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報告書&レポート

2008年4月10日 バンクーバー事務所  武富義和報告
2008年31号

カナダ・ユーコン準州の投資セミナーと鉱業について


 平成20年1月30日、カナダのバンクーバー市内Canada Export Centreにおいて、ユーコン準州政府と在バンクーバー日本国総領事館共催による在バンクーバー日本企業に対する投資セミナーが開催され、約100名に及ぶ関係者が参加した。
ユーコン準州は人口3万人程度ではあるが、観光、林業、鉱業に力を入れており、今回のセミナーでは、Dennis Fentie首相、Jim Kenyon経済開発大臣、Elaine Taylor観光文化大臣等が列席し、積極的な投資呼び込みが行われた。
当事務所においても従来からユーコン準州に着目してきたが、やっと、鉱山開発が本格的してきたとの印象を受ける。
ここでは、このセミナーで受けたユーコン州の投資環境の印象と、1月28日~31日にかけて、同じくバンクーバーにて開催されたROUNDUPでのユーコン州の鉱業ハイライトについても併せて報告する。

1. ユーコン準州の概要

図1 ユーコン準州位置図

 ユーコン準州の面積は484千km2でカナダ全土の5%を占め、日本の面積の1.4倍に相当する。北緯60~70度に位置し、冬場にはNorthern lightsといわれるオーロラが観測される。人口は3万人程度で、その2/3が州都のホワイトホースに居住している。
 ユーコンは、1896年のクローンダイクでのゴールドラッシュを発端として人口が増加したことから連邦が自治裁量権を拡大し、準州を発足させたという鉱業に縁の深い土地柄である。
ここには14の先住民部族が居住し、このうちの11部族は、既に準州との間で合意された所有地内の鉱物資源を含む資源の権利、先住民自治体としての最終的な自治権が決定している。
準州は、カナダの中では日本との距離が一番近く、積出港は、州都のホワイトホースから180km離れた太平洋岸米国アラスカ州のスカグウェイであり、アクセスは良好。

2. 投資セミナー

 今回は、日本企業にとってのユーコンの魅力を幅広く紹介するため、首相も参加する一大イベントとなった。内容的にも、鉱業のみならず、林業、観光を含め、多岐にわたるものであった。先方からの「大きく広がる機会」と題した発表の主なものは以下のとおり。
(1)インフラ整備状況
・道路はBC州からアラスカ州まで跨り、4,700kmに及び年中開通。太平洋岸のスカグウェイへのアクセスも用意。
・電力供給は水力発電を中心に展開。2007年に操業開始したMinto銅鉱山への南北送電線も整備中。
・アラスカ-ユーコン間の鉄道建設フィージビリティについても5百万C$かけ調査中。

(2)林業の現状
北方森林は、281km2とユーコン準州の57%を占めており、林業はユーコン準州の新興産業と位置づけられる。木材の輸出許可は2003年頃までは連邦が行っていたが、現在はユーコン準州が実施。また、現在作業中のForest Actが制定されれば更なる効率化が期待。

(3)鉱業支援、体制整備と活動
金属価格の高騰を受け、探鉱開発が活発化しているが、現状では、Sharwood社のMinto銅鉱山が新規鉱山として有名。その他、開発、探鉱案件が多数あり(後で詳しく述べる)。

(4)観光の現状、支援と将来性

 旅行者が使う費用は年間1.6億C$で準州のGDPの4%相当。890の民間企業が観光に携わっており、年間観光者数は32万人。その約9割は5月から9月に集中。日本では、冬期のオーロラがあまりにも有名ではあるが、大自然を背景としたタキーニ温泉、クルアニ国立公園等が観光スポットとして挙げられる。

2. ユーコン準州の鉱業

(1)鉱業関連制度
[1]Quartz Mining Act
 Quartz Mining Actにより、マイニングライセンスとマイニングリース、土地利用と最終処分、最終処分と閉山に係る資産証明等を規定している。現在、ロイヤルティ制度を見直しており、その内容を反映し当該法令の改訂を行う予定。
[2]Mining Incentive Plan(YMIP)
 探鉱促進の観点から準州のエネルギー鉱山資源省はYMIPという補助制度を運用している。

表1 探鉱支援の概要

探鉱調査内容

内容

補助率

 初期段階の探鉱

探鉱者に対して1万C$の補助

100%

探鉱者に資金を供給する会社又は個人に対して、探鉱者一人当たり1万C$を限度に補助

75%

 抽出した地域の探鉱

抽出した地域において探鉱を行う個人、パートナーシップ、ジュニア会社に対し、1.5万C$まで補助

75%

 評価作業

資源評価を行う個人、パートナーシップ、ジュニア会社に対し、2万C$を限度に補助

50%

[3]税制
準州の所得税、鉱業税は、他の州より低く設定されている。プライスウォーターハウスクーパース社(PWC)が行った一定条件下での試算によると、課税率は、カナダ国内ではケベック州、オンタリオ州に次ぎ3番目に低く、株主への利益還元率は59.4%となっている。

(2)探鉱開発の現状と今後の展開
ユーコン準州では、1995年代前後は、40~60百万C$/年程度の探鉱が行われ、同程度の開発資金も投入されたが、その後、2002年頃まで低迷が続いた。2004年以降、金属価格の上昇をきっかけとして、探鉱が活発化してきており、2006年には80百万C$、2007年には140百万C$の探鉱投資を記録している。また、開発資金も2006年から50百万C$以上が投入されている。
 2007年は90件以上の探鉱が行われており、鉱種別では、金が全体の28%と最も多く、これに銅、亜鉛が23%で続いている。その他、銀、ウラン、タングステンの探鉱が行われている。


