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オーストラリアの亜鉛鉱山開発動向-「Australian Zinc Briefing 2008」セミナー参加報告-

オーストラリアでは、空前の資源ブームを反映して数多くの探鉱・開発プロジェクトが実施されている。特に亜鉛は、亜鉛価格上昇により収益状況が好転したことから、これまで停滞していた探鉱・開発プロジェクトが一斉に走り出した感がある。 本稿では、「Australian Zinc Briefing 2008」から、資源ブームで加速するオーストラリアの亜鉛鉱山開発プロジェクトの動向を紹介する。 |
1. はじめに
2008年2月19、20日の両日、シドニー市内でAJM(Australian Journal of Mining)の主催による探鉱投資セミナー「Australian Zinc Briefing 2008」が開催された。
セミナーには、亜鉛鉱山を操業しているCBH Resources社、Perilya社、Kagara社などの鉱山会社、探鉱ジュニア企業から約50名が参加し、17件の講演が行われた。
今回、Zinifex社、Xstrata社は参加していないため、Century鉱山(クイーンズランド州)、 Mt.Isa鉱山(クイーンズランド州)、McArthur River鉱山(北部準州)等、大手鉱山の情報は得られなかったが、最近、活動が活発になっている中堅企業を中心に亜鉛鉱山開発状況を報告する。
2. 鉱山開発プロジェクト
(1)Perilya Limited(本社パース、以下Perilya社)
(i)Broken Hill(North、South Operation)鉱山(NSW州)
Perilya社は、2002年、Broken Hill鉱山をPasminco社から取得、North鉱山及び南オペレーション(Southern Operations)で操業を実施している。更にPotosi地区、Flying Doctor地区及びNorth鉱山深部(North Mine Deep)の開発を行っている。
Broken Hill(North鉱山、South Operation)の埋蔵量は11.2百万t・亜鉛6.7%・鉛4.9%・銀50g/t、年間採掘量は1.9百万t(含有金属量は、亜鉛12万t・鉛7万t・銀2百万oz)である。マインライフは5年の見込み。
Potosi地区では、探鉱斜坑を掘削(12月末で997mまで掘削済み)中である。資源量2.36百万t・亜鉛11.7%・鉛4.6%・銀54g/tを得ている。
Flying Doctor地区では、FSを実施中で、12月末四半期に完了。資源量0.52百万t・亜鉛5.4%・鉛7.1%・銀72g/tを得ている(2007年6月末時点)。Perilya社の役員会が開発を承認した。
North鉱山深部(North Mine Deep)では、プレFSを実施中、2007年10月末完了。資源量3.7百万t・亜鉛11.3%・鉛13.5%・銀219g/tを得ている(2006年6月末時点)。
(ii)Flindersプロジェクト(南オーストラリア州)
Flindersプロジェクトは、Leigh Creekの近傍に位置し、旧Beltana亜鉛鉱山を中心としたプロジェクトである。これまでの探鉱により、資源量966,000t(Beltana 376,000t、Reliance 387,000t、その他235,000t)、亜鉛品位31%、亜鉛金属量300,000tを得ている。
ステージ1でBeltana鉱山を開発し、2007年12月末を以て開発は一応終了した。316,400t、亜鉛金属量で101,000tを貯鉱している。ステージ2はReliance鉱床の探鉱で資源量387,000t、亜鉛品位27.6%、亜鉛金属量105,000tを確保している。現在、FSを実施中である。*1,*2

図1-Broken Hill鉱山(North鉱山とSouth Operation) |
出典)Australian Zinc Briefing 2008プレゼンテーション資料 |

図2-Broken Hill鉱山(Potosi鉱床とFlying Doctor鉱床) |
出典)Australian Zinc Briefing 2008プレゼンテーション資料 |
(2)Jabiru Metals社(本社パース、以下Jabiru社)
(i)Jaguar鉱山(西オーストラリア州)
Jabiru Metals Ltd.は、オーストラリアのベースメタル会社で、西オーストラリア州カルグーリより北300kmのGoldfield地域のJaguar亜鉛・銅鉱山を開発して2007年より生産を開始した。
投資金額は69百万A$。
Jaguar鉱床は、2002年に発見され、歴史的なTeutonic Bore鉱山の4km南で発見された鉱床は、VMS(Volcanic Massive Sulphid)タイプで、埋蔵量1.7百万t・銅3.0%・亜鉛11.3%・鉛0.7%・銀115g/tである。選鉱場は、400,000t/年の処理能力を持ち、365,000t/年を処理し、亜鉛精鉱60,000t/年(亜鉛48%)、銅精鉱35,000t/年(銅24.5%、銀650g/t)を生産している。
Jabiru社は、Golden Grove鉱山を所有しているOxiane社とoff-take契約を締結しており、亜鉛・銅精鉱は、Geraldton港からまで陸送されGolden Grove精鉱と一緒に輸出される。
また、探鉱は、Jaguar鉱床と同じ地層にあるTeutonic Bore鉱床を探査しており、こちらの予測資源量は1.66百万t・亜鉛換算品位3.9%である。
(ii)Stockmanプロジェクト(ビクトリア州)
ビクトリア州Omeoから25kmの地点に位置する。Wilga鉱床とCurrawong鉱床の探鉱が行なわれており、両方ともVMSタイプのレンズ状の鉱床で、比較的浅部(90~300m)に賦存している。*3,*4

