パース)は、2008年1月21日、Forrestaniaニッケル・プロジェクトSpotted Quoll地区(西オーストラリア州)における高品位硫化ニッケル鉱床の発見を、携帯X線分析装置による現場での予備分析結果(幅8.6m・ニッケル品位7.8%)と共に発表している。
しかし、2月1日には、分析所での結果が携帯X線分析装置によるそれよりもニッケル品位が最大で46%も上回るニッケル品位11.4%であったことを発表している。*7このような分析結果の違いは、携帯X線分析装置による測定が「スポット」(約1cm四方の測定部が当たる部分のみの「点」での測定)であるのに対して、分析所での分析は「バルク」(ある程度の塊(量)による分析でより広い部分の品位を代表する)など、測定方法や分析前のサンプル調整の有無・方法の違いによるものと考えられている。
また、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構も、Minotaur Exploration Ltd.、Toro Energy Limited(共に本社アデレード)とのGawler Craton地域での鉱床探査JVプロジェクトにおけるボーリングコアの予察的な化学分析に、この携帯X線分析装置を使用している。

写真2. | Galwar Craton地域(JOGMEC/Minotaur社/Toro社)のボーリングコアの予備分析への利用(撮影:2007年) |
3. SQUID(超電導量子干渉素子)電磁探査装置 -ニッケル鉱床探査を中心に広がる利用-
(1)SQUID(超電導量子干渉素子)電磁探査装置とは
SQUID(Superconducting Quantum Interference Device;超電導量子干渉素子)電磁探査装置とは、超電導現象を利用した高感度磁力計であるSQUIDを利用して磁場を測定し、地下深部の状況を探査する装置である。
従来の電磁気探査法は、レゴリスなどの導電性表層が分布する地域では、導電性表層の影響により電磁探査法の探査深度が小さくなり、その下に賦存する鉱体の探査が出来ない場合があったが(従来の誘導コイル型磁力計は減衰の早い磁場時間微分を測定するが、SQUID磁力計は磁場時間微分よりも減衰の遅い磁場そのものを測定することで、地下のより深部の情報を得ることが出来る)、SQUID電磁探査装置はこれらの課題を解決するものとして期待されている。
このような背景のもと、JOGMECはSQUIDを用いた電磁探査装置(SQUITEM)を開発し、JOGMEC独自の探査でSQUITEMを活用しているところである。具体的には、オーストラリア・ブロークンヒル周辺での亜鉛探査においてJOGMECはSQUITEMを用いた調査を行い、従来の電磁探査装置では捕捉できなかった地下深部の低比抵抗をSQUITEMにより捕らえている。
しかし、JOGMECによるSQUITEMの他にも、近年、硫化ニッケル鉱床の探査にSQUID電磁探査装置を使用した事例が、探鉱ジュニア企業などの四半期報告等で報告されることが増えてきている。*8
(2)ニッケル探査での事例
近年、急成長のニッケル中堅企業Mincor Resources NL社(本社パース)は、同社のRAV 8探鉱プロジェクト(Kambaldaニッケル地域西オーストラリア州、Tectonic Resources NLとのJV)においてSQUID電磁探査装置(Landtem SQUID)を塊状硫化ニッケル鉱床の下部延長の確認のために用い、地下450mに異常部を検出、後にボーリングによって導電帯と硫化物に富む堆積岩が確認されている。*9
Fox Resources Ltd.(本社パース)は、Ruth Wellニッケル・銅プロジェクト(西オーストラリア州)においてSQUID電磁探査装置を使用、3か所の電磁気異常(深度70~80m・規模150×100m、深度375~425m・規模500×500m、深度250~275m・規模300×200m)を抽出し、ボーリング調査を実施している(結果待ち)。その他、Radio Hill及びSholl B2ニッケル(銅)探査、Pilbara地域におけるMt. Oscar鉄鉱探査でも同装置を利用している。*10
Pioneer Nickel Limited(本社パース)は、Golden Ridge-JV(西オーストラリア州)、Consolidated Minerals Limited(本社パース)は、Gillet地区、Mt. Eaton地区、Flinders地区(西オーストラリア州Widgiemoolthaニッケル・プロジェクト)におけるニッケル探査のボーリング調査の前にSQUID電磁探査装置を用いている。*11, *12

写真3.JOGMECが開発した高温超電導磁力計を用いた電磁探査装置 左写真:測定システム全体、中央写真:高温超電導磁力計 右写真:高温超電導量子干渉素子 |
4. プロンプト分裂中性子線測定装置 -より正確なウラン鉱床評価に期待-
(1)プロンプト分裂中性子線測定装置(PFN:Prompt Fission Neutron)
プロンプト分裂中性子線測定装置(以下PFN)は、ウラン鉱石のU235の核分裂から生じる中性子を測定することで、ウラン品位を直接的に評価できる装置である。
従来のガンマ線検層は、砂岩型ウラン鉱床の評価など坑井内のウラン品位測定に広く利用されてきた。この方法は、ウランの放射線崩壊によって生成されるBi214やPb21から放射されるガンマ線を測定し、これを変換係数によってウラン品位に換算するものであった。
ガンマ線検層の前提条件として、放射線崩壊によって生成される同位体(娘同位体)ともとの同位体(親同位体)とが平衡状態であることが必要となる。しかし、ウランと娘同位体との可溶性の相違や再沈殿、ラドンガス漏れによる崩壊生成物の散逸などによって非平衡状態が生じる。透水性の砂岩を母岩とするウラン鉱床(ロールフロント型など)は、鉱化帯に地下水が湧出しているため非平衡状態になる。