出所:ユーコン準州政府
図2 ユーコン準州における探鉱支出推移

(3)生産、開発中の鉱山概況
[1]Minto銅鉱山
2007年7月から生産開始したSharwood社保有の銅鉱山。州都ホワイトホースから北方240kmに位置し、鉱石は太平洋岸に面したアラスカ州スカグウェィからアジアに輸出。なお、鉱石積出施設の建設はアラスカ州政府の外郭団体であるAlaska Industrial Development and Export Authority(AIDEA)が行っており、建設資金は、Minto 鉱山が使用料としてAIDEAに返還する仕組み。

開発資金   :102百万C$
埋蔵鉱量   :9.5百万t(確定+推定、銅のカットオフ品位0.62%)
品位      :銅1.5%、金0.56g/t、銀5.95g/t
採掘方法   :露天掘
年間生産量  :銅2.3万t(金属ベース)、フル生産時には年約6万tの銅-金精鉱
操業期間   :2007~2015年

[2]Wolverine多金属鉱山
WolverineプロジェクトはYukon Zinc社が100%権益を保有しており、鉱業関係許可手続き権限が連邦政府からユーコン準州に委譲された最初の案件。2007年1月にFSは終了しており、2009年後半生産開始を目指し、資金調達中。

開発資金    :207.5百万C$(2007年1月、Wardrop社のFSより)
埋蔵鉱量    :5.2百万t(確定+推定)
品位       :亜鉛9.66%、鉛1.26%、銅0.91%、銀281.8g/t、金1.26g/t
採掘方法    :坑内掘
年間生産計画 :亜鉛5.3万t、銅0.5万t、鉛0.6万t、銀4.9百万oz、金2万oz
操業期間    :9.5年間の操業を想定。

[3]タングステン鉱床
タングステン鉱床は、ユーコン準州と北部準州(NWT)との境界に賦存しており、埋蔵量は金属タングステン換算1百万tで世界の埋蔵量の2割を占める。
現在、西側諸国の中では最大規模といわれるNorth American Tungsten社のCantung鉱山(既採掘量9百万t、WO3カットオフ品位1.42%)が2005年から操業再開。その北部には世界規模のスカルン型Mactung鉱床(概測資源量33百万t、WO3品位0.88%、予測資源量11.3百万t、WO3品位0.78%)があり、現在FS中。
その他、モリブデンと共存するLogtung鉱床(Geological Resources 229百万t、WO3品位0.104%、Mo品位0.05%)がある。

[4]Selwyn鉛亜鉛プロジェクト
露天掘り可能な予測+概測資源量が385.9百万t(亜鉛品位4.86%、鉛品位1.60%)、坑内堀可能な予測+概測資源量が39百万t(亜鉛品位9.43%、鉛品位3.39%)という世界規模の鉛・亜鉛鉱床。投資額は950百万C$、生産開始は2013年としている。
実施主体のSelwyn Resources社はTSX-Vに上場。
次にユーコン準州で過去操業していた鉱山、現在開発、操業を開始した鉱山を示す。

表2 ユーコン準州における稼行鉱山実績と計画(1960年以降)

出所:ユーコン準州政府

4. 最後に

 この投資セミナーの質疑応答で、筆者がユーコン準州の鉱業インセンティブは何かと問うたところ、1つはYukon地質に関する情報インフラが整備されていること、2つ目は世界規模のタングステン、モリブデン資源が未開発のまま残っていること、3つ目が環境評価システム等先住民も一体化した前向きの規制環境が整っていることを挙げている。
ユーコン準州は、遅ればせながら、最近、鉱業投資が活発化し、Minto鉱山の操業開始等鉱業がやっと復活してきたとの印象を受けたが、確かに準州政府の投資促進に取り組む姿勢については、目を見張るものがある。先方から回答があったように、先住民参加によるコンセンサス形成の効率化、レアメタル資源ポテンシャルも高く、インフラ問題、労働力確保等種々の問題はあるが、政府の積極的なプロモーションは魅力的であるといえる。
フレーザー研究所の実施した鉱業投資ランキングでもこれを裏付ける結果が出ている。環境規制、二重規制、税制、先住民によるランドクレーム問題、インフラ、労働問題、地質データベース整備等を含めた政治ポテンシャルINDEXでは、65か国、地域のうち11位に位置しており、カナダの中では1位のマニトバ州、2位のアルバータ州、6位のニューファンドランド・ラブラドール州、7位のケベック州、10位のサスカチュワン州に次いでいる。また、資源ポテンシャルINDEXにおいても上位にランクされている。
一方、米国サブプライム等の影響を受け、鉱業セクターも2007年末頃からトロント証券市場での資金調達が徐々に難しくなってきており、とりわけYukon Zinc社のように鉱山を保有していないジュニア会社はキャッシュフローが不足しており、窮地に立っている(同社は、2007年12月、市場からのWolverin亜鉛-銅-鉛-銀プロジェクトへの資金調達を断念し、現在、M&Aの相手探し、自社の身売り等を検討中)。また、世界規模の鉛亜鉛鉱床を開発中のSelwyn Resources社にしても株価が低迷し資金調達先を探しているところである。
このような状況下ではあるが、M&Aが進み世界的に開発余地が縮小している昨今、ユーコン準州のように政治的に安定し資源ポテンシャルも高く、積極的な政府支援が期待できる存在は貴重といえる。


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