図3-Jabiru社、中長期生産計画 |
出典)Australian Zinc Briefing 2008プレゼンテーション資料 |

図4-Stockmanプロジェクト Wilga鉱床断面図 |
出典)Australian Zinc Briefing 2008プレゼンテーション資料 |

図5-Stockmanプロジェクト Currawong鉱床断面図 |
出典)Australian Zinc Briefing 2008プレゼンテーション資料 |
(3)CBH Resources Limited(本社シドニー、以下CBH社)
(i)Endeavor亜鉛・鉛鉱山(NSW州)
Endeavor亜鉛・鉛鉱山は、シドニーから北西約700km、Cobarの北方に位置している。1983年、坑内採掘のElura鉱山として斜坑と縦坑により操業を開始。地上には選鉱所・貯鉱場・鉄道施設などのインフラが整備されている。
2002年に現在の所有者であるCBH社が権益を取得、Endeavor鉱山として鉱山の再開発に着手した。
再開発は、過去の坑内採掘跡に「ペースト」を充填し、これまで坑内を支えてきた鉱柱を鉱石として回収することで新たに埋蔵量を獲得することによって行われ、更に、既存採掘部の下部にある深部鉱床を開発に着手した。
ペースト充填と探鉱により、埋蔵量17.9百万t・亜鉛5.5%・鉛3.2%・銀51g/t、資源量27.4百万t・亜鉛6.5%・鉛3.7%・銀68g/t(含有金属量:亜鉛1.78万t・鉛1.01百万t・銀56百万oz)、15年分の埋蔵量と20年分の資源量を獲得した。
2006/07年度は、採掘量97.4万t(含有金属量は亜鉛5.25万t・鉛2.66t万・銀17.4t)であった。今後は、深度300mまでは新たに建設する斜坑による採掘、深度400~1,100mは立坑による採掘が計画されており、2007/08年度の採掘量は55.2万t(含有金属量は亜鉛4.47万t・鉛2.31t万・銀14.9t)。2008/09年度の採掘量は1.4百万t/年(亜鉛80,000t/年・鉛48,000t/年・銀100万oz)に拡張する計画である。
(ii)Rasp鉱山(Broken Hill西部鉱化帯:CML7)(NSW州)
Broken Hill鉱山は、1885年以来、120年以上にわたって200百万t以上の鉱石を産出してきた世界最大級の亜鉛・鉛鉱山である。BHP Billitonの発祥の鉱山でもある。2002年にCBH社がPasminco社から同鉱山の中央地区を、Perilya社がNorth鉱山とSouth Operationを取得し、再開発が始まった。
中央地区の西部鉱化帯(CML7)は、同鉱山の中央部の主要鉱体「Main Load」に沿った約3.8kmの区域にあたる。新規開発のRasp鉱山は、600m以浅の資源量が10百万t・亜鉛4.9%・鉛3.5%・銀43g/tで更に北部に鉱化作用が伸びており、資源量の拡大が期待されている。
開発は、既存のKintore露天採掘ピットの最下底から斜坑を掘削して坑内採掘を行う計画で、2008年4月には鉱床に到達し、下半期より生産開始予定。生産能力は、亜鉛精鉱65,000t/年(亜鉛50%)・鉛精鉱35,000t/年(鉛70%)・銀80万oz/年、これまでのインフラを利用できることから初期投資額を抑えることが出来るとしている。
(iii)Panoramaプロジェクト(西オーストラリア州)
Panoramaプロジェクトは、西オーストラリア州のPort Headlandから160km東南に位置し、Sulphur Springs銅・亜鉛鉱床開発をターゲットとしている。バンカブルFSが終了し、資本投資額は213百万A$を予定している。建設開始は、2009年5月、生産開始は2009年9月を予定している。
Sulphur Springs鉱床は、資源量15.5百万t・亜鉛3.5%・銅1.3%・銀17g/t。露天掘りによる開発で、露天掘の埋蔵量10百万t・亜鉛3.7%・銅1.5%・銀品位17g/t。生産量は亜鉛精鉱量90,000t/年(亜鉛55%)、銅精鉱量80,000t/年(銅25%)を予定している。*5,*6

