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報告書&レポート

2008年4月10日 シドニー事務所 永井正博、研究スタッフ:Sorin Ridgway-Browne報告
2008年32号

オーストラリア鉱物資源の中期需給見通し -オーストラリア農業資源経済局の2007/08~2012/13年度鉱物資源需給見通し-

 オーストラリア農業資源経済局(ABARE;Australia Bureau of Agricultural and Resources Economics)は、3月5日、オーストラリアの鉱物資源輸出額が2009/10年度にピークを迎え、その後2012/13年度までに2007/08年度を18%程度上回る水準まで減速するなどを内容とする鉱物資源の中期見通し(medium term commodity outlook)を発表した。
 本稿は、このABAREの中期見通しの概要を報告する。

1. はじめに

 ABAREは、2008年の世界経済は対前年比4.0%減、2009年には4.3%増となり回復、中期的(2013年まで)には4.2%の成長率を続けると予測している。これは米国の経済成長は鈍化するものの、強い市場経済が世界経済を支えるとみられるからである。また、オーストラリア経済は、2007/08年度が対前年比4.25%増、2008/09年度が同3.5%増、2012/13年度までは3.1%前後の経済成長を維持するとの予測の下、鉱物資源の価格及び需給予測を行っている*1

*1 ABARE, Australian Commodities, Vol.15, No.1 March Quarter 2008, p5

2. 全体需給予測

 オーストラリアの2008/09年度の鉱物資源輸出額*1は、金属価格高騰の影響が大きく対前年度比29.8%増加の1,493億A$に達すると予測(エネルギーが50%増の650億A$、金属・非金属鉱物が17.7%増の843億A$)している*2
中期的には2009/10年度をピークに徐々に減少して2012/13年度には2007/08年度を18%上回る水準の1,355億A$程度(エネルギー596億A$、金属・非金属鉱物758億A$)になると予測されている*3

*1 エネルギー鉱物資源を含む
*2 実質価格(2006/07年度A$ベース)
*3 ABARE, Australian Commodities, Vol.15, No.1 March Quarter 2008, p22

3. 各鉱種の需給予測

(1)銅
平均価格は、2007年は中国の強い需要と供給障害により、対前年比6%上昇の7,130US$/tであったが、2008年は4%下降の6,825US$/tと予測している。中期的には地金生産が消費を上回り、2012年には2006年に達した高水準の半分以下の価格(3,500US$/t台)となると予測している。
世界の銅生産は、2008年は、チリ、米国、ザンビア、DRCコンゴにおける新規プロジェクトの生産開始により7%増加の16.4百万tと予測、中長期的には鉱山生産量増加はゆるやかなものになる。2007年から2013年までの間に年平均5%で増加し、20.9百万t程度に達すると予測している。
オーストラリアの鉱山生産量は、2007/08年度は、Lady Annie(クィーンズランド州、生産能力 銅量25,000t/年)、Leihhardt(クィーンズランド州、10,000t/年)、Browns Oxide(北部準州、10,000t/年)、Jaguar(西オーストラリア州、9,600t/年)など各鉱山の生産開始により対前年度比3%増加の890,000tと予測。
中期的には、数多くの新規プロジェクトの生産開始により2012/13年度まで年平均10%増加して1.4百万tに達すると予測している。主要プロジェクトには、2008年生産開始見込みのProminent Hill(南オーストラリア州、90,000t/年)があり、2009年以降は、Einasleigh(クィーンズランド州、15,000t/年)、Cloncurry(クィーンズランド州、15,000~25,000t/年)、Copper Hill(NSW州、32,000t/年)、Kanmantoo(南オーストラリア州、19,000t/年)などが生産開始される見込みであり、さらに、Ridgeway Deeps(NSW州、22,000t/年)、Cadia Hill(NSW州、55,000t/年)の拡張が期待されている。
オーストラリアの地金生産は、2007/08年度はTownsville精錬所の拡張(クィーンズランド州、20,000t/年)等により7%増の465,000tと予測している。
輸出額(鉱石と地金)は、2007/08年度は価格高騰の反動で対前年度比5%減の62億A$、中期的には価格低下を輸出量増加が相殺して2009/10年度に68億A$とピークに達し、以降、徐々に減少して2013/14年度には54億A$程度となると予測している*1