このような非平衡状態、例えば、娘同位体が蓄積してウランが減少した場合、娘同位体から放出されたガンマ線によって、ウランが殆ど存在しないにも関わらず、高いガンマ線量を検知し、それをウランと誤認することが指摘されていた。
ウラン鉱石のU235の核分裂から生じる中性子を直接測定するため、ウラン鉱化帯の非平衡状態に影響されない。また、同装置を用いて、原位置回収法(ISL:In-Situ Leaching)において、ウラン濃度の高い部分と一致するように井戸内に浸出液の通路を設定することが可能となる。
なお、オーストラリア地球科学機構(Geoscience Australia)は、2007年、原位置回収法が適用される砂岩型ウラン鉱床の埋蔵量・資源量評価に関するJORC規程のガイドランを発表しているが、その中でもこのPFNによるウラン鉱床評価がより信頼性の高い方法であることが記されている。*13
(2)砂岩型ウラン鉱床評価の事例
オーストラリア国内4番目のウラン鉱山として建設が進むHoneymoonウラン鉱山(南オーストラリア州、Uranium One社(カナダ資本))では、資源量評価のための調査に、PFNが用いられている。従来のガンマ線測定による間接的な推定換算値(Estimated equivalent:eU3O8)から、ウランの直接測定値(U3O8)へと資源量の精度を上げている(40mグリッド、236孔・29,200mのボーリング調査により、概測資源量1.2百万t・ウラン品位0.24%U3O8・ウラン量2,900tU3O8)。*14
また、オーストラリアで最初に原位置回収法を採用したBeverleyウラン鉱山(南オーストラリア州、Heathgate Resources Pty Ltd.(米国資本))周辺におけるウラン探査でもPFNが使用されている。Heathgate社のウラン探査関係会社であるQuasar Resources Pty Ltd.は、Adelaide Resources Limited(本社アデレード)とのBeverleyウラン鉱山隣接地区及びAlliance Resources Limited(本社メルボルン)とのBeverleyウラン鉱山周辺のBeverley Four Mileウラン鉱床などの探査においてPFNを使用し、ウラン鉱床評価を行っている。*15
5. おわりに
オーストラリアでこのような「ニューテクノロジー」が積極的に利用される背景には、「成熟している」(mature)と言われることが多い同国の鉱床探査が置かれている厳しい状況がある。
すなわち、オーストラリアの鉱床探査関係者は、未探鉱地域の多い大陸内陸部では、土壌や風化岩石に厚く覆われた潜頭鉱床を感知するための技術を、また、過去に多くの探査が行われてきた露頭地域や海岸沿いの地域において、これまでの探査の「網の目」を潜り抜けた鉱床を捉まえるために密度の濃いデータを迅速かつ低コストで取得できる技術を切望しているのである。
参考文献
*1 | Thermo Scientific 社 Web サイト http://www.niton.com/Mining/products.aspx より |
*2 | PlatSearch NL 2007 年第 4 四半期報告 |
*3 | PlatSearch NL 2007 年第 3 四半期報告 |
*4 | PlatSearch NL 2007 年第 2 四半期報告 |
*5 | PlatSearch NL 2006 年第 4 四半期報告 |
*6 | Len Jubber, CEO Perilya Limited, “ Broken Hill Promising Opportunities to Enhance Value ”、 NSW Mineral Exploration & Investment Conference, 1 September 2005) |
*7 | 2008-02-13 ニュースフラッシュ No.08-06 豪州 :Western Area 社、 Forrestania ニッケル・プロジェクトで高品位鉱化帯を捕捉 |
*8 | 荒井英一ほか (2005), 資源地質 , 55(1), 1-10, 「高温超電導磁力計を用いた TDEM 法装置 (SQUITEM) の現場適用試験」 |
*9 | Mincor Resources NL, Quarterly Report for the period ended 31 March 2007 |
*10 | Fox Resources Ltd, December 2007 Quarterly Report |
*11 | Pioneer Nickel Limited, Quarterly Report For the Period ending 31 March 2007 |
*12 | Consolidated Minerals Limited, Quarterly Actives Report For the Period ended 30 June 2007 |
*13 | Reporting of Uranium Resources for In Situ Leaching Projects Under the JORC Code, A.D.McKay, P.Stoker, Ian Lambert(Geoscience Australia 2007) |
*14 | Adelaide Resources Limited, News Release 21 November 2006 |
*15 | Alliance Resources Limited, ASX Announcement 4 January 2008 |