図6-Rasp鉱山 西部鉱化帯(CML7)断面図) |
出典)Australian Zinc Briefing 2008プレゼンテーション資料 |

図7-Rasp鉱山 西部鉱化帯(CML7)の開発イメージ |
出典)Australian Zinc Briefing 2008プレゼンテーション資料 |
(4)Kagara Ltd.(本社メルボルン、以下Kagara社)
Kagara社は、クイーンズランド州ケアンズ北西100kmの地点で、North Queensland Base Metal Operationで銅・鉛・亜鉛を生産している。筆頭株主(14.1%)のKorea Zinc社とoff take契約を結んでおり、亜鉛鉱石はTownsvilleのSun Metal精錬所へ運ばれる。
(i)Mt.Garnet鉱山(クイーンズランド州)
ケアンズ北西約100kmに位置する。2003年からポリメタリック選鉱プラントを操業。鉱山は、露天掘であるが2007年から坑内掘の開発が始まった。生産規模は、亜鉛精鉱100,000t/年、亜鉛金属量で50,000t/年。なお、2006年に銅選鉱プラントも建設した。
(ii)Balcooma/Dry River South鉱山(クイーンズランド州)
Mt.Garnet鉱山から南140kmに位置する。2003年から採掘開始。Balcooma露天掘とDry River South坑内掘からなる。
(iii)Thalanga銅鉱山/選鉱場(クイーンズランド州)
2006年に獲得した銅鉱山。生産能力は、銅金属量で25,000t/年。
Thalangaの近傍で、Waterloo亜鉛鉱床が発見されている。現在の資源量464,000t・亜鉛15.5%・鉛2.2%・銅2.9%。副産物として銀、金を含む。
(iv)Munganaベースメタルプロジェクト(クイーンズランド州)
Mt.Garnet鉱山から北西約150kmに位置する。探鉱斜坑掘削中であるが計画を上回る進捗状況で2,400m掘削。2009年4月から生産開始予定。高品位ベースメタル鉱床と銅金鉱床。
資源量1.96百万t・亜鉛14.4%・鉛2.2%・銅2.8%。
2008年4月には、プラント及びインフラの建設を開始、2009年第1四半期には試運転を開始予定。生産計画は、450,000t/年で、亜鉛12%・銅2%、亜鉛50,000t/年、鉛6,000t/年、銅8,000t/年、副産物として銀及び金を生産する計画。
(v)Admiral Bayプロジェクト(西オーストラリア州)
2007年5月に開始したコアボーリング9孔が完了、更に、3孔を追加実施、これらは2008年4月に完了見込み。
ボーリング調査では、鉛-亜鉛-銀-バライト鉱化が走向方向に最低3.1km、平均鉱化幅15m、幅250~300mを確認。平均品位は、亜鉛6.0%・鉛3.0%・銀25g/tであった。*7,*8
表 – 1 Kagara 社の埋蔵量と資源量
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鉱石埋蔵量 (Ore Reserves) |
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鉱物資源量(Resources) |
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出典)Kagara Ltd. Webサイト:Exploration, Reserves & resources Tables |
3. おわりに
亜鉛価格の高騰は、2006年12月をピークに下降基調を迎えているが、これまでの価格高騰は、オーストラリアの鉱業界に様々な波紋を広げている。収益が改善した亜鉛生産各社は、探鉱・開発プロジェクトを一斉に開始し、そのプロジェクトは順調に進んでいるかのように見える。
一方で、Broken Hillで鉱山操業をしているPerilya社とCBH Resources社が合併交渉を行っている。これはPerilya社が亜鉛価格の下降と操業コスト増大により、収益が悪化したことが背景にあるという。
また、業績が好調なZinifex社は、3月初めにOxiana社との合併に合意した。亜鉛主力のZinifex社と金・銅が主力のOxiana社は相互補完関係にあると言われ、会社規模を大きくして、更なる事業の拡大を図ろうとしている。
世界の鉱業界は、鉱山展開のグローバル化、金属価格の高騰による収益増で企業統合、再編が進んでいるが、オーストラリアにおいても、資源を巡る争奪戦から、その権益を有する会社の争奪戦へと様相が変化し、生き残りをかけた企業の買収合併が激しさを増している。
参考文献等
*1 | Len Jubber, Chief Exective, Perilya limited, “ Growing into a mid-cap base metals producer ” (Australian Zinc briefing 2008, 19-20 February 2008 プレゼンテーション ) |
*2 | Perilya 社 Web サイト |
*3 | Gary Comb, Managing Director, Jabiru Metals Limited “ The future for Australian ‘ s emerging projects-Jabiru Metals ” (Australian Zinc briefing 2008, 19-20 February 2008 プレゼンテーション ) |
*4 | Jabiru Metals 社 Web サイト |
*5 | Robert Besley, Managing Director, CBH Resources Limited, “ A pipeline of Zinc projects ” (Australian Zinc briefing 2008, 19-20 February 2008 プレゼンテーション ) |
*6 | CBH Resources 社 Web サイト |
*7 | Joe reacy, Executive Director, Kagara Limited, “ Kagara ‘ s growth potential ” (Australian Zinc briefing 2008, 19-20 February 2008 プレゼンテーション ) |
*8 | Kagara Ltd. Web サイト |