*1 ABARE, Australian Commodities, Vol.15, No.1 March Quarter 2008, P182~P188


図1-銅の生産量、シェアの見通し


図2-銅の輸出量/輸出額の見通し

(2)亜鉛
2007年の平均価格は、48%下落し、3,240US$/tであったが、引き続き下落し、2008年には2,200US$/tと予測している。中期的には供給が需要に追いつき価格は弱含みとなり2011年には2,200US$/t、2012年には2,000US$/t程度まで低下すると予測している。
世界の亜鉛生産は、2007年はカナダ、オーストラリア、南米、アフリカの既存鉱山の拡張や新規プロジェクトにより9%増加の11.4百万t、2008年は4%増の11.8百万tと予測、探鉱支出も増加するとみられる。
中期的には、これまでの高い価格が鉱山投資を促進し、2013年まで平均5%で伸び15.3百万t程度まで増加すると予測している。
オーストラリアの鉱山生産量は、2007/08年度は対前年度比20%増の1.65百万tの見込みである。中期的には新規プロジェクトにより2012/13年度には2.14百万tに達すると予測している。主要プロジェクトには、Lennard Shelf(西オーストラリア州、70,000t/年)、Jaguar(西オーストラリア州、38,000t/年)、Angas(南オーストラリア州、31,000t/年)、Flinders(南オーストラリア州、36,000t/年)等がある。
鉱石輸出量(鉱石と精鉱)は2007/08年度は対前年度比23%増の2.39百万t、輸出額(鉱石と地金)は金属価格の急騰の影響で35億A$に達すると予測。中期的には、輸出量は堅調な伸びが期待できるものの価格が軟化することから2012/13年度には43億A$程度になると予測されている*1
*1 ABARE, Australian Commodities, Vol.15, No.1 March Quarter 2008, P189~P194


図3-亜鉛の生産量、シェアの見通し


図4-亜鉛の輸出量/輸出額の見通し

(3)ニッケル
平均価格は、2007年に中国のステンレススチールとニッケル合金の強い需要に支えられ、対前年比53%上昇の37,200US$/tを記録した。
2008年の価格は、24,500US$/tと見込まれるが、中期的には下降すると予想され、2013年までに15,000US$/tと予測している。
世界のニッケル鉱山生産量は、Ravensthrope(西オーストラリア州、50,000t/年)、Moa Bay(キューバ、20,000t/年)等の鉱山生産量の増加により、2008年には4%増加して1.63百万tと予測。中期的には、2009年以降ブラジル、カナダ、オーストラリア、ニューカレドニアで21件の新規プロジェクト開始により更に増加し、2013年までに年平均6%で増加し、2.16百万tに達すると見込まれる。
オーストラリアの鉱山生産量は、2007/08年度にRavensthorpe(西オーストラリア州、50,000t/年)、Avebury(タスマニア州、8,000t/年)の生産開始が期待されている。
中期的には、NiWest、Nornico、Sherlock Bay、Gladstone、Kalgoorlie、Honeymoon Wellプロジェクト等(生産能力合計 150,000t/年)の生産開始により、年平均10%で増加することが期待され、2012/13年度には340,000t/年に達すると予測し、一方、これらのプロジェクトは、エネルギー・労務費・建設費の上昇等の開発コスト増加によるスケジュール遅延にも直面している。
精製ニッケル生産は、2008/09年度のMurrin Murrin及びYabuluニッケル精錬所の拡張により25%増加の151千tとなり、その後は横ばいと予想されている。
輸出量は、2007/08年度は横這いであるが、2008/09年度は対前年度比27.5%増加の278千tと見込まれる。輸出額は2006/07年度に約2倍に急騰した価格の影響の反動で、2007/08年度は30%減の58.8億A$と見込まれる。中期的には、輸出額は2006/07年度のピークの後、2012/13年度には2007/08年度の水準から20%程度減少の46.9億A$程度になると予測している*1

*1 ABARE, Australian Commodities, Vol.15, No.1 March Quarter 2008, P174~P181


図5-ニッケルの生産量、シェアの見通し


図6-ニッケルの輸出量/輸出額の見通し

(4)金
平均価格は、2007年は697US$/ozで、2008年は、米国のサブプライムローン問題による金融市場の不透明さ等、金価格高騰を支えた要因は引き続き存在することから、対前年比25%上昇の870US$/ozと予測している。中期的には世界経済がゆるやかに成長することから投資目的の金需要は弱含みとなり価格は緩やかに軟化し、2013年には、675US$/oz程度になると予測している。
世界の金生産は、2007年は1%減の2,441tであった。南ア、米国、アルゼンチン、ペルーで減産であったが、中国が12%増加したことによって相殺される。2008年は、南アの電力不足等があり大きくは増加せず、2,465tと見込まれる。
中期的には2012年までは年平均0.9%増で緩やかに増加し、2,577tになると予測している。金の増産は、オーストラリア、南米で新規プロジェクトの開始によるとみられる。
オーストラリアの金生産は、2007/08年度は対前年度比3%減の243tの見込み。これは、いくつかの鉱山の閉山による。一方でDavyhurst Gold(生産能力3.9t/年)、Meekatharra(生産能力3.7t/年)等の新規鉱山も開発され、減産を相殺する。
中期的には、新規鉱山が生産開始するが、その中で有力視されているのはBoddington鉱山(西オーストラリア州、生産能力31.1t/年)である。この他Gwaila (西オーストラリア州、6.2t/年)、Higginsville(西オーストラリア州、5.9t/年)、Union Reefs(北部準州、6.2t/年)の生産開始により、2010/11年度には308tに達すると予測している。
輸出額は、2007/08年度は価格高騰を反映して対前年度比13%増加の116億A$、中期的には2012/13年度に4%増の121億A$程度と予測している。
また、金の輸出量・輸出額は、国内生産を上回るが、これは海外鉱山から輸入された粗金を再精製して輸出しているためである*1
*1 ABARE, Australian Commodities, Vol.15, No.1 March Quarter 2008, P161~P166


図7-金の生産量、シェアの見通し


図8-金の輸出量/輸出額の見通し

(5)アルミニウム
平均価格は、2007年は2,640US$/tであったが、2008年は、強い需要にもかかわらず生産増が消費増を上回り、在庫増により、対前年比11%下降の2,350US$/tと予測。中期的にも価格の下降傾向は続いて2011年には1,820US$/t程度まで低下すると予測している。
世界のアルミニウム生産は、2007年は中国、アイスランド、インド、中東、ロシアでの生産能力拡張により対前年比11%増加の37.8百万tであった。2008年は7%増の40.4百万tと予測。中期的にはアルミニウム製錬の操業コスト増により、伸びが鈍化して年平均4.6%程度の増加となり、2013年には50.4百万tに達すると予測している。
オーストラリアの2007/08年度生産量は、電力コスト増と温室効果ガス規制の政策動向が不透明のため、新規に製錬所の能力拡張はなく横ばいの1.97百万tであるが、中期的には既存製錬所の効率改善により、ゆるやかに上昇し、2012/13年度には2.03百万tと予測している。
輸出額は、輸出量の増加がゆるやかなことと価格低下により2007/08年度は16%減少して49億A$の見込み。中期的には輸出価格の下落から2011/12年度に40億A$まで減少し、2012/13年度はやや改善し44億A$となると予測している*1

*1 ABARE, Australian Commodities, Vol.15, No.1 March Quarter 2008, P167~P172


図9-アルミニウムの生産量/輸出量/輸出額の見通し

(6)アルミナ
アルミナの販売の多くは内部取引であり、取引価格は公表されていないが、アルミニウムのスポット価格に準じているとされている。アルミナのスポット価格は、2007年は対前年比21%減の341US$/tであった。これは、オーストラリア、ブラジル、中国、ギリシア、ロシアの生産増加によるものである。中期的にも同様の水準で推移して2011年には237US$/t、2013年度は273US$/t程度と予測している。
オーストラリアのアルミナ生産量は、2007/08年度はGove精錬所拡張(北部準州、1.8百万t/年)などにより対前年度比7.2%増の19.8百万tの見込み。中期的にはWorsley精錬所拡張(西オーストラリア州)やChalco社新規精錬所建設計画(クィーンズランド州、2.1百万t/年)などにより2012/13年度には26.8百万t程度となると予測されている。
輸出額は、2007/08年度は価格低下により9%減の58億A$、中期的には2012/13年度に69.6億A$程度となると予測している。
また、アルミニウム、アルミナ、ボーキサイト合計の輸出額は2007/08年度は12%減の108.8億A$であるが、2012/13年度は115.7億A$となると予測している*1

*1 ABARE, Australian Commodities, Vol.15, No.1 March Quarter 2008, P172

(7)鉄鉱石
中国の鉄鉱石輸入は、今後も増大し、2007年の384百万tから2008年には、453百万tに増加し、2013年には761百万tに達するとみられている(世界の鉄鉱石輸入量の58%)。
オーストラリアの鉄鉱石生産は、2007/08年度は対前年度比10.8%増加の318.9百万tとなる見込み。Rio Tintoは、2013年度までに鉄鉱山の生産能力を320百万tに増強する計画であり、BHP Billitonは、2010年までに155百万tに増強する計画である。中期的には、鉄鉱山の生産能力増強の効果により2012/13年度には522.8百万tに達すると予測している。
輸出量は、2007/08年度は対前年度比12.8%増の290.5百万t、輸出額は、2007/08年度は158億A$と予測、中期的には輸出量は年平均9%程度増加して2012/13年度には490百万t、輸出額は2007/08年度が202億A$、2009/10年度がピークで340億A$に達すると予測している*1

*1 ABARE, Australian Commodities, Vol.15, No.1 March Quarter 2008, P155~P157


図10-鉄鉱石の生産量/輸出量/輸出額の見通し

(8)ウラン
平均価格は、2007年は2006年の2倍の99.30US$/lb(U3O8)であったが、2008年は供給増加により、8%下降の91.50US$/lb(U3O8)と予測。中期的には、ウラン供給の約40%を占めてきた二次ウラン資源は、2013年までにほとんど途絶える見込みであるが、カザフスタンの鉱山開発による供給増加等によりウラン価格は、落ち着くものと予測している。
世界のウラン生産は、2007年はアフリカ、カザフスタン、オーストラリアでの増産により対前年比15%増加の56,700t(U3O8)と予測。中期的にもカザフスタン、カナダ、アフリカ、オーストラリアの増産により年平均11%増加して2013年には96,000t(U3O8)に達すると予測している。
オーストラリアのウラン生産は、2007/08年度は既存のOlympic Dam鉱山(南オーストラリア州)・Ranger鉱山(北部準州)の増産により対前年度比12%増加の10,744t(U3O8)と見込まれる。中期的には、Bigrlyi(北部準州)、Oban、Croker Well、Mt Victoria(南オーストラリア州)の各プロジェクトが生産を開始し、併せて1,300t/年(U3O8)増加する。また、Four Mileプロジェクト(南オーストラリア州)が2010年から生産を開始し最終的に2000t/年の生産規模に達する。これらのプロジェクト開始により、年平均4%で増加して2012/13年度には、13,360t(U3O8)となると予測している。
Olympic Dam鉱山は、生産量を3倍(19,000t、U3O8)にする計画があるが、2013年以降であり、今回の見通しには反映されない。
輸出額は、2007/08年度は価格高騰と増産により対前年度比33.9%増の884百万A$、中期的には増産と売買契約の価格見直しにより2011/12年度にピークの15億A$に達すると予測している*1

*1 ABARE, Australian Commodities, Vol.15, No.1 March Quarter 2008, P144~P147


図11-ウランの生産量/輸出量/輸出額の見通し


4. おわりに

 ABAREは、世界の鉱物資源(エネルギー資源を含む)の需給動向について、[1]中国の経済成長により、鉱物資源の需要が中期見通し期間中(2007/08~2012/13年度)は伸びる。[2]鉱物資源開発の新規プロジェクトが数多く展開され、供給力増加が期待される。一方で、労働力不足、資機材不足、コスト増、長いリードタイム等の問題がある。[3]近年高騰した鉱物資源の価格は、中期的には落ち着いてくるが、短期的には高水準を維持する、と予測している。
ABAREは、さらに、こうした世界の需給動向を背景に、オーストラリアの鉱物資源輸出額は、価格が高水準を維持している2009/10年度にピークに達し、その後の価格下降の影響を数量の増加で、相殺しながら、減速していくとみている。
近年の鉱物資源価格高騰は、オーストラリアの鉱物資源産業に多大な影響を与えた。価格高騰の恩恵を受けた企業は、更なる収益増を求め、探鉱・開発プロジェクトを推進している。さらに、最近の傾向として、「資源の獲得」より「資産を持つ企業の獲得」を狙った買収・合併が激しさを増している。価格が未だ上昇傾向・高水準にあるとみられるのが金、銅、鉄鉱石。価格のピークが過ぎ下降局面あるとみられるのが亜鉛、ニッケル。亜鉛等で価格下降の影響が既に出てきた企業もあるが、鉱種により、需給動向・収益動向は様々であることから、企業の生き残り戦略の一環として多角化を目指す企業があり、これも買収・合併に拍車をかける要因となっている。
この激しさを増す企業再編は、ここ数年、順調に拡大路線を歩んできたオーストラリアの鉱物資源産業が、鉱物資源価格下落を見据えた次なるステップを歩み出している証左であるといえよう。

参考文献
ABARE, Australian Commodities, Vol.15, No.1 March Quarter 2008

